ワハハ本舗が4年ぶりとなる全体公演を10月より全国ツアーをスタートさせる。コロナ禍により昨年に上演予定だった「王と花魁」の延期公演で、ラスト三部作で一旦終了した全体公演を本ツアーから再始動させる。悲願の再始動に向けた胸中を、出演する久本雅美、柴田理恵、梅垣義明と、構成・演出の喰始の4人にたっぷりと語ってもらった。
――一度は幕を閉じた全体公演でしたが、どういった経緯で再始動することになったんでしょうか。
喰 これは久本と柴田が仕掛けたんだよね。
久本 ワハハ本舗っていう世界が大好きで、それが無くなるっていうのは自分が無くなるっていうのと一緒のこと。笑いのためだったらお客さんを巻き込んで何でもやるっていう、唯一無二のものだったので、そういうエンターテインメントの世界をなくしてはいけないと思ったんです。それを柴田とも話したりしていて……全体公演をやめるってなってから、喰さんに「お話があります」って話に行って、どうしてもやめたくない、世の中から消したくない、と言いました。そしたら「ちょっと考えさせてくれって言って。しばらく経ってから「じゃあ、やりましょう」ってなったんです。みんなでバス移動しているときだったかな。本当に、純粋に喜びましたね。(劇団員の)何人かは泣いていました。
柴田 ワハハは、本当にここだけにしかない世界だから。私はコロナ禍になって、よりこういう世界は大事だなとしみじみ感じました。もちろん、舞台っていうもの自体もそう。自分が観に行ってもそう思います。でも、ワハハみたいにバカみたいに笑うって、なんの大事なことでもないかもしれないけど「あーおもしろかった!」って、温泉に浸かったあとみたいな感覚って、他に無いんですよね。
久本 テーマもないもんね(笑)
梅垣 取材をしていただくときに、今回のテーマは何ですか?とか聞かれることがあるんですけど、テーマなんて無いじゃないですか(笑)。本当に、ただ楽しんでください、それだけだと思うんですよ。
喰 “3無主義”だからね。無内容、無節操、無責任!
柴田 でも、みなさんもお望みであろうと信じています(笑)。コロナ禍があって、前よりももっとやりたいって気持ちが強くなりました。
――延期になった分、気持ちも高ぶっていらっしゃるんですね。
久本 ワハハってね、愛情に満ち溢れていると思うんですよ。自分で言うのもなんですけど。人間愛。それって喰さんにそういうところがあるからなのかな。人間が好きで、いろんなものの見方があるじゃない?っていうことの面白がり方、誰も手を付けないところにも愛はあるだろ、愛が大事だろ!っていうこと。
喰 お笑いって、笑ってくれると嬉しい。接客業みたいなところをやっているわけ。やっていることもお笑いだけじゃない。ダンサーでもないのにダンスもやるし、歌が上手いわけじゃないのに歌も歌う。なのに、「こんなにきちんとやるの!?」っていう、ショーアップしたものを見せるんです。そしてお客さんが「面白かったのにどうして最後に、涙が出るんだろう……」となってくれると、こっちも非常にうれしいんだよね。
久本 ワハハを好きでいてくださる方は、次に何が出てくるんだろう?って思うから、楽しくてしょうがないって言ってくださるんです。
喰 そういうところが意外と知られてないんだよね(笑)。ただ下品なだけでしょ、って。
久本 相当なエネルギーと相当な体力がいるんですけど……
柴田 でも、楽しいんですよ。くだらないバカなことを、ずーっと60にもなった大人が一生懸命に頑張っているって、楽しいじゃないですか?
――ワハハならでは、と感じるのはどういうところ?
