流行りに寄りかからず、自分たちらしさを大切にネタは作りたい
完成度の高いコントに定評があるお笑いコンビ、ザ・ギース。そんな彼らが2018年早々に単独ライブを行うことが決定し、これまでよりも会場を大きく、そして初めての地方公演も実施するという。さらなる飛躍を決意する2人に、2017年を振り返ってもらいつつ単独ライブへの意気込みをたっぷりと語ってもらった。
――2017年を振り返ってみて、どんな一年でしたか?
高佐「2017年は5月~6月に単独ライブをやって、手ごたえとしては徐々に伸びているような実感はあるんです。その感じをちゃんと次につなげていければいいなと思っていますね。でも、ほどほどです(笑)」
尾関「手ごたえ自体は、感じているんですよ。どれくらい時間がかかるかはわからないけど、コントをしっかり作っていけばお客さんは必ずついてきてくれるし、ちゃんと増えていくな、という確信は持っていますね」
――浮つかずに、しっかりと着実に歩みを進めたような感じですね。
尾関「最近のお笑い芸人って、お笑いだけじゃなくて何かほかにもやっていることが多いと思うんですね。そういう中でも、我々はコントをちゃんとやっていかなきゃいけないなという想いが強くなった1年でした。というのも、僕も広島出身でカープ関係のお仕事をいただくことが多くて。カープのお仕事は大好きだし、とっても楽しいんですが、やっぱりそこがメインではないとも感じているんです。お笑いをやっているからこそ、カープのお仕事も楽しくできている。お笑いじゃないお仕事で、お笑いから離れれば離れるほど、お笑いへの熱に気付いた部分はありますね」
高佐「初めて聞いた(笑)」
尾関「やっぱり、カープのお仕事を観て厳しい言葉もいただくんですよ。“カープに乗っかって仕事してんじゃないよ”ってね。でも、僕がお笑いをやっていることをもっと知ってもらえていたら、そういう声も出ないんじゃないか。厳しい言葉を受け止めるたびに、お笑いを頑張らないと!と思っています」
高佐「それを聞けて、すごく嬉しいですね(笑)。カープで広島にもしょっちゅう一人で行っていますし、他にもキャラ弁とかいろいろやっているんで。軸足をちゃんとお笑いに置いてくれているんだ、という気持ちはすごく、嬉しいです。じゃ、単独ライブとカープのお仕事が被ったら、単独ライブを取るってことだよね?」
尾関「いや、それは先に決まっていた方で(笑)。それはお仕事として当然でしょ! というか、そんなスケジュール組まないよね、単独ライブで(笑)」
高佐「確かに、そうか(笑)」
尾関「愚問だったね(笑)。でも気持ち的には、お笑いをちゃんと優先させていきたいとは思います。スタートがお笑いだったはずなのに、違うことばかりをして一体何をやっているんだろう?って気持ちになっているような方、たくさんいるような気がするんですよ。そうならないようにしていきたいですね」
――コントのネタ作りなどで、いつも大切にしていることはなんでしょうか?
高佐「僕ら2人と昔からやっている作家さんの3人でネタは作っているんですけど、やっぱり“誰かがやっていたな”とか“被ってるな”と感じたことは避けていく、というのはいつも気にしていますね。みなさんそうだと思うんですけど」
尾関「新しい人もどんどん出てきていて、面白いコントをする人も増えてきて…我々は長くやっている分、昔の僕らのコントが好きだった人はザ・ギースのコントのイメージをすでに持っているんですね。当時新しいと思っていたことも、どんどん上から塗り替えられているのが現状だと思うんです。でも、だからといってそれを上書きするように突拍子もないような新しいことをやりたいわけではないんですよ。ちゃんと今まで積み重ねてきたものにつながる形で、新しいことにも挑戦したい」
高佐「チャレンジ、という意味では、単独ライブでは必ず何かしらチャレンジの要素は入れているんです。でも自分たちの色も大切だから。変にブレて、流行っているからとかでの挑戦をしたくないんですよね。それって近道のようで、遠くなっちゃっている気がするんです」
尾関「でも、リズムネタを考えてみたりはしましたけどね(笑)。僕らなりのリズムネタがあるんじゃないかって。でも、やっぱりそこにザ・ギースらしさがないと…40歳になって急にどうした?なんでリズムに目覚めたの?ってなっちゃいますから(笑)」
――挑戦はしてみるけれど、大事にしなければいけない部分は守りたいわけですね。となると、“大事な部分”をきちんと自分たちが認識できていないと…と考えると、なかなか大変なことのようにも思います。
尾関「確かにそうですね…でも、いまだにわからないところも沢山あるんですよ(笑)。コントの芸人って、そういうのを見つけにくい部分はあるかも知れないですね」
高佐「漫才の方のほうがスタイルって成立で来ている感じがする。コントはいろんなパターンもあるし、キャラクターも作るから…それを模索しているような感じはありますね」
――ザ・ギースらしいコントって、どういうところでしょう?
