累計2100万部をこえる福本伸行の大ヒットコミックが、ついに舞台化される。主人公の伊藤開司を務めるのは、スーパー戦隊シリーズ「宇宙戦隊キュウレンジャー」への出演や、多くの2.5次元舞台で活躍を続けている山崎大輝。共演には、鯨井康介、馬場良馬、なだぎ武、綾切拓也、宮下雄也、佐奈宏紀、松田岳、兼崎健太郎、森山栄治、村田充など、魅力的な面々が揃えられた。
12月の上演に向け、キャストやスタッフの気合がみなぎっている稽古場を見学してきたので、その様子をレポートしていく。
新型コロナウイルスの流行により、演劇業界も大きな影響を受けた。稽古場では、手指消毒や検温、靴の消毒、マスクの着用など、可能な限りの感染対策が行われていた。筆者も事前チェックのうえ、入室時にもしっかりと感染対策を実施した上でお邪魔させていただいた。(なお、稽古前に全員に対してPCR検査が行われ、陰性であることも確認している)
稽古場に入って、まず目に飛び込んできたのは、大掛かりな舞台セット。11月初旬から稽古が進められていたが、訪問した日の2日ほど前に実際の舞台と同じ動きができるよう、大きなセットが建て込まれたばかりだという。
今回のセットでは、両サイドにある階段から上段へ移動し、上段もまるで橋のように上手や下手にわたることができる。…勘のいい原作ファンならば、ピンと来ているかもしれない。そう「鉄骨渡り」は、この上で繰り広げられるのだ。
ちょうど稽古も、この「鉄骨渡り」のシーンが進められていた。カイジ(山崎大輝)を中心に集まり、鉄骨渡りに参加するかどうかを決めていくギャンブラーたち。利根川(森山栄治)に促されて参加者らは上へと上がっていき、兵頭(村田充)もふてぶてしく言葉を紡ぐ。衣装やメークもない状態だが、すでにカイジの世界観が確かに感じられた。
「鉄骨渡り」は、多くのキャストが一度に舞台に上がっているシーンのため、演出の山崎彬が見え方などを細かくチェックしつつ、キャストの動線を確認していく。上の段に上がってしまうと、稽古場では劇場ほど天井の高さが無いために、場所によっては中腰でないと立って居られないほど。床からは軽く2メートル以上はあり、見ているだけで足がすくんでしまいそうだ。上段でズラリとキャストが並んだ姿はヒヤリと手に汗握るものになっていた。そして、この高さからひとり、またひとりと落ちていくと言うのだから…まさに息をのむようなシーンになるのは間違いないだろう。効果音はなくとも、自らの鳥肌で「ざわ…ざわ…」とざわついてしまうようだった。
さらに、このセットは舞台中央が回る盆になっており、キャストを上部に乗せたままでダイナミックに回転する。橋の上に乗せられて回る姿を見ていると、まるで自分が鉄骨渡りをするキャストを、下からぐるりと見まわしているかのような感覚になった。
止める角度を決めるため、何度も回転させていくうちに、キャストらは「迫力があってどきどきする」『船酔いみたいな感じがする』「わかるわかる」と話し、2章のシーンながら、1章のギャンブル船「エスポワール」さながらの“酔い”を感じながらの稽古となっていた。
また、本番では舞台上にいくつかカメラが設置され、リアルタイムでの演者の表情が映し出されるスクリーンも用意されるという。緊迫の表情を、カイジらを鑑賞する超セレブのような気分で見ることになるだろう。鉄骨の上に残った、カイジと石田(なだぎ武)の切ないやり取りも印象的だった。
舞台上で繰り広げられるのは命がけの真剣勝負だが、稽古場でのキャストらは笑顔が多く、立ち位置が近い人同士で待ち時間に談笑するなど、楽しい雰囲気が漂っていた。また、主演の山崎大輝は、演出からの指示の時も「ここはこうしてみたい」など、積極的に自分のイメージや挑戦を言葉にする場面もあり、まさに気合十分といったところ。その意欲が、これからの稽古でますます進化していくことは間違いないだろう。まもなく幕開けとなる舞台版カイジの姿に、大いに期待せずにはいられない。
取材/宮崎新之