「演劇の笑い」と「お笑い」どう違うんだろう?考えてみました(後編)

今年8月に吉祥寺シアターで行われた8回目の本公演『カニカマの自己喪失』が11月30日(水)までローチケから配信されているコントユニット「明日のアー」。
演劇のフィールドを飛び出し、明日のアーがお笑いシーンにアピールするための方法を模索するこの鼎談。大盛り上がりの前編(「演劇のお笑い」の人たちがお笑い界の現在を教えてもらう会を開きました)に引き続き、後編はより具体的な議論が展開している模様です。

前編はこちら

時代はセンスメガネを求めている

張江 ここ2年くらいの明日のアーはごく短いコントの集合のような公演形態になっているので、そこに関しては時流に乗っているのかもしれませんね。

死に際のマリメッコ

大北 ショート動画化してるのかもというか、1分くらいのネタになってきてるのも今っぽいっちゃ今っぽい。

警備員 今回の本公演の最初のネタはTikTokにアップしたら受けると思いますよ。

張江 あのネタを絶賛してるの、警備員さんしかいないんですよ(笑)。

警備員 え!「絶対バズる」と思いながら観てました(笑)。 

西森 私は高木さんが黒いレザースーツで出てくるところがすごく好きです。あれが明日のアーを代表する部分なのかはわからないですけど(笑)。新喜劇っぽさもありますよね。

張江 今回は稽古中から「これは新喜劇だな」という話になってたんですよ。

アニメに出てくる姉御肌の人

小西 濱野さんが高木さんの偽物になっているやつも好きです。

大北 あれは別役実のパロディなんですよ。

小西 え、そうなんですか!?

西森 こういう世界が好きな人が全国に5万人くらいはいるはずだから、一般ウケを考えなくても間口さえ広げて、ピンポイントでリーチすれば集まってくる気がするんですよ。あと、大北さんは演出だけじゃなくて、もっと出演した方がいいと思うんですよ。

大北 出るのほんと大変なんですよ…。

西森 キャッチーな言い方すると、センスメガネ枠じゃないですか。

張江 あー、男性ブランコにいてもおかしくないフォルム(笑)。

西森 センスメガネが今一番求められてると思うのでもったいない(笑)。

大北 舞台上から「センスがここにいますよ!」とお伝えしなければならない(笑)。

西森 センスがいい案内人がいるっていうのは、観てる方としては安心感がありますね。

大北 その点から考えてもダウ90000は本当によく出来てるな~。良いセンスが舞台上にいて、場を整理している。

張江 ああ、蓮見さんがしっかり出演してますもんね。

西森 でも、最近は一見、切れ者とポンコツみたいなコンビに見えて、そうではないという傾向も出てきましたね。金の国とかも、そういうキャラクターの対比としての構図ではやっていないというか。。

小西 ハライチの澤部さんもそうですよね。コミュニケーション力もすごく高い。

張江 なるほど。明日のアーにはセンスメガネに見せかけた本物のポンコツ、藤原浩一がいます。 

「演劇の笑い」といっても3種類ある

大北 「演劇の笑い」というのも一括りにはできないですよね。一般の人が想像するようなドラマの中の人間関係のおかしみは現代口語演劇の流れかと思うんですけど、笑いが目的ではなくて副産物なんですよね。

笑いを楽しんでねという演劇としてはナカゴーとほりぶん、シベリア少女鉄道、ここら辺が強いかなあ。あとはブルースカイさんのようなナンセンスの流れもありますね。ナカゴーとほりぶんは同じ作り手で、この人たちしかやってない固有性もあるし、バカみたいなことを全力で演じる演劇の強さそのもので笑いを生んでて誰が観ても面白いと思うんです。

【舞台芸術創造支援事業・ナカゴー 特別劇場】『にっかいろとはっかいろ~堀船のごめんねてた~』メイキング

大北 シベリア少女鉄道は前半をたっぷりフリにして後半の畳み掛けを楽しめる特異な構造が多くて一回見て損はないだろうと。

張江 いとうせいこうさんも「1時間くらいフリに使えるのは演劇だけ」と言ってました。

大北 でも、それだけ時間かけて自分の好みの笑いじゃなかったら、大変な事態ですよね……。

西森 長い時間をかけるものの価値はすごく感じてるんですけどね。

警備員 お笑いの単独なら「このネタがつまらなくても次は」ってなりますけど、演劇は一発のパンチを外しちゃうと厳しいですもんね。

張江 確実に演劇特有の面白さはあるから、「飛び込んでみなよ!」としか言いようがないのかなあ。一度飛び込めば小西さんみたいに「つまんなくても最高!」という境地に辿り着けますよ。

