「演劇のお笑い」の人たちがお笑い界の現在を教えてもらう会を開きました(前編)

 

デイリーポータルZなどで活躍するWebライターの大北栄人が主催するコントユニット「明日のアー」。今年8月に吉祥寺シアターで行われた8回目の本公演『カニカマの自己喪失』が11月30日(水)までローチケから配信中だ。
7月に行われた大北といとうせいこう、ダ・ヴィンチ・恐山の三名による「笑いのメカニズムと理論」をテーマにした鼎談に引き続き、第二弾は「演劇の笑いを“お笑いシーン”に届けるには」。前回が笑いに関する本質を探求したとするならば、今回は最前線の現場への潜入捜査である。
これまでテレビ的 / 演芸的なお笑いとは距離をとってきた明日のアーが、その文脈に接続されるにはどうすればいいのか。
「テアトロコント」のキュレーター小西朝子、多様な視点からお笑いやカルチャーをウォッチしているライターの西森路代、新進気鋭のトリオ「ハチカイ」のメンバー警備員の3名をお招きし、明日のアーにスタッフ兼出演者として参加するライター張江浩司を司会進行としてそれぞれの立場から多角的かつ思いつくままに話し込んだ結果、論点が湯水の如く湧き上がった。

 

演劇を観るのはハイリスクハイリターン

張江 警備員さん、まだいらっしゃらないですね。

大北 ちょっと遅れるみたいです。

張江 では先にはじめましょうか。今回は明日のアーの本公演の映像が配信されているタイミングでもあるので、「明日のアーがお笑いファンに届くにはどうすればいいのか」を考えていければと思ってます。大北さんは「明日のアーはある程度演劇のお客さんに認知された」という実感があるそうですね?

大北 今回の映像配信してる公演ではいよいよやりたいことができてきたぞという確信があるのに動員には結びつかなかった。もう東京の小劇場をよく観にいく層には「明日のアーの名前は聞いたことありますよ、ああいうことやってるんでしょ」という人が多いのではと。

張江 「どんなもんか一回観てみよう」というボーナスタイムが終わったというか。

大北 そこでお笑い界隈ですよ(笑)。「演劇には縁がないけどお笑いだったら興味あります」という人が圧倒的に多い中で、演劇とお笑いをかき混ぜられないかなと思うようになったんですね。そのためにはまず「現在のお笑いがどうなっているのか、知ってる人教えてください!」という会です。

張江 小西さんは渋谷・ユーロライブのスタッフとして「テアトロコント」のキュレーションを担当されていますよね。

小西 はい。お笑い枠と演劇枠を2組ずつお呼びしているライブです。お笑いは漫才やフリップ芸ではなく、「上演(コント)」という形式でやってもらってます。ピンの方の一人コントもありますね。今はコロナの関係もあって、演劇枠は1組の計3組になることが多いです。

張江 楽屋が密になっちゃうからですか?

小西 それもありますし、誰か一人でも陽性になると出演できなくなるので人数が多い演劇の方がリスクが高くなってしまうんです。芸人さんであれば、もしキャンセルになっても代演が見つかりやすいので。

西森 私が明日のアーを初めて観たのもテアトロコントでした。女性3人がもくもくと仕事してるんですけど、皆がすぐ他のことをはじめちゃうというコント。

大北 2019年だ。上手な俳優3人のショートコント集でありただのおしゃべりであるという。あれよくできてますよね。(テアトロコントvol.36で上演された『山裾の雌犬たち、喋る』。高木珠里、笠木泉、中島愛子による3人芝居)

https://youtu.be/nbX2ylKIREg
↑ 日常におけるコントとはノリのよいおしゃべりなのではないか?と30分こんなおしゃべりが続きます。(大北)

西森 私は、テアトロコントで芸人さんではないコントにこんな世界があるんだって知ったんですが、小西さんはテアトロコントの出演者をどうやって探してくるんですか?

