舞台劇「からくりサーカス」~デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)編~ 稽古場レポート

今年1月に上演され、好評を博した舞台劇「からくりサーカス」~真夜中のサーカス編~。その続編となる舞台劇「からくりサーカス」~デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)編~が開幕間近だ。
藤田和日郎により『週刊少年サンデー』(小学館)にて長期間にわたり連載され、コミックスの累計発行部数は1500万部を超える人気漫画が原作。昨年から今年にかけてアニメ化もされ、一層のファンを獲得している。

物語は、莫大な遺産を相続して命を狙われる少年・才賀 勝(さいが まさる)と、ひょんなことから彼を助ける拳法家の青年・加藤 鳴海(かとう なるみ)、そして人形遣いの女性・しろがね(=エレオノール)、3人の出会いから始まる。
それぞれの数奇な運命を追う物語は、鳴海も発病した人類滅亡がかかる「ゾナハ病」の原因、懸糸傀儡(マリオネット)の使い手である「しろがね」の秘密、そして不死の霊薬「生命の水」(アクア・ウイタエ)の真実……と、謎を増していく。

舞台劇の第1弾はラストに衝撃の事実を明かし、“幕間”ともいえる一旦のエンディングを迎えた。続きが気になるファンはもちろん、原作ファン、アニメで“からサー”にハマったファンにとっても注目の第2弾作品。稽古場取材から見えたカンパニーの“熱”をレポートする。

 

久々に季節らしい爽やかな秋晴れとなった9月下旬。
昼過ぎに訪れた稽古場は、場面稽古が一段落したところだった。

 

稽古場の床には、上演場所となる新宿FACEの中央に設置されるステージのカタチにテープが貼られていた。今作は「サーカス」をイメージした360度舞台。もちろん本番は高低差がつくが、観客がステージを四方から取り囲むスタイルだ。

前作の舞台劇「からくりサーカス」~真夜中のサーカス編~では、開場前にキャストたちによるサーカス風のパフォーマンスが行われ、原作の冒頭でも登場するクマの着ぐるみ(加藤鳴海入り)が客席を練り歩いていたりと、劇場が丸ごと「からくりサーカス」の世界になっていた。
コラボドリンクの「アクア・ウイタエ」など、ドリンクを片手に持ちながらの観劇もOKという新宿FACEならではの試みもあり、稽古場を目にしただけでも観劇時のワクワク感が蘇ってくる。

 

今回の舞台劇「からくりサーカス」~デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)編~は、全物語の後半部分。壮大なドラマの顛末を描く「完結編」だ。

 

命を救ってくれた鳴海と別れ、強くなることを決意した「勝」。卓越した人形使いとして勝を守る使命の中、鳴海へ恋心を抱いた「しろがね(=エレオノール)」。爆発に巻き込まれて勝たちの記憶を失い、敵の自動人形(オートマータ)との戦いに赴く「鳴海」。
全ては200年前から始まる長い長い因縁と絡み合っていたことを知った彼らは、それぞれに道を定め、自分の向かうべきところへ進んでいく……。

 

休憩中の稽古場は、鏡を見ながら刀を振って殺陣をチェックするキャストや、柔軟しながら談笑しているキャストなど、リラックスしたムードが漂っていた。次の場面稽古に参加するのは、加藤鳴海役の滝川広大。しろがね(=エレオノール)・フランシーヌ役をWキャストで務める大西桃香〈AKB48〉と飯田里穂。あるるかん役の三枝奈都紀。ハーレクイン役の田中彪。

このメンバーが揃う場面と言えば、最終決戦のクライマックス。
エレオノールVSハーレクイン戦だ。

 

