最後まで何が真実かわからない傑作推理劇に挑む男たち
著名なミステリー作家アンドリュー・ワイクから呼び出された、マイロ・ティンドル。実は、マイロはアンドリューの妻の不倫相手であり、不倫を追及されると覚悟して訪ねるが、アンドリューはマイロに意外な提案を仕掛けてきて――。
密室で男と男がぶつかり合う傑作サスペンス『スルース~探偵~』。アンソニー・シーファーの代表作でもある本作は、1972年にローレンス・オリビエとマイケル・ケインの主演で映画化。2007年には前回マイロ役だったマイケル・ケインが老作家アンドリュー役となり、ジュード・ロウと主演して再び映画化、日本でも舞台化されてきた。
この傑作戯曲に、文字通り“全身全霊”で挑むのは、西岡德馬と、音尾琢真&新納慎也。西岡は、音尾相手の【スルースバージョン】と、新納相手の【探偵バージョン】、一つの脚本で2バージョンを演じる。演出は深作健太。「この作品はどうしてもやりたい!」と、すでに満杯のスケジュールを意地でも都合し、限られた時間を全力で稽古にあてるという西岡と音尾。フライヤー用のスチール撮影を終えたばかりの絶好のタイミングで強い熱意を語ってくれた。
――出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
音尾 びっくりしました。映画は2本とも観ていて、いつかやりたいと心から思っていましたから。本番まで時間がないですし、怖いこともたくさんありますけど、とにかくうれしい。しかも、若いほうのマイロ役はギリギリいまくらいの年齢でしかやれない役。そういう意味でもギリギリでできるのは本当に光栄です。最初に「これ面白いよ」と言ったのは、実は嫁で、「そんなに?」と言って観たら僕のほうがハマっちゃって。これを演じてもう一回嫁にモテたいと思います。
西岡 僕も映画はオンタイムで観ていますよ。ローレンス・オリビエとマイケル・ケインは、われわれ演劇の人間にとって絶対もの。特にオリビエの出演作はほとんど観ている“いちファン”でもあるわけです。’72年の映画は文学座に入って2年目だったし、もう衝撃的で、憧れましたね。劇団四季版(北大路欣也と田中明夫)も観た。本当は若いほうの役をやりたかったんです。上演企画を持って行ったこともあるけど実現しなかった。もうダメか……と思っていたら、今回の話ですよ。実は今日(取材日)誕生日でして、“セブンティーン”の。
音尾 “ティーン”ですか、“ティー”ではなくて(笑)。
西岡 (笑)。なので、素晴らしいプレゼントをいただいた感じなんです。僕の代表作にしたい意気込みで向かいますよ。演出の深作さんとも作品について話したら、びっくりするほど考えが一緒。そのうえ、いま最高の若手二人(音尾&新納)を相手にするわけですから、さぁて、ここからどうやるか。疲れたなんて言ってられない、毎日ステーキでも食べてがんばるしかない!
――【探偵バージョン】と【スルースバージョン】は同一脚本。西岡さんは同じで、マイロ役のキャストが変わるんですね。
西岡 そうです。細かなセリフは個々に詰めると思いますが、脚本としては一つ。僕は、新納くんと稽古して、音尾くんと稽古して、先に新納くんとの本番が開いて、本番後にまた音尾くんと稽古。翌日本番でまた稽古して、そして音尾くんとの本番となるんです。
音尾 それって大丈夫ですか?と西岡さんに聞いても、「そんなのいいよ、面白くしたいよな」と、気にもとめていないご様子なんです。無限の体力と無限の精神力の持ち主ですよ。なにより作品への想いが強い。
西岡 ハハハ。お客さんに「面白かった!」と言わせたいのが俳優の欲望なんだ。そう言ってもらうには相当の努力をしますよ。僕自身、過去にないくらいの興奮と意気込みで、すでにいまからぶち当たっています。音尾くんはいま旬の役者だって、そこまでは知っているんだ。どう来るかな? たぶんいろいろやってくれるだろうからワクワクですよ。
――男と男の推理劇、どんな芝居になりそうですか?
西岡 推理やミステリーというと犯人探しですが、これはただの“犯人は誰だ?”じゃない。男同士のプライド、嫉妬、コンプレックス……、ぶつかり合いが濃厚なんです。推理小説の先が気になってページをめくるように、お客さんも一緒になって頭を回転させながら観てもらえたら、もう絶対に損はさせない。ワクワクさせますよ。
音尾 そして、嘘と真実もぶつけ合う。男と男のプライドをかけた化かし合いです。密室というワン・シチュエーションがまたいい。限られた人数のワン・シチュエーション密室劇に挑戦して成功したら、100%面白いですから。緊張の糸がピンと張り詰めた中に、溢れる思い、人間性への共感、発見。ワン・シチュエーションならではの舞台装置的な仕掛けもあるかもしれない。大作とはまた違った“これぞ演劇”の醍醐味が味わえる。そこなんですよ、僕が映画で観た時からやりたかった理由は。生の息遣いで観てもらいたい作品なんです。全身全霊でやりますから。
西岡 僕は“格闘技”の感覚があるな。男と男の戦い。タイトルマッチ直前のボクサーが控室でたっぷり汗をかいてからリングに上がるように、稽古場でしっかり汗をかいて挑みますよ。そしてね、面白いのが“探偵は出てこない”ってこと。タイトルの探偵はお客さんなんです。だから、探偵がいなけりゃ話にならない! ぜひ多くの方に劇場に来てほしいですよね。やっぱり俳優は満員のところでやりたい!
音尾 その通り! 探偵さん、お待ちしています!
インタビュー・文/丸古玲子
【プロフィール】
西岡德馬
ニシオカトクマ ‘70年文学座入団。退団後は『極道の妻たち』シリーズなど映画やテレビ、舞台と幅広く活躍。バラエティ番組や若手中心の舞台に参加しファン層を広げている。近年の出演作は、映画『アゲイン 28年目の甲子園』、舞台『Paco~パコと魔法の絵本~』『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』『GOKÛ』ほか多数。
音尾琢真(TEAM NACS)
オトオタクマ TEAM NACS以外での活躍も目覚ましい近年。舞台『ORANGE』主演、『ETERNAL CHIKAMATSU』『メルシー!おもてなし~志の輔らくごMIX~』、映画『金メダル男』『Anniversary』、ドラマ『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』など話題作に多数出演。ソロ舞台公演ではOttey Ottoman(オッティ・オットマン)という日系ミュージシャンに扮して自作の楽曲でツアーも敢行。
【公演情報】
パルコ・プロデュース公演「スルース~探偵~」
日程・会場:
2016/11/25(金)~12/28(水) 新国立劇場・小劇場
※11/25(金)~12/11(日) [探偵バージョン]西岡德馬 新納慎也
12/17(土)~12/28(水)[スルースバージョン]西岡德馬 音尾琢真(TEAM NACS)