小西 お笑いの方は、あまり熱心に探さなくても自然と面白いという評判が耳に入ってくるんですよ。知り合いの芸人さんからも「この若手が面白い」みたいな話も聞きますし。

張江 芸人さんは週に何本もライブをやっていて、何組も出演するから、楽屋でウケている芸人の噂が広まるのが早いんでしょうね。

小西 そうなんだと思います。私よりも詳しい人もいっぱいいるので、Twitterからも「キングオブコントの2回戦であのコンビがめちゃくちゃウケてた」というような評判を目にしますから。例えば、かが屋さん、金の国さんとかは、お笑いシーンではすでに注目が高まっていたけど、まだ演劇のお客さんにはそこまで知られていないというタイミングでブッキングできたと思っています。

大北 そういう「信頼できる情報通」をSNSとかで見つけられるといいんですね。

小西 観に行っているライブのチョイスが抜かりなかったり、感想が的確だったりする方のアカウントを見たりして、参考にさせてもらっています。(参考にしているSNSアカウントをPC画面上で見せる)

大北 なんて実用的な情報なんだ……。我々が知りたいのはSNSのアカウント名なんですよ。

張江 演劇枠の出演者はどうしてます?

小西 演劇は蛸壺化してるというか、特に新しい団体の情報がなかなか出てこないので片っ端から公演を観に行ってますね。コントじゃなくても、例えば屋根裏ハイツさんとか、わっしょいハウスさん、関田育子さんとか、お笑いファンにも刺さりそうなユーモアを持っていると思った方々にお声がけしてます。新しい面白さの視点を共有できそうというか。

西森 声かけられた演劇枠の方たちはコントをテアトロコント用に作るんですか?

小西 ほとんどそうなっていると思います。一組30分の出番なので新作になることが多いですね。かなりカロリー高めな作業になってしまうんですけど、こういうお笑いと演劇とが共演する機会は他にないとおっしゃっていただいて、参加してくださっています。

西森 観る側としては、演劇と比べてお笑いの方が間口が広い理由として上演時間の短さがあるんじゃないかと思いますね。演劇は2時間くらいかかるけど、お笑いは1ネタ5分くらいで観られる。私個人は短いのが好きなわけじゃないんですけど。

張江 短いだけで、SNSやYouTubeとも相性良くなりますし。

大北 近年の明日のアーは1分くらいのネタがあるからそこはいけそうですが…。お笑いは短い時間で何組も観られるショーケースみたいなライブがよくあるけど、演劇はないですよね。

https://www.youtube.com/watch?v=L3c4XnE-YKA
※ショート動画※  明日のアー コント「後ろに引っ張られるキング牧師」

小西 演劇のショーケースは最近コロナ禍があってか減っちゃいましたね。以前は早稲田小劇場の「どらま館ショーケース」とかもありましたけど。

大北 徳永京子さんがセレクトした「20年安泰。」とかもありましたね。テニスコートの神谷さんのユニット「画餅」は「30分の演目が3本で90分」というコンセプトがあったそうです。演劇を短くしていくのは一つの流れとしてあるのかも。

西森 やっぱり観る側は参入しやすくなりますね。

小西 長いと非効率ではありますもんね。私もすごくたくさん演劇観てますけど、面白いものに出会う打率は低いです(笑)。

大北 ハイリスクハイリターンだ(笑)。

小西 でも、面白くなかったときの方が「なんでしっくりこなかったのか」をすごく考えて言語化しようとして頭を使うんですよ。

張江 ああ、音楽でも映画でもそうですよね。良かったら「これ好きだなー」で終わっちゃいますけど、ダメだったら思考がフル回転になる。

大北 ロジカルになりますよね。「あそこの場面はこういうことがやりたかったに違いない」とか。良くないものを観ると、人間は大きくなりますよ。

小西 そうそう、なんかそれも楽しくなっちゃって(笑)。「どう楽しくなかったか」っていう振り返りも楽しみになっているというか。

張江 その観方は初心者に勧められないですよ(笑)。

M-1 3回戦までいければあとはどうでもいい

(警備員、到着)

警備員 すいません!めちゃくちゃ寝坊しました……!

