
9月5日(金)から12月20日(土)まで、石川県内各地で舞台芸術に触れることのできる「いしかわ舞台芸術祭2025」が開催される。朗読劇、ストレートプレイ、ミュージカルなどさまざまな演目が並び、中には劇場全体を使った謎解きも。アンバサダーに梅津瑞樹を迎えたこの芸術祭が目指すところについて、また「謎解き『バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア』~失われた市民の声(レジスタンス)~」について、ディレクターである荒川ヒロキに話を聞いた。
──昨年からスタートした「いしかわ舞台芸術祭」ですが、この芸術祭が生まれた経緯は?
荒川 毎年都道府県が持ち回りでやっている国民文化祭というものがありまして、2023年が石川県での開催でした。それをきっかけに、引き続き石川県でエンタメに特化した舞台芸術祭を行おうと開催したのが昨年の第1回です。最初は準備期間も短かったので、元々開催時期に上演予定だった劇団四季さんの公演や山里亮太さんのイベントに声をかけてプログラムの一部としてご協力いただきました。
──今年は新たに「公開記者会見」を行うそうですね
荒川 昨年、1年目のいしかわ舞台芸術祭で「公開ケイコ!」というイベントを行いました。10分の作品の読み合わせから立ち稽古、テクニカルの調整もして本番までをお客さまの目の前で行うというものです。台本もお客さまにお渡しした上で、舞台を作る過程を全部観ていただく。それが思った以上に好評で、やる側もお客さまも演劇好きが集まっているんだなと感じました。だから今回は記者会見にも参加していただいて、より前の段階からお客さまを巻き込んでみようと。
──今年のいしかわ舞台芸術祭2025の目玉となる公演の一つが、「謎解き『バック・トゥ・ザ・バックステージオンファイア』~失われた市民の声(レジスタンス)~」だと思います。この演目のベースとなるライブストリーミング演劇「バックステージオンファイア」を2022年に上演した経緯からお聞かせください
荒川 元々は、コロナ禍で劇場に人が集まれなかった時に企画したプロジェクトです。演劇人には「2時間の作品を一気に上演する」という能力がある。自分は普段、舞台作品の映像の仕事をしていますから、こまつ芸術劇場うらら(現・團十郎芸術劇場うらら)の劇場全体を使って2時間の芝居をカメラ一台で追いかけるというのをやってみたら、劇場に人が来られなくても演劇人にとって新しい仕事の一つになるのではないかと思って作りました。
──その「バックステージオンファイア」で、作中に登場した劇場の様々な場所を実際に巡りながら謎解きをしていくという試みですね
荒川 これも「公開ケイコ!」「公開記者会見」と同じ発想で、お客さまに奈落や楽屋といったふだん見られないところを巡ってほしいなと思ったんです。最初は見学ツアーを考えていましたが、ゲーム感覚で自由に回ってもらいたくて、謎解きにしました。聖地巡礼的な感覚で楽しんでもらえたらと。「バックステージオンファイア」を観たことのない方のために、期間限定でYouTube配信もしています。
──「バックステージオンファイア」の主演も務めた梅津瑞樹さんが、芸術祭のアンバサダーに就任されましたね
荒川 梅津くんってすごく面白くてヘンな人なんです。演劇がすごく好きで、初めてお会いしてから3年経つのにいまだにわからない部分がたくさんある。噛んでも噛んでも味がする、奥深い人。そんな梅津くんを見ていたら、今回の芸術祭のテーマである「人間はおもしろい説。」ができたんです。だから、ぜひ梅津くんに初代アンバサダーをやっていただきたいと。
─梅津さんの存在が今年のテーマにも関わっていたとは。2年目にして進化を遂げている「いしかわ舞台芸術祭」ですが、今後の目標を教えてください
荒川 僕は十数年前、石川県の劇場に人を呼びたいと思った時にまず山里亮太さんに声をかけたんです。最初はスケジュールの兼ね合いもあって難しかったんですが、何年か経った頃、たまたまスケジュールが空いたことをきっかけに石川県に来てくれて、そこから山里さんの公演は恒例になりました。そうやって「とりあえず思いついたことは言ってみる」をやっていたら、いろんなことがやれるようになっている。だから言うだけ言ってみようと思って、今の目標は「目指せフジロック」ですね。芸術祭を自立させて継続していく。全国から舞台芸術祭をめざしてたくさんの人が石川県を訪れるような催しにできたらと。もちろん、地元・石川県の人たちにも集まっていただきたいです。もう一つは「目指せエディンバラ(演劇祭)」。いずれは世界中から人が集まるような場所になればと思っています。
取材・文/釣木文恵
プロフィール:
荒川ヒロキ(あらかわひろき)
石川県生まれ。劇団主宰を経て独学で映像制作を始める。
ライブスペクタクル「NARUTO」、ミュージカル「黒執事」などの数多くの舞台作品で演出映像を手掛ける。