創立45周年記念 鼓童 浅草公演2026「遥かー」|平田裕貴×小川蓮菜 インタビュー

今年で創立45周年を迎えた太鼓芸能集団・鼓童。これを記念した『鼓童ワン・アース・ツアー2026』に続き、6月24日(水)より東京・浅草公会堂にて『遥か-』が幕を開ける。

この公演のテーマは、“祝福”──。個々のメンバーに光を当て、明るい鼓童を届けたいのだと演出の平田裕貴は口にする。そこにはどのような意図があるのか。浅草公演を皮切りにツアーにも参加する小川蓮菜は、鼓童の“いま”が感じられるものになるはずだと語る。それはどんな理由からか。ふたりに話を聞いた。

──『鼓童ワン・アース・ツアー2026』に続くかたちで『遥か-』が浅草にて幕を開けます。これはどのような公演なのですか?

平田:一言で言うと、とにかく明るい鼓童をお届けする公演です。鼓童といえば、ストイックに太鼓を打ち続ける集団だという印象をお持ちの方も多いと思うのですが、じつはそれだけじゃありません。メンバーの誰もが底抜けの明るさを持っています。この公演の演出を担当する僕としては、みんなのそういった部分に光を当てた作品を作ってみたいと思いました。とはいえもちろん、ストイックな側面があるのは間違いないんですけどね(笑)。

小川:創作の初期の段階からずっと裕貴さんは、「ありのままでいてほしい」と言っていますよね。たしかに鼓童はメンバーの誰もがすごくエネルギッシュで明るい。そんなみんなの魅力が詰め込まれた公演になるのではないかと思っています。鼓童の45年をすべて詰め込むことはできないけれど、これからも続いていく鼓童の歴史の中の“いま”を感じていただけるはずです。それからこの公演は、女性の出演者が私を含めて3人だけで、ツアーに参加して各地を回るのは私だけです。女性の演者としてどういうポジションを築いていくかばかり考えてしまうのですが、女性としてではなく、小川蓮菜というひとりの人間として参加するのを求められていると、裕貴さんの演出からは感じます。だから本当に、ありのままでいることを大切にしたいですね。

──個々のメンバーにフォーカスする公演とのことですが、具体的にどういうふうに作品として立ち上げていくのでしょう

平田:公演を観たあと、一人ひとりのメンバーの顔を思い出さずにはいられないような、そんな作品にしたいと思っています。だから個々の個性が際立つようなシーン構成とキャスティングにしていますし、稽古時にメンバーから出たアイデアを採用することもありますね。「え、本当にこれでいいの?」という反応が生まれることもあるのですが、こちらとしてはそういうものこそ積極的に取り入れていきたい。あまり抑制的にならないように気をつけています。

小川:裕貴さんが演出だからこそ、個々のメンバーから生まれるものがある。そんな気がしています。裕貴さんって、メンバーとの距離がいい意味で近いんですよ。風通しがよくて、みんな素の部分を出しやすいんじゃないかな。一人ひとりの旨みが各シーンに出ているのを感じます。

──『遥か-』もまた鼓童の創立45周年を記念したものですが、『鼓童ワン・アース・ツアー2026』などとはどういう違いがあるのでしょうか?

平田:『鼓童ワン・アース・ツアー2026』は、鼓童が持つ45年という歴史の文脈を重んじたもので、それに沿った選曲や演出になっています。ある種、クラシック的というか、渋みのある公演ですね。衣装も伝統的なスタイルですし。いっぽう、『遥か-』は“祝福”をテーマに掲げていて、ストーリー仕立てで創作要素が強い。これが大きな違いですね。

小川:鼓童の伝統を受け継ぎながらも、新しいものを作っている感覚が強くあります。これまでの鼓童の歩みが感じられるのと同時に、進化も感じられると思います。「いつもの鼓童だ」というよりは、いまの私たちが作る新しい鼓童に出会っていただけるのではないかと。それに私としては、言葉を使わない自己紹介のようなものだとも思っています。

平田:いつもの鼓童かと思いきや、蓋を開けてみたら圧倒的な新しさがある。そんな公演にできたらいいですね。

──伊勢大神楽を取り入れた演目もあるそうですね。

平田:そうなんです。鼓童では15年ほど前に伊勢大神楽を基にした演目を上演していて、当時まだ中学生だった僕は、これがずっと強く印象に残っています。そして鼓童に入団してからは、いつかトライしてみたいという思いを持ち続けてきました。そんな気持ちがより大きくなっていた2023年のツアー中に、メンバーが伊勢大神楽の社中の方と喫茶店で出会うという奇跡が起きました。いま振り返ってみても、すごいことですよね。運命を感じるというか。浅草で幕を開ける本公演の演出イメージを考えはじめたときに、このご縁の力をお借りしたいと思いました。伊勢大神楽を新演目のひとつの象徴的なものとして、作品を作ろうと。そこから“祝福”というテーマが生まれ、『遥か-』という作品にまで発展しました。

