舞台「pet」-壊れた水槽- 稽古場レポート

『ぶっせん』『秘密の新選組』『イムリ』等を生み出してきた鬼才・三宅乱丈の傑作漫画『pet』が、舞台×アニメ連動プロジェクトとしてスタートした。“記憶操作能力”を持つ者=“pet(ペット)”たちと、その周囲で起こる事件を追うサイキック・ヒューマンドラマだ。
舞台、アニメともに主人公・ヒロキを演じるのは、『王室教師ハイネ』でも舞台主演&声優を努めた植田圭輔。舞台版の演出・脚本は伊勢直弘、総合監修は『イムリ』を舞台化した、なるせゆうせい。キャストは、ヒロキが絶対の信頼を寄せるパートナー・司役に桑野晃輔、司の育ての親・林役は萩野崇、林の元ペット・悟役に谷佳樹、桂木役は君沢ユウキと、安定の俳優陣が顔を揃えた。
公演初日が近付き、集中力が高まる稽古場に潜入した。

 

ローチケスタッフが取材に訪れた時点では稽古場にセットは組まれておらず、ステージとして区切られた稽古場の床に、テープでセットの場所が示されていた。稽古開始前のキャストたちはストレッチやセリフの確認などに余念がない様子。それぞれが予習に励んでいる姿は少数精鋭といった印象だ。

作品タイトル“pet”の意味は、公式サイトの「あらすじ」に、こう書かれている。

―― 人の脳内に潜り込み、記憶を操る能力を持つ者達がいた。
彼らのその力は、事件の揉み消しや暗殺など、裏の世界で利用されてきた。
人の精神を壊すほどのその力は、同時に彼ら自身の心を蝕んだ。
彼らはお互いを鎖で縛り付け合うように、脆く危うい心を守った。
彼らは恐れと蔑みから“pet(ペット)”と呼ばれた ――

物語は、その“pet”と周囲の関係性、彼らが関わる事件を描いていく。

 

稽古の開始時間。
この日は、萩野崇が演じる林の元ペット・悟役の谷佳樹と、ペットたちが属する組織の「社員」である桂木役の君沢ユウキ、ふたりのシーン稽古から始まった。
谷佳樹は三宅乱丈作品を原作とした舞台『イムリ』にも出演しており、2.5次元ダンスライブ「ツキウタ。」シリーズや舞台『プリンス・オブ・ストライド THE LIVE STAGE』シリーズなど、2.5次元舞台を中心に活動中。
君沢ユウキはNHK『ごちそうさん』『仮面ライダーW』などのTVドラマ、ライブ・スペクタクル『NARUTO -ナルト-』シリーズ、近々では体内活劇『はたらく細胞』のキラーT細胞役など、幅広い役柄で活躍している。

一度場面を通した後、演出・脚本の伊勢直弘がセリフの言い方で気になった箇所を挙げていく。谷には「今だと暗い人に見えちゃう」、君沢には「結構重要なことを言っているから、ベタな方がこの場面では情報が入りやすくなる」と、明確な指示を出す。
場面を時折止めながら演出をする伊勢は、いつの間にか演出席から離れて、床に台本を置いて座り、至近距離で芝居を見つめている。
谷は、姿勢や動きの速度ひとつで観客がその役に抱く性格の印象が変わることを指摘され、伊勢の思い描く役に近付こうと演技に細やかな変化を加えていた。

伊勢から「良い人に見え過ぎるかも」とコメントされた君沢が「(つい、中の人柄が)出ちゃう(笑)」と返して、笑い合うひと幕も。この日の稽古では、君沢演じる桂木が咥えているタバコがマーカーペンであることも、ホッコリするポイントだった。

休憩を挟んで、ヒロキと司のシーン稽古へ。
この日は植田圭輔が不在のため、ジン役のあまりかなりが代役を務めていた。

休憩中も稽古場を歩きながら黙々と場面のイメージを練り上げていた桑野に、伊勢が「晃ちゃん、お待たせしました」と声をかける。
「いえいえ!」と返した桑野だが、続けて「……ウズウズしていました」とニヤリ。そのまま「何かしゃべったら(セリフが)抜けていきそうで(笑)。早くセリフを言いたかったです」と明かすと、稽古場にいた全員が「分かる!」と爆笑した。
“pet”という不思議な人間たちが存在する、独特の世界観。その彼らが力を使って入り込む「他人の記憶世界」を、舞台版のキャスト&スタッフはステージに描き出さなければならない。
気の抜けないセリフが多いため、台本とにらめっこを続けていたキャスト一同にとって、桑野の気持ちは「あるある」だった模様。皆が笑顔になって稽古場がなごんだ後、芝居の稽古が始まった。

伊勢から「もう少し優しい感じに」と言われた桑野は、即座に芝居へ反映させる。その後も役を深める動きをする桑野に、「いいね!」と伊勢の絶賛が飛んだ。
伊勢は“pet”の世界観にも触れ、「“ヤマ(=人の持つ最も大切な記憶の場所)”っていうのは気持ちの良いところだから、感情の起伏が激しいヒロキも、負の感情を引きずることがない。逆に“タニ(=最も忌むべき記憶の場所”)”だったらその逆の状態になる。それぞれが“ヤマ”と“タニ”の居方を定義しておいてくれると、観客はすごく見やすくなる」と説明。

分かりやすい解説の一方で、「そこはお茶目を出していこう! 梱包材のプチプチを潰したがる感じで動こうか」と、ユーモアにあふれる表現も。

役の心情を細かく言葉にすることで、セリフの裏側に含まれている意図を丁寧に伝えていく伊勢の演出に、しっかりと応えていくキャストたち。

ヒロキたちが「他人の記憶世界」に入り込んだシーンに移ると、周りを見回す役者の表情から景色が浮かび上がる。
劇場の舞台に上がり、セットと照明、映像などの効果が加わったら、どれほど美しい光景が広がるのだろうかと期待が高まった。

舞台版は2部作。「-壊れた水槽-」は12月5日(水)に草月ホールにて初日を迎える。「-虹のある場所-」は2019年公演予定。アニメは2019年放送予定。
舞台先行となる連動プロジェクト。是非、スタートから追いかけて欲しい。

 

取材・文/片桐ユウ