解散ではなく、次へのステップ。
10年後もバカなことをするために
ワハハ本舗の全体公演が、ついに、今度こそ最後を迎える。2013年から始まった全体公演『ラスト』3部作の “ラスト”となる『ラスト3 〜最終伝説〜』が2017年5月に幕を開ける。シリーズ2作目となる『ラスト2 ~New Hope 新たなる希望~』では、新人も多数出演し過去最大人数が参加してのお祭り公演となった。完結編となる今回、ワハハ本舗はどのような伝説を残すのか。稽古場で行われていた打ち合わせ最中に突撃インタビューした。
久本 まず今回、ワハハ本舗が、解散するわけじゃないんですよね?
喰 そう。ラストと銘打っていますけど、安心してほしいのはワハハ本舗がなくなるわけではないということ。今までのワハハ本舗の軸は、この全体公演だったんですよ。その全体公演から一度離れてみようというのが、今回のラスト3部作の目的なんです。
大久保 僕はこの全体公演を見てワハハに入ったので、実は全体公演がないワハハというものが想像できていなくて。「まだ続きがあるんじゃない?」という気持ちがいまだにあるんですよね。
喰 その続きの形を、一度全体公演ではなく、別の形にしてみようということですね。
梅垣 ひとつの区切りですか。確かに僕ら初期からいたメンバーも60歳を目前にして、これから何をしていきたいかを考えることがあります。結局行き着くところは、60歳になっても70歳になっても、やっぱりワハハとしてやっているところを見せたいということは変わらないですからね。
久本 ワハハ本舗は立ち上げて三十数年経つけど、私たちが劇団を作ったときに、60歳でもケツを出せるような劇団にしたいねって、話してたもんね。酒飲みながら、「バカなことやり続けようぜ」って。それが、本当に60歳が近くなって、きっと70になっても、まだいけると皆が思ってる(笑)。私は自分のやりたいことややるべきことが、ワハハの公演を通じて見えてくるところもあるんです。テレビでもいろんなお仕事をいただいていますが、ワハハは唯一の遊び場というか。そう言う場がなくなるのは困るので、解散じゃなくてよかった(笑)。
喰 例えばね、バカバカしさ全開のミュージカルをやってみようと企画したとします。やっている側としては、お客さんが受け入れてくれるかどうか不安になるものなんですよ。でも、全体公演はもう長く続けてきたこともあって、何をやっても受け入れてくれる土壌ができている。そこを越えたい気持ちがあるんですよ。実験的な作品を東京でやって、評判になって地方を回るような、違う作品でもワハハの魅力を切りだせないかと常に考えていたんです。そのための前向きな決断ですかね。
演出家が宣言「裸はあります!」
品のある脱ぎネタは健在
解散ではなく次のステップへ。喰始の構想によると、今までやってきたひとつのショーの形を一度休止して、「本気で違うことを、今まで以上に難しいことにあえてチャレンジしたい」と言う。その前哨戦とも言える最後の全体公演にメンバーはどんな仕掛けを用意しているのか?
大久保 ワハハの全体公演はいつも、ダンスだったり、歌だったり、いろんなエッセンスが凝縮したものができるんですが、僕はこの有り余った“脱ぎエナジー”を発散させたいですね。ラスト2ではあまり脱いでいなかったから!
久本 そこかよ!
喰 ただ脱げばいいってもんじゃないですけどね。そういえば、ワハハはとにかくひたすら脱ぎまくる集団だといまだに思われているフシがある(笑)。まぁ、でも宣言しますよ。出演者が皆、脱ぎたいと言ってくるのは間違いないことなので、裸はあります!男も女も切なくならない脱ぎ方をします。
梅垣 脱ぐといっても、下品な脱ぎ方をしないのがワハハ流です。うちは下ネタに品格がある。品格があるから笑えるんですよね。
久本 法律には一切触れませんから(笑)。そういうイメージで全体公演を見に来て、ファンになってくれる人が意外に多いんですよね。著名人でも×××さんとか、×××アナもそうでしょ。
大久保 そうだったんですね(笑)。
久本 「どうせ裸で出てきて下ネタで下品なんでしょ」と先入観をよく持たれますけど、違うんですよ、みなさん!確かに昔はドン引きされたこともあったけど。
喰 久本が20代のときだったっけ?舞台上で乳首出して「コーヒー豆!」とかやってたよね。
久本 あれは、「かわいい品がある」ってやつですよ!20代だからできたことで、今は乳首出してもシカのフンだから。いや、でもきれいなんですよ、まだ。
梅垣 聞いてないよ(笑)。でも女優って、皆やらなくなるからなぁ。いないですよ、久本みたいなの(笑)。
喰 あ、今話をしていて思いついた!長いちんちんをさ、こう…あ、記者さん、これ書かないでね。
胸を打つような仕掛けも!