高佐「そうですね…やっぱりシュールでしょうか」
尾関「自分で言う(笑)。シュールな人は自分で言わないから、シュールって(笑)」
高佐「(笑)。いや、まぁあまりキャラクターショーのような形ではないってことですね」
尾関「見たこともないようなコントをやりたいというのが一番ではありますね。それを相方はシュールと言っているんでしょう(笑)」
――では、2017年を振り返って、それぞれお互いに変わったな、と思ったところはありますか?
高佐「やっぱりカープの仕事をするようになったときって、新しいことだし、これで食えるかも?って気合も入ってたと思うんですよ。でもそれがちょっとこなれてきて、お笑いにちゃんと軸足を置こうとしているのは感じていたんです。それが舞台の上でいい感じに出てたと思うんですよね」
尾関「高佐は、バッファロー吾郎さんとかお笑いの大御所の方がいる場に呼んでもらっている機会が多いんですよ。場数を踏んで、面白いことを言わなきゃいけないリアルガチファイトの場に出ていて、それは本当に恐ろしくてしょうがない場なんですけど(笑)。そういうところに出て、考えてボケてってことを続けているので、そこに落ち着きが出たと思いますね。安定感もあって頼もしいな、と思う反面…」
高佐「…反面? 急に腕組んだな」
――ダメ出しも言っておきましょう(笑)
尾関「なんというか、急にテンションが落ちることがあるんですよ」
高佐「いや、もうそのイメージやめて(笑)」
尾関「昔よりマシになったんですけどね(笑)。でも、あぁ今日はそういう日なんだな、ってことはあって、長年の付き合いでもうわかっているから、その時はそっとしているんですけど」
高佐「そっとしてくれているのもわかる。僕、自己啓発本とか読んで落ち着くタイプなんですよ(笑)」
尾関「でもかつては、そういう時でもなんとか自分を出していかなきゃとかやっていたと思うんですよね。でも今は、そういうことも含めて、うまくストレスなく仕事に臨めている感じはありますね」
高佐「なんだろうね。年齢なのかな、やっぱ」
尾関「いい意味で、そんなに尖ってなくてもいいよねという感じではあります」
――ちょうど、ザ・ギースとして次のステージに差し掛かっているところなのかも知れないですね。円熟というか。いい話でまとまりそうですが、せっかくなので高佐さんから尾関さんへのダメ出ししておきましょうか(笑)
高佐「ダメ出しと言うかね、まず…」
尾関「まず、って1つでいいんだから。複数ある前提で話し始めないで(笑)。ワンパンチで頼むわ」
高佐「ワンパンチか(笑)。どれにしようか…あー、やっぱり食べ方が汚い、かな(笑)」
――えっ? そうなんですか? あんなに丁寧にキャラ弁をつくったりしているのに?
高佐「そうなんですよ! びっくりしますよ。電車の中とかでも、食べ方が汚いことは自覚しているから、周りの迷惑にならないように電車の連結部分とかで食べるんです」
尾関「ちゃんとドアがあるところですよ。においとかも出ないように。でも、基本的に食べれたら良いんでガツガツ行っちゃうんですよね」
高佐「食べ物が目の前にあると、周りが見えなくなるんですよ。営業でお弁当が出たときに尾関が食べてる途中でお箸を落としちゃったんですよ。だから、僕の近くにティッシュがあったので2~3枚とって渡したんです。そしたらフーン!って鼻をかんでぽいっと捨てて、お箸はそのまま拾っただけで食べ始めたんです」
――拭かねーのかよ!ってなりますね(笑)
尾関「あんまり気にしないんですよ、自分の分に関しては。娘のお弁当は気をつかいますけど。基本はだらしないし、汚いとかどうでもいいんです(笑)」
――なるほど(笑)。そんなダメ出しもありつつの2017年を経て、2018年1月と年明け早々に単独ライブが決まりました。「果てしなきガム」と題してありますが、こちらはどういう意味ですか?