大北 あ、どうぞどうぞ。昨日M-1だったんでしたっけ?

警備員 そうです、2回戦で。普段はハチカイっていうトリオやってるんですけど、M-1はジュウロッカイというコンビで出てます。

張江 2回戦突破したんですよね?おめでとうございます!

警備員 ありがとうございます!

大北 祝杯あげましたか。

警備員 一人で飲みました。「何回見ても名前があるな」と思いながら。

張江 勝利の美酒に酔った結果の遅刻(笑)。

西森 当日に合否がわかるんですね。M-1予選の審査はどのようになっているんですか?

警備員 放送作家の方が3人ずつくらいでやってます。当日楽屋に「今日の審査員」が貼り出されるんですよ。

西森 審査員との相性というものもあったりしそうですよね。

警備員 「今日この人か……」と思ったりします(笑)。

張江 3回戦は全組のネタ動画がYouTubeにアップされますよね。

警備員 そうなんですよ。自分たちは普段コント中心にやってるんで、M-1は3回戦に上がることを目標にやってました。それ以上 上に行けるかはわからないですけど、自分たちの好きなようにやってる動画が上がりさえすればいいというか。それこそダウ90000もその動画で売れたところがあるので。

https://youtu.be/o3BIUN9MTx4

大北 へー!

西森 同じように動画で広まるために3回戦を目指してる芸人さんはいらっしゃるんですか?

警備員 けっこういると思います。それこそコントメインでやってる芸人は3回戦に全力という人が多いんじゃないですかね。優勝を目指してる漫才師は逆に動画でネタバレになっちゃうから、3回戦は本命のネタやらないかもしれないです。

西森 なるほど。二極化してるというか、目的が違うんですね。

警備員 そうですね。あと3回戦の動画は3組が一本にまとめられるので、オズワルドさんとかと一緒になるとものすごく再生されるんですよ。ちょっとギャンブル性もあるというか。

大北 うわ~、そういう視点もあるのか……。

警備員 1回戦の各回のトップ3も動画に上がりますし。

張江 家にいたまま面白さが担保された何十組ものネタ動画を見れるってことですもんね。

西森 お笑いが盛り上がるわけだ。

https://youtu.be/M_9YC1lL1-I?t=205
↑ M-1グランプリ公式で「3回戦全ネタ」としてアップロードされている。
この動画からさらに非公式に切り出されたショート動画でフースーヤを知りました。新しい…。(大北)

大北 ショーケースが進化しまくっている。よくできてるなあ…。

西森 韓国映画とかK-POPを見てるとよくできた仕組みだなと思うんですけど、日本だとお笑いがそういうよくできた仕組みがあるなって思いますね。

張江 現在のお笑いブームは「面白い芸人さんが増えたなー」みたいなぼんやりしたことじゃなく、都市計画のような緻密な導線があると。

大北 「審査されている」ということもあるんじゃないですか。お墨付きというか。

警備員 確かに、M-1もキングオブコントも、審査員が誰になるかでお笑いファンは盛り上がりますし。

張江 M-1は初年度から決勝の審査員が批評家とかじゃなくてプレイヤーだったことが重要なんじゃないでしょうか。

西森 キングオブコントも、年々審査員のみなさんの審査のやり方というか、言語化の仕方が変わることで出場者のネタの質も変わってますよね。私もメディアの賞の審査員をいくつかやったことありますけど、審査の仕方によって賞の質がはっきり分かれるのを経験したので……。

「何考えてるかわからん」素人の強み

張江 M-1を完全に無視して芸人として活動するって可能なんですか?

