「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」という『三銃士』の名ゼリフそのままに、チームワークの良さ、絶妙なハーモニーに加え絶品の“ボケツッコミ”という稀有な武器をも持つ三人組、Mon STARS。2011年上演のミュージカル『三銃士』でタイトルロールを演じたことがきっかけで友情を育んだミュージカル界の名優たち、橋本さとし、石井一孝、岸祐二が結成したボーカル・ユニットだ。そのMon STARSが2015年の草月ホール、2016年のグローブ座(ほかに大阪、福岡公演)に続き、3度目のコンサートを2018年2月、Bunkamuraオーチャードホールにて行うことになった。今回のゲストは、まさに橋本、石井、岸が顔を揃えたミュージカル『三銃士』で主役のダルタニャンを演じていた井上芳雄を始め、中川晃教、小西遼生、壮一帆といったミュージカル界、演劇界の実力派たちが集結する。
このコンサートに合わせた初めてのミニアルバム『Lights and Shadows』の発売も決定し、2018年も快進撃を続けるMon STARSの3人、橋本、石井、岸に、意気込みをたっぷり語ってもらった。
――今回はどんなコンサートになりそうでしょうか。
岸「今回発売されるアルバムの曲を、全部やります。」
橋本「アルバムに入っているのは、これまでのコンサートで歌ってきた曲も多いんですが。」
石井「全6曲中、2曲だけ今まで歌ったことのない曲もあります。まあ、今回はアルバム発売記念ライブでもあるのでね。それじゃ、岸くん、曲目を紹介してください。」
岸「まずは、『Mon STARS のテーマ(The Theme Of Mon STARS)』。」
石井「これは、最初のMon STARSのコンサートの時に3人で書いたオリジナル曲です。」
橋本「それから『クリスタルの天使』という、ミュージカル『三銃士』で歌った曲。」
石井「これは、さとしさんがアトス役としてソロで歌っていた曲で、とりわけ人気のある曲なんですけど、実はこれまでCD化されていないんです。だから今回のCDに入っていることは、おそらくミュージカルファンにとってはものすごく意味のあることで。だって、あの歌詞で、さとしさんの声で聴けるというのは貴重なテイクですよ。最後に、シのフラットのロングトーンがあるんですが、これがまるで鳥のように高い声なんです。」
橋本「鳥!(笑)」
石井「もし、このロングトーン選手権が開催されたら世界3位には絶対に入ると思うな。」
――3位なんですね(笑)。
石井「なんせ、30秒は越えますからね。普通の人だったら5秒も伸びませんから。この超人技、鳥を越えた男がいかにすごいのかを聴いていただきたい。」
橋本「ははは。その“ちょうじん”は鳥人?」
岸「ダブルミーニングがきた(笑)。」
石井「気づいてなかったけど、俺、うまいね。」
橋本「でも確かに、このロングトーンっていうのは、見せ場であり、聞かせどころでもあるんですけど。ぶっちゃけ、ライブではどうなるかわかりません!」
岸「きっと、お客さんがたくさん入るとさらに伸びますよ。ヤバイです!」
――オーチャードホールにその声が、響き渡るということですね。
石井「もう、きっと渋谷じゅうに響き渡ります。」
一同「(笑)。」
橋本「だけどオーチャードって、イメージ的にクラシックとかバレエやオペラをやっているような会場なのに、そこで僕たちみたいなコントバンドがやれるなんてね。まあ、今回もロックもあれば、もちろんミュージカルナンバーもあるし、歌謡曲もあるし。」
石井「オリジナルの曲もあるし。ごちゃまぜです。」
橋本「オーチャードで今までやったことがないようなステージになるんじゃないかな。
石井「そして、岸くんのソロ曲としては。」
岸「『ブイ・ドイ』(『ミス・サイゴン』より)、ですね。」
石井「僕ら3人とも『ミス・サイゴン』経験者なので『ブイ・ドイ』は僕らにとっても愛する曲のひとつなんです。今回のアレンジはミュージカルで歌ったバージョンとも違うアプローチになるので、そこも楽しみにしていただきたい。」
岸「そうですね。真っ向勝負します。」
橋本「それと、カズのソロ曲としては。」
石井「実はそれぞれのソロ曲に残りのふたりがコーラスをつけるというコーナーがあるんですけど、過去2回のコンサートでは僕、コーラスをつけてもらえない曲を選んでしまって。」
岸「いや、そもそもそういう曲を選んでいるんでしょ。」
橋本「3人で何かをやろうってコンセプトのコーナーなのに、ガン無視ですからね(笑)。」