柴田 いろいろな舞台に出させていただいて、それぞれの現場でルールや笑いの取り方があるんですけど、ワハハみたいな無法地帯のようなところは無い。そうじゃなきゃ裸影絵なんて生まれないですよ(笑)。権威的ではなく、鯱張るわけでもなく、本当に……底辺な、って言っちゃうけど(笑)、そういうのって本当に他にないから。そういう意味で、やっていると面白いんですよ。自分が変わる感覚です。
久本 ワハハ本舗があるから、自分が何を面白がっているのか、何をやりたいのか、何をすればお客さんが喜ぶのかに向き合うことができるんです。今、現在の私は秋に何をしたいのか全然わからないんですけど(笑)。それが、人間って追い詰められて、喰さんやいろんな人に「これどう思う?」って聞いて回ったりしていると、これに挑戦してみようかな?っていうものが生まれてくるんですよ。成功するか失敗するかはわからないけど、無から生まれてくる。与えられたものを膨らますことも大事なんだけど、何もない地面から花咲かせる、そういうところにすごくエネルギーがある。そして、それが宝になるんです。そのもがきは、ワハハならではですね。
梅垣 他の現場ですごく厳しいって言われているところとかあるじゃないですか。若いのが委縮しちゃうような。それって新しいものを作る環境なのかな?と感じたことは過去にありました。でも、ワハハはぜんぜん違う。何やってもいいし、すごく自由なんです。それが普通だと思っていたんだけど、ワハハの稽古を見ていてこれこそがものを作る雰囲気なのかな?と再確認できるときはありますね。でもまぁ、ワハハはいい意味でダラダラしていますよ(笑)
久本 っていうけど、怖さもありますよ。(自分が出た)あそこのシーン、つまらなかったね、って言われたくないから。それが評価になっちゃうからね。だから私はすごく緊張感もある。自由だからこそ、どこをどうしていいやら、ってなるの。役があれば、そこに沿って何か面白いこと考えればいいけど、ゼロからだから。
喰 みんな、どこから刺激を受けてるの? 映画とか、時代劇とか……
柴田 映画、芝居、本。そんな感じだよね。
久本 みんな差し迫ってきたら、いろんなものを観ながら「これ、使えるな」とかやってるよね(笑)。この人のこの感じいいな、使えそう、ってイヤラシイ目でものを見ています(笑)。柴田とか、山ほど本を積み上げて読んだりしてるよね。
柴田 そう、必死になる(笑)
喰 僕の場合はCDを山ほど買ってきて、ひたすら音楽を聴くね。昔の曲をカバーしていろいろなアレンジをしているヤツとかを探して聴いてます。古いものが、新しくなっているっていう感じの選曲でね。ネットはあまり見ないから、流行りものへの嗅覚だけは研ぎ澄ませておかないと、と思ってテレビをやたらとみるようになったね。梅ちゃんは、東急ハンズでしょ?
梅垣 モノを使うから?(笑) でも、モノも含めて僕もすべてをイヤラシイ目で見ています。何か使えないかな?って(笑)
――コロナ禍の自粛期間を含め、エネルギーを貯め込む時間がたくさんあったかと思います。どのように過ごされていましたか?
柴田 体力だけはちゃんと温存しておかなきゃいけないと思って、体力を維持するのに必死でした。頑張って習いに行ったり、ちゃんと歩くようにしたり。ヨガ始めたらもう大変でさ、罠にかかった獣みたいに足を吊られたりしてるんだから。それで、痛めたヒジだの肩だのは、早く治すようにしてます(笑)
久本 やっぱり60歳を超えて、オール元気か、と言われたら、そうじゃない。だから、そこら辺のメンテナンスはめちゃくちゃやりますし、私も週1回、必ず体を整えるトレーニングに行っています。ムキムキになるっていうのじゃなくて、ケガをしない体をつくるトレーニングですね。
柴田 リハビリみたいなもんだよね(笑)
久本 やめなさいって、もう。そんな、内海桂子師匠みたいな恰好してツッコまれるとさ(笑)
梅垣 着物を着ていると、なんか大師匠に見えるよね(笑)
久本 見える見える(笑)。それと、あとは精神力だよね。こうやって取材を受けると、何をやろうか、どうしようか、ってドキドキしてくる。
柴田 だから、ちょこちょこ久本と話すようにしてます。話せば、芝居の話になるから。
久本 この間も話したんだよね。でも10月に何が流行ってるかなんてわからないから、話すのやめよ、ってなった(笑)
柴田 でも本当に、みんなの顔を見ているだけで全然気持ちが違う。若手が稽古場に来て、衣装の整理していたりするのを見ていても、やらなきゃな、って気持ちになってくるもんね。
梅垣 自粛期間中って、人と会わなくなったじゃないですか。それで、去年の7月くらいに柴田さんと4カ月ぶりくらいに会ったんですよ。それまではなんだかんだちょこちょこと仕事とかで会ってたのに。だから、その時に初めてですよ、会えて嬉しいと思ったのは(笑)
一同 (爆笑)
梅垣 わーって手を振ったりなんかしてね(笑)。コロナ禍って、こんなに気持ちを変えちゃうんだなって思いましたね。嬉しいって思うなんて、不思議でしょ?
