左:居島一平 右:清水宏
欧米などを中心に主力のお笑いコンテンツとなっているスタンダップコメディ。日本でも広めるべく活動している日本スタンダップコメディ協会の公演『松之丞&居島参戦!スタンダップコメディ年末決戦〜型破り五人男』が年末、紀伊國屋ホールにて上演される。今回は、協会外部から講談師の神田松之丞、漫才コンビ米粒写経の居島一平の2人を迎え、型破り五人男として催される。協会会長の清水と、スタンダップコメディに挑む居島に意気込みを聞いた。
――いろいろなジャンルのお笑いがありますが、清水さんの考えるスタンダップコメディとはどういうものなのでしょうか?
清水「テレビなどのメディアでは突っ込まないようなところを突っ込んでいきますね。忖度がない! 忖度だらけの現代日本で忖度なくやります。眉をしかめたり、ちょっと待てよ、というリアクションがあってもやります。日本のお笑いって、難しいこと言うなよ、という風潮ってあると思うんですが、難しいことも言います。ポリシーのある笑いですね。新しい笑いだと思いますし、世界に通じるものだと考えています。もちろん日本ローカルのネタもありますが、基本的にどんな国でも通じるものですね。あとは、自分が言うことをより明確にすることですね。あいまいにしないことで、より緊張のあるコメディシーンになっていると思います。そういうヒリヒリした感じ…ほかでは言わないようなモヤモヤしたものを、スカッとしたいならぜひ来てみてください。なので、大人の方に来ていただきたいですね」
――大人だからこそわかる笑い、なんですね。
清水「若い人にもわかりますよ。わかるんですけど、芸能って大体若者向けに作られているんです。でも大人向けのものを作っていて、そこに興味があって追っかけてきてくれる人に来てほしいですね、若い人も。こういうのわかんねーよ、って人は、何年か頑張ってからまた来てください(笑)。そういう意欲のある人に来てほしいですね」――大人が本気で面白がっていることを、若い人が「あれ、なんか面白そう」ってっ興味を持つような感じですね。居島さんはスタンダップコメディにどんなイメージをお持ちですか?
居島「僕の中では、ここまではこう、というようなジャンル分けはそんなにしていないんですけど…横にいる奴に気を使わなくていい(笑)。僕は漫才もやっていて、息の合い方なんかは手前味噌ですけど熟してきたなぁ、なんて思うこともあって。一方で気を使ってもいるわけです。一人でやると、そのリミットが外れますからね(笑)。ただただ、突撃精神。ですから、ちょっと思想性の強いものになるんだと思います。スタイルにおいて戦闘的な漫談、というのが僕の中イメージですね。何か特定のものにケンカを売るわけじゃなく、自分の中で落とし込めないモヤモヤしたものを言葉にして、共感を強制するというか(笑)。“これ、どーですか、お客さん!おかしくないか!?”ってね。そういうのは全部、清水さんの背中から学んだことですけどね。清水さんはずっと戦っている方なんで。ハードな話題じゃなくても、清水さんが喋っているとおかしいんですよ(笑)」
――“ずっと戦っている”という言葉が出ましたが、居島さんからみた清水さんの印象ってどんなものですか?
居島「清水さんって、大舞台に強い方。日比谷野音やサザンシアターをひとりで埋めて、またそういう舞台が異様に映える方なんです。でも、そこで延々と銀行に行った時の話とかをしているわけですよ(笑)。なんだこれは、と。でもそれがおかしくて。そういうのは絶対に地上波では観られないですよね。ちゃんとつかみは絶妙にあって、でもどんな時でもモメる方なので(笑)。どんな時でも常に何かを脅かしているんです。そのモメる理由がちゃんと必然的にあるんだよ、っていうのを全身全霊でもがくように、お客さんをねじ伏せて納得させる。そういうのを袖で見ていたいっていうのはあります。楽しいな、面白いな、と思っているんだけどジリジリとケツを焙られているような感じなんだけどね(笑)」
清水「いや、光栄だね。そっくりその言葉、お返ししたいけど(笑)。でも、今回でこの企画は5回目になるんだけど…一番、波風が立つよこの人は(笑)」――では、清水さんからみた居島さんの印象もお聞かせください
清水「年齢的には後輩なんですけど、すごく博学で。僕は演劇の出身で、芸人さんをすごくリスペクトしているんです。笑いに少しコンプレックスがあって。で、この人の普通じゃないところは、これまでのやり方でやらない人なところ。格闘するという言い方をするとアレなんだけど、何かに取り組んでいる。今の芸人さんがまったくやらないようなことを、次々に切り拓いているんですよね。怒りも、本気で怒りますからね、この人。僕もまぁ、よく怒りますけど、その僕が“一平、もうやめとこうよ”って言いだすくらいには(笑)」
――今回、居島さんに出演してもらうのも、そういうところに理由がありそうですね
清水「スタンダップコメディは、人が喋っている途中に割り込んじゃいけないんです。それは反則なんですね。その人が喋っている時間は、誰もタッチできない。そこに立っている居島一平という人間を見てみたいんですよね。譲らない男なんですよ(笑)。ライブで知り合ってすごく長い付き合いなんですが、礼儀正しいんですけど、そこ譲らないかねぇ?って言うところを譲らない。そういう人間の他で出せない部分をぶつけてほしいし、お客さんも元気が出る人がいっぱいいると思うんですよ。荒れますよ、場が(笑)。そのあとがやりにくいんですよ。自分が昔、あいつの後はやりにくいな、なんて言われていたんですが、今はその気持ちわかります。一平のあとはやりにくいですから(笑)。絶対に面白いですよ」