大北 観劇サイボーグだ(笑)。

警備員 もう人間じゃない(笑)。

大北 みんながぼんやり思い浮かべる「演劇的な笑い」とは何かと考えたときに、むしろかが屋のコントなんじゃないかと。

小西 コミュニケーションのすれ違いや、やりとりそれ自体が笑いになっていく感じですよね。

西森 大爆笑とは違う価値観のコントをテレビでやっているのもそうですね。


大北 その意味では「そうか私が求めてたのは演劇の笑いか」と劇場に明日のアーを観にくると「あれ?」となるかもしれない(笑)。感覚じゃなくて理屈でナンセンスやりたい派なんですよね。テニスコートも近いんですけど、アーは笑いを目的にしてるからお笑いに近いんですけど、やってる枠組みが演劇枠なんですよね。

小西 私は会話や日常のやり取りの中から面白さを掬い取っていくような人たちを探すのは得意なんですけど、明日のアーの面白さをまだちゃんと言語化できてないんです。

その上で、今、表現の幅が広いなと漫談が気になっていまして、たとえば小松海佑さんとか、とても自由で面白くて。大北さんの面白がっていることを自由に漫談という形で表現しても面白いんじゃないかと思っています。

大北 見ました。すごい。これは新しい表現だと思いました。

小西 Dr.ハインリッヒのような、不可思議なできごとを、聞いて観客が想像していく面白さの漫才もありますし、明日のアーの発想を漫才という形式でやってみるというのは、お笑いファンにアプローチしやすいんじゃないかなと。

大北 それはやってみるべきですね。

 

3回目でツッコむことは定型化されている

大北 おこがましいですけどロジックが見えるという点ではバカリズムさんとか作り方は近いんじゃないかな~と。あと、ハチカイとか可児正さんとかのYouTube見てて思ったんですけど、漫才やコントの定型を共有した上で遊び始めたりする人たちも近いですかね。「普通ならこうなるけど、やらない」という感じ。

警備員 そうですね。お笑いにはある程度ニュートラルな型があるんで。コント漫才の「おれコンビニ店員やるからお前お客さんやって」みたいな。M-1 2回戦も、それを逆手に取った感じのネタをやりました。

大北 コントでも、まずもやっとした違和感を見せて、2回目にまた見せて、3回目で適切なキーワードと大きな声でツッコむ、っていう型がありませんか?

警備員 それはめちゃくちゃあります。

大北 みんな3回ですよね。

警備員 フランツさんはそれを全部2回でツッコんでるんですよ。

大北 へー!

警備員 みんな「おお、2回だ!」ってなってるという。

西森 それだけで定型を崩してることになるんですね。

大北 そこはもうみんな意識的なんですね、すごい。

小西 こういう感じで、大北さんが近いと思ってる芸人さんとか演劇の人を集めたライブを観たいです。

大北 ああ、私がキュレーションするんだ。

西森 それはすごく観たいですよ。

張江 「大北さんが何を面白いと思っているのか」をパッケージングしてみんなにわかってもらいやすくするってことになりますね。

大北 コントを観ていて、「頭が笑わされる状態」と「身体が笑わされる状態」は違うと思うんですよ。やっぱり頭が笑うようなものが好きなんですよね。でも、難解なものがやりたいわけではないんです。「わかりやすく頭が笑う」というか。

西森 そういうコンセプトが打ち出されていれば、観やすいと思います。

張江 演劇の本公演だと年に1,2回なので、評判を聞いて観たいと思っても次の機会が先になっちゃうんですよね。こういうキュレーションライブが2,3ヶ月に1回あればすぐ観られるのもいい。

大北 明日のアー、テニスコート、ハチカイで毎回やることになるのか…。

張江 もっと色んな人を呼びましょうよ(笑)。

警備員 風通しが悪すぎる(笑)。

張江 今日の収穫としては、M-1の3回戦を狙う、ショート動画をバズらせる、大北さんがセンスメガネを引き受ける、キュレーションライブをやる、というところでしょうか。

大北 ほんとに頭だけ笑ってたいだけなんですよね~。いやほんと毎日毎日情報を取り入れて暮らしてるじゃないですか。間違ったくだらない情報を入れて頭を笑わせるのが喜びなんですよね。みんなも明日のアーを見て頭を笑わせましょう。

インタビュー(司会進行)・文/張江浩司