単行本の累計発行部数は全世界で2 億5000万部を突破、ヨーロッパやアメリカでも高い人気を誇る『NARUTO-ナルト-』。その舞台版、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」は、’15 年の初演以来、日本のみならずワールドツアーも行われてきました。
この秋、舞台シリーズであるライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」〜暁の調べ〜 が2年ぶりに再演されます。初演から主人公・うずまきナルト役を務める松岡広大さんにお話をうかがいました。
――2年ぶりの再演ですね。
松岡「再演というのは、お客様の好評や『また観たい』という声がなければ、ないものなので。すごくありがたいことです。がんばってよかったなというか、素直に嬉しく思います」
――「暁の調べ」はどんな作品ですか?
松岡「これまでになかった“歌”という表現も増えましたし、初演では過半数が新キャストになったので、新しい風が吹いたような感覚がありました。そのなかでも特に、大人キャストの皆さんがすごくエネルギーを注いでくださったなと思っています」
――大人の皆さんというのは?
松岡「イタチ役の良知真次さんや、ヤマト役の藤田玲さん、薬師カブト役の岡田亮輔さんとか。長く役者をやってこられた技術のある方々なので、それを肌で感じられたのは、刺激があってすごく楽しかったです。当時は………食ってやろうと思っていました(笑)」
――食ってやろうと!
松岡「気持ちで負けないようにしていました。そういう時期だったんだと思います。その挑戦的な時間も有意義だったなと思います」
――遂にイタチが登場したのも見どころかと思います。
松岡「遂に来たかという感じでした。今まではシルエットで見せていたので、ようやく具現化されたような感覚もありました。良知さんご自身は、“やさしいいとこ”みたいな感じの方でした(笑)。僕は『各々が各々の仕事をちゃんとやる』というスタンスでいるのですが、良知さんにも同じスタンスを感じました。だからすごくやりやすかったです」
――ナルトという役も「暁の調べ」で少年から青年に変化していますが、どんなところを大事にしましたか?
松岡「ナルトも少しずつ大人になっているのですが、だからといって全部が変わるわけではないので。その“大人になったからこその変化”は、微妙なニュアンスに気を付けていました」
――微妙なニュアンスというのは?
松岡「例えば“首の振りかた”とか“声のトーン”とかですね。少年から青年になる時期って多感ですし、世間に不満があるし、大人にも反抗する。そういうのって、例えば歩き方ひとつにも出ますから。今回、そこはより意識したいと思っています。ちゃんと芝居したい」
――再演だからこそ。
松岡「同じものをやるとはいえ、同じことはしたくないんです。だから初演を振り返るのではなく、今、脚本を読んで生まれた感情も大事にしていきたいです」
――脚本の読み方も変わりますよね。この2年で松岡さん自身の変化もありますし。
松岡「そうですね。いろいろな舞台も経験させていただいたので、そこを経て」
――松岡さんはナルト役をシリーズ初演から約4年、演じ続けていますが。
松岡「舞台シリーズは18歳になるときから始まって今年22歳になるので、年数を重ねる中で自分の芝居観も変わっていますし、僕の中身も変わっている。だからそのぶん、見せ方や見え方も変わっている感じはあります」
――芝居観はどう変わってますか?
松岡「今は鬼気迫る感じです。この4年でいろんな作品を経験して、脚本の読み方も変わって、このシーンでなにが言いたいのか、どういうドライブ感、スピード感でいけば気持ちいいシーンになるのか、そういうことが考えられるようになったと思います」
――そういう変化がより顕著に見られるのは、再演ならではですね。
松岡「そうですね。逸脱しない程度にというのはあるのですが、そこは感じてもらえると思います」
――脚本・演出の児玉明子さんはこの作品をどういうふうにつくられていましたか?
松岡「ふふっ(笑)」
――お、どうされました?
松岡「いや僕、いただいた質問案をもとに昨日考えていたんです。でも児玉さんに関する質問だけが一番答えがでなくて(笑)。児玉さんのことは本当にわからないんですよ、まだ全然」
――どんな方かということですか?
松岡「はい。未知数なんです」
――未知数!(笑)。こんなに長く一緒にやっているのに。
松岡「明確なビジョンがあることは確かなのですが、ダメ出しはほぼなくて。僕が出会ってきた演出家さんのなかで一番不思議。でも児玉さんが描いているものを実現させていきたいので、こっちからどんどん聞きにいきます」――松岡さんは4年前の「NARUTO-ナルト-」初演が初座長作品でした。今、座長を務めることには、どういうふうに考えていますか?
松岡「仕事としてのスタンスは変わらずに、真摯に作品に向き合って、自分ができることを詰めていくという感じです。座長だからといって僕が全体に何か言うことはないですし。ただ、“誰が何をしているか”という把握だけはしています」
――把握っていうのは?
松岡「ここにこういう殺陣があるとか動きとか」
――それによってなにが生まれるのですか?
松岡「何かあったときに話に入れます。もちろん演出助手さんが一番見ているのですが、演者側の意見として『ここの動線がぶつかっちゃいます』とかは言えるので。だから自分が把握しておいて、何か問題が起きたら言う、という感じです」
――今の把握の話もそうですし、さっきの「前日に質問案の答えを考えた」というお話もそうだと感じていますが、松岡さんはどの作品の現場でも「しっかりしている」「ちゃんと考えている」と言われている印象があります。それはもともとの性格なのですか?
松岡「もともと物事の道理みたいなものをすごく考えるタイプで、真面目な性格だとは思うのですが、今お話ししていたような考えは、環境によっての部分もあると思います。でもこういう場でそういう話をすることで、嘘をつけない状態をつくるというのもあります。そうすると逃げも隠れもできないので。それで辛くなることもありますけど(苦笑)」
――自分に厳しい?
松岡「人間として恥ずかしくなりたくないというのはあります。役者である前に一人の成人男性で社会人ですから」
――20歳をこえて成人男性になったという変化は大きいですか。
松岡「前なら素直にぶつかっていたような場面でそうしなくなりしました。それは諦めとかではなくて、空気がよくなるようにしたいと思うようになったというか。空気ってすごく回りますし、人の“気”ってうつったりするものなので」
――いい空気で稽古したい。
松岡「でも、よくしたいといっても基本的な、返事をするとか、挨拶をするとか、機嫌を悪くしないとか、そういうところです。あとは、稽古のときから本気でやるとか」
――相手に何か求めることはないのですか?
松岡「もっとこうしてとかですか?それはないです」
――普段からそんなふうに落ち着いているのですか?
松岡「何をしているときでもどこか“見ている”部分はあると思います。お茶を飲んでいても『今どうやって飲んだかな』とか考えている。物の動かし方とか見てしまうんです」
――お芝居に生かしたいってことですよね。
松岡「そうですね。でも楽しいからやっているだけです」
――公演が楽しみです。
松岡「再演ということで、もちろんベースは同じですが、役者それぞれの成長によって、芝居の質感、エネルギーのようなものは変わるはず。一皮むけた『暁の調べ』を観ていただけたらと思います!」
インタビュー・文/中川實穂
Photo/岡田晃奈
※構成/月刊ローチケ編集部 7月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
ローソン・ミニストップ・HMVにて配布
【プロフィール】
松岡広大
■マツオカ コウダイ ’97年、東京都出身。ライブ・スペクタル「NARUTO-ナルト-」、ミュージカル『テニスの王子様』など数多くの舞台に出演する一方で、映画やテレビドラマにも出演する。