久本 でも「その女、ジルバ」の現場で梅ちゃんに会った時、私もそうだったもん(笑)
――コロナ禍で改めて気付けた喜びの一つかもしれないですね。
柴田 小さいことにも喜びを見出していくのは、大事ですよ。
――そういう絆も長年ワハハを続けてきたからですよね。続けてきてよかった、と実感する瞬間は?
久本 ワハハ本舗がなかったら今の自分はない。みんなでワイワイ言いながら作り上げてきたネタはすべて、仕事に活かされています。他の劇団で出るときも役柄の幅の広げ方や、面白いことを加えていく中で、この間ワハハでやったことを入れてみよう、とか考えるんです。やってきたことが全部、無駄がない。それは超実感します。
柴田 ほかのお芝居に出た時、脚本があって、演出がいて、それで役柄をもらって芝居をやってきた人とは、ちょっと立ち位置が違うって思うことはありますね。自分でネタを作るのがワハハなので、視線がちょっと違っていて、役作りとかにすごく役に立つんですよね。現場で、「ココはおまかせ」って言っていただけるのが、すごくありがたい。それは喰さんが「これからは、役者も作家の目を持たなければいけない。作家が書いたものをそのまま演じるんじゃなくて、自分で作っていかないと」って言ってて……それで、喰さんが書かなくなったんですけどね(笑)
久本 最初に書かないって聞いた時はウソでしょ、って思いましたよ。放送作家だし、喰さんの本が面白くて集まったのに、書かないってどういうこと!?って思ったけど、外でやるときに「ココ、頼んでいい?好きにやっていいから」って、任せていただけるようになったのは、ワハハ本舗で培ったものがあるからだよね。
梅垣 やっぱりワハハがベースになっているのは事実。自分のライブで一人でやっていても、やっぱりネタは考えるんだけど「喰さんならコッチかな」って、どこか自分の中にワハハが残っているんですよ。喰さんから学んだことは「余計なことは入れるな、シンプルが一番おもしろいんだよ」ってこと。物足りないから、自信がないからっていろんなものを足すんじゃなくて、シンプルなものだけで時間を持たせなさい、って宿題を与えられて、それが自分のベースになってますから。
喰 なんか俺ばっか持ち上げられてるけど(笑)、僕の場合は、自分で書いたり、考えたりすると、“違う”しか起こらないんだよ。でも、舞台に立つ本人が考えてくれると“そうなんだ、面白い!”、“こうすればもっと面白くなるよ”に変わる。“違う”って言いたくならないためには、任せた方がいいし、その方が役者の力になるからね。僕は芝居でもちょっとひねくれていて、映画は最高の瞬間を切り取るけど、舞台はライブだから。お客さんの多い少ないもあるし、雨の日も晴れの日もあって、毎日違うんです。だから変えろってわけじゃないけど、その日の気分というか感覚か何かでやってもらいたい。だから細かく、何歩あるいてここで振り向いて……みたいな指示は必要ないって思ってるんです。照明とかのきっかけとして、必要なものはあるけどね。
久本 でも昔、若手が階段から落ちる場面で「違う! こうやるんだよ!」って怒って、自分でやって『スゴーイ!』って周りから褒められてたけど、肋骨折ってましたからね(笑)
喰 いや、ヒビ(笑)。階段落ちを自分が1回見せてみたら拍手が起こって、いい気になってもう1回やったらヒビ入りました。
――(笑)。でも、それくらい体当たりでやってくれるわけですね
柴田 良い例も悪い例も見せてくれます(笑)
――そんな喰さんが今、3人に求めていることは?
喰 やっぱり年齢というのがね。僕も70歳を過ぎたし壁としてあるんだけども、年齢を恐れないでやってほしいね。今、みんなは60歳くらいだけど、70歳や80歳の役をやってもいいし、小学生になったっていい。映画とか映像だと違和感が出るかもしれないけど、舞台なら何やってもいいんだよ。もっともっと幅を広げて、チャレンジ精神をもってやったほうが、嬉しいなって思いますね。
久本 生涯チャレンジ精神でもって、やっていかなければならないんでしょうね。
――今回の全体公演は「王と花魁」というタイトルになっていますが、どんなコンセプトですか?
