上段左から林遣都、岡本玲、栗田桃子。下段左から鶴見辰吾、中嶋朋子。
“禁断の愛”に墜ちる家族の葛藤を描いた『熱帯樹』、 来春シアタートラムに登場。
三島由紀夫ならではの流麗なセリフで綴られる、ギリシャ悲劇さながらのドラマチックなストーリー展開を、気鋭の演出家・小川絵梨子が、魅力的な五名のキャスト陣と共にこの現代に立ち上げる!
愛憎うずまく五人の家族を演じるのは実力派の俳優陣。権力者の父親を憎みながら母と妹の異常な愛に翻弄される息子・勇役を演じるのは『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(17年/演出:小川絵梨子)にも出演し、小川からの信頼も厚い林遣都。舞台『子どもの事情』(演出:三谷幸喜)や今秋放送のドラマ『リーガルV』など舞台・映像ともに幅広い出演が続いています。愛する兄に母を殺させようとする妹・郁子役を演じるのはTVや映画などを中心に活躍し、昨年には劇団た組。『壁蝨』で舞台初主演を務めた岡本玲。父親の従妹で4人の家族と共に暮らす風変わりな同居人・信子役には昨年世田谷パブリックシアター『岸 リトラル』(演出:上村聡史)での熱演も記憶に新しい実力派・栗田桃子。地位や名誉を手に入れながらも、息子と対立し妻の不貞を疑わぬ父・恵三郎役には年齢と共に魅力を増す鶴見辰吾。今年9月には世田谷パブリックシアターで上演の話題作『チルドレン』(制作・パルコ、演出:栗山民也)に出演し、注目を集めました。そして、莫大な財産を狙い息子に夫を殺させることを企む勇の母・律子役には、舞台上で唯一無二の存在感を誇る中嶋朋子。栗田と共演した『岸 リトラル』では、鮮烈ながらも慈愛に満ちた演技で好評を博しました。
また演出を務める小川は、翻訳劇を中心に目覚ましい活躍を見せていますが、日本の近現代戯曲を手掛けるのは、2017年5月『マリアの首 ー幻に長崎を想う曲ー』(原作:田中千禾夫)以来、およそ二年ぶりとなります。戯曲構造自体は欧米的でギリシャ悲劇要素を持つ一方、三島特有の美しい語尾など、流麗な日本語自体へのこだわりが強く、かつ倒錯的な世界観の本作を、海外戯曲の確かな演出経験を持つ小川が、現代に通じる演劇作品としてどのように舞台上に成立させるのか、大きな期待が寄せられます。
【演出家・出演者コメント】
■小川絵梨子(演出)
以前から、三島由紀夫の戯曲には興味を持ちつつも、なかなか挑戦する機会がなかったので、今回この作品を劇場側からご提案頂いたことが、とても嬉しかったです。
『熱帯樹』の世界観は寓話的でもあり、五人の登場人物たちは誰もが寂しくて孤独なんですが、実は一人一人が物凄く逞しさや力強さに満ち溢れていて、そこがたまらなく面白く思え、この五人からなる家族という単位の小さな集合体に、今とても魅力を感じています。
本作が書かれたのは1960年ですから、既に半世紀以上も前なんですが、たとえ時代設定を現代に移し替えなかったとしても、今を生きる俳優の身体を通して上演することで、作品の世界観をリアルに表現することができるのではないかと考えています。今回、俳優の皆さんは初めて創作を共にする方が多いのですが、唯一林遣都さんとは昨年の舞台でご一緒していて、私にとって大変信頼のおける俳優さんでもあります。
この戯曲を上演するにあたって、前々からご一緒したいと願っていた俳優の皆さんと、どのように稽古場でチャレンジを続けていけるのか、今からとても楽しみです。
■林遣都(息子・勇役)
前作に続き再度小川さんの演出を受けられることを大変嬉しく思っています。
日本の歴史に残る素晴らしい作家である三島由紀夫さんの戯曲を演じる事は恐ろしくもありますが、それ以上に大きな学びがあると思っています。
人間の業や狂気に振り回されながら、共演者の皆さんと、濃厚な時間を過ごしたいと思っております。是非お越し下さい!
■岡本玲(妹・郁子役)
「三島由紀夫の愛憎劇、小川絵梨子さんの演出、そして役者は5人だけ。」
演劇好きならこの一文を読んだだけで震えるような作品に、まさか自分が出られるなんて。出演が決まってから今までずっと、まるで夢の中にいるようです。
この物語もどこか夢の中の出来事のように美しく甘く、刺々しく儚く、おぞましく厭わしい、愛憎劇。愛され方を知らない者は愛し方さえもわからず、歪んだ何かをこうも育ててしまうのかと恐ろしくなりました。作品を通してどんな自分の歪みに出会えるのか、どれだけ歪んだ愛の世界を愛せるのか、とても楽しみです。
■栗田桃子(同居人・信子役)
私はとても口が悪い。言葉づかいが乱暴なのだ。意識して気をつけよう…と思っていないから、このところますます口の悪さに拍車がかかっている。
「熱帯樹」に出てくる女性の言葉づかいはとても美しい。…かしら、とか…ですの、とか。
1度も使ったことないわっ!!
この作品に出演させて頂けることをキッカケに、ワタクシもお上品で気高く柔らかい女性になれるかもしれないんでございますの…いえこの美しく甘美な世界についていくのに必死にしがみつくんでございますんですの…
演出の小川絵梨子さんとは初めてなので、私自身今からワクワク、とても楽しみです。
■鶴見辰吾(父・恵三郎役)
家族、親子、兄弟。骨肉の愛憎劇は、身内である相手をよく知るからこそ深まる。
支配して自分の思い通りにしたいという欲求。
君臨する父権は、小さな家族の中だけでは収まらない。
家族は、夫婦は、世界を構成する最小の単位だ。
この諍いがある限り、世界は決して平和にはならないのだ。
■中嶋朋子(母・律子役)
三島作品は、独特の美学が存在しています。その美の派生の仕方や、作品が湛えるエネルギーが、どこかギリシャ悲劇的だなぁと常々思っていました。日常の世界を描こうとも、決して我々の「日常」という観念には収まらない。収めようとせず、扱いきれない三島作品のエネルギーを、溢れ、こぼれさせると、なぜか、私たちが見つめるべき深淵に辿りつくのです。
今回立ち向かう「熱帯樹」はまさにそんな作品。
そして、作品を拝見するたび、ぜひご一緒したいと願っていた演出家、小川絵梨子さん。
三島の美しい言葉と熱を小川さんの素晴らしい感性と共に、身体中で体感し、お客様と共有できる事を堪能したいと思います。
【あらすじ】
1959年秋の日の午後から深夜にかけて。資産家の恵三郎は、己の財産を守ることにしか関心がなく、妻・律子を自分の人形のように支配している。律子は夫の前では従順だが、実は莫大な財産を狙い、息子の勇に夫を殺させることを企んでいた。その計画を知った娘の郁子は、愛する兄に母を殺させようとするが……。
いびつな愛に執着する律子と郁子、権力者の父を憎みながら母と妹に翻弄される勇、地位や名誉を手に入れはしたが息子と対立し妻の不貞を疑わぬ恵三郎、そしてそこに同居する恵三郎の従妹で風変わりな信子、それぞれの思いが交錯し……。