さらに「さらざんまい」~愛と欲望のステージ~ 伊勢直弘 インタビュー

サラっと舞台化!
つながりたい。客席と―

 

「欲望」を抱えたキャラクターたちが織り成す濃厚なドラマと、一度聞いたら忘れられない楽曲で話題沸騰となったオリジナルTVアニメ『さらざんまい』。2019年4月から6月までフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送され、熱気も醒めやらぬ中で舞台化が発表された。


本作の脚本・演出を務めるのは、『おそ松さん』や『四月は君の嘘』など、『さらざんまい』同様に人気アニメの舞台化を担ってきた伊勢直弘。

伊勢「舞台のプロデューサーさんからお話をいただいた時に、“本(脚本)にするのは手強いですよ”というお返事はしたんです。でも作品の中に演劇的な要素があると思いましたし、純粋にアニメが面白いなと思いました」


舞台は浅草。中学2年生の矢逆一稀、久慈悠、陣内燕太の3人は、ある日、謎のカッパ型生命体“ケッピ”に出会い、無理やり尻子玉を奪われてカッパに変身させられてしまう。「元の姿に戻りたければ、ゾンビの尻子玉を持ってこい」とケッ
ピに告げられた3人は、ある方法でつながり合い、ミッション達成を目指す。しかし、それには自身の「欲望」も暴かれてしまうという代償が伴っていた……。

伊勢「最初にアニメを見たときは、勢いやテンションはすごいけど、なんだかよく分からないぞ、という印象(笑)。でも週を追うごとに謎が解かれていって、ストレスがちょっとずつ軽減されていくところに中毒性がありました。描かれる“欲望”や“ウソ”は、キレイ事抜きで誰にでもあるものなので、それを暴かれていくところには怖さも感じたり。最終的にはポップなエンターテインメントの皮を被った、業の深い人間ドラマだと感じました」


『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』などで知られる幾原邦彦監督作品ならではの、トリッキーな演出と謎に満ちたストーリー。舞台化に際しては、苦労ポイントにもなりそうだが。

伊勢「彼らがカッパに変身するシーンに関しては、あのテンションの高さをどうやって見せるのかという壁はありますね(笑)。一方で、日常と非日常の切り替えなどは、非常に演劇らしく作れるのではないかと思います。全員が主人公になる要素を持っているので、そこは丁寧に拾い上げていければ。いわゆる2・5次元演劇を超越したところに見せどころがあると思うので、深く掘り下げて、研ぎ澄まされた会話劇にしないと成り立たない部分があるのではないかと気を引き締めています。尻子玉を抜かれてゾンビの尻子玉を抜いて、日常が戻る……というお約束感が楽しいという面もあるので、そこを保ちつつ人間ドラマの方にシフトしていければ。原作アニメの構成をヒントにして、“再現”というより演劇に“変換”できればいいなと思います」


「変換」という言葉からは、単純にアニメの真似をするわけではないのだという、演劇表現の可能性に向けた自信が覗く。

伊勢「演劇は、お客様が補完する力に委ねるところが多いので、どれだけその力をお借りして、演劇としてお届けできるのかということは念頭に置いて作っていきたいと思っています。尻子玉を抜き取るところは特に、演劇らしく遊べたら。ファンの方々も“アレはどうするんだろう?”と思っていらっしゃるかと思いますので(笑)、舞台ならではの表現に、ぜひご期待ください」


多くの2.5次元作品を手掛けてきた伊勢だからこそ、芝居のポリシーは確立している。

伊勢「どの役でも役者にはちゃんと生きた人間として舞台に立ってもらいたいので、心情をキッチリと稽古で詰めていくことは、すべての作品において目指しています。どのセリフに反応してその感情が引き出されたのか。どう出すかというより、どう受けるかに重きを置いていますね。キャッチボールと一緒で、芝居も受け取らないと投げ返せないですから。そうやって稽古で作り上げたもので、このキャラクターが生きた人間として居るんだということを、お客様と共有したいと思っています」


本作の舞台化に際して外せない要素を尋ねると、
「『さらざんまいのうた』と『カワウソイヤァ』!」と返ってきた。前者はカッパの姿になったキャラクターたちが、ゾンビの尻子玉を奪う時に合唱する劇中歌。後者は交番に勤務するふたりの美形警察官・新星玲央と阿久津真武が舞い踊る楽曲だ。癖になるこの2曲は、アニメを見てきたファンならずとも虜になること間違いナシ。早く劇場で演劇の『さらざんまい』を体感したいという「欲望」が抑えられない。

伊勢「限られた上演時間の中ではありますけれども、登場する彼らの想いはしっかり描いていきたいと思います。ぜひ彼らの生き様を見届けにいらしてください」

 

インタビュー・文/片桐ユウ

 

※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載

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【プロフィール】
伊勢直弘
■イセ ナオヒロ ’72年生まれ。舞台を中心に、演出家、脚本家、イベントMC、俳優、ラジオパーソナリティ、声優など幅広く活動している。