岸「ただ後ろにいてくれればいい、みたいなね。」
石井「1回目は『ジキル&ハイド』の『First Transformation』、変身する時の曲で。ここでは岸くんには“ビーカー”役になってもらおうと思ったんです。」
岸「ほら、コーラスがない曲を選んでるんじゃない。」
橋本「せめてね、ジキルとハイドなんだからそこを二役にしてくれてもいいのに、全部ひとりでやっちゃうから。
石井「だって“変身”する曲なんだから、ひとりでやらないと。」
――そうですね、確かにふたりでは“変身”したことにならないかも。
石井「いや、でもビーカー&ジキルとハイドだったら。」
橋本「うん、新しいかもね、いいじゃない!(笑)」
岸「なんだか、適当にしゃべってるなあ。」
石井「ビーカーじゃなく、フラスコでもいいよ。」
岸「もう、どっちでもいいですよ。」
橋本「なんならリトマス試験紙でもいい。しかも、なぜか黄色に変わっていくっていうね。」
石井「そこが一番の見どころになるんじゃない? 特殊効果でプロジェクションマッピングの光を身体に浴びせてもらえば?」
橋本「正直言うと、今の時点ではコンサートで具体的にどういうことをしようか、まだそんなに詰めてはいないんですよ。こういう取材の時に出た話が、実際にコンサートで使われることになることも。」
石井「結構、ありますねえ。」
――アイデア出しの場になってるんですね(笑)。
石井「なってます。そして話を戻しますと、そうやって2人にコーラスとして参加してもらえるソロ曲を思いつかなかったので。それで今回のアルバムではQUEENのカバー曲ということで『The Show Must Go On』を歌わせていただきました。」
岸「とはいえ、たいしてコーラスやってないけどね。」
橋本「俺たちは「ショーマストゴーオン~♪」という部分しかやってないから、ほぼ、彼ひとりが歌ってます。」
石井「いやいやいや、そんなこともないですよ。僕ら、ミュージカルや演劇をやっている3人ではありますけど、異常にハードロックとかへヴィメタル系が好きなんですね。そこを個性として出したいと思ったんです。それで「『ショーマストゴーオン』はどうだろう?」って2人に聞いたら「いいんじゃない?」って言ってくれたから。僕らのルーツはそこにある、という意味合いもあるしね。」
岸「まあ、そうですね。」
橋本「実は僕ら、ハードロックがすごい好きだと言いつつ、外国のミュージシャンのコピーというのはこれまで一曲もなかったので。キッスとかクイーンとかエアロスミスとか、そのへんを僕らはリスペクトしているわけですけど、なかでも『ショーマストゴーオン』はやっぱり舞台人の僕らにとってもピッタリな曲だし。」
石井「うんうん、そうなんだよね。」
橋本「カズの出しているアルバムの中にもクイーンの曲をアレンジして歌ってるのがあって、それを聴くと「こいつこそ日本で一番フレディに近い男なんじゃないか」と常々思うんですよ。」
石井「俺、本当にクイーンが大好きなので、こうしてMon STARSでCD化できたことは、非常にうれしいんです。ぜひオーチャードでは俺たちのアツいクイーンを聴いてください。岸くんは、ビーカー役かもしれませんけどね(笑)。」
――そこでもビーカー役なんですか(笑)。
岸「なんでー。」
橋本「じゃあ、せめて冠の役に。」
石井「王冠にしようか。
岸「あ、なるほどーって、バカヤロウ。」
一同「(笑)。」
岸「相変らず、雑なノリだなあ。」
橋本「アルバムには、あとどんな曲が入ってましたっけ?」
石井「『Bring Him Home』(『レ・ミゼラブル』より)は、過去2回のコンサートでも歌いましたけど、2人のバルジャンと1人のジャベール、この濃いぃ~3人が紡ぎ出す、慈愛の歌です。この曲もトリオでハモるということは、なかなかない機会なので、まさにMon STARSにしかできない空気になるのではないかと思います。」
橋本「『レ・ミゼラブル』という超大作の中でジャン・バルジャンが歌う、肝心な歌ですからね。僕ら、バルジャン役経験者としてはあの曲に対する思い入れも強いし、特別な緊張感もあるし。あの曲を歌っている時に見る景色というものも、いまだに心の中にあるくらいですから。いろいろなミュージカルを経験させてもらっているけど、やっぱりあれほど苦しんだ曲はないというくらいに、難しい。メロディーはキャッチーで、とても素敵な曲なんですけど。」
岸「ま、僕の場合は、袖から見ている景色が浮かぶわけですが(笑)。」
