F・スコット・フィッツジェラルドによる原作小説や映画版などで広く知られる『グレート・ギャツビー』。日本では’91年に宝塚歌劇団により舞台化もされているこの名作が、宝塚版と同じ小池修一郎の脚本・演出で今年5月、新たに生まれ変わる。謎めいた美しき大富豪、ギャツビーを演じるのはミュージカル界のプリンスこと井上芳雄だ。少年時代からミュージカルが好きだった井上、“ギャツビー”とのファーストコンタクトもやはり宝塚版の舞台だったという。
井上 「中学時代に、杜けあきさんがやっていらっしゃった舞台をテレビで観たのが、“ギャツビー”の物語を知った最初だったと思います。宝塚の中でも名作として評価されていた作品だったので、どんなお話なのかなって思いながら観たんですが、やっぱり杜けあきさんはカッコ良かったですし、ミュージカルとしてもすごくよくできている作品だと思いましたね。主題歌も音楽も良くて、すごく面白かった。中学生ながらも、背中で語る男性の美学をとても感じました。ですから今回、その小池先生の代表作でもあるこの作品を、先生自身でもう一度作り直すのに僕でやってくださるというのは本当に光栄で。その想いに何とか応えたいし、こういう状況をくださった以上はもうやるしかない!と思っています」
井上のほかにも、今回のカンパニーは華やかかつ実力のある顔ぶれが揃った。
井上 「(田代)万里生とか広瀬(友祐)くんとは去年『エリザベート』でも一緒にずっとまわっていて、その時も『ギャツビー』の話をしていたくらいで気心が知れているので楽しみです。特に万里生は大学の後輩でもあるんですけど、まさにニック役はピッタリ。ほんと、いいやつなんですよ(笑)。夢咲(ねね)さんや蒼乃(夕妃)さんといった女性陣とはほとんど初めましてなので、とても新鮮な顔合わせになりそうです」
例年通り2017年も、ストレート・プレイを含め既に多数の舞台出演が決まっている多忙な井上。その中でもこの『ギャツビー』への想いはとても熱い。
井上 「今回の場合はほとんど新作のようなものですから、それって自分にとってすごく大きいことなんです。既にお客様が喜んで観てくださる名作がたくさんあってもそこに甘えずに、自分たちの時代のスタンダードも生みだしていかなければ、どんなジャンルでも死に絶える可能性はある。だから失敗を怖れず、こうして果敢に新作にチャレンジすることには特別に大きな価値があるんです」
とはいえ、このギャツビーという主人公を演じることにはプレッシャーも感じているという。
井上 「だって、真ん中ですべてを背負わなければいけない役回りですからね。ふだんは、できるだけ何も背負わず生きていきたいほうなのに(笑)。でも、この背負っている感がギャツビーという男の役柄にうまく重なればいいなとも思っています。それこそ、男の人は背負う時には背負わなければいけないんですから。ここは覚悟を決めて、これはどの作品でもそうですけど、もしダメだったら「すみません、僕のせいでした!」と土下座するくらいの気持ちで臨みたい(笑)。そこまで賭けるのにこんなにふさわしい作品も役もないので、「望むところだ!」という勢いで演じきりたいです」
さらに、意外にもギャツビーには共感できるところもあるらしい。
井上 「部分的に、ですけどね(笑)。男ならきっと似たような思いを持つこと、あると思いますよ。たとえば好きな女性の家の前に住みたい、と妄想したり。実行する人は少ないでしょうけど(笑)。彼は実際にそれをやってしまった人でもあるので、そういうことも含めて悲しいくらい哀れにも見せたいです。『グレート・ギャツビー』のグレートの意味も、改めて考えてしまいますね。もちろん偉大とかすごいという意味ですけど、ただあの人は素晴らしかったと肯定するだけではなくて、彼の偉大さというのはもしかしたら表には見えないところにあったのかなとも思うんですよ。そういう、誰しもができないことをやった人を舞台上で演じるのは、とても意味があるというか。観てくださる方がその役に投影して自分の人生を振り返ったり、これからの人生を考えたりされることもあると思うので、できるだけちゃんとリアルに成立させて演じたいです」
そしてプリンスとの呼び名にふさわしく、ミュージカル界全体の発展をも常に意識しながら活動しているのが、井上のすごいところでもある。
井上 「舞台って別に観なくても人間は死にはしないでしょうけど、それでもできるだけ僕は「舞台を観ないと生きていけない」と言ってくれる人を増やしたいんですよ。とにかく今回は、日本のミュージカルとしてできる最高のことをやろうするこれはある意味、事件だとも僕は思うんです。「東宝の『ギャツビー』の初演を観たんだよ」と、後々自慢してもらえるようにもしたい。エポックが誕生する瞬間を、ぜひ大勢の方に一緒に味わっていただきたいですね」
インタビュー・文/田中里津子
構成/月刊ローチケHMV編集部 2月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケHMVは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
井上芳雄
■イノウエヨシオ ’79年、福岡県出身。浦井健治、山崎育三郎とのユニット、StarSでも活躍。3月には『トニー賞コンサート in TOKYO』に出演予定。
【公演情報】
ミュージカル『グレート・ギャツビー』
日程・会場:
2017/5/8(月)~5/29(月) 東京・日生劇場
2017/6/3(土)~6/15(木) 愛知・中日劇場
2017/7/4(火)~7/16(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
2017/7/20(木)~7/25(火) 福岡・博多座
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