ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇|毛利亘宏&久保田秀敏インタビュー

シリーズ作として12年の歴史を歩み続けているミュージカル『薄桜鬼』。初演から演出を務め、西田大輔へとバトンを渡した毛利亘宏が、最新作「真改 土方歳三 篇」で再びその手腕を振るうこととなった。主演は土方歳三を演じる久保田秀敏。『薄桜鬼』の王道ルートである本作で出会った二人が抱く、それぞれの“薄ミュ”への深く強い想い。熱気あふれる稽古場で語ってもらった。

──毛利さんおかえりなさい!再び挑むミュージカル『薄桜鬼』、心構えも特別なのでは?

毛利 やっぱり自分にとって個人的にもすごく重いというか意味のある作品なので、帰ってきたからにはここまで西田さんの作ってきたもの、西田さんとともに今のキャストたちが作ってきたものを受け継ぎつつ新しい作品を作る。“「薄ミュ」を次のステージへ”というつもりで挑んでいる真っ最中です。なので脚本の段階からいろいろな面で結構過激なチューニングもしていて…本当に土方と千鶴に物語を絞ろうと思って。でも実際稽古を見てみると、「あれ、ヒデ(久保田)大丈夫かな?この分量ちょっとヘビーかな」って思いながら(笑)。

久保田 全然余裕です…まだ(笑)。

毛利 (笑)。今まではそれぞれの隊士を好きなお客様がいるという観点から、メイン以外のキャラにも割とサービスシーンみたいなものを入れてたんですが、今回はそういうのを全部取っぱらって、沖田や他の隊士たちのシーンも「土方にどう影響を及ぼすか」とか、「土方が土方であるためにどういうふうに周りに隊士がいたのか」をやろうとした結果、ずっと土方が戦っていた(笑)。戦って、ボロボロになっていく…と。

久保田 はい。

──「群像劇」のバランスが変化してきている

毛利 このジャンルが「2.5次元」って呼ばれるようになって…実際「薄ミュ」が始まった頃には2.5次元って言葉はなかったのでね。今は自分の中でよりこのジャンルの作品をソリッドなものにしていきたいという思いがあるんです。そういう意味でも今回千鶴を演じる(竹野)留里も、本物の民謡歌手なんですよ。「これができる人はそうそう日本にいないだろうな」っていうレベルの。1幕ラストのナンバーなんかも、ちょっと他では見れない、あれは震えるよなっていう気持ちになれるので…だから「今回の”土方篇”はこういう作品だ」っていうのが、ひとつしっかり見せられると思います。

久保田 セットも今までと変わってるんですよ!初めてのタイプですよね。

毛利 初めてだね。もう全てのパターンが違う作品にしました。

──おふたりががっつり舞台で組むのは今回が初です

毛利 以前はそれこそお祭りみたいな公演だったので、「一緒にやった」と言えるのは今回からですね。ヒデはとても安定感があるというか、座組を支えられる土方なんですよ。すごくリーダーシップを持っていて、誰よりもまっすぐ、誰よりも真剣に稽古してて。そうするとやっぱり周りも「ついていこう」となる。稽古場でも「このヒデの土方を勝たせよう」っていう座組の空気感、すごいなって思ったので…これは彼の人徳ですね。

久保田 いやいやいや。ただ追い詰められてるだけです。インプットにいっぱいいっぱいで。10年ぐらい前に毛利さんと別作品でご一緒したときは役者のヤの字もわかってなくて、ただ必死にその場にいたから…お話もほとんどできてなかったですし。今回は事前に2人でご飯に行かせていただいて、そこで次の土方ルート、こういう構想でいこう、ああしよう、こうしようみたいな感じでいろいろお話しして、心理テストも出してもらって、僕の心も読み取っていただいた上での今回の脚本。だから特に2幕は僕の心情というか、僕の生き方が割とそのまま当て書きみたいになってるところもあったりするんですよ。

毛利 うんうん。

久保田 例えば土方の「俺にできることがあれば、俺が苦労すればいいじゃないか。他人に任せるんじゃなくて、俺にできることがあるんだったら、俺が苦労すればそれで済む」みたいな考え方って僕も普段していますし、すごくすんなりセリフも出てくる。そういうところ、見抜かれているのかなって。今までの「薄ミュ」で言ったことのないセリフも多くて、そこもすごく新鮮というか……