橋本「だけど、岸の声もやっぱり『Bring~』にピッタリなんですよ。僕ら3人で、あの曲をすごく敬愛しながら歌っていることは、お客様にもきっと伝わっている気がする。」
石井「そうだね。祐二は、東宝版の舞台ではジャベールをやってますけど。」
岸「別の機会で歌っていたので、この曲を歌ってる歴としてはたぶん一番長いと思うんですよ。」
石井「そうなんです。だけど、この3人って声質もアプローチの仕方もそれぞれ全然違うんですよ。だから同じメロディーをユニゾンで歌っても、3つの声がハッキリ違うのがわかるし、1+1+1が3ではなくて10くらいになっているようにも聞こえると思うんです。なにしろ、あの曲はメロディーをただ正しく歌っても何も面白くないですから。そこにメッセージとか、挫折とか改心、バルジャンが経験してきたものがこぼれ出ないと「ふーん、うまいねー」だけになってしまう。でも、さとしさんを始め、この3人は気持ちで歌うタイプなので。クラシック教育を受けた人がひとりもいないですしね。というか、さとしさんに至っては譜面を読んだことがないですから(笑)。」
橋本「俺、譜面を持ったことがないんですよ。」
石井「こんなミュージカル俳優、日本にひとりしかいませんよ。」
橋本「みんなが大きい譜面を持っている時、俺はひとりちっちゃい台本を持って歌っているので。」
石井「リーダーは耳がいいので、耳でメロディーを覚えて、台本の文字を読みながら歌うんです。だから、最初から感情を入れて歌える。そんな感じで、3人とも音楽関係者とはちょっとアプローチが違うというか。」
岸「その分、それぞれの言葉の説得力が違ってくるから。」
橋本「そうそう。岸は岸で、絶対音感というものを持っていて。」
石井「それで困っちゃうこともあるけど。」
――困っちゃうんですか?
橋本「岸が出した音を俺らは手掛かりにすることができるんだけど、カズから歌い出す曲が時々あるので。」
石井「「音が違います」っていつも先輩にダメ出しをするんですよ、この人。」
橋本「僕は、気づかずにカズに寄り添って歌ってしまうので。」
岸「そうなると、俺が間違ってるみたいになっちゃうから。」
橋本「それでいつも、首をひねってる(笑)。」
石井「違う音から入れないんですよ、彼は。」
――絶対音感があるから、それには合わせられない。
石井「そう。恋愛と同じくらいに不器用なんです。」
岸「うまい。なんだか普通にうまい。」
橋本「恋愛もまっすぐで不器用なんですよね。」
岸「いや、それは関係ないから。」
石井「そう、相手に合わせられないんですよ、岸くんは。」
岸「アナタのほうが、よっぽど合わせられないだろ。」
石井「いやいや、俺は合わせるよ。「キミの思うがままだよ」って。」
岸「どの口が言ってるんだ!」
橋本「ははは。カズは合わせるというよりも、気づかないで進んでいく。僕は合わせますよ、柔軟性あるんで。」
岸「そうですね、さとしさんはそうだと思います。って、なんで恋愛の話してるんですか。」
橋本「なにしろ『Bring~』は愛がテーマだし(笑)。いや、でも俺ら3人はホンマ、バラバラなんですよ。」
石井「バラジャンと言われてますから。」
橋本「時々、うまいこと言うな(笑)。だけどそのバラバラな個性が不思議と一致する時があって、その時の唯一無二の奇跡的なエネルギーが、Mon STARSのアルバムにもコンサートにも出てきていると思うんですよね。」
石井「それはやっぱり、さとしさんがリーダーとして真ん中にいるということが大きいんですよ。だからこそ祐二と俺は、さとしさんのことを本当に尊敬しているんです。」
岸「ついていけばいいんだって思えるので。3人いるっていうことで、バランスがとれているところもあるのかもしれない。そういう、奇跡的なユニットなのかなと思います。」
石井「で、その奇跡のユニットの新曲が、アルバムからご紹介する6曲目ですね。」
橋本「話が戻ったぞ、珍しく!(笑)」
石井「アルバムを作るのなら、そしてオーチャードでやるなら新曲を書こうということになり、僕がまず曲を書いて。今回は、ミドルバラードでお客様がペンライトを振ってくれるようなものにして、リーダーと祐二に「歌詞はどんな感じがいいかな」と相談したら、お客様と寄り添って歌えるようなイメージでふわっと出してくれたんです。そしてそのキーワードとテーマを持って、3人で森雪之丞さんにお会いして。」
橋本「おそれ多くも、歌詞を書いていただいた。」
石井「そして、いざ完成したタイトルが。」
橋本「『Lights and Shadows』。つまり、光と影。僕らって「こいつら、悩みのないオジサンたちやな」と思われがちだけど、いやいや俺らにも影はあるよと。やっぱり光があれば影もくっついてくるものですから。」