まずは殺陣の動きを付けるところからスタート。鳴海に襲いかかるハーレクインに対し、エレオノールが「あるるかん」を使って、その攻撃を食い止める。
殺陣師は、ハーレクイン役の田中と、あるるかん役の三枝にそれぞれ動きを付けていく。巨大な武器がぶつかり合うハーレクインと「あるるかん」の立ち回りは、大きな見どころとなりそうだ。 しかし得物を持っていると、左右のどちらから振り下ろすかだけで動きが大きく変わる。田中はその振り方向を覚えることに苦戦している模様。だが長身と陽気な雰囲気はまさしくハーレクインだ。あるるかん役の三枝もシャープなスタイルとキレの良さが舞台に映える。 「あるるかん」の技である「炎の矢(フレッシュ・アンフラメ)」は、原作では連続で素早く相手を貫く術だが、実際に舞台で表現するとなると難しい。それでも「やってみたらどうなるかな?」と、何気なく演出助手が提案。
三枝は「面白くなっちゃう可能性が高いと思うのですが……」と言いつつ、生真面目にトライしてみせる。小刻みに相手に迫っていくその動きを見た大西が、思わず「カワイイ(笑)」と笑顔になった。
「いかがですか?」と、三枝も茶目っ気たっぷりに皆を振り返り、演出助手も苦笑しながら「ありがとうございました。このパターンはナシで!」と納得の頷きを返していた。

 

ハーレクインと「あるるかん」が戦っている最中の鳴海と「しろがね(=エレオノール)」の動きは、また別のスタッフが指示を出す。キャストそれぞれに対してほぼマン・ツー・マンの状態で、綿密に殺陣シーンを決めていく。 安全性はもちろん、ここは物語としてもクライマックスに差し掛かった重要なバトル。ハーレクインに立ち向かおうとする鳴海の気持ちと、鳴海を守るべく戦いを担おうとするエレオノール、ふたりのひたむきな感情が交差する場面だ。殺陣のダイナミックさと同時に、繊細な芝居も必要となる。

 

まだ動きを付けている段階ながら、鳴海を演じる滝川にも熱が入っている。「あるるかん」の動きに応じたエレオノールと鳴海の動きも滝川が積極的に提案したりと、前のめりに作品に挑んでいる様子がうかがえた。 滝川と大西&飯田は前回からの続投キャストでもあり、安定した佇まい。飯田は一つひとつの動きを丁寧に確認中。大西は僅かな合間を縫って側転の練習を重ねる。
Wキャストのふたりは、立ち位置やタイミングを確認し合うこともあり、ヒロイン同士による仲良さげなやり取りが微笑ましい。どちらも可憐さと強さを持ち合わせながら、それぞれ別の割合でブレンドして創り上げているエレオノール像といった風。
その後ろを守るようにしてガタイの良い滝川が立っていると、原作の鳴海とエレオノールの立ち姿が重なるようだった。

 

3人のやり取りが進む横で、ハーレクインと「あるるかん」の立ち回りも進化していく。滝川、大西と飯田の3人も、時折つい目を奪われてしまうようだ。
首元に刃物を突き付ける「あるるかん」の動きに、殺陣師が「ハーレクイン、背が高くて良かったねえ」と一言。確かに「あるるかん」より背の低いハーレクインだったならば、首元ではなく目元に刃物が入ってしまっただろう。高身長ふたりのバトルは迫力満点だ。動きが一旦付いたところで場面を通す。「あるるかん」は操り人形らしい精密さを備え、自動人形(オートマータ)であるハーレクインは不気味さを増す。鳴海とエレオノールも輝くような存在感を放った。

 

場面が終わったところで、三枝と滝川がタイミングと立ち位置の確認を始める。幾つかのやり取りを見ていた田中が、「僕が(「あるるかん」の)後ろ(にいる鳴海たちの動きが)見えているから、合わせますよ」と助け舟を出した。

 

敵と味方、操り人形と人形使い、ヒロインと想い人。役の上では様々な関係性だが、それぞれで構築していたシーンがひとつになり、お互いの動きに合わせながら場面を作り上げていく時は全員が仲間だ。

バラエティ豊かなメンバーでひとつのものを作り上げるのは、演劇もサーカスも同じ。
ステージの上で物語を綴り、お客様を楽しませようとする共通点をもって、舞台劇『からくりサーカス』が開幕を待ちわびていた。

上演は10月10日(木)~19日(土)新宿FACEにて。

 

取材・文/片桐ユウ