警備員 うーん、出ない理由が思いつかないです。それこそ出場資格の結成15年を過ぎた虹の黄昏さんとモダンタイムスさんが老害マックスっていうのを結成して、盛り上げるだけ盛り上げて2回戦敗退して帰る、みたいなことやってるんですけど(笑)、それもすごく話題になりますしね。経験としてもいい舞台なので。

西森 M-1があることでネタの作り方が規定されちゃうっていう意見はたまに見ますよね。

大北 「長いネタのよさもある」ぞ、みたいな話ありますね。

張江 一時期、夏フェスがあるせいでロックバンドが盛り上がりそうな曲ばっかりリリースするようになったのに似てますね(笑)。

小西 それはキングオブコントに関しても言ってる人はいました。でも、やっぱり審査がしっかりしているから、「出場しない」とはならないみたいですね。

西森 こういうことを言語化してる芸人さんは少ないんじゃないですか?

警備員 いえ、楽屋ではやっぱりこういう話になります。

大北 同業者が集まってわいわい話す楽屋ってシステム、他の業界にあんまりないですよね。

警備員 あー、言われてみればそうなのかも。

小西 そこで横の繋がりがどんどん増えていくのがいいですよね。演劇にはあんまりないことで。

西森 この話って明日のアーにとってすごく有益そうですね。

張江 確かに。しっかりM-1対策して3回戦までいけば、動画になってグッと広がるかもしれない。

警備員 1回戦はちゃんと大声が出てればけっこう受かりますよ。

張江 人としてちゃんとしてればいける(笑)。

警備員 2回戦からはウケが重要になってきます。ライブですごくウケてる人も落ちたりしますし。

大北 そんなに厳しいんですか……。

西森 大北さんはキングオブコントには出ようという考えはないんですか?

大北 ああいう場では「芸人さんの身体には敵わない」というのがあるんですよね。今年のキングオブコントで優勝したビスケットブラザーズを観ても、お笑いの舞台で作り上げられた鋼の身体があってこれはぶつかったらこっちの骨折れるなという。

西森 明日のアーには俳優さんも出てますけど、普段お芝居してない人も出てますよね。それもすごく面白いし独特だと思うし、そこがお笑いの身体性と違うところかなと思うんですが、大北さん的には、そこにどういう可能性を感じてるんですか?

大北 演技が上手いとか身体性とか、そういうものとは別の尺度があって、それは「行動原理が読めない」っていうことなんですよ。「こいつ何考えてるかわからん」人がコメディーにおいてはめちゃくちゃ強いと思っていて。舞台上で変なことをするわけですから、「こいつ笑かそうとしてるな」という欲望が見えちゃうともう面白くなくなりますよね。素人の人の方が、そういうのが見えないことが多い気がします。

張江 藤原さん、よシまるさん、7Aさん、花池くんっていうのは、まさにそういう状態で舞台に上がってますね(明日のアーのレギュラーメンバー。それぞれ普段はWeb編集者、デザイナー、モデル・スタイリスト、バンドマンとして活動している)。

https://youtu.be/FUi_uGwesos

西森 芸人さんでも相方にそれを求めてる人いますよね。

大北 あー、素朴さみたいな。

西森 現代だと、モグライダーの芝さんがともしげさんに求めているというのが感じられるけど、昔だとコント55号における坂上二郎さんみたいな。

張江 全く何も知らないで舞台に上げられて、欽ちゃんに無茶振りされるという(笑)。

小西 「欲しがらない身体」ってことなんですかね。演劇でも、「この人、演出とか演技を意識しすぎだな」と思うと冷めちゃうというか(笑)。「そんなテレビドラマで観たような型の演技されても……」って。

大北 特にナンセンスギャグに関しては、脳がそれをエラーだと認識するためにはエラー側に作意があったらいけないと思うんです。理由や作為があったら、それはもうエラーじゃないし、変なことじゃないので。

※前回の鼎談で詳しく話しています

 

学生お笑いはカウンターカルチャー

大北 そもそも、今の東京にはどんなお笑いの現場があるんですかね。養成所があって、事務所主催のライブがあって、というのはなんとなくわかるんですが。事務所ではなく、イベンターが主催のライブもありますよね?

