
©松木いっか/小学館 ©舞台『日本三國』製作委員会
文明崩壊後の近未来、3つの国に分裂した日本を舞台に繰り広げられる架空戦記を描いた『日本三國』(原作:松木いっか/小学館「マンガワン」「裏サンデー」連載)が、舞台『日本三國』として7・8月に東京で上演される。
日本再統一を目指す主人公・三角青輝を演じるのは橋本祥平。共演者には赤澤 燈や平野 良、山本一慶、宇野結也、佐藤日向らが名を連ねる。
本作で、高潔で文武に優れた大和の辺境将軍・龍門光英を演じるのは松田賢二、三角が三国統一を目指すきっかけとなる大和の内務卿・平 殿器を演じるのは宮下雄也だ。主人公に多大な影響を与え、それぞれ違った形で民や部下を率いる龍門光英と平 殿器とを、松田と宮下はどう捉え、稽古開始のときを待っているのか。2人にその胸中をたっぷり語ってもらった。


――原作漫画は読まれましたか?
宮下 もちろんです。というか、もともと原作漫画の『日本三國』がめちゃくちゃ大好きで大ファンなんです! 1巻が出た頃から追いかけていて、実は舞台化が決まる前から、脚本・演出の西田大輔さんに話したこともあるんですよ。「この漫画が大好きで、舞台化したら出演したい作品なんです。もし出演が叶うなら、平 殿器という役をやりたいんですよ」と、飲み屋で語ったことがあって。そこから月日が流れて、大輔さんが脚本・演出で、僕が平 殿器 役で出演するという……。
松田 それはすごいね。
宮下 そうなんですよ。言霊がほんまに叶っての出演なので、めちゃくちゃ嬉しいです。
松田 僕は普段あまり漫画を読まないので、お話をいただいてから読ませていただきました。すごく硬派で気骨がある作品で、タイトル通り日本版三国志という印象を受けました。日本が舞台という設定のおかげで内容も入ってきやすくて。とにかくおもしろいの一言に尽きますね。
――ご自身が演じる龍門光英、平 殿器についての印象を教えてください
宮下 僕が演じる平 殿器は、ほんまに最悪なやつです。純粋な悪ですよね。自分のやっていることを悪いと思ってないですから。でも、そんな殿器を演じられることはこの上ない喜びです。演じる上でほんまに気をつけたいと思っているのは、悪いと思ってやろうとしないことですかね。悪いことを悪いと思ってやっている人間だったら、あの位置にまで登りつめていないと思うんです。自分なりの正義があって、それが完全に歪んでいるというか。だから、純粋悪を演じるためにも、稽古では自分なりの正義っていうものを見つけていきたいですね。そして、本当に嫌われたいと思います。お客さんに「マジで客席からぶん殴りにいきたい」と思ってもらえるようにやりたい。手応えを感じられたら、もう一生、殿器の髪型でいこうかなと(笑)。それくらいの覚悟でいます。
松田 龍門は達観している人という印象ですね。部下の三角(青輝)や賀来(泰明)との会話ですごく印象に残っているのが、会話の中で彼ら自身に答えを出させているところで。自らああしろこうしろとは言わない、柔らかい人間力みたいなものを感じましたね。演じる際はそういうところを大事にしながら、加えて関西弁というのも人間味のひとつとしてしっかり取り入れていきたいなと思っています。漫画を読んでいても、軍人らしさはありつつも、軍人然としていないところに魅力を感じたので、僕もそこを目指したいなと思っています。
――龍門光英については“柔らかな人間力”、平 殿器については“純粋な悪”というお話がありました。ご自身と照らし合わせて共感できる部分や、役へのアプローチについてはどう考えていますか
松田 僕はあまり役と自分を重ねることってないんですよね。とくに龍門のように頭がよくてかっこいい役のときは、重なる要素がないと感じていて。むしろ憧れや変身願望を持ってやっています。少年時代に梅田の映画館にジャッキー・チェンやブルース・リーの映画を観にいって、帰り道に鼻息荒く彼らになりきって。その頃の延長線上で、今もずっとやっている感覚です。なので、今回も龍門に憧れを持って、僕はこんなかっこいい男にはなれなかったけれど、せめて舞台上ではかっこよくいたいなと思っています。
宮下 僕は逆に、自分と役に通じる部分があって、そうじゃないとそもそも出演の話がこないと思っているタイプなんですよ。だから、今回も殿器っぽい部分が、どこかしら自分の中にあるんだろうなと思っているんですが、原作を読んでいても一個も共感できるところがない(笑)。でも、いくつになっても自分のことって全然わからないので、もしかしたら、稽古で三角役の橋本(祥平)くんとセリフを交わしていたら、殿器としてわかることがあるんじゃないのかな……と。見た目以外にもなにかあるはずなので、今はそれを模索中ですね。
――群像劇的な要素もある作品ですが、ご自身の役が担う「役割」や「立場」について、どう捉えていますか?
