
写真左から)亮太、押田
2024年、初めて『キングオブコント』(以下、KOC)決勝に進出したシティホテル3号室。リアリティある演技とバカバカしい展開で緩急あるコントが魅力の彼らが、6月6日(金)、7日(土)の2日間、東京・ユーロライブにて第一回単独ライブ『ジワニモマケズ ダサニモマケズ』を開催する。2011年の結成から昨年のKOC決勝の反響、そして満を持して行われる初単独ライブに対する思いを押田、亮太の二人に聞いた。
「三人目」を待ったまま、二人で芸歴14年
──お二人は、お笑いの養成所で出会ったそうですね。「相方求」という名前で一人で活動していた亮太さんに、押田さんが声をかけたとか
押田 亮太のピンネタや、別の人とのコンビのネタを観て、けっこういいなと思っていたんですよ。他の人とはちょっと違う、深さがあって。で、それとは別に、僕はトリオがいいなと思っていたんです。
──それはなぜですか?
押田 トリオって、1人だけやたら私生活が充実しているメンバーがいませんか?3人のうちの1人はネタ作りにそんなに関わっていなくて、なのに幸せそう。そのポジションがめっちゃいいなと。だから亮太が「トリオをやりたがっている」と聞いて、「そのトリオに俺も入れてよ」とメールをしました。
──かなり独特な動機ですね(笑)
亮太 そもそも、押田は芸人を目指していなかったので。
押田 僕は元々お笑いを観ていたわけではなくて。塾講師として働いていて、小学生相手にけっこう笑いをとっていたんですね。で、「笑わせるの、向いているかも」とふらっと養成所に入ったんです。
亮太 お客さんを大人に変えてやってみたら、ウケなかったんだよね。
押田 大人って笑わないんだ、とびっくりしました(笑)。
──亮太さんは、なぜトリオでやりたかったんでしょう?
亮太 自分があまり個性的な人間ではないと思っていたので、2人だとネタじゃない部分でのアピールが弱くて大変かな、と。3人いたらキャラが強い人もいて、僕もいて、役割分担でフリやオチが作れるかなと思ったんです。
──それはたとえばテレビのバラエティ番組などに出たとき、ということですよね?
亮太 そうです。で、押田と「もう1人を探しながら活動しよう」と2人で活動を始めて、3人目が来ないまま14年経ちました。
押田 話が違いますよね。トリオになって、僕はネタ合わせの場にいなくて、できたものを受け取るだけになろうとしていたのに。コント中の出番も少なくて、たまに登場してバーンとウケて去っていくというポジションを狙っていたのに!今、毎日ネタ合わせをやってるんですから。
──(笑)。芸歴を重ねる中で、腐ったりしんどかったりする時期はありませんでしたか?
亮太 「どっかで当たるんじゃないか」という前向きな気持ちがありました。僕らの作っているコントって、題材が普遍的というか、10年経ってもあり得そうなことが多いんです。だから売れていなくてもネタを作ってさえいれば、財産としてどんどん貯まっていくし、いつかどこかで放出する機会があるだろうし、いいことしかないなと思っていました。
爆笑問題・太田にダメ出しされた『キングオブコント2024』決勝

──昨年は結成13年目で初めてKOC決勝に進出し、5位になりましたね
亮太 パフォーマンスはいつも通りできたかなとは思いましたし、評価も妥当だと思います。終わった後の世間の反応は、思ったよりよかったですね。僕たちのコントは、100人いたら100人になんとか伝えよう、なるべくわかりやすいことをやろうという方針なんです。それが、いい方に出たのかもしれないなと思いました。
押田 東京03の飯塚さんに97点をつけていただいたのがすごく嬉しくて。SNSでは「もっと上位でもいい」というコメントをいくつか見かけて、それもありがたかったですね。
──事務所の先輩である爆笑問題さんからはどんな声をかけられましたか?
押田 まず決勝前に、田中(裕二)さんからは「コットンが優勝すると思う」と。
亮太 決勝が終わってからしばらくして、太田(光)さんからは「優勝したヤツ以外、全部負けなんだよ」と言っていただきました。「よくやった」みたいなのは全くなかったです。「ネタがちょっと走ってたな」とも言われました(笑)。
──KOC決勝後、活動に変化はありましたか?
亮太 めちゃくちゃ忙しいというほどではないですが、それでもライブが増えたり、テレビ番組などの収録があったりと、芸人としてやることが増えたのはよかったですね。
押田 ただ、ネタ合わせが増えちゃって……。元々週4~5くらいだったのが、さっきも言いましたが、最近はほぼ毎日あるんですよ。
亮太 ネタ合わせといっても、喫茶店で話し合ったり、ライブや収録の準備をしたりという感じですけども。まあ、今のところは毎日やっていますね。
満を持しての単独ライブで「ダサい」イメージに勝つ

