『WASABEATS featuring Love Junx』植木豪×千葉涼平 対談「伝えたいのは『こんなに踊れるんだね』ではない」

左:植木豪 右:千葉涼平

8/25(火)から8/30(日)まで、神奈川・横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールにて、植木豪(PaniCrew)演出の『WASABEATS』シリーズ最新作『WASABEATS featuring Love Junx』が上演される。

『WASABEATS』とは、世界一のタイトルをとったダンサー達が集結し、超人的なパフォーマンスと植木豪による演出で2014年から上演されているダンススペクタクルショー。2018年には『BREAK FREE presented by WASABEATS』として、世界最大の演劇祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」にて1カ月のロングラン公演も行い、THE ASIAN ARTS AWARDの「BEST PERFORMANCE」を受賞するなど、世界的に評価されている。

今回も、2014年から2016年まで主演を務めた千葉涼平(w-inds.)を主演に迎えるほか、日本最大規模のストリートダンスコンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT」の優勝グループ「Beat Buddy Boi」のToyotaka、RYO、『BREAK FREE presented by WASABEATS』にも出演したHILOMU、GeN、「Cirque de Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)」ラスベガス公演に出演歴のあるDolton、「Cirque de Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)」日本人初となるブレイクダンサーとして正式契約したKENTAら、国内外で活躍する実力派ダンサーが集結。世界初のダウン症のある方々による本格的なエンタテイメントスクール“Love Junx”とのコラボレーションで、ステージをつくりあげる。

今作について植木と千葉に話を聞いた。


――なぜ今回、Love Junxとコラボレーションをすることになったのでしょうか?

植木「彼らと出会って感じた、“ダンスへの純粋な気持ち”は、いつか伝えたいとずっと思っていました。『一緒にステージをつくろう』という話も以前からあったのですが、自分に彼らを表現できるのだろうかというところで考えていて。でも今が一番いいタイミングかなと思いました」


――なぜ今がいいタイミングだったのでしょうか。

植木「そもそも僕はずっと、世界中で楽しんでもらえる“日本で一番すごい舞台”をやりたかったんです。だから『WASABEATS』を始めるときに“世界一”のタイトルを持つダンサーを集めましたし、それでずっとやってきた。一昨年、世界最大の演劇祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」にてTHE ASIAN ARTS AWARDの『BEST PERFORMANCE』を受賞できたので、じゃあ次の新しいことをしたいなと思って」


――世界レベルで評価されるステージをつくることができた今なら、Love Junxとコラボできると思われたんですね。

植木「そういうことです」――ちなみに『WASABEATS』では毎回千葉さんが主演ですが、相棒のような存在なのですか?

植木「いや、先輩です! なぜなら涼平くんはもともと世界で活躍している人ですから。ずっとおんぶにだっこで引っ張ってもらってますし」

千葉「そんなことは全くないです」

植木「僕は涼平くんに『もっと力つけるから!』と言い続けていたんですよ」

千葉「本当にずっとおっしゃってましたね」

植木「だから相棒ではなく、人生の先輩です!」

千葉「(笑)。何を言ってるんですか」

 

――信頼できる仲間ってことでしょうか。

植木「そうですね。王子なんですけど………私生活から」


――私生活から!?

千葉「(笑)」

植木「僕みたいに『オラ~』みたいなことないですからね」

千葉「いや、豪さんもなくないですか?(笑)」

植木「心の中で、負けるか!みたいなことはあるよ。涼平くんってそういうとこないよね」

千葉「ああ~、ないですね。そう思う相手は“自分”って感じです。だから自分のやってきたことが本番で出たら嬉しいけど、出なくてイライラしちゃうことはあります」

植木「そういうこともあるんだ?」

千葉「はい、家に帰ってからですけどね」


――千葉さんは4年ぶりに『WASABEATS』に出演することになっていかがですか?

