この間までのあの人が…!?と驚かれるくらい大変身したい!
先日、稽古場レポートをお届けした日本初上陸のミュージカル『プリシラ』、主演の山崎育三郎にインタビュー。ドラマの印象的な役柄で注目を集める最近の山崎の動向に、目が釘付けの人は多いに違いないが、この作品でまたもや180度違うキャラクターになる。演じるのはドラァグクイーンのティック。別居中の妻・マリオン(和音美桜)の誘いで、妻子のいるオーストラリアの砂漠の真ん中のアリス・スプリングスという街にあるカジノに、ドラァグクイーンのパフォーマーとして参加を決意。一台のバス『プリシラ号』をチャーターし、夫を亡くしたばかりのトランスジェンダーのバーナデット(陣内孝則)と、若くて美しいが生意気なアダム(ユナク/古屋敬多)を道連れに珍道中へと出発する。つまり、山崎が演じるのは男の体と女の心を持つ人物。ロミオ(『ロミオ&ジュリエット』)、モーツァルト(『モーツァルト!』)、ルイジ・ルキーニ(『エリザベート』)などを演じてきたミュージカル界のプリンスの大変身はニュースだ。
稽古場は盛り上がっているようですが、感触はいかがですか?
山崎 一口にミュージカルと言っても、『レ・ミゼラブル』や『エリザベート』のような歌中心もあれば、芝居が多め、ダンスが見せどころとそれぞれに特徴があるものですが、この作品はすべてが同じだけたくさんあるんです。振り付けも多いし、芝居もたっぷり、しかも僕だけで着替えは22回。フライヤーの衣裳が印象的でしたが、これで終わらない(笑)。超える衣裳がいっぱい出てきますよ。ハッピーで楽しい作品なのですが、体力も必要で、いま首と腰が痛くて(苦笑)。被り物は本当に重くて、ちょっと首をかしげると体が持って行かれるくらい。体幹でバランスを取りながら、さらに足元は15cmほどのヒール。これで歌って踊って芝居をするので、こんな経験は、ミュージカルをやっていてもなかなかないですね。
女装は初めてですか?
山崎 過去に一度、木の実ナナさんの息子役(『イカれた主婦 ANGRY HOUSEWIVES』)の時に、ラストに女装して出るワンシーンがありましたが、それだけですね。ドラァグクイーンの役は初めてです。
着てみていかが?
山崎 いや、もう、女装というよりディズニーのパレードみたいです(笑)
ティックという役の人物像は?
山崎 バーナデットとアダムは心もしゃべり方も服装も女性ですが、僕だけしゃべり方や普段の服装は男なんです。心が女性というより、まだ自分に迷っていて、思い切ってゲイの世界に飛び込んできたけど、息子が忘れられず、ちょっと複雑な心境。それを表現するのが難しくて、いろいろ挑戦しながら悪戦苦闘しているところです。
男性と女性の2つ心を持っている男の体。これをご自分の中に存在させるには?
山崎 亜門さんといろいろ相談しています。ティックは、バイセクシャルだとも、ゲイとも、自分では言い切っていないんです。バーナデットやアダムに問われても、“僕は僕なんだ”と。もともとは女性を愛して結婚し子どももできたけど、その環境になにか違和感を覚えた。奥さんに打ち明けたところ、彼女はとても明るく前向きで、“あなたの人生、自分に向き合う時間を持ってきなよ”と、むしろ背中を押してくれた。それでゲイの世界に飛び込み、ドラァグクイーンとしてやっているのですが、望んで入った世界なのに、なぜか、何か、埋まらない自分がいる…。常に、自分ってなんだろう?と自問しているのがティック。だからバイセクシャルともゲイとも言い切れない。実際、いろいろな方にお話を聞くと、自分はこうだと言い切れない方も多いようです。
複雑な心境を表現する難しさ、というのがそこなんですね。
山崎 ほかの2人がとことん女性でかなりハッチャけていて、“私なんてね~”って女性口調でやってる間に入る僕は、ツッコミ役、と言うか。2人を冷静にまとめる役なので、芝居もわりと受け身で、とにかく優しく、繊細な男の子なんです。自分以外は本当に振り切った人しか出てこないので、物語の軸に立つストーリーテラーとしても、しっかりしたいですね。
役作りの要素がとても多そう。
山崎 実は、映画版ともまったく違うキャラクターにしようと、亜門さんとゼロから作っているところです。ティックだけでなく全員が!…ほんっとに、おもしろいんです。キャストみんなで稽古しながら“おもしろいよね~”と言っちゃう。それって、なかなか現場で起こらないことなのですが、キャストもスタッフも思わず口から出てくるくらい、パンチのある作品。お客様の反応がとにかく楽しみです。
「僕は僕なんだ」が答えなのかも。男と女のどちらかではなく“自分”として存在する。
山崎 ゲイ3人組の話だけど、ゲイではない人の悩みも一緒かもしれないです。他人がどうのこうのと周りは気になるものだけど、自分に向き合い、自分はこう切り拓いていく。そんな3人の姿に自分を重ねて共感してもらえたら――。ラストは感動ものです。途中にも素敵なシーンがいっぱいあります。3人が差別を受けて苦しんで歌うナンバーなんて、とてもメロディが美しい。葛藤はあるけど、とにかく前向きに明るく生きている。こんな風に生きたいって、稽古しながら僕も思うほどです。
これまでの役柄とはガラリと違いませんか?