──少し前にお話を伺った際は「ちょっとこっ恥ずかしい」とも

久保田 言ってましたね。けれど今はもうそれは全くない。だんだん心情が寄ってきたのかな、ちゃんとチューニングが合ってきたのかな、とは思いますね。

毛利 お互い、実はそんなに作品について稽古場でたくさん言葉を交わしてるわけではないんですよ。こういう曲が出来上がって、僕がこういう歌詞を書いてきました。練習して、ちょっとこうしようか、ぐらいのやり取り。芝居もまずはひたすらヒデの土方を見守ってるという感じで。もちろん全体を組み上げてる途中ではあるんですけど、でもヒデとは言葉以上の無言のコミュニケーションがたくさんあるっていうのをすごく感じてますね。

久保田 言葉がなくても毛利さんが頭の中でどういう画を思い浮かべてるのかっていうのを、僕が先読み…じゃないですけど、なるべく受け取って、その画を具体的にできるようにっていうのは常に考えながら稽古しています。ここで捌けて次にどこから出てくるのが一番効果的かっていうのも、自分を一度客席の目線に置いて、そして演出目線でも一度見て、で、整理していくっていうのをやってたり。それが毛利さんと合致したときは「よっしゃ!」って思いますよね。

毛利 すでに土方として生きてくれている。そういう意味では「なるほど、こういう土方だ」って僕にすごく教えてくれているんで、自分はじゃあそこからさらに何を足そう、この空間をどうしようかなってやっていけばいい。それって本当にすごく楽しいんですよね、稽古が。ものを作る喜びみたいなのをまさに噛み締めながらやってますね。

──毛利さんのロマンチストな面が光る「熱くて漢くさいけれどきちんと恋愛もの」な手触りも本作の魅力ですね

毛利 乙女ゲームであることはマストでやりたいなとは思ってます。ただ、単純に浅いものにはしたくない。で、やっぱり「薄ミュ」って昔からとにかく人間の…役者としての生きざまを役に重ね合わせるっていうのがすごく大事な作業だと思ってるからこそ、今回も事前にヒデと話すっていうプロセスを踏まないとどうしてもできない部分があった。まずそうやって踏み込んで、その上で西田さんが作り上げた今の新選組隊士たちっていうのがすごく魅力的だから、一緒にやるときにそこへ自分のチューニングでいろいろ要素を提示していくっていうのが、やっててすごく面白いんですよ。とはいえ物語は物語でバチっと決まったものがあるから、提示の方法としては特に作詞の面でだいぶ西田色とは違うものが出てきて、そこでまたキャラの内面を感じてもらい、役作りにフィードバックしてっていうことは、意識してやってますね。

──久保田さん、「真改 土方篇」の土方はどんな人物像に?

久保田 立ち位置はどのルートでも変わらないですね。土方ルートになったとはいえ自分の心構えは全く何も変わってなくて、僕は「HAKU-MYU LIVE 3」を入れて5作目の土方なんですけど、公演ごとにだんだんひとつずつ土方という人間を自分の中で積み重ねてきて、やっと軸ができての今回の「土方篇」。なのでもうこの作品に今までの役者人生を全て懸けるっていうぐらいの意気込みで照準を合わせて…1年間ぐらいかけてやってきたんですけど、心の整理もそうですし、肉体の変化もここに合わせて調整してきました。やっぱり「山南篇」のときに比べたら少なくとも2倍以上の筋肉量とかつくって挑まないと、打ち勝てない作品だなと思いまして。

──新選組の日々の鍛錬のよう!

