
1998年より「週刊少年ジャンプ」で連載を開始した冨樫義博の人気漫画『HUNTER×HUNTER』。アニメ化もされ、シリーズ累計発行部数は8400万部を超える(2022年7月時点)、世界中で愛されている作品だ。
2023年5月にハンター試験・ゾルディック家編を描く舞台化第1弾、2024年3月にヨークシンシティ編を描く舞台化第2弾を上演し、2025年5月17日(土)からは第3弾となるG・I(グリードアイランド)編が上演される。開幕を前に、稽古の様子を取材した。
G・I編は、主人公・ゴン(西山蓮都)が、父・ジンの手がかりを求めてハンター専用ゲーム「G・I」のクリアを目指す物語。
この日行われていたのは、G・Iに登場するレイザー(spi)とのドッジボール対決から、同じプレイヤーであるゲンスルー(坂東巳之助)とゴンたちが接触するまでのシーンだ。
脚本・演出を務める山崎 彬は、ストーリーの流れやキャラクターの動きに加えて、そこに至るまでの心境なども丁寧に紐解いて演出をつけていく。シーンごとの各キャラクターのテンション、それを踏まえたセリフのトーンといった部分も細やかに共有し、舞台ファンはもちろん原作ファンも納得のクリティを目指していた。
ゴンを演じる西山は今回が初参加。まだまだ初々しさがありつつ天真爛漫でまっすぐなゴンらしさも感じられる。成長を見守りたいと思わせる、魅力的な主人公を作り上げていた。
第1弾から出演しているキルア役の阿久津仁愛は、勝ち気で生意気な少年らしさ、落ち着いた佇まいのバランスが抜群だ。西山を支えながら共に進んでいく姿が大人びたところのあるキルアに重なる。



そんな二人と出会い、行動を共にするようになる謎の少女ビスケ(高橋 愛)、ゴン達と同じく大富豪バッテラ氏に雇われ攻略を目指すツェズゲラ(北村圭吾) たちも、ちょっとした表情や動きで魅力を描き出していた。
ゴンとキルア以外の前では猫を被っているビスケがふとした時に見せる強さや頼もしさ、高難易度のゲームを生き延びてきたツェズゲラやゴレイヌの冷静さなど、大人たちの存在感も光っている。
ゴン達と共にレイザーとの対決に参加するヒソカ (丘山晴己)は、トリッキーな言動を茶目っ気たっぷりに演じる。丘山のユーモアやアドリブを交えた演技に笑いが起きることもあり、和気あいあいとした空気を作るムードメーカーとしても活躍していた。
レイザーを演じるspiは立ち姿や投球フォームから圧を放ち、一筋縄では行かない強敵であることを一目で理解させる。レイザーの念能力による念獣たちの動きについても細かく演出が入り、個性が表現されていた。


ドッジボール対決では、多くのキャラクターが入り乱れて動くとともに、驚異的なパワーやスピード、多彩な戦略が描かれる。まだセットは組まれていない状態だが、迫力と緊迫感あるシーンの魅力と面白さを舞台上で見せられるよう、キャスト陣が一丸となって演出を練り上げていく。
圧倒的な力を誇るレイザーの投球、ヒソカの念能力・伸縮自在の愛(バンジーガム)の見せ方についても各々が意見を出し合い、ステージの模型や原作漫画を確認しながら調整しているのが印象的だ。
また、試合が進むにつれてゴンとキルア、ヒソカの連携ができていく熱さ、ゴンたちの意地とプライド、彼らに対するビスケやツェズゲラ、ゴレイヌ、レイザーの想いなど、グッとくるシーンが満載。完成度の高い演技や熱演にカンパニーメンバーからも笑顔や歓声が送られていた。
現時点でもワクワクする芝居に、歌唱や映像効果、舞台機構、衣裳といった要素が加わる完成系が楽しみで仕方ない。


続いては、ゴンたちが入手困難なレアカードを手に入れたことを知ったゲンスルーたちからの接触を受ける場面と、ゴンたちと別れたヒソカが幻影旅団メンバーと合流する場面。
巳之助は佇まいからゲンスルーの強さと危険さを感じさせる。視線の動かし方からも計算高さや実力が垣間見え、シーンに合った不安と緊張感、さらに厳しい戦いに突入する予感をしっかりと伝えた。
幻影旅団 も、短気なフィンクス(田鶴翔吾)や情報収集と分析が得意なシャルナーク(織部典成)といった各キャラクターの個性が伝わるやりとりや表情を見せてくれる。彼らがチームとして完成しているぶんヒソカの異質さが際立ち、不穏な空気が生まれていた。ヒソカとマチ(秋野祐香)、ノブナガ(村田 充)のヒリヒリしつつどこか軽やかな会話など、原作と変わらない温度感で繰り広げられるやりとりも嬉しい。この日の稽古では見られなかった彼らの登場シーン、幻影旅団のキャスト陣が兼役で演じる様々なキャラクターたちがどう描かれるのかも楽しみだ。


この日、レイザー戦のミザンス(立ち位置や動きの演出)稽古を終え、ここからさらに深まっていくだろう本作。多彩なジャンルで活躍する新キャストを迎えたカンパニーの挑戦に期待したい。
本作は5月17日(土)~25日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場、6月7日(土)~15日(日)まで大阪・SkyシアターMBSで上演される。
取材・文・撮影:吉田沙奈