宮下 それはもう、かき乱すことですね。一言発するだけで、周りに不快感を与えて、場をややこしくして。本物の独裁者なので、物語をかき乱して、渾沌とさせたいです(笑)。
松田 龍門の役割はやっぱり、部下を育てて未来を育てることなのかな。原作の松木いっか先生は物語の年表を作って漫画を描いているとお聞きしたので、きっと龍門なりの年表もあるんじゃないのかなと感じていて。
宮下 あ~ありそうですよね。
松田 そこを意識しながら、原作で「龍門は尊敬の念を集めて、殿器は畏怖の念を与える」という描写がありますが、龍門光英として尊敬の念を集める、それに値するような立ち居ふるまいができたらなと思っています。
――どちらも人を率いる立場の役です。ご自身も現場では先輩の立場となることが多いかと思いますが、稽古場などで心がけていることはありますか。先輩としての矜持のようなものがあればお聞かせください
宮下 絶対に後輩に飯を奢ること、ですね。僕は吉本興業所属なので、僕自身も先輩にはたくさんご飯に連れていってもらってお世話になってきて。先輩にしてもらったことは、後輩にせなあかんなと思っています。先日も後輩たちを焼き肉に連れていく機会があったんですが、最終的にゾロゾロと8人くらいに奢ることになって……。会計はさすがに気合いが必要で、顎にグッと力を入れてものすごい険しい顔で支払いました(苦笑)。先輩としての器はまだまだ小さいなと実感しましたね。
松田 僕は稽古場では、先輩らしくいようとか何も考えないようにしていますね。
宮下 めっちゃわかります。
松田 体力やスピードでは若い子に劣ることも多くなってきますからね。これは決して卑屈な感じではなく、シンプルに一生懸命やるだけです。俺の背中を見とけというおこがましい思いもないですし、かといって若い人についていこうという感じとも違う。淡々と自分と向き合うようにしていますね。
――先輩の立場として後輩から相談を持ちかけられることもあると思うのですが、そういった場合はどう対応されるのでしょうか
宮下 もう、それ苦手なんですよ(笑)。コメディ作品によく出演するんですが、「どうやったらおもしろくなれますか?」っていう質問とか、もう答えられないですよ(苦笑)。
松田 言えないよねぇ。
宮下 もっと具体的に「このシーンのこのセリフの……」みたいな質問なら答えようがありますけど、ざっくり聞かれるともう無難な回答に逃げますね。ただでさえ関西弁ってきつく聞こえちゃうから、鬼ほど石橋を叩いて気を遣って答えないといけないので、芝居のことは聞かれたくないです(苦笑)。
松田 龍門みたいに「どう思うの?」って導いてあげたらいいのかもね。
宮下 なるほど。たしかにそれができたらええですね。でもまだ龍門ほどの器が自分にはないからなぁ……。
松田 まあ僕も、うまいこと言えないな。それに芝居って好みもあるし、人それぞれですしね。聞かれても「セリフをちゃんと覚えて観る人を楽しませること」と、すごく普遍的なことだけ伝えていますね。
――今作の脚本・演出を手掛ける西田大輔さんとは、お二人とも何度かご一緒されています。西田さんの作品づくりの特色や魅力はどんなところに感じていますか
宮下 西田さんの言葉ってすごく力強くて、それこそ役者を導くのがめちゃくちゃ上手な演出家さんやなって思います。
松田 僕はご一緒した回数はそれほど多くないんですが、よく一緒に食事には行っていて。そこではいろんな話をしてくれるんですよ。だけど、稽古場ではあまり話さない人というのが西田さんの印象ですね。みなまで言わない。軽いミザンス(立ち位置や動き)を決めて、ちょこっと役者の感情を刺激して、「あとはご自分で作ってくださいね」と任される。それがすごく心地いいですね。あと、軌道修正をする際の言葉のチョイスがすごくおしゃれ。