小西 そうですね。K-PROさんの名前はよく聞くと思いますし、、ユーロライブをよく使っていただいてるライブマンさんとかもそうです。個人の構成作家さんが周りの芸人さんを集めてライブを主催することもありますね。

警備員 あと、“グレイモヤ”っていうライブがあって、これがめちゃくちゃ熱いんですよ。ほとんど即完で。実力がある人たちがちゃんとウケるっていう。

https://youtu.be/ip2omEANarI
ハチカイ「受験勉強」より

張江 毎回面白い人が出てるから、どんどんブランド力が上がっていくんだ。

警備員 そうですね、いま面白い芸人のベスト盤みたいな。

張江 これもショーケースですね。

西森 学生お笑いの勢いもすごいじゃないですか。

張江 ラランドのブレイクあたりから急激に浸透しましたよね。

小西 年に一度、「大学芸会」という大会があって。

張江 かつてサーヤさんが無類の強さを見せつけたという。

西森 早稲田大学のWAGEというサークルがあり、そこに小島よしおさんやかもめんたるがいたってことで。そこらへんから、大学のお笑いのシーンがあるということを知りましたね。それが2000年代の前半から中ごろなんですよね。もちろん、その前から大学の落語研究会出身の方が落語家になったり、芸人になったり、俳優になったりというのも見てはきましたが。

警備員 僕がいた頃は、学生お笑いって意外とカウンターカルチャーっぽかったんです。プロじゃできない不謹慎なネタとかが多くて。あと学生芸人だなと思うのが、大学芸会でも上手なだけのやつは勝てなくて、センス重視なんですよ。一昔前のNON STYLEさんの模倣みたいなのは絶対に勝てない。

大北 最近は一般的にもそういう傾向がありそうですよね。

小西 個人的にモヤモヤしているのが、ラランドさんとか令和ロマンさんとか学生お笑い出身の人の活躍を見て、だんだん大人が近づきはじめてる気がして。それだと養成所と一緒になっちゃうというか、せっかくの自由度が下がっちゃうと思うんです。

西森 ダウ90000も大学お笑いにも関係してますよね?

小西 そうですね。日芸です。

https://youtu.be/qywNl-EreFU
↑ ダウ90000のコント。よくこれを抽出したなというすごい題材。長尺のコントのよさも味わえるやつ。(大北)

西森 大北さんはダウ90000についてはどうなんですか?演劇とお笑いというテーマで、コンテストやテレビにも出ているということで、避けて通れないというか、明日のアーもそんな風に活躍をするルートがあるのではと思ってしまうんですけど。

大北 いや、冗談のタイプは違えどかねがね素晴らしいと思っててツイートしたりもしてました。

西森 そうなんですね。

大北 長編見ましたけどあそこまで良質な冗談でやるウェルメイドなコメディなかったし、終わり方も演劇的に超良かった。生活の気づきから来る冗談を書けるのは若いのに名エッセイストみたいな。坂元裕二さんが20代前半で「東京ラブストーリー」を書いたらしいですけど、これ今のダウ90000の蓮見くんみたいな状態だったんでしょうね。

本当の地下芸人はフラッと来て帰っていく

大北 「浅草芸人」っていう括りもありますよね。

張江 Netflixの「浅草キッド」的な。今は「浅草演芸ホールとか東洋館に出てる人たち」という意味だと思うんですよ。漫才協会とか、落語協会、落語芸術協会に所属していて、寄席に出演している。ナイツさんが筆頭ですよね。

大北 「地下芸人」というくくりはどうなんですかね?地下芸人シーンってあるんですか?

https://www.youtube.com/watch?v=-LmnX42jcAk
↑ 「地下芸人界の“首領”」とSPAの記事にもあったモダンタイムス。大阪から出た身としてはこれを何回も見ました。(大北)

警備員 あるにはあります。ずっと誰かの悪口しか言わないトークライブやってる人とか(笑)。いつまでも同じネタを2,3人のお客さんの前でやってる人もいますし。でも、見る人によってはグレイモヤも地下っちゃ地下なんですよね。