千葉「まず、久しぶりにやれることがすごくうれしいです。ずっと待ってたので」


――待ってたんですね。

千葉「はい。ただ、その待ってる間に自分ももっと力をつけなきゃとか、レベルを上げなきゃっていう思いがありました」

植木「しっかり上がってましたよ!」

千葉「(笑)。それと今回、Love Junxのみんなと一緒にできるのが、新しい試みだなと思っています。作品では、ダウン症のある子がダンサーを夢見るというストーリーが描かれるのですが、それを実際にがんばっている張本人たちが演じるというのは聞いたことがないですし、Love Junxのみんなにとっても、僕らにとってもチャレンジになると思っています」――つくり方は変わりますか?

植木「そこは“なぜLove Junxを『WASABEATS』に入れるのか”というところにも繋がると思うのですが、僕が選んだメンバーとLove Junxの共通点は、ダンスをきちんと愛している、っていうことなんです」


――このステージの軸が「技を見せる」よりも「ダンスの魅力を伝える」だということでしょうか?

植木「そう! そもそも伝えたいのは『ダウン症の子ってこんなに踊れるんだね』ってことではないですし。実際、医学的に見れば、本来は筋肉の力が弱いので激しい運動は推奨されていないくらいで。でも彼らは、僕らもビックリするような技をやるんですけどね」

千葉「昨日もすごかったです。ダンスにも、メンタル的にスイッチが必要な技というのがあるんですけど、そういうのもすぐやっていましたよね」

植木「なんならGeNのほうがビビってたからね」

千葉「(笑)」


――ダンスをやってきた方が植木さんや千葉さんと一緒に踊るってうれしいでしょうね。

植木「昨日は(Love Junxの嘉藤)聡くんからメールが来てました。『がんばります。涼平くんに会えてうれしかったです』って」

千葉「ふふっ」


――この『WASABEATS』は植木さんが構成・演出を手掛けるシリーズですが、そもそも普段、ダンスをやられる方にインタビューをすると、よく植木さんの話題が出ます。皆さん「尊敬している」っておっしゃるんですよ。千葉さんもこの作品のコメントで「尊敬する植木豪さん」と書かれていましたが、その理由をお聞かせください。

千葉「大前提として、豪さんはダンス界の先駆者のような方なんです。日本のブレイクダンスシーンが世界に届いてない頃に、豪さんが所属しているダンスチーム(※)が世界を驚かせた」

※The Spartanic Rockers/日本人としてはじめて、ブレイクダンスの世界大会で優勝した


――日本人がダンスで世界一ですからね。

千葉「僕らはそれを映像で観ている世代なんですけど、当時はやっぱりアメリカがすごかった時代で。そのアメリカのカリスマみたいな人とやり合って、勝ったわけで。驚愕ですよね。そういう歴史をつくった方なんです」


――そんな植木さんが演出を手掛ける舞台に何度も参加してどう感じていますか?

千葉「演出家としての豪さんって、人のいい部分をさらに一段階上げて出すのがすごく……生意気なんですけど、上手な方だなって」

植木「生意気じゃないよ!」

千葉「それは『WASABEATS』でご一緒してきて感じていることです。ストロングポイントをさらにすごく見せるそのアイデアもすごいし、同時に人間性も尊敬できる方なので。僕は『WASABEATS』の初演が、初めて“舞台”というものに出た次の年で、実質2回目だったんですけど、不安だし、緊張だし、プレッシャーだしで、毎日、吐きそうなくらいだったんです」

植木「(笑)」

千葉「でも、豪さんがいつも『涼平くんはそのままで大丈夫』って言ってくださる。『とはいえ…』みたいな気持ちはあるんですけど、『今までやってきたことを見せてくれればいいから』『いいところを知ってるから、それを出して』って。そういう言葉にも安心させられました。僕だけじゃなくて、他のメンバーもそうだと思いますよ」

植木「でも涼平くんって、振りを教えると想像を超えてくるんですよ。だから『これであってた!』と思える。涼平くんが見せてくれるものに、僕が助けられているんです」


――植木さんにとっては『WASABEATS』の活動はどんなものなのでしょうか?

植木「世界に日本のダンサーのすごさ、そしてこんなになにか一つのものを愛している人たちがいるんだってことを伝えていくためのツールですね。まず涼平くんみたいに技ができるアーティストも世界にいないですし、それ以外にも日本には素晴らしいダンサーたちがいますから」

 

インタビュー・文/中川實穂