小川:演者同士が肩車を組むシーンがあるのですが、すごいんですよ。鼓童はある意味で家族よりも濃い時間を過ごしていて、互いに固い信頼関係を築いています。そんな中でも、このパートを担うふたりの関係性には強固な信頼関係があるのを肌で感じています。

平田:幼馴染みなんですよね。

小川:小さい頃からずっと一緒だそうです。稽古の様子を見ているだけで、とても感動しますね。うまくいかないときでも、いつもふたりは手を取り合っているんです。

平田:話が飛躍してしまいますが、あのふたりが放つ空気感が、この作品の持つテーマと最終的につながると感じています。この世には多種多様な人々が生きていて、理想の世界を築き上げるためには、みんなが手を取り合うしかない。『遥か-』にはそういうメッセージが込められています。ふたりの信頼関係に触れたとき、このメッセージをダイレクトに感じ取っていただけると思います。

──作品のテーマやコンセプトは、いつも言葉で共有されるのですか。それとも、身体を動かしながら、感覚的なレベルで共有し合っていくのでしょうか

小川:結論から言うと、どっちもです。言葉にしなければ分からないことがありますし、実際にやってみなきゃ分からないこともある。やってみたほうが早い、ということもありますしね。

平田:演出の立場から言うと、今回の作品はとくに、言葉ありきなところがあります。演出家によっては、作品をストーリー仕立てにすることがあれば、音楽の構成とそこから生まれる解釈を重要視することもあります。この『遥か-』の場合はストーリーがあって、各シーンごとに演奏がある。それぞれのシーンの意図を説明しなければならないので、どうしても言葉が必要になってきます。

小川:でも裕貴さんも、言葉と感覚の両方で伝えようとしていると思いますよ。みんなに同じ言葉を使うのではなくて、それぞれが腑に落ちるような、一人ひとりに合った言葉を投げかけてくれていますから。

平田:僕が演出する作品はストーリー仕立てになることが多いので、必然的にこうなるんでしょうね。『遥か-』はベートーヴェンの交響曲第9番「歓喜の歌」をモチーフにしているのですが、ここにどんな想いを込めているのかは言葉で伝えなくちゃならないし、これを音に乗せていくためには、日々みんなで培ってきた信頼関係と鋭い感覚が大切になってきます。

──ストーリーのある作品とそうでない作品だと、演者の方々の取り組み方は変わってくるのでしょうか?

小川:最終的なゴールは同じですが、心持ちは変わってきますね。自分の個性を押し出すのか、それとも抑えるのか。ストーリーの有無によってもそうですが、作品ごとに求められるものは違います。舞台上での自分という存在の在り方を、作品ごとにチューニングしている感じですね。

平田:ストーリーがあるといっても、大切なのは物語そのものではありません。観客のみなさんに届けたいのは、鼓童の音や精神性の部分ですから。

──とても興味深いお話です。おふたりは舞台に立つにあたって、日頃から意識されていることはありますか。それと、舞台上でどんなことを考えているのかが気になります

小川:私は鼓童ファンのみなさんから、「すごいね」とよく言っていただきます。とっても嬉しいし、励みになります。でもそのいっぽうで、みなさんの目に映る“小川蓮菜像”に、私自身が囚われてしまうこともあるんです。舞台上に立つ“小川蓮菜像”は、私が鼓童に入る前から憧れ続けてきたもの。でもこれは鼓童のメンバーとして舞台に立つために作り上げたもので、普段の私とは違います。今回の『遥か-』もそうですが、私が私であることを求められる機会が増えてきました。つい“鼓童の女性メンバー”であることばかり意識してしまい、凛とした女性でいることを自分に課してしまうのですが、もっと自分らしくあっていい。自分を縛っていたのは私自身だったのだと少し前に気がついて、いまはもっと素直に自分のやりたいことをやっていこうという気持ちでいます。けっこうネガティブな性格で、どうしてもいろいろと考え込んじゃうんですよ(笑)。

──『遥か-』のステージに立つ小川さんと、早く出会いたいです。平田さんはどうでしょうか?

平田:僕は演奏だけでなく、演出のポジションに就くことも多いので、この立場や視点から生まれる意識を大切にしています。作品の種になるものは、僕らの日常にいくらでも転がっています。重要なのは、それらを見逃さないこと。たとえばほら、このペットボトルを見てください。中で水面が揺れていますが、これだってモチーフになり得ますし、ここからいくらでも曲やシーンを立ち上げることができます。こういう意識が働くようになったのは、やはり演出をするようになってからですね。僕には1歳の娘がいるのですが、彼女がはじめて歩いたとき、とても感動しました。あの感動なども、大きな創作源になるはずです。昨年、祖父が亡くなったのですが、そのときに考えていたことから生まれたシーンが、今回の『遥か-』にはあります。いまこうして生きている自分のすべてが、作品になり得る。鼓童が生み出す音や風景として、還元していけたらいいですね。

取材・文/折田侑駿