今見なくては10年後に後悔する?
いつのまにか脱ぐ脱がない、ちんちんがどうたらこうたらの話に進んでしまっており、インタビューなのかネタ打ち合わせなのかよくわからない状態になってしまったのだが、常にアイデアが飛び交っているのがワハハ本舗らしい。そんな中、実はワハハ本舗の全体公演を見てきた人のみぞ知る、泣き系ファンタジーも大きな見どころだと強調したい。今回も、歌や踊り、コント、しゃべくり笑いなどのほか、センチメンタルなことも考え、観客の胸を打つ仕掛けも企んでいるとか。
久本 そうそう、意外と喰さんの演出にはグッと泣かせるところもあるんですよね。今回も後半は泣かせもあるんじゃないかな?どう、喰さん?
喰 泣かせるつもりでやったわけではないけど「感動して泣いちゃった」という声は多いよね。今回、大久保に「ラストラン」という曲を書いてもらって、歌ってもらおうと思っているのよ。
大久保 真面目な曲ですよ、すごく。最後に走る男が、何を考えて何をやるのかというような内容の。
喰 これが案外ジーンとくるんだよね。
大久保 案外(笑)。
喰 あとは、ラスト三部作で、コンテンポラリーダンスをやってきたんだけど、それもありますね。『ラスト』では日本文学を難易度の高いダンスで表現した。『ラスト2』では世界文学。今回は、シリーズ映画をダンスで表現したいね。寅さんとかミッション:インポッシブルとか。
久本 これ、喰さんが唯一使える英語ね(笑)。ワハハは、くだらないところからオシャレなところまで、見どころが幅広いんです。人によって、好きなところが違っていたりもする。根本的には皆さんに喜んでもらえるためのものを一生懸命に作っていますので、初めて観る人は、きっと今まで観たことのない世界を味わえると思いますよ。あ、ちなみにあたしの結婚式企画もありますから。
梅垣 そう考えたら、ここで一度休止して、10年後あたり、皆が70歳になった時に全体公演を復活させたら、また感慨もひとしおだよね。70になってもケツ出して(笑)。
喰 みんなが70歳のころ、俺は80歳なんだけどね(笑)。でも、こうやって皆がそれぞれの魅力を発揮できているように、若手を含めて次の10年でまた違うワハハの魅力を掘り出してみたいですね。この最終全体公演は、言うなればそのための第一歩なんですから。
ワハハ本舗全体公演としての最後でありながら、新たなチャレンジに向けてのスタートだと言う『ラスト3』。果たして、見るものの常識を超えるどんなお家芸で楽しませてくれるのか、期待せずにはいられない。
取材・文/新田哲嗣
【プロフィール】
喰始
■タベ ハジメ 1947年12月生まれ。WAHAHA本舗主宰、演出家。永六輔のもとで放送作家とし修業・活躍後、WAHAHA本舗を立ち上げる。以降、全作品の作・演出を手掛け、外部でもテレビ番組やコンサートの演出で活躍中。
久本雅美
■ヒサモト マサミ 1958年7月生まれ。劇団東京ヴォードヴィルショーを経て、喰始、柴田理恵、佐藤正宏らとともにWAHAHA本舗立ち上げに加わる。舞台だけでなく、バラエティ番組でのMC、ドラマや映画など幅広く活動。
梅垣義明
■ウメガキ ヨシアキ 1959年7月生まれ。84年からWAHAHA本舗に参加、劇団の中心メンバーとして活躍。以降、ドラマや映画でも俳優として活躍する。著名な芸に、越路吹雪の代表曲『ろくでなし』の鼻息豆飛ばしがある。
大久保ノブオ
■オオクボ ノブオ 1967年5月生まれ。WAHAHA本舗の公演を見て触発され、96年にコミックバンド「ポカスカジャン」を結成。同年、WAHAHA本舗に加入。2010年に新座長に就任。国立演芸場花形演芸大賞、大賞を受賞。