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週刊少年ジャンプで2016年より連載された吾峠呼世晴の人気漫画『鬼滅の刃』。魅力的なストーリーとキャラクターが人気を呼び、世界中で愛されている本作は、2020年に舞台1作目が上演されて以来シリーズを重ねてきた。5作目となる2025年4月の公演で主人公・竈門炭治郎を演じる阪本奨悟と、映像出演する上弦の壱・黒死牟役の加藤和樹、上弦の弐・童磨役の浦井健治にインタビューを行った。
――まずは、加藤さんと浦井さんの出演が決まった経緯をお伺いしたいです
加藤 前作の「遊郭潜入」を観に行き、ネルケプランニングさんにすごく感動したことを伝えました。その後に出演のお話をいただき、マジかと(笑)。自分があの世界に入れるとは思っていなかったので素直に嬉しい気持ちでした。
浦井 僕も『鬼滅の刃』の大ファンで、原作を何回も読みましたしアニメも何回も見ました。大ファンだということをどこかで聞いてくださったようで、今回のお話に繋がって。嬉しかったですね。
――阪本さんはお二人の出演を聞いていかがでしたか?
阪本 衝撃でした。「来てくださるんですか?ありがとうございます!」という感じで、身が引き締まるというか、無限城に向けての戦いもすごく楽しみになりました。和樹くんとの共演は17年ぶりで、当時も敵対する役どころでした。今回も倒せるかなと不安です。
浦井 和樹は刀を持った時の殺気がすごいから。すごく速いよ。
――加藤さんと浦井さんから見た阪本さんの印象はいかがでしょう?
浦井 炭治郎の誠実さ、素直さがぴったりハマる。(製作発表の)会見で少し見えた天然なところもいいなと思います(笑)。大変な役に挑む姿勢が素敵ですし、演劇において炭治郎を背負うのに相応しいんだろうなと思います。
加藤 もちろん活躍はSNSなどで拝見していましたが、舞台で彼の演技を見たのは初めて共演して以来だったかもしれません。「遊郭潜入」では炭治郎がそこにいると感じました。彼のひたむきさ、まっすぐさ、素直さが全身から溢れていて、負けん気の強さもある。役がちゃんと乗り移る、魂のお芝居をしているなと感じました。
――阪本さんは前作を演じる中で炭治郎の印象が変化した点、加藤さんと浦井さんは強敵の役作りについて考えていることを教えてください
阪本 僕も原作が好きで、お話をいただく前から読んでいました。炭治郎を見ていると心が洗われるし、一番好きなキャラクターだったんです。大好きな役ですし、演じたことで炭治郎に対する感情が尊敬に変わったかもしれません。どんなピンチでも諦めないし、絶対に禰豆子を助けるという意思が曲がらない。生き方を学ばせていただいている感覚です。こうありたいなと思う、尊敬する人物になった気がします。
浦井 原作ファンが世界中にいる作品で、上弦の鬼たちは人気のキャラクターですし、その責任を背負わなければいけないと思っています。キャラクター設定や生い立ち、背景を極限まで追求し、パッと見たときに「あのキャラクターだ」と納得していただけるクオリティを目指したいです。あと、アニメの童磨はミュージカル『王家の紋章』で共演したまもちゃん(宮野真守)が演じたキャラ。まもちゃんの声の演技は、奥行きと狂気、色気を役に投影しているからこそ説得力があると感じます。お手本にしつつ、ご本人からは「健ちゃんなりの童磨でいいと思う」とエールをいただいたので、カンパニーで作っていくことを目指したいです。
加藤 黒死牟については、あの格好にならないとスイッチが入らないところもあるのかなという気もしています。でも、原作から落とし込みたいし、アニメで黒死牟を演じている置鮎(龍太郎)さんの声のトーンも取り込みたい。原作ものをやる時はある意味で正解があるので、それ以上のものを、リアルで生きている人たちが生み出すエネルギーで伝えなきゃいけないと思います。ベースを自分の中に落とし込みつつ、一挙手一投足にリアリティを持たせたい。「本物だ」と思わせられるよう、佇まいから強さが滲み出すといいなと思っています。
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――舞台シリーズ第5弾となりますが、今回の物語の魅力や好きなポイントはどこでしょう?
阪本 鬼にも過去があって、だからこそ生まれた感情と鬼殺隊の正義のぶつかり合いがあるのが魅力です。
浦井 炭治郎と禰豆子の兄妹の愛、目の前で尊い命を失った炭治郎の悲しみや苦しみを越えた家族愛や絆が、次へつながるポイントなのかなと思います。
加藤 「刀鍛冶の里」は、炭治郎はもちろん玄弥などいろいろなキャラクターが登場する新たな戦いのシーンでもあり、痣の謎なども出てきます。次の段階へのターニングポイントなので、そこが見どころになってくると思います。
――特に楽しみなキャストやキャラはいますか?