久保田 土方という人間を生きるには「側」だけ作っても到底太刀打ちできないなと思ったので、日々コツコツ積み重ね──千秋楽迎えるときにはもう生きてるかどうかわからないですよ(笑)。でもそれぐらいまではいかないと駄目だなと。いわゆる原作物とはいえ人間ドラマ、実際にいた新選組の人たちの魂をお借りするってことなので、そこにやっぱ心血注いで僕ら役者が寄り添っていかなければ。ただのチャンバラ劇みたいになっちゃうと全く意味がないですし、もちろんお客さんもそこにぐっと入り込める世界観になってると思うし…まだ稽古は途中ですけど、めちゃくちゃいい作品になるんじゃないかなって思うので。

毛利 パーツパーツ、すごい手応えあるよね。

久保田 あります!これはお客さんズブズブになるんじゃないかなっていうのは見えてるので、もうわくわくしかないです。稽古も疲れより楽しさのほうが確実に勝ってますね。早く初日を開けたいです。シーンもナンバーもめちゃくちゃかっこいいです。

──「土方篇」は鬼である風間との一騎打ちも大きな見どころです。演じるのは佐々木喜英さん

久保田 この間対談があったんですけど、ヒデ(佐々木)はこの数年間もうずっと2.5次元作品だけをやってきたけれど、今回はあえてそこから抜け出すというか、今までのように作り込まない、がむしゃらな風間を作りたいって言っていて。今はお互い自分のやることを自分の中に落とし込む作業でいっぱいなんですけど、これから稽古が深まるにつれて、今までに見たことのないヒデの風間が出てくると思うと楽しみで仕方ないですね。それこそもう、生死の狭間で戦う2人が己の限界までいったとき、大爆発するんじゃないかなって。作り込んだキャラクターじゃなくて、俳優として1人と1人、男同士のぶつかり合いがそこにはあるはずです。

毛利 僕的にはなんかやっぱりヒデ(佐々木)は土方のほうが(『黎明録』で土方役)印象強いんですよ。だから彼の風間というものを今すごく新鮮な気持ちで見てますね。それと、「薄ミュ」以外でもいろんな舞台で一緒にやってたんですけど、本当にうまくなったというか、年齢を重ねてすごくお芝居に対して深みが出てきた。そういう成長してる姿を見ると、こちらも身が引き締まるというのもあります。すごく高貴な気高さを持った風間ですね。

久保田 上品で、緩やかにグワーって熱くなっていく感じ。なので僕が風間を追い詰めその導火線に火をつけていくことで、相乗効果でさらに土方と風間の火力が上がっていくようなイメージです。

──着々と完成に近づいていく「土方篇」。「真改」ならではの解釈が楽しみです

久保田 2.5次元ってジャンル分けはされますけど、純粋に新選組として生きた人たち、この国を変えてやる、自分たちの正しいと思った道は貫き通してやる、誠の旗を掲げてこの国を絶対変えてやるんだっていう田舎の出身の男たちが見せる純粋無垢な魂のぶつかり合い。泥臭い人間ドラマです。なので僕は「この先どう生きていこう?」みたいな、何か迷ってる人にこそ観てほしいですし、観たら自分のこの先の希望の光も必ず感じられるはず。そういう言葉がめちゃくちゃ散りばめられているんです。「ミュージカル『薄桜鬼』、まだあったんだ」という方もいるでしょうし、「歌うの?え、キャラクターもの?? どうしようかなぁ」という方もいるでしょう。でもここはもう本当に騙されたと思って、まずは劇場に足を運んでほしいですね。絶対後悔させないので…なんて言ったらいいのかな。本当に難しいな。でもここに生きてる人たちが、僕ら役者が「もういつ死んでもいい」ってぐらいの意気込みで舞台に立っていますので、とにかくその生き様を見届けてほしいですね。

毛利 今、稽古場ではすごいものが生まれつつあって…なんか、モンスターでも錬成しているような気持ちなんですよ。「これを世に放っていいものか」って(笑)。これはそれくらい間違いなく伝説になる公演だと思いますし、劇場で目撃できたことは、たぶん一生みんなに自慢できると思います。

久保田 そう!現地で観ないと絶対後悔する、と、思います。この熱量ばっかりは画面ごしとかじゃ伝わらないですもんね。

毛利 伝わらないと思うよ。本当に「これを観てよかった」っていうライブ感は劇場にしかないですし、みんなに自慢したくなる感動、満足感。そんな素晴らしい観劇体験を僕らは、お約束します。「あれ劇場で観たんだよ」「え、すっごい観たかった〜」って、5年後にはそういう話をしてると思うなぁ。

インタビュー・文/横澤 由香