高佐「毎回、コントを作るときはタイトルだけ先に決めちゃうんですよ。そこからそのイメージに合うような内容をだんだんと決めていく感じなんです。新しい人がたくさん出てくるけど、自分たちの色を大切にやり続ける、ずっと味がする噛み続けられるガムであるように…」
尾関「…っていう意味が含まれているかどうかね?(笑)」
高佐「まぁ、タイトルはあまり組み合わさらないような言葉を組み合わせてみたりするんですよ(笑)」
尾関「これまでのタイトルとバランスをみたりしながらね。突拍子もないものでもない、でもほかの芸人さんにもないもの。ふわっと決めて、あとはくっ付いてくるような感じです(笑)」
――ライブの見どころはどんなところでしょうか?
高佐「まだまだこれから詰めていくんですが…一発ギャグのコントは毎回必ずやるようにしています。僕ら、あまり一発ギャグってやらないんですけど、あえて設定にそれを盛り込んで、来たお客さんに喜んでもらえるようなことをしていきたいですね」
尾関「その場の即興でやるような感じのものなので、日替わりになりますしね」
――公演回数も多めなので、即興で毎回違うとなると大変そうですね。
高佐「ただこれは、ずっと続けている挑戦なんですよ」
尾関「その甲斐もあってか、ある劇場でやっている芸人同士がギャグの応酬をするバトルに高佐はレギュラーで呼ばれているんですよね」
高佐「まったくギャグをやるようなタイプじゃないんですけどね(笑)。ギャグ感0なのに」
――ラップでいうフリースタイルのようなギャグバトルですね。腕が試される場ですね
高佐「それの集大成が単独ライブかも」
尾関「やっぱり、単独ライブは足場にしなければならない場所ですから特別に感じている部分はあります」
高佐「僕らは事務所もそんなに大きくないので、大手のお笑い芸人さんのように自社で劇場を持っていてバンバンライブに出ている人たちに比べると圧倒的に場数が少ないんですよ。だから、この単独ライブが一番の主戦場なんです」
尾関「そういう意味では、僕らの事務所にはシティボーイズさんとか演劇系の方が多くて。そういう方々が僕らのことを手伝ってくれたりするわけです。事務所として受け継がれていくものもあると思っているので、舞台の人の生きざまのようなものは引き取っていきたいですね。そこは他とは違うかもしれないです」
――そこにザ・ギースらしさが見えて来そうなきがしますね
高佐「あと、それぞれのピンの仕事があって、それが合わさった時にも、“らしさ”が見えてくる気がしますね」
尾関「僕の場合は広島でイベントの司会などをすることが多いのですが、”大勢の人の前で心を捉えて何かを伝える感覚”などはコントにも活かせるのではないかと思ってます」
高佐「2人でやるときは、僕がMCを担当することが多かったんですよ。でも広島で尾関がMCをやったりするようになって、やっぱり周りの見え方が変わってきたような感じがあるんですよね。やっぱり養われていくものなんです。それはコントにも生きている気がしますね」
――いろいろな場での本番の力が、コントにきちんと昇華されているような印象があるということですね
尾関「そういわれると、ちょっとおこがましい感じしますね(笑)」
高佐「というか、マジメな話しかしてないけど大丈夫かな、これ(笑)」
――なんかお笑い論とは!みたいな感じになりましたね。ちょっとおちゃらけた話でもしますか?(笑)
高佐「それはそれで緊張する(笑)」
尾関「いや、これでいいんだよ(笑)。MCをやるようになって、そんなにおふざけしなくても自然にやればいいんだという謎の落ち着きを手に入れたんです。…それが、いいのか悪いのか(笑)」
――ナチュラルな気持ちで取り組める、と。
尾関「その時が来れば、行きますよ。でも、今はその時ではない」
高佐「ボケる気持ちはあるアピール、辞めてもらっていいですかね(笑)」
――(笑)。ボケるタイミングを狙ってらっしゃるところではありますが、今回の単独ライブは初めて大阪と広島でも公演が決定したということで、お気持ちをお聞かせください
高佐「そうなんです! 初めてザ・ギースとして大阪と広島でも単独ライブをやらせてもらえることになって。出来れば、これを今後も全国でできるようにつなげていきたいですね」