石井「岸くんは影のほうが多いですけれどね。」
岸「そうですね!……って、バカヤロウ。」
一同「(笑)。」
岸「どんどん雑なやりとりになってきたな(笑)。」
橋本「岸くんの場合は影も黄色なんですよ(笑)。というのは、イメージカラーがあって、僕がレッドで、カズがブルー、岸がイエロー。その三色もそれぞれ歌詞に入れてもらったりしたので。」
岸「とても素敵な。」
石井「すごくいい曲になりました。」
橋本「自画自賛ではないけど、すごい曲が生まれたかなって思う。なのでアルバムタイトルにも。」
岸「ホントに名曲ですよ。歌詞を読んでいただければわかるんですけど、役者としての僕らと観てくれるお客さんというか、愛する人たちとの関係を描いた内容になっているので。」
石井「だから、お客さんひとりひとりが「私のことを歌ってる」という風に思ってくれるんじゃないかな。」
岸「ちょっとエロいしね。」
――エロいんですか?(笑)
石井「ちょっとエロスを出そうと思ったんで。リーダーは出そうと思わなくても出ちゃうけど。」
橋本「出ちゃうんですよー(笑)。」
石井「僕も、ほどほどに出るけど。祐二くんは。」
岸「僕はふりしぼらないと出ない。」
石井「ものすごくいい声なのに、微妙にアッチの感じが出る時があるんだよね。」
岸「ちょっとヒデキ風も入ってる。」
橋本「もうね、かなり聴きごたえがありますよ。だから今回のコンサートも、わーっとしたお祭りみたいなことではなく、この光と影というものもテーマにしたいんです。」
石井「ある種のエロス、色気も入れて。岸くんは人工的な色気ですけどね。」
岸「ちょっと……オネエ、入るかもしれないですけど。」
橋本「オネエとヒデキか(笑)。」
岸「と、いうわけで、このアルバムを引っ提げてのコンサートになりますから。」
石井「うまくコンサートの話に戻せたね(笑)。腕、持ってるね、末っ子!」
橋本「ただのビーカーじゃないねえ!(笑) ともかく、ただ音楽が大好きな3人がコンサートをやるというだけではなくて、そこに何かおまけがついていたり、いろいろ楽しい要素が入ることが俺らMon STARSの個性でもあるんだと思いますね。」
――ところで、ゲストの方々についても伺っておきたいのですが。
橋本「もう、ゲストの方のほうが僕らより客を呼べる人たちばかりなのでね。他力本願爆裂!ですよ(笑)。」
岸「ゲストのお客さんの前で僕らがふざけるというのがコンセプトですから。」
橋本「もちろん、すごく感謝していますよ。僕らとの長い付き合いもあって、普通ならなかなか出てくれないゲストたちが出てくださるので。」
石井「喜んで!って出てくれるのが、本当にありがたいですよ。」
橋本「だからこそ、ゲストの人たちも僕らと一緒に楽しめるようにしたいね。」
岸「そういうゲストの人たちが、普段見せない姿も見せたいですよね。たとえばロックを歌う姿とかもあってもいいと思うし。」
橋本「そうだね。やっぱり僕らと一緒にやるからには、ここでしか見れないような姿を。」
石井「ここでしか見れない(井上)芳雄くんとか、ここでしか見れないアッキー(中川晃教)くんを、彼らのファンにも観ていただけたらいいですねえ。」
橋本「それにやっぱり、芳雄とは一緒に『三銃士』をやって、僕らの中では不動のダルタニャンでもあるので。その出会いも大きいよね。」
石井「だけどそもそも、これはMon STARSを知っている人は既に御存知だと思いますが、僕らは“StarS”と何か関係があるのかとよく言われるんですけれども、まったく関係ないし特に意識もしていないんですよ!と、とても大声で言うところが、ミソなんですが。」
橋本「今のカズの大声は伝わらないと思うから、ここは太字にしておいてください(笑)。」
石井「“StarS”は意識してないですよ!ってテーマのユニットなんです。それがゆえに、井上芳雄くん、浦井健治くん、山崎育三郎くんをいつかゲストにお招きして集客の9割を担っていただき武道館に行く、これが重要なテーマなんです。」
橋本「というか今回、井上芳雄くんがゲストに出てくれるということで僕たちの大きな目標はここで達成されてしまうようなものなんです。」
岸「そうですよねえ。」
石井「オーチャードホールの一番奥の扉をガラガラっと開けたら、僕らの目標の武道館が見えるような気もしますね。」
橋本「そう、だけど、あくまで僕たちは“StarS”を意識していませんから!」
岸「してません!!」
石井「してないんですけどね!!!(笑)」
取材・文/田中里津子