宮下 わかります。感情の刺激の仕方がおしゃれですよね。それに、やっぱり男がついていきたくなる、かっこいい人だなと思います。
西田さんの舞台では本編が始まる前に作品のイメージを凝縮して紹介するようなシーンが入るんですが、単なる作品や登場人物の紹介に留まらないんですよね。西田さんはイメージシーンにも伏線を張るので、2回目を観たときに「実はこういう意味があるんだ」っていう発見がある。ほんまにすごい才能だと思います。
松田 そうそう。僕もイメージシーンって西田さんの作品で初めてだったんですが、意味がわからないまま、西田さんの言葉に従ってやってみたら、後から「こういうことか!」と。今回も西田さんに「賢二さん、ここで逆立ちしてください」と言われたら、全力でやろうと思っています。それくらい西田さんに全幅の信頼を寄せています。
宮下 例えばこのタイミングでこの2人が視線を交わしているのは、こういう意味があって……みたいな演出も多いですし、きっと今回もあると思います。だから推しだけをオペラグラスで追っかけてる場合ちゃうで!(笑)
一同 (笑)
宮下 オペラグラスはカバンの奥底にしまっておいてください(笑)。群像劇的な要素もある物語なので、推しだけじゃなく、登場人物それぞれの想いを感じてもらった方が、絶対楽しいです!
――共演者にも個性的で魅力的な方々が揃っています。稽古や本番で楽しみなこと、期待していることを教えてください
松田 龍門としては主に会話をする面々と、信念でのキャッチボールができたらいいなと思いますね。あとは、ここには名前のない藤3世(大和の帝)や守山記室令(辺境将軍府の文章記録を担当する人物)もかなりおもしろい人物なので、そこを舞台でどう表現するのかも楽しみです。
宮下 僕は親友の平野 良(賀来泰明 役)との久々の共演なので、役としては話さないかもしれませんが、現場に彼がいてくれるのがほんまに癒やしです。
松田 それは嬉しいね。
宮下 彼とはしょっちゅう飲むんですが、3年くらい前に『日本三國』の話もしたんですよ。もし舞台になったら僕は平 殿器をやりたくて、良には賀来が似合いそうって。
――その言霊も叶ったんですね
宮下 そうなんですよ。あまりに叶いすぎてちょっと怖いくらいなので、幸せの反動がこないように今後いろいろ身辺には気をつけようと思っています。
松田 自転車ハマってるんでしょ? 気をつけなきゃだね。
宮下 ほんまに。安全第一で乗ろうと思います。
――では、最後に本作を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします
松田 原作のおもしろさをさらにおもしろくしたい、その一心です。言葉に大きな意味がある物語だからこそ、言葉じゃない部分にも命を注ぎ込みたいですね。原作ファンの方も舞台で初めて作品に触れる方も、間違いなくおもしろいと感じる作品だと思うので、ぜひ観に来ていただきたいです。
宮下 ここまで記事を読んでくださった方は、きっと演劇や物語が好きな方だと思います。僕もいち演劇ファンとしていろいろな舞台作品を観に行きますが、好きだからこそ知らないコンテンツに関しては「知らんから行かんとこ」ってなる気持ちもわかるんですよ。でも、ことこの作品に関しては、原作ファンの方はもちろん、それ以外の方にも観てほしいなと思っていて。ほんまに濃い物語と生き様を、舞台ならではの近い距離感で楽しめる作品になると思います。舞台『日本三國』の熱を五感で浴びにきてほしいです。絶対損はさせないので、お待ちしています。
インタビュー・文/双海しお