『明治座 十一月花形歌舞伎』中村勘九郎&中村七之助インタビュー

2011年より、次世代を担う俳優たちによって様々な演目が行われてきた『明治座花形歌舞伎』。2024年11月2日(土)~11月26日(火)に上演される『明治座 十一月花形歌舞伎』は、8年ぶりに中村勘九郎・中村七之助が登場する。さらに、坂東彦三郎、坂東巳之助、中村米吉、中村橋之助ら華やかな面々が顔をそろえている。

中村勘九郎・中村七之助と松竹株式会社取締役副社長 演劇本部長・山根成之、株式会社明治座代表取締役社長・三田芳裕による制作発表会見と、勘九郎・七之助による取材会が行われた。

︎念願の公演をしっかり届けたい

――まずはご挨拶をお願いします

三田 2020年に予定していた公演は残念ながら中止となってしまいました。中村屋兄弟を中心とした花形歌舞伎に、私たちも非常に期待しています。明治座周辺は江戸時代からの芝居街の流れが残っています。ぜひお越しいただけたら。

山根 今回、昼の部は賑やかに『車引』で幕を開けます。名作『一本刀土俵入』は中村屋三代の芸をお楽しみいただき、『藤娘』で追い出しとなっています。夜はガラリと雰囲気を変え、義太夫狂言の名作『鎌倉三代記』。3人とも初役でフレッシュな配役になりました。それから七之助さんの代名詞とも言える作品となった『お染の七役』。お二人を中心に若手花形が精一杯汗をかきますのでよろしくお願いいたします。

勘九郎 2020年、コロナ禍で芝居ができなくなりました。4年半の年を経て明治座に帰って来られることを嬉しく思います。昼夜共に自信を持ってお客様に楽しんでいただける演目を持ってまいりましたので、ぜひお楽しみください。

七之助 2020年は本当に苦しい思いをしましたが、個人的には『桜姫』というなかなかできないお役を、玉三郎のおじ様と仁左衛門のおじ様という二人の天才から教わり、舞台稽古までできたのは非常に素晴らしい経験でした。そこから(2020年)8月まで舞台に出演できないという人生初の経験をし、少しずつみなさまの力を受けて進み、明治座に戻って来られることを嬉しく思います。

心を大切に作っていくことが重要

――神谷町小歌舞伎で『一本刀土俵入』について指導し、気づいたことはありますか?

勘九郎 非常によくできているお話です。監修という形で見ながら、茂兵衛とお蔦だけがよくても成り立たない、漂う空気や匂いが重要視される演目だと実感しました。江戸の匂いを出すのは難しくなってきていますが、諦めずに追求し、みんなで力を合わせて、令和の役者でもできるというところを見せていかなければと思っています。

七之助 腹に落ちた真実さえあれば、表現や台詞回しは自由だと思うんです。いろいろな演目をやる時に、心を作らずに型から入るのはあまりよくないのかなと。歌舞伎は真似から入りますが、それだけじゃないということを意識しないと伝わらないだろうと感じました。

――お父様やお祖父様から教わったことはあるでしょうか

勘九郎 台詞回しなどは本当に細かく教わりました。あとは小道具ですね。祖父から引き継いだ草鞋や褌だったり、手拭いは6代目からのものだったり。衣裳を身につけると見えないパワーをもらっている感覚になります。

――見ている側は楽しい『お染の七役』。演じる上では大変なことも多いと思います

七之助 早替りに関しては床山さん、衣裳さん、お弟子さんとの息を合わせるのみです。中村座で初役を勤める時に、舞台上のことは玉三郎のおじ様から非常に細かく教わりました。明治座さんでは動線も変わると思いますから、みんなで話し合い、力を合わせて演じたいと思います。

勘九郎 七之助がよく言っているのは「早替りショーにならないようにしたい」ということ。若い頃は後家などの役は難しかったと思うけど、年齢を重ねて幅もでき、どこをどう見せるか的確に掴めています。いつも出演していたので今回は外から見られるのが楽しみです。

七之助 初心を忘れずに勤めたいです。セリフや声のトーンだけでなく、身体で見せるのが大事だと教わりました。例えばうまい落語家さんは、声は同じでも仕草や雰囲気で演じわける。出てきた瞬間にキャラクターが伝わらないといけないと口酸っぱく言われましたし、常に考えながら演じております。

――『鎌倉三代記』は初役です

勘九郎 この作品は、当時の幕府に対する思いを鎌倉時代に置き換えた、歌舞伎の反骨精神が凝縮された作品だと思います。義太夫狂言の中でも面白い作品ですし、それぞれの役がちゃんとわけられていますね。(高綱を)やってみたいとは思っていました。ぶっ飛んでいて不気味な面白さがありますよね。でも役としては三浦之助義村が楽しいと思います(笑)。義太夫さんとの掛け合いの面白さがふんだんに入っていますから、音楽的にも魅力的。いいセッションをしたいです。

昼夜を通し、様々な演目を楽しんで

――新しいお客様もいらっしゃると思うので、改めて演目の魅力を教えてください

勘九郎 『一本刀土俵入』は、受けた恩を10年かけて返す話。人のつながりや温かさがなくなりつつある世の中で、そういった気持ちを呼び起こす作品だと思います。面白いのは、台本を読むと「10年ぶりにこっちに流れてきたので思い出し」っていうセリフがあるんですよ。「思い出し」と書いてあるのがミソだと思って、大事に演じたいと思っています。

七之助 『お染の七役』は、お客様には肩の力を抜いて楽しんでいただける演目になっています。僕が気をつけることはいろいろありますが、それは全く関係なく、ただただ楽しんでいただけたら。女方のバージョンも様々あり、おかしみもあるのが魅力。玉三郎のおじ様から非常に厳しく指導を受けましたが、舞台稽古になったら「はい、全部忘れなさい。あなたが中村座を揺らすのよ」と言われ、そういう気持ちでやるんだなと感じました。

――最後に、お客様へのメッセージをお願いします

勘九郎 念願叶って、2020年にお見せできなかった公演を行えます。みんなで力を合わせて楽しい芝居をお届けできたらと思っています。11月は歌舞伎座が改装に入り、長いものは見られないと思いますから、ぜひこちらにいらしてください(笑)。

七之助 昼夜でいろいろなジャンルの演目があり、歌舞伎の魅力を存分に楽しんでいただけると思います。会見で三田社長もおっしゃっていたように、明治座は周辺も魅力的な芝居街。1日を通して楽しんでいただけたら嬉しいです。

インタビュー・文/吉田沙奈