都内のスタジオで行われた『舞台「pet」-虹のある場所-』の稽古場の模様をレポート。本作は、三宅乱丈のマンガを原作とした『舞台「pet」』の第2弾となる舞台公演。7月29日(月)から8月4日(日)まで東京・神田明神ホールで上演となる。
他者の意識に侵入することで、記憶の改ざんや隠ぺいをおこなうことができる能力者が存在する世界。人の意識に潜り込み、記憶を自在に操る特殊能力を持った主人公「ヒロキ」、「司」、「悟」たちは、「会社」と呼ばれる中国マフィアによって管理される日々を送っていた。
pet(ペット)と呼ばれる彼らは、組織のために要人の記憶の改ざんを仕事として課され、時には、もっとも幸福な記憶がある場所「ヤマ」と、最も忌むべき記憶によって作り上げられる「タニ」という人間を構成する2つの大切な記憶領域を破壊して、廃人にすることもあった。そんな会社の仕事に嫌気がさしていたヒロキは、ヤマを分け与えてくれた「ヤマ親」である司と、ただ一緒にいることを望みに日々暮らしていた。しかし、ヒロキは徐々に、司が自分に様々な隠しごとをしていることに気が付いていく……。
主人公・ヒロキ役を演じるのは「pet」のテレビアニメ版でも同役で主演を務める植田圭輔 。また、ヒロキのヤマ親である司役の桑野晃輔のほか、谷佳樹、 萩野崇、君沢ユウキ、伊勢大貴、あまりかなりが前作の舞台から引き続き同じ役で続投となる。
今回の稽古で公開となったのは、冒頭から30分程度の場面。悟を廃人にしようと持ちかける司に戸惑いを隠せないヒロキは、司のもとを離れ、一人塞ぎ込んでしまう。その頃、悟は林を廃人にしたのはヒロキだと司から聞かされ、ヒロキの捜索にあたる。ヒロキと悟の2人を言葉巧みに操る司の企みとは……?稽古場には、舞台左右に大小、ひとつずつ箱が配置されていた。また、小さな箱は俳優が置き場所を変え、舞台空間をイマジネーション豊かに変容させていく。前作に続きシンプルな舞台美術が配されているが、今作でも舞台空間をダイナミックに彩る映像が使用されるようだ。本作の脚本・演出を兼ねる伊勢直弘は、俳優に舞台美術の配置を指示して、「ここで金魚の映像が出ます」など事細かに指示していく。この日の稽古は主に立ち位置や段取りの確認稽古だったようだが、伊勢の早い決断とそれに応える出演者の息のあった作り込みによって、次々とシーンが構築されていく。めくるめくスピード感で精密な舞台表現が完成されていくさまはまさに圧巻であった。本作では「pet」シリーズの魅力ともいえる、ヒロキと司の危うい関係はより複雑に交差していく。唯一の心の支えである司に対して猜疑心を持つヒロキの葛藤を、植田は感情が今にでも弾けてしまいそうな脆い姿を憔悴感のある佇まいで表現。また、司役を演じる桑野も、ヤマ親である林が廃人となっている様子を目の当たりにする場面では、心が張り裂けるような声をあげ、司の意味深い過去をより鮮明なものとしていた。植田と桑野の危うい関係は本作でも注目だ。また、この日稽古に参加していた、桂木役の君沢やロン役の伊勢もコミカルとシリアスを使い分けた表現で、舞台をより深みのある世界に仕上げていく。演出の伊勢が「早く段取りを終わらせて、ゴリゴリの作業をしましょう(笑)」と声をかけていたが、これからの稽古で舞台「pet」の世界観はますます磨かれていくのだろう。「ヒロキと司の関係は?」「petたちの運命は? 」ぜひ、その目で確かめてほしい。
『舞台「pet」-虹のある場所-』は7月29日から8月4日まで東京・神田明神ホールで上演となる。なお、7月27日(土)には植田始め、桑野と谷が登壇する舞台『「pet」振り返りファンミーティング』が行われる。
取材・文/大宮ガスト