阪本 玉壺、気になりますよね。
一同 (笑)。
浦井 絶対大変だよね。どうやるんだろう?
加藤 そこは元吉さんが魔法をかけます。
浦井 (半天狗が)分裂していくのをどう表現するかも気になるし、各役が個性的。みんな殺陣を相当速くやらないといけないよね。
加藤 鬼殺隊は刀だけど、鬼たちは様々な武器を使いますからね。
浦井 どうするんでしょう(笑)。あと、結構歌うらしいんです。上弦の鬼が歌うって衝撃だったけど、ミュージカル『デスノート』の時も「夜神月やLが歌う!?」って思ったんだよね。ただ、いざ見るとすごく理にかなっている。お客様にも上弦の曲を口ずさんでいただけたら嬉しいです。
――今回から演出を担当される元吉さんに期待することを教えてください
阪本 初めましてですが、他の現場での活躍を存じているのですごく楽しみです。2.5次元舞台を数多く手掛けてらっしゃいますし、特殊な表現についての引き出しも多そう。5作目にして、今までになかった新たな表現があるんじゃないかと楽しみです。
浦井 僕は日本武道館でのコンサートでご一緒して以来です。お芝居をつけてもらったことはないので、すごく楽しみですね。
加藤 僕は同じ作品で二度演出を受けていますが、作品に対する思いや知識量が素晴らしい。もちろん『鬼滅の刃』も大好きでしょうし、会見では「どうしよう」なんて言っていましたが、頭の中ではいろいろな想像を巡らせていると思うので、どう形になるか楽しみです。信じてついていけば面白いものができると思います。我々二人は映像出演ですが、そこにどんな演出をつけてくださるのかも非常に楽しみにしています。
――皆さん作品の大ファンということですが、『鬼滅の刃』から受けた一番大きな影響、舞台上で表現したいことを教えてください
浦井 影響はとんでもなく大きいです。僕は鬼を演じるので、鬼の魅力かな。なぜ鬼になったか、何を抱えていたのか。炭治郎の愛で救われる瞬間が各鬼にあって、ほろっときたりズキンときたりします。「実はこうでした」と吐露する部分は演劇的だなと思いますし、『鬼滅の刃』と演劇の融合の醍醐味の一つなのかなと思います。「遊郭潜入」では妓夫太郎と堕姫の最期が泣けて仕方なかった。
加藤 わかる!ボロ泣きしたもん。
浦井 最後まで素直になれないけど繋がっている愛の深さ、炭治郎と禰豆子にリンクする部分が素晴らしかったです。
加藤 テーマになっている家族や兄妹の描き方、絆の強さが魅力だと思います。子供の頃に交わした言葉や約束って鮮明に残っていて、すごく大事だったと気付かされる。仕事をする上でも、人とのつながりは大切にしなきゃということを改めて思わされました。
阪本 家族を鬼に殺されるって壮絶な人生じゃないですか。自分に当てはめると怒りや憎しみが生まれそうですが、炭治郎はそれよりも「救いたい」という思いが強い。炭治郎を演じる時に嘘になっちゃいけないし、リアルに思っていることがお客さんにも届くのが一番いいと思うので、しっかり向き合い、自分もその境地に辿り着きたいです。
――皆さんが考える2.5次元舞台の魅力を教えてください
加藤 僕が2.5次元舞台に初めて出演した頃は、プロジェクションマッピングやLEDを使うこともなく、生身の人間たちが照明の中で悪戦苦闘して作っているイメージでした。そこから時を経て、エンタメってやっぱりすごいなと。2.5次元舞台はエンタメの全てが詰まっていると感じます。2次元と3次元を繋げる、新たな刺激があるものですよね。これを知らないのはもったいない・見るべきものになったと思います。
浦井 日本のカルチャーに通じるものだと思いますが、2.5次元舞台の括りがあれば、言語の壁を超えてキャラクターを海外に持っていける。これはすごい強みだと思います。いろいろな世代の人たちが興味を持っているのは誇れることで、エンターテインメントの今の形の一つだと感じます。
阪本 浦井さんのお話がすごく腑に落ちました。昨年、NYで行われたジャパンパレードに舞台「鬼滅の刃」で参加させていただいたんです。幅広い年齢のファンの方がすごく待ち望んでくれていて。原作の素晴らしさはもちろん、キャラクターが目の前で躍動するのは夢のような世界だと思いますし、世界中の方に夢を与えていると実感しました。これからもどんどん広がっていくことを願っています。
※禰豆子の「禰」は「ネ(しめすへん)」が正式表記
取材・文・写真/吉田 沙奈