喰 このタイトルは「王様と私」っていうミュージカルと、「王と鳥」っていうフランスのアニメから来ています。「王と鳥」の中にオシャレな歌があって――♪王様は退屈で、ロバは飢えで、私は恋で死ぬ――っていう詞なんですよ。ワハハは下品とか、バカバカしいとか言われてるけど、オシャレ!も入れたいという気持ちで、このタイトルにしました。ストーリーのないショーなんだけど、僕の頭の中では、そういうものがあった上で作ろうとしています。最初は歌舞伎テイストでやろうかと思っていたんだけど、コロナ禍もあって、もう全部ゴッチャにしてやっちゃおうという気持ちに変わっています。今回が新たな1作目、とにかく成功させたいので、アイデアをたくさんください!っていう感じですね。
――ワハハの総力戦!っていう印象ですね
久本 中止になる前は、日本のものを取り入れて……って思っていたけれど、もうそういうのは取っ払ってます。歌舞伎的なこともやるけども、面白ければなんでもやろうっていう感じになっていくだろうな、っていう感覚はありますね(笑)
柴田 でも、あのままやっていても、面白ければ~ってなったと思いますよ(笑)。とにかく、お客さんに喜んでもらうことが何よりも1番なので、自分たちのテーマだのコンセプトだのよりも、まずお客さん。そのために、みんなでアイデアを出し合って、作っていくだけですね。
久本 だから具体的なものはまだ何もない(笑)。ダンスもやりますし、パフォーマンスもやりますけどね。
喰 小ネタなんだけど、モンゴルにホーミーってあるじゃない、1人で2つの声をだすやつ。あれを二人羽織でやるのはどうだろう? ちょっと思いついたんだけど……
久本 ……やってみて、本番でやるかやらないか、考えよう。
柴田 小さすぎたね、ってなるかも(笑)
梅垣 俺も具体的にはないんだけど、自分たちが楽しまなきゃ楽しくならない。僕は、お客さんが楽しんでいれば、楽しいんです。僕も30年以上舞台に立っているけど、昔はね、お客さんも若かったんですよ。俺も若かったけど。それで、だんだんお客さんも年取ってきて、客席も年寄りになってくる。僕は、いろいろな年代の人の笑っている顔を見られるのが、僕の幸せだとずっと思っていたから、若い世代の人に来て欲しいね。久本も柴田も、もうおばあさんなんですよ。
喰 お前だって、おじいさんだよ(笑)
久本 おばあさんって思っちゃうと、おばあさんになっちゃうから。
柴田 私たちは、ヤングだから!
梅垣 その言い方がもうおばあさんなんだよ(笑)。俺もおじいさんだけど、こういうおばあさんもいるんだよ、って分かってほしいんだよね。だから、若い人にも見て欲しい。
久本 まだまだワハハを知らない人の方が多いからね。
柴田 ワハハの世界を味わってほしいですよ。今は放送には、乗せられないことがいっぱいある。でもワハハは違います、治外法権!
――(笑)。公演を心待ちにしている皆さんに、最後にメッセージをお願いします。
梅垣 こういうご時世になって、配信とかいろいろな形が試されている状況だけれど、配信では伝わらないものもやっぱりある。僕は個人的に、映画は2本観に行けるけど、芝居を2本観に行くのはちょっとしんどい。それってやっぱり生のぶつかり合いだから。お客さんにも、いい意味で“ああ疲れた!”ってなってほしいですね。
久本 本当に、生ほど面白いものはないし、楽しいものはない。おもちゃ箱をひっくり返したようなワハハワールド、アトラクションのような、テーマパークのような世界を知っていただきたい。ファンの方にはお待たせしました!っていう想いです。一緒に素敵な時間を共有して、くだらな~い!って言いながら、笑って帰っていただきたいと思います。
柴田 コロナ禍になって、自分が芝居を観に行って思ったのは、本当に生っていいんだな、ということ。本当にしみじみ思いました。対策は万全でやらせていただきます。全開放して、底抜けに笑いに来てください!
喰 ワハハの全体公演は、スターウォーズなんですよ。もう終わった、と。終わったのに、またやるの?っていう。
久本 普通に、詐欺ですよ(笑)
喰 でもそれを終わらせないで、また新たなるスターウォーズを作っていくならば、お客さんが応援してくれない限り、続かない。文句はつけるところもあるかもしれないけど、やっぱり面白いじゃないか、ってね。スターウォーズだって、古いのを見ていなくても楽しめるシリーズがいっぱいあるけど、それと同じような感覚で、ぜひ観て欲しいね。“いつまでも あると思うな ワハハ本舗”ですから。
――ここから始めるワハハも面白いぞ、ということですね。楽しみにしています!
インタビュー・文/宮崎新之