山崎 確かに、20代は王子様的な役が多く、テレビに出る時も“ミュージカル界のプリンス”と言われました。そこから、昨年のドラマ『下町ロケット』(TBS系)」をきっかけに、30代に入って、気障なカッコつけ男(ドラマ『お義父さんと呼ばせて』(フジテレビ系))や、ムロツヨシさんとの共演(ドラマ『悪党たちは千里を走る』(TBS系))、最近まではイタリア人の暗殺者(『エリザベート』)…、からの、180度違うドラァグクイーンですから。このふり幅は役者として一番うれしいことです。お客様にも、“こないだまでルキーニだった人”と思われるくらい、大変身で登場したいと思います!
究極の個性派揃いの稽古場で、本音で驚いたことは?
山崎 陣内さんも、ユナクくんも敬多くんも、キャラクター自体が凄いから予想できないことをやってきます。アタフタしながら、そこをコントロールするのがティックなので、稽古しつつの形作りですね。本音でびっくりしたのは、敬多くんが、芝居が終わっているのに女性言葉になっていたこと。“あらぁ~、……おお!”と自分で驚いていた(笑)。以前、『ラ・カージュ・オ・フォール〜籠の中の道化たち〜』でゲイの役柄の市村正親さんが本番以外もずっと女性口調でしたが、ああいうことがこの現場でも起きてくると思います(笑)
映画版より歌もダンスも増えているとのこと。見どころをお願いします!
山崎 音楽もダンスシーンも衣裳も、もっともっと派手!ミュージカルとしてショーアップされているので、映画とは別の新作だと思ってみていただければいいですね。音楽に関しては、もちろんマドンナやドナ・サマーの懐かしい名曲もふんだんですが、ほかにも一くくりでは説明できないほど多彩です。振り付けも、通常のミュージカルなら振付師一人、助手一人ですが、本作には振付師が5人いますから!細かく振り付ける方、大きく動く方と、ダンスにも違いがあって、この人の振り付けは細かいから今日はいつも以上にがんばらなきゃ!と思う日も(笑)。もう、本当に、何から何まで一つにまとまらない。宝箱のようにいろんなものが飛び出してくる。飽きずに最後まで楽しんでもらえると思います!
取材・文/丸古玲子
【プロフィール】
山崎育三郎
ヤマザキ イクサブロウ 1986年、東京都出身。ミュージカル初主演は12歳。以後、歌手として俳優として活躍を広げる。本年は『プリシラ』主演のほか『エリザベート』出演、カヴァーアルバム「1936 〜your songs〜」が第58回日本レコード大賞企画賞受賞。『グッドパートナー 無敵の弁護士』などドラマでも注目株。
【公演情報】
『PRISCILLA(プリシラ)』QUEEN OF THE DESERT -the musical-
日程・会場:2016/12/8(木)~29(木) 日生劇場(東京)
※日本初演記念キャンペーンとして、12/8(木)18:00・9(金)13:00の回にご来場の方に記念写真をプレゼント。また、初日特別カーテンコールも実施!
出演:山崎育三郎 ユナク(超新星)・古屋敬多(Lead) /Wキャスト 陣内孝則
ジェニファー エリアンナ ダンドイ舞莉花
大村俊介(SHUN)・オナン・スペルマーメイド/Wキャスト
石坂勇 和音美桜 キンタロー。・池田有希子/Wキャスト 谷口ゆうな
浅川文也 穴沢裕介 ICHI 大音智海 奥山寛
北村毅 高木裕和 土器屋利行 広瀬斗史輝
加藤憲史郎・陣慶昭/Wキャスト
演出:宮本亜門
翻訳:エスムラルダ
訳詞:及川眠子
振付:麻咲梨乃 大村俊介(SHUN) IG TETSUHARU 桜木涼介