西森 言葉の定義が難しそうですね。

警備員 まあでも、「どの芸人から見ても地下芸人」みたいな人たちはいると思います。ネタのブラッシュアップもせずに、やりたいことだけやってるみたいな。

大北 売れたいけど、やっちゃいけないことしかできない人たちもいそうですよね。

西森 マヂカルラブリーの野田クリスタルさんにインタビューしたときに、たぶん地下芸人の方たちを指して「自分のことを信じて独自のことをやり続けている人もいますし、そっちも境地だし」「自分がそっちに生きられる才能があれば行ってたかもしれないけど、なんにせよメンタルが弱かったもんで行けなかったですね」と言われてましたね。地下で居続けるってことの強さも感じてるんだなと思いました。

警備員 確かに、どちらが芸人として晴れやかな顔をしているかというと、地下の方なのかもしれません。

大北 もしかして演劇と比較すべきなのはそのシーンなんじゃないか…。誰が観にくるかわからんけど、やりたいから劇場押さえてフライヤーも刷る、という。

警備員 あ、でもそれはまだ上位の地下芸人だと思うんですよ。本当の地下は主催なんてせず、「暇だからなんか出るか」くらいの感じでフラッとライブに出て、ウケてもスベっても打ち上げで酒飲んで帰ります(笑)。

大北 そんなフラッと出られるライブがあるんですか……!

警備員 もちろん、エントリー料を芸人が払って出るんですけど。それこそ今ならライブに出るよりもYouTubeやったりした方が効果があるのに、「芸人はライブに出るもんだ」っていう考えに囚われてる感じがかなり地下っぽいというか。

西森 それはそれでなんか自由でいいですけど、そういうライブに「うわ、面白い!」っていう人が急に現れたりすることもあるんですか?

警備員 K-PROの「ゲレロンステージ」っていうのがそういう感じのエントリー制ライブで、YouTubeで生配信してるんですけど、ちゃんと面白い人もいます。ダラダラ出てきてボソボソ喋ってるだけの人もいます(笑)。事務所主催のちゃんとしたライブとかに出て疲れてるときに見ると癒されますよ。

張江 情報量が少なくて疲れないんですかね。焚き火の映像みたいな(笑)。

大北 純粋にお笑いが好きという気持ちに触れ合える瞬間でもあるな。

張江 警備員さんは大喜利シーンの人でもありますよね。

警備員 そうですね。大北さんに知っていただけるきっかけは大喜利なんじゃないかと思います。

大北 ユーロライブのコントでは見てたんですけど、YouTubeの大喜利動画で見つけてしかもおもしろかった。これは頭角を表しそうだから先に招待して明日のアー知っといてもらおうと。

警備員  中学生の頃からネット大喜利をやったりしてたんですけど、2019年に 「大喜る人たち」というYouTubeチャンネルが できたんです。大喜利の動画はどこからでも見れるし、回答ごとに切り出せるからショート動画にもできるし、とにかくSNSと相性がいいんですよ。

https://www.youtube.com/watch?v=G3RaHXETnQI

張江 やっぱり「いかに短くするか」ということなんですかね。

大北 他に何か最近の潮流みたいなものはありますか?

警備員 まだなんとも言えないんですけど、アマチュアのシーンができつつある気がするんです。今まではプロがあって、その下がアマチュアという感じだったんですけど、そうとも言えなくなっているというか。
M-1 1回戦の各回に「ナイスアマチュア賞」というのがあって、これを獲ると動画で公開されるんです。ネタの中で「有給とって出場したんだからナイスアマチュア賞ちょうだい!」みたいなメタなセリフを入れるコンビもいますし。プロになっていく人もいるでしょうけど、独特な進化を遂げそうな予感がします。

 ※後編につづきます。後編は個別のネタ動画などが多めです

 

インタビュー(司会進行)・文/張江浩司