居島「そんなの言われた後なら、僕がやりにくいですよ(笑)。でも今回は清水さんや僕を含めて5人、いろいろな分野の方が出演されますけど、他流試合の面白さですよね。清水さんはご出身が演劇で、ご本人が意識していなくても出てしまうものだと思うんですよね。ぜんじろうさんはなんやかんや言いながら吉本、大阪という看板を背負っていますし、神田松之丞くんなら講談という伝統芸を背負っている。ラサール石井さんはメジャーのありとあらゆるものをご存知なのにこういう場に出てくるっていうのがすごいですよね」清水「いやぁ、それを袖で見ていたいね。僕自身が楽しみでしょうがないですよ。あの人が先にこれ言ったから、ネタを変えなきゃ、とかそういうのを含めての楽しさですね。トータルで楽しんでほしいですね。こんなふうに大声で笑っていいんだ、という会場にしてみせますよ」
居島「僕は個人的には紀伊國屋ホールでやるということもすごく大きいですね。高田文夫さんが以前、演芸人の甲子園なんて表現をされていましたが、いろいろな方が舞台に立って、それに撃ち抜かれてきた身としては特別な想いがあります。歴史を作ってきたライブの場に立たせてもらえるありがたさはありますね」
清水「一平が立った後に紀伊國屋ホールが残っているかどうかですよね。焼け野原になっているか…」
居島「いくらなんでもそこまでキナ臭くないですよ!」
――(笑)。いろいろなバックボーンの方が、同じスタンダップコメディというフィールドに立つことも今回の面白さですね。
清水「一平に限らず、自分がどこにいるのかというエネルギーがスタンダップコメディだという部分はありますね。今までにないメンバー、今までにないエリアを広げていきたいし、そういう人がまだまだいるんじゃないかと思っています。そうやって広げていかないと、スタンダップコメディの未来はないね。カタい言い方になっちゃうけど、アメリカで公民権運動が起こって、マイノリティの人が喋っていく、自分の居場所を作るために意見を言うというところに重なってくるんです。だから、アメリカでのスタンダップコメディの地位は高くて、大統領の演説だってその要素があるんですよね。“伝える”っていうことは、こういうことなんだ!ってなりますね。話題なんだっていいんです。“俺は塩ラーメンしか食わないんだ!”ってのを延々20分でも(笑)。いっぱい語ることありますからね」居島「会場で見ていてもちょっと違う感覚なんですよ。普通のお笑いとか演劇とかって、一定のお約束とか予想できる部分ってあるじゃないですか。例えば僕は落語が好きなんですけど、スジももうわかっていて、何度も聴いてるからどこでどういうくすぐりが入るかもわかってきてて、それでも“いやぁいい酒飲ませてもらいました…”って感動があるんです。でも、スタンダップコメディって、徹底的にアポ無し(笑)。なんかいきなり、予想しないところから絡まれる(笑)」
――予測不能の面白さがあるわけですね
居島「以前、清水さんがイギリス・エジンバラの演劇祭で、英語でスタンダップコメディに挑んだことがあるんですけど、その時のエピソードをお話されていたんですね。それって清水さんの、すごく個人的な体験談なわけです。どんだけ汗まみれになって、どんだけウケないでひどい目にあったか、みたいな。そんな話を延々としていたら、女性のお客さんが泣いていたりするわけですよ。いやいや、待ておかしいぞ、泣くことはないだろう、って(笑)。でも、そうなっちゃう不思議な空間があるんです」――極めて個人的なことが会場じゅうの共感になっていくんですね。
清水「そう! 個人的なことがパブリックになる。みんなの個人的なことになる、という言い方でもいいかもしれません」
――個人的なことを露わにする場だからこそ、その人の背負っているものや人間力のようなものが試されるのかもしれませんね。先ほど、居島さんの目からみたそれぞれの出演者が背負っているものをお聞きしましたが、居島さん自身は何を背負って臨みますか?
居島「個人的なことですが、先日事務所が変わったんです。拾ってくれたワタナベエンターテインメントにはすごく感謝していますし、今後ここでしっかり頑張っていきたいと思っていますが、やっぱり今までオフィス北野でやってきたこともあるんです。辞めたくて辞めたわけじゃないし、僕はたけしさんの直弟子ではないですし、浅草キッドさんを通じて横入りしたような形ですけど…。ビートたけしのたけしイズムは、少しでも引き継いでいきたい。お前に何か渡した覚えも託した覚えもないよ、と言われても、有形無形の何かが絶対に僕の中に形作られているんです。僕は売れていないですけど、面白くないとは言わせない。そういう滾るような想いはあります」
清水「一平をはじめ、素晴らしい面々がそろいました。彼らがスタンダップのステージに立つ姿をいろんな人に見てもらいたいと思っています。自分に持っていないものをたくさん持っていて、ああ、いいなぁと思っています。でも、負けたくない(笑)。でも見てほしいんですよね」
居島「きれいごとを言うようですけど、清水さんがドッカンドッカン笑わせているのを見てると、快感なんですよ。同じステージに立つ者として、後輩から言うのは失礼かもしれませんが戦友じゃないですか。その戦友がお客さんをねじ伏せていると思ったら、痛快なんですよ。でも芸人として、負けたくない気持ちもある」
――そういう熱い想いがあふれまくっている姿を見て、涙する女性も現れるわけですね(笑)
居島「いや、泣く必要はありませんから! 妨げはしませんけど(笑)」
清水「総力戦ですからね。精神的にも、物理的にも会場の後ろのほうまでお邪魔しますから、ぜひ楽しんでください」
取材・文/宮崎新之
「お気に入り登録」して最新情報を手に入れよう!
日本スタンダップコメディ協会