シリーズ7作目となる舞台「文豪とアルケミスト 旗手達ノ協奏(デュエット)」が2024年6月6日(木)に開幕。本作は、先日オープンしたばかりの新劇場・シアターHのこけら落とし作品でもある。
舞台「文豪とアルケミスト」シリーズ(通称「文劇」)は、同名ゲームを原作に、転生した文豪たちが「侵蝕者」から文学作品を守るため戦う姿を舞台オリジナルストーリーで描く。
シリーズ7作目となる本作でも、文豪たちのバックボーンやキャラクター設定を緻密に練り込んだストーリーと、マンパワーを駆使した力強くも美しい演出は健在。シリーズで初めて白樺派の4人が揃い、谷 佳樹演じる志賀直哉と泰江和明演じる小林多喜二の師弟愛にスポットが当たった本作のゲネプロの様子及び囲み会見の様子をレポートする。
囲み・ゲネプロレポート
囲み会見には志賀直哉役の谷、武者小路実篤役の杉江大志、小林多喜二役の泰江の3名が登壇。フォトセッションでは思わずキャラを崩しすぎてしまってお互いに顔を見合わせて笑うなど、ほのぼのとした仲の良さが窺えた。
主演を務める谷が、見どころとして「それぞれの文豪たちが大事な人を想う心のつながり」を挙げると、谷とは初演から白樺組としてともに肩を並べてきた杉江も大きく頷く。さらに杉江は、コミカルに手振り身振りを交えながら「想い合えたときの爆発力というか、想いの力」が見どころだと語った。途中、うまく言葉がまとまらず、「ねぇ?」と大味なパスを投げて谷に笑われる一面も。ちょっとしたやり取りではあるが、2人の培ってきた関係性が垣間見えた。
今作が初登場となる泰江は「小林多喜二としては、ストーリーの軸になっている(志賀との)師弟関係が“光”となって、強いメッセージ性が伝わる作品になっている」と手応えを語った。
稽古に関して質問が及ぶと、「吉谷さん(演出の吉谷晃太朗)とこの3人とで、終電近くまで話し合って、妥協せずに作り上げた」と谷がエピソードを披露。
稽古への合流が遅かった杉江は「アグレッシブな人が多くて、みんなの意見のぶつけ合いに早く乗っかっていきたくて、そこに追いつくのに苦労しました」と語った。また、「文劇が好きで相当気合いが入っている」という杉江は、軽やかな語り口の中に自信を覗かせた。
泰江は現在進行形で「文劇を文劇たらしめてきたものをずっと考えています」と胸の内を吐露。泰江は谷に稽古に入る前からこの質問をぶつけていたそうで、谷は「史実と作品の世界は似ているけど違うから、自分が思う小林多喜二像を作り上げればいいんじゃないかな」とアドバイスを送ったとのこと。
杉江は同じ質問に対して「知らん!って言いました」と笑いを誘いつつ、「改めて考えると“想い”かなと。文豪の数だけ想いがあって、想いがあるから文学作品が生まれて。各々の想いを背負って頑張りたいと思います」としっかりとまとめた。
「“生きる”や“光”といったテーマがふんだんに散りばめられているので、存分に浴びていただけたら!」と谷が締めくくった会見に続き、ゲネプロがスタート。
物語は小林多喜二(泰江)と志賀直哉(谷)の文通の場面から始まる。2人の師弟関係が、ここからどう物語に影響を与えていくのか。2人が真摯に紡ぐ言葉が、この後に待つであろう胸動かす熱い戦いへの期待を高めてくれる。
エピローグを終えると、志賀を筆頭とした武者小路(杉江)、有島武郎(杉咲真広)、里見とん(澤邊寧央)たち白樺派を中心としたアクションシーンへ。4人は文豪たちの中心となって「侵蝕者」と戦い、日々文学作品を守っていた。
そんなある日、白樺派のうちの1人のある作品が「侵蝕者」に狙われてしまう。石川啄木(櫻井圭登)や高村光太郎(松井勇歩)、広津和郎(新 正俊)といった仲間たちの助力を得てこれに対抗しようとする志賀の耳に、まだ転生していないはずの生前の弟子・小林の声が聞こえて――。
谷や杉江をはじめ、白樺派を演じる4人はこれまで「文劇」に出演してきたとあって安定感抜群。今回初めて白樺派が揃ったことで、友人や兄弟としての相手を想う強さを改めて感じられた。また今回は白樺派のアクションも多く、華やかな彼らが汗を滴らせ仲間のために戦う姿も見どころだろう。
本作が怪我による休養を明けてから最初の作品となる泰江は、自らの作品で権力という強大な敵に抗った小林の信念ある生き様を、持ち前のまっすぐ届く芝居で力強く好演。今回のストーリーに大きく関わる、“小林が転生していない理由”という部分にも、ぜひ注目しながら楽しんでみてほしい。
文豪は強い想いを胸に、多くの作品を生み出してきた。同じように、本作は役者の強い想いが芝居となって、観る者の心を動かしてくれる。方や文字、方や芝居と物語を“綴る”道具は違えど、改めて文豪も役者も表現者なのだと、本作は改めて感じさせてくれるだろう。
※里見とんの「とん」は「弓へんに享」が正式表記
取材・撮影/双海しお監修