──結成以来、永らく単独ライブを開催しなかったのには、何か理由があるんでしょうか?
亮太 新ネタを作るために単独ライブをやる芸人もいますが、僕は単独ライブがなくても毎月コントを作るので、必要がなくて。それと、僕らはかなり昔から「KOCの決勝に行ったら単独をやる」と言っていたんです。ようやく実現できるので、KOCで僕らを知ってくれた人、僕らをあまり知らない人にも観てもらいたいです。
──『ジワニモマケズ ダサニモマケズ』というタイトルはどこから?
亮太 2019年に『ABCお笑いグランプリ』決勝に行ったとき、初めてキャッチコピーをつけてもらったんですよ。それが「ジワるダサさ満室」というもので……。以来、周りの芸人たちからも「ジワダサ」と呼ばれるようになってしまって。きっとみんなもそう思っていたんでしょうね。ネタはちゃんとやっているけど、見た目や立ち居振る舞いがどこかしらダサくて、ずっとうっすら笑われてきた。そこに負けないという思いを込めてつけました。
押田 キャッチコピーをつけられた2019年頃って、僕は太ってたし汚かったんですよ。だから納得せざるを得ないコピーではありました。今、頑張っておしゃれしたり、筋トレしてボディメイクに励んでいるんです。コンビの一人が汚くて、もう一人が地味でハゲかけてるのはさすがにやばいと。
亮太 ようやく賞レースの決勝に行って、さらに単独ライブを控えている芸人が、「ジワダサ」から抜け出そうとしてボディメイクに力を入れている。そのことがダサいですよね。もう負のスパイラル。「マケズ」というタイトルにしましたけど、負ける気がします。
押田 やめろよ、そんなこと言うの!
亮太 まあ、負けないという気持ちだけは持ってやろう。
押田 あと、これって宮沢賢治(『雨ニモマケズ』)じゃないですか。宮沢賢治って生涯童貞だったと言われていますけど、僕らは今回初単独=単独童貞なので、うまいことかかっているなと、今思いました。
亮太 今?
押田 はい、今思いました。
亮太 僕は宮沢賢治が童貞だったことを、今知りました。
──そんな満を持しての初単独ライブは、どんなものになりそうですか?
亮太 新ネタ含め、昨年のキングオブコント決勝以降に作ったネタを中心にやろうと思います。演出に凝るよりもとにかくネタの面白さを観てほしいので、シンプルにやりたいとは思っています。僕が人のネタを観るとき、1本だけだと、その人が何を面白いと思っているかがまだわからなくて。でも10本くらい観たらなんとなくわかってくるじゃないですか。だから、今回の単独ライブで僕らが何を面白いと思っているのか、伝えられたらと思います。
押田 他の芸人の単独ライブを観に行ったとき、僕は幕間の映像で全然ネタと関係ないようなことをやっているのが好きなんですよ。ネタばっかり続くと集中力が切れちゃうから。だけどネタを書いている亮太がこう言っているので、基本的にはその方針に合わせようと思います。
亮太 幕間の映像か……。ちょっと揺らいできたな。もうちょっと考えてみます。
キングオブコントのチャンピオンを目指して

──ちなみに、押田さんは塾講師をまだ続けていらっしゃるんですか?
押田 やってますよ。決勝後はすごく反響がありました。生徒たちに指さされたし、同僚と「芸能人がいる!」「ちょっとやめてくださいよ〜」とか言い合うのがめっちゃ楽しいです。承認欲求は、塾で相当満たされていますね。
亮太 こいつ、こういうところがあるんですよ。最近はInstagram(https://www.instagram.com/oshidacity/)で半裸の自撮りをアップしたり……。ただ、押田は好きにやったほうがいいとは思っているんです。でも、目にしたらきっと何かを思ってしまうから、防御策としてなるべくそういう面は見ないようにしています(笑)。
──お二人の今後の野望を教えてください
押田 僕は、KOCチャンピオンという称号を得て、それを足がかりに私生活を充実させたいです。たまにコラムを書いたりとか、テレビやラジオに出たりするような暮らし。今は芸人同士でしゃべっていてもスベることが多いんですけど、優勝後に「チャンピオンが言うなら面白いことなんじゃない?」と周りが変わってくれたら勝ちだなと。
亮太 スベってる現状に対して自分が面白くなるんじゃなくて、周りが変わることを目指すんだ(笑)。
押田 そう。周りが「笑えない自分が悪いのかな?」と思うようになってほしいです!
亮太 僕は、もちろん今年もKOC決勝、そして優勝をめざします。あと、これだけコントを作り続けているから、いつかネタで“最強のデッキ”を作りたいんですよ。たとえば100本、どれを観ても面白いコントを集めたい。もしそれを高校生くらいの自分が観たら、度肝を抜かれると思うんです。
──現時点で、そのデッキに入りそうなコントは何本くらいありますか?
亮太 ネタ自体は何百本とありますけど、入りそうなのは……6本かな。
押田 2年で1本?デッキが完成する前に死んじゃうじゃん!
亮太 ……死ぬなあ。いや、これから加速して、間に合わせる。
──最後に、単独ライブに興味を持った方に一言を
押田 コンビ名にちなんだグッズも出すつもりなので、ぜひ来てください!
亮太 全方位攻撃、どんな方でも笑わせるつもりでやります。きっと満足してもらえると思うので、安心して来てください。

インタビュー・文/釣木文恵
写真/ローチケ演劇部