おとなもこどもも一緒に踊れる“体感型”キッズ・プログラム『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』

撮影:大洞博靖

ダンサー・振付家 北村明子×現代美術家 大小島真木
「夏休み」をテーマにしたダンス作品、待望の再演!

KAAT キッズ・プログラム 2022は、2021年7月に上演された『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』の再演で幕を開ける。
本作は、コンテンポラリーダンス界で常に新たな表現に挑戦し続けるダンサー・振付家 北村明子と、現代美術家 大小島真木という、2人のコラボレーションから生み出されたダンス作品で、北村にとっては初めてのキッズ・プログラムの演出となった。
2021年4月に芸術監督に就任した長塚圭史は、KAATが“常に考える場、豊かな発想を生み出す場となること”を目指し、ジャンルを横断したアーティストの交流を大切にしている。2016年に白井晃前芸術監督が始め、長塚が引き継いだ KAAT EXHIBITION(劇場空間と現代美術の融合による新しい表現を生み出す企画シリーズ)もその取り組みの1つで、そこから生まれた現代美術家と劇場の関係性は、他のプロジェクトへも広がっている。それが、自然や生き物をモチーフに身体や生命について訴えかえける作品を多く手掛けている、新進気鋭の美術家・大小島真木と北村の出会いとなった。北村が大小島作品を観て「一目ぼれした」と話すように、大小島とは共鳴しあう部分も多く、二人の対話から生まれたのが、本作『ククノチ テクテク マナツノ ボウケン』だ。

北村が構築する身体表現と世界観、大小島の独創性溢れる舞台美術と映像、長年北村作品で音楽を担当する横山裕章の音楽、そして個性豊かなダンサーたちによる、舞台空間、踊り、歌をぜひ、体感しよう。

“ボウケンきっぷ”を手に、さぁ、劇場にでかけよう!

今回、作品のテーマとなるのは「夏休み」。そして日本の「夏休み」には死者を迎え入れる「お盆」の時期が含まれている。「亡くなった人を想うこと」「生と死」「自然の中の身体」などをキーワードに、こどもたちが言語ではなく身体を通じて、生死や自然について新たな発見・体験ができる作品となった。また、初演時、好評となった公演と連動した関連ワークショップ(お面づくり体験・ダンスレッスン)も開催。ロビーで作ったお面は、まるでこれから体験する舞台の“ボウケンきっぷ”。観客の皆さんは、お面をつけて、開演前のダンスレッスンで覚えたダンスで、劇中のある重要なシーンに参加できる。本作を鑑賞後、こどももおとなも、それぞれ感じ取った思いを語り合い、死者と共にあること、またそうした文化について、考える機会にもなることを願っている。

撮影:大洞博靖

あらすじ

夏休み、どこにも行けず、ひとりぼっちの男の子。とある公園で遊んでいると森の精霊たちに出会い、不思議なボウケンの旅に出る。この世とあの世をつなぐボウケントンネルをくぐると、森の奥深くに木の神様ククノチが現れる。男の子はククノチから、生と死は遠いものではなく、亡くなった親しい人たちは自然に還っていくことを知る。森の儀式が繰り広げられ、やがて大好きだったおばあちゃんの姿が見えてくる・・・。

上演にあたって(演出家・美術家コメント)

振付・演出:北村明子

ククノチ テクテク マナツノ ボウケンがバージョンアップして帰ってきました!
このダンス作品は、古来より日本に伝わり、豊かな文化である祖先を弔う「お盆」をテーマと決め、クリエイションをスタートさせました。
キッズに真剣勝負を申し込む、そんな心づもりで、私が創作活動で長らく考え続けている死者とともにある生活文化や普段は見えない世界への創造と接続するダンスワールドを展開しました。そこでは、私たちの身体が持つ力、魅力、そして、その身体がなすダンスを捧げることが何であるかを問いかけていきます。ダンスとは躍動する身体の美しさ、楽しさだけではなく、過去・現在・未来を繋げていく肉体的精神的行為、祈り、生きているわたしたちの存在そのものでもあるのです。コンテンポラリーダンスは解釈が難しい・・・なんていっている間もないくらい、こどもたちは時には笑い、時には恐怖に慄きながら、最後は嬉々として踊り、冒険を楽しんでくれました。私も客席でお客さまと一緒になって、この世界への冒険に同行し、その身体感覚を共にすることがこの夏にも出来るのを楽しみにしています。
再演バージョンでは、鑑賞者のみなさんがより多くのシーンでダンスに参加する仕立てとなっています。ダンスは、生の儚さや死の悲しみや自然への畏怖、死生観にも触れていく思考の扉でもあるのです。ダンスの楽しさや奥深さを、ご家族でご一緒に体感していただければ幸いです。

美術:大小島真木

ククノチテクテク真夏の冒険。ククノチという木の神様に誘われるまま、テクテク、テクテク、日常から異界へ。あちら側とこちら側の狭間にある世界に行って、そしてまた戻ってくる、ひと夏の冒険の物語です。
主人公は精霊たちと共に深い森の道を進んでいき、そこでいるはずのない死者たちと出会います。会いたかった人、会えなくなってしまった人。伝えたかったこと、伝えきれなかったこと。死と生が混ざり合う場所で、主人公は死者たちと何を語らうのでしょうか。
目に見えていることが世界の全てではありません。それは決して比喩ではなくて、私たちは本当に目には見えないものたちによって生かされています。私たちの体にもたくさんの目に見えない菌がいます。私たちの足下にある土には数えきれないくらいの目には見えない命がうごめいています。
あちら側の世界から戻ってきたとき、主人公の暮らしている日常の世界は、これまでとは少し変わっているかもしれません。私たちを包み、生かしている、目には見えないたくさんの存在が、これまでより身近に感じられるようになっているはずです。そう、本当のところ、こちらの世界とあちらの世界はずっと繋がっていたんです。精霊たちはいつだって、私たちのすぐそばで、唄い、踊っています。