尾関「広島では、特にネタなどをやったことはないので…尾関はコンビを組んでいたのか、とかまずはそこからなんですよね。それでライブに来て“カープネタをやらないんだ!?”ってなるかもしれないんですよ(笑)。だから変な空気になるかも…」
高佐「そしたらハイハイ、中止―!!って(笑)」
尾関「で、カープグッズとか用意してカープの話するわ。で、じゃんけん大会(笑)」
高佐「そしたら俺はマイクボーイでお客さんにマイク向ける、と(笑)。でも、尾関は広島のことを分かっていると思うから、複雑だとは思うけどね」
――そして、お笑いの本場と言える大阪でも公演があります
高佐「何年か前に営業で行ったことがあるんですが、なかなか手ごわいぞという印象はあるんです。でも東京の芸人さんが大阪で単独ライブをやったときの話を聞くと、意外とあったかいよ、という声もあって。でも、まだいまいち信じられなくて(笑)」
尾関「やっぱり大阪は、ブームじゃないけど漫才の流れがあるから。コントがどういう風に受け止められるかだよね」
高佐「大阪は漫才が出来ないとダメな文化とよくおっしゃるので。でも僕らは漫才をやったことがないから。コントでどう勝負するかですよね」
尾関「やっぱり、コントをしっかり作っていれば東京だけでウケて、他ではウケないなんてことはないと思うので。ウケるコントをたくさん作っておきたいですね。安直に大阪の人にウケそうだから、広島の人にウケそうだから、みたいな作り方はしないつもりです。もちろん、その地域ならではな部分があればいいなとは頭の片隅にありますけど、本筋ではないですね」
――何かに寄せたり媚びたりせずに、自分のスタイルを貫きたい想いが大きいんですね。
尾関「ただ、我々が面白いと思ってもね。一昨年のキングオブコントのように、準決勝では超ウケたのに、決勝では全然ウケなかった、みたいなこともあるから(笑)。まぁあれはテレビだからまた特殊な場ではあるんですけど。それでも舞台って、場所が変わっても同じ空気を伝えられると思っているんで。そこは面白いですね」
高佐「だから、変に合わせに行こうとはしないです。とはいえ、反応は違うと思うんですよね。その水に入るのは初めてなので、楽しみです」
――キングオブコントのファイナリストとして決勝には2回出場しています。来年こそは!という想いはやっぱりありますか?
尾関「キングオブコントはやっぱり賞レースなので特別な空気がありますね。やっぱりその場にハマるかどうか、という流れもあります」
高佐「僕らが好きなネタをやってもしょうがないし、レースなのでウケるものを選ばないとという緊張感もあります」
尾関「でも、賞レースのことは意識しないわけではないですが、それに向かって頑張るのは何か違うんですよ。面白いものを作り続けていたら、どこかでそこと交わるんじゃないか。その時が来るんだと信じて、長いマラソンを続けていくだけですね。“優勝したい!”とか言えればいいんですけど(笑)。そういうことじゃないよな、と思っています」
高佐「そうだね。リズムネタが優勝したから、リズムネタやろう!みたいなことは絶対しないです(笑)」
――○○でウケそうだから、ではなく、あくまで、自分たちのコントを作り続けるわけですね。今回の単独ライブでは、そんなオリジナルスタイルのネタがたっぷり見られるということで、ぜひ楽しみにしている方にメッセージをお願いいたします!
高佐「東京の方はいつもの我々のライブを楽しんでいただいて。キャパも今までの倍くらいの場所でやります。何度も足を運んでいただければ嬉しいです。大阪、広島の方は初めて僕らのコントを観る人も多いと思います。これがザ・ギースなんだ、キングオブコントのネタはアレだったけど(笑)、ライブってこんなに面白いんだ!と思ってもらえるように、頑張ります」
尾関「誰も見たこともないような新しいコントを、必ずみなさんにお見せします!」
インタビュー・文/宮崎新之
【プロフィール】
THE GEESE
■ザ・ギース 高佐一慈(たかさくにやす)と尾関高文(おぜきたかふみ)が2004年に結成。 2008年に「キング・オブ・コント」や「NHK新人演芸大賞」への決勝進出で人気・注目を集める。多くのテレビ番組ほか単独ライブも精力的に行う実力派コントコンビ。