舞台劇『からくりサーカス』が開幕した。原作は、『うしおととら』で知られる藤田和日郎の同名漫画。1997年から2006年まで連載され、累計発行部数は1500万部を突破。多くの読者の心を掴んだ伝説のヒットコミックスだが、2018年よりアニメ放送が開始となったことで人気再燃。そんなブームの中で、今回の舞台化に至った。
会場は、新宿FACE。もともとがプロレス会場であるこの新宿FACEは、公演の内容にあわせて自由にステージを組めるのが特色だ。今回は、舞台中央に円形舞台が設えられ、舞台上方に組まれたトラスには歯車とボロのようなヒモが編み込まれ、それがサーカスの飾りのように、四方に伸びている。この異空間こそ、サーカスにふさわしい。アコーディオンと笛の音が幻想的な雰囲気を醸し出し、飛び出すように現れたピエロたちが、観客をファンタジーの世界へと誘い出す。さあ、戦いの始まりだ。
――至近距離だからこそ味わえる興奮と臨場感
『からくりサーカス』は全43巻に及ぶ大作ダークファンタジー。本作では、21巻の「真夜中のサーカス」編までを一挙舞台化する。それだけに、展開はとにかくハイスピード。疾風怒濤の勢いでストーリーが進んでいく。
勝(深澤大河)が! 鳴海(滝川広大)が! しろがね(大西桃香※Wキャスト)が! 登場したと思いきや、物語は一気にトップギアに。襲来する謎のキャラクター。巻き起こるバトルアクション。次々とページをめくり続けるように、数々の印象的な場面が目の前で繰り広げられる。 そこで圧倒されるのが、キャストとの距離の近さだ。中央にある円形舞台を取り囲むように客席が設置されているので、どの席からでも舞台が近い。最前列に至っては、ほんの2mほど先、しかもほとんど目線の変わらない高さでキャストたちがお芝居を演じている。
特に、鳴海を中心に迫力の肉弾戦が展開されるので、その臨場感は別格。鳴海の中国武術も、駆け抜けるあるるかん(三枝奈都紀)も、すべてが至近距離。鮮やかな蹴り技。なぎ倒される自動人形。そのギリギリの間合いや飛び散る汗まで肉眼ではっきりと捉えられるのは、小空間ならではの醍醐味だ。
――すべてはここから始まった。白銀&白金兄弟の因縁が舞台で甦る!
さらに、演劇ならではのお芝居の面でもたっぷりと魅せてくれる。そこで印象的なのが、白銀(三浦海里)&白金(小坂涼太郎)兄弟のエピソードだ。中盤で、すべての始まりとなったこの兄弟とフランシーヌ(大西※Wキャスト)の悲恋が描かれる。それまでのハイテンポなアクションシーンから一転、三浦と小坂が恋ゆえにもつれてしまった兄弟の運命の糸をエモーショナルに熱演。最初はピュアに見えた白金がやがて嫉妬に狂い、怒りを燃やすまでを小坂が体当たりで演じると、三浦は白銀の抱える苦悩を繊細に表現。それぞれの持ち味がきらりと光り、アクションの余熱が残る劇場に、また違う空気をつくり出した。
そこから一気に物語はクライマックスの「真夜中のサーカス」編に突入。フランシーヌ人形を破壊すべく、鳴海たちしろがねが最古の四人と対決する。だが、あの鳴海がコロンビーヌ(大湖せしる)にまったく歯が立たないなど、最古の四人の力は強大無比。この難敵をどう打ち倒すのか。不気味な最古の四人を前に、物語はより悲壮感と絶望感を帯びていく。
次々と倒れる仲間たち。犠牲に次ぐ犠牲。確かにしろがねは、私たちのようないわゆる普通の人間とは違うのかもしれない。だけど、ファティマ(遠藤沙季)やルシール(田中良子)を見ていると、その行動の本質に人間らしさを感じずはいられない。だからこそ、胸が締めつけられるのだ。
涙を振り払い突き進んだ先にある驚愕の真実。そして、その裏側で勝に迫り来るものとは。これ以上、多くは語らない。ぜひそのすべてを劇場で見届けてほしい。見せ場はアニメファンにはおなじみのBUMP OF CHICKENの『月虹』が流れるあのシーン。きっと全身が奮い立つような高揚と熱を感じられるはずだ。
――大西&飯田はお泊まりするほどラブラブの仲?
囲み会見には、才賀勝役の深澤大河、加藤鳴海役の滝川広大、しろがね・フランシーヌ役の大西桃香〈AKB48〉と飯田里穂(Wキャスト)、白銀役の三浦海里、白金役の小坂涼太郎が登壇。
深澤が「舞台劇だからこそ表現できる『からくりサーカス』をみなさんに楽しんでほしい」とアピールし、「骨身を削るような想いでこの作品をつくりました」と意気込みを述べると、滝川は「村井さんを筆頭に、この作品はみんなで意見を出し合って、アドバイスを出し合ったからこそ、素敵な作品になったと思います」と作品づくりへの想いを吐露。
キャスト同士の仲良しエピソードを尋ねられた大西は「飯田里穂さんと普段でもお泊まりするような仲になった」と告白。共演者からも「稽古場でもずっとふたりでべったりしてる」と明かされ、嬉しそうな笑顔。飯田も「桃ちゃんとうちでクリスマスパーティーをしました」と答え、相思相愛の様子だった。
さらに、共演回数の多い三浦と小坂だが、三浦が「その中でも今回は一緒にいる時間が長かった」と話すと、小坂は「(三浦とは)家が近いんですけど、家が近いからこそ、あんまりふたりで会わなかった」らしく、「今回に関してはふたりで絡むシーンも多いので、もっと仲を深めて、芝居の話をしたりしました」とより強まった絆をうかがわせた。とにかく原作のストーリーが複雑な本作。原作未読の方はぜひ原作を読んで劇場に来てほしい。また、原作ファンは生の舞台だから味わえる『からくりサーカス』の新たな魅力を発見できるはずだ。舞台劇『からくりサーカス』は1月20日(日)まで新宿FACEで上演。
取材・文/横川良明