『Yuichiro & Friends -Singing! Talking! Not Dancing!-』|山口祐一郎&平方元基&平野綾 インタビュー

日本ミュージカル界を長年にわたって力強く牽引してきた山口祐一郎が、彼を慕う仲間や後輩たち=Friends(石川禅、浦井健治、大塚千弘、今拓哉、涼風真世、中川晃教、平方元基、平野綾、保坂知寿、吉野圭吾/50音順)と共に華やかで楽しいショーを繰り広げる『Yuichiro&Friends -Singing! Talking! Not Dancing!-』が2024年1月、シアタークリエにて幕を開ける。二幕構成で山口と、この豪華ミュージカルスターたち10人の“Friends”から4名が日替わりで登場し、名曲の数々を大いに歌い、気心知れたメンバー同士でたっぷり語らうという新年にふさわしいステージだ。演出を手がけるのは『ダンス オブ ヴァンパイア』や『レベッカ』『家族モドキ』など多数の作品で山口とタッグを組んできた山田和也。

“Friends”の顔ぶれによって歌われる曲だけでなくトーク内容も変わってくることが予想できる上、なんと公演期間中の1月18日(木)からは一部セットリストが変更になる、とのこと。前半と後半でどの日を選ぶかなど、スケジュールを眺めて熟考することも嬉しく楽しい悩みになりそうだ。

果たしてどの歌が候補にあがっているか、具体的な曲名を並べた“セットリスト”は初日の幕が開くまでのお楽しみだが、どんな公演になりそうかのヒントを山口と、“Friends”の中から平方と平野に語ってもらった。

――今回はお馴染みのミュージカルナンバーだけでなく、これまであまり歌われてこなかったジャンルにも挑戦なさるとのことですが。ちなみに山口さんは、ふだんはどんなジャンルの音楽を好んで聴いていらっしゃいますか?

山口 好んで聴くというより、その時々でリクエストされる曲がありますよね。常にそういう課題が押し寄せてきて、しかもそれは毎回ジャンルやテイストが違うもので。とはいえ、徐々に何となく自分が好きにできる時間も増えつつありますから、その中で一体どんな音楽を?と考えますと、ここ数年はインターネットが普及したおかげで本来だったら遭遇できない音楽に出逢うことも多いじゃないですか。これまでだったら、思い出の中だけで終わってしまうようなものが信じられないタイミングで目の前に出て来たりもしますからね。そういう意味では10年前や20年前のもの、30年前は……そうそう、ちょうど平方さんと同じ年だったんですけどね、その頃の思い出も含めて本当にいろいろな曲を聴いています。10代の頃は、バンドを組んでクラブとかディスコとかでも歌っていましたし。今はそうやって、特に自分で決め打ちする前にさまざまな曲が目の前に出て来るので、その中に浸ってたゆたゆと時間を楽しく過ごしている……という状況ですね。

――そうやっていろいろ聴いている中で今、特に印象に残っていらっしゃる曲というと。

山口 さっき、この3人で話している時に“セットリスト”を“セトリ”と言うことを教わったところなんだけどね。なんだか“セトリ”って音で聞くと、漁船とか網とかで魚を獲って焼いて食べたらうまそうだ、みたいなイメージが浮かんじゃうな(笑)。最近で印象に残る曲といえば、山田さんがこういう曲を歌ったら面白いと提案してくれた曲があって。それこそ“セトリ”の最初の曲なんだけど、お二人はあの“セトリ”、もうご覧になりました?

平方 見ましたよ!

平野 見ました、見ました!

平方 ビックリしました!

山口 そういう発想もあるんだ、そういう考え方もあるんだ!と驚きますよね。それを聴いてみる、または歌わせてみる、そして歌っている現場に自分も参加してみる。そうすることで楽しい、または何か特別な時間になるかもしれない、という山田さんのアイデアなんですけれども。みなさんも、きっとビックリなさると思います。曲名は……まだ教えてあげられません!(笑)

平方 本当にビックリしますよね。

平野 ええ?ってなりますよ。

山口 ジャンル分けもできないですね。なぜならば、同じ曲でもあらゆるアレンジができるわけです。演奏する楽器、それから編曲によっても変わってきますし。もしかしたら聴いていると「クラシックの壮大なる曲が始まるのかな」と思っているうちに「あれ?これは何の曲だろう、聴いたことあるようなないような」と思うかもしれないし。だんだんと「これ、ちょっと自分の人生の中でもこんな歌を聴いた記憶があるかもしれない」と思ったりして、最後には「ああ、そうなんだ!」みたいなね。みなさんにどう思っていただけるか、それもとても楽しみなんです。山田さんによると「崖の上から自分の大切なものを突き落とすような、そういう気持ちだった」ともおっしゃっていて。突き落とさないでよ、って思うんですけれども(笑)。

平野 ライオンなんですか(笑)。

平方 ドーン!って(笑)。

山口 山田さんは「海に突き落とす」とおっしゃるので「海だったらもしかしたら大丈夫ですね」と返したら、「その海にはサメがいるかもしれない」なんておっしゃっていました。そういう考えもありながら、それでもなお山田さんは決断したという……そんな曲です(笑)。

平方 実は僕も、今回はどういう曲を祐さんに歌ってほしいかなと、いろいろ考えていたんですよ。そうしたら1曲目が、「そんなことないよな」と想像していたような曲だったから「えぇーっ!」って思って。自分のコンサートだったら、僕自身はふざけた人間なのでいろいろやるほうですけど、「今回はこの感じで」と“セトリ”をいただいた時、「わーっ!」と思いました。きっと、お客様もビックリするでしょうけれど、僕は一番そばで聴けそうだし得しちゃうなと思っています。そういう、想像もつかないものを祐さんが歌ってくれるなんて。だけど祐さん本人が「歌いたいです」とおっしゃったのかと思っていたら、山田さんのアイデアだったんですか。そういう意味では、祐さんが自分では選ばない曲が聴けるわけですよね。どんな風になるのか、今からすごく楽しみです。

平野  本当に、1曲目のタイトルを見た時の衝撃はすごすぎました。それに合わせて、自分の歌いたい候補曲を出すにあたってものすごく迷ってしまって。平方さんに「どうしよう?」って連絡したくらいです(笑)。

平方 そうそう、僕たちもどうしたらいいかなって迷いましたよ(笑)。

平野 そうくるとは予想していないものが1曲目から来ちゃったので、私たちは一体どういう方向で攻めたらいいんだろう?って。ある意味それがルーツなのかなとも思える曲でもあり……。私も、初日の幕が開くのがすごく楽しみです。みなさん、どういう反応をされるんだろう……? その前に稽古の段階から間近で聴けることは、私もお得だなって思っています(笑)。

――一体どんな曲なのか、まったく想像がつかないんですが……(笑)。では、山口さんとデュエットをするとしたらどの曲を歌いたいですか?

平野 もちろん、今まで共演作品の中でデュエットさせていただいた曲もいっぱいありましたし、その他にもいろんな曲をデュエットしてみたいですが。今回のコンサートの方向性を考えると、そういうことじゃないんだなみたいな想いもあって。ですから今回は、たとえどんな曲が来ても「どんとこい!」と覚悟していなきゃいけないなと思っています。

山口 よろしくお願いします(笑)。

――平野さんと山口さんの共演作品はいろいろありますが、特に『レベッカ』(2018年版)ではご夫婦役を演じられていましたね。

平野 その夫婦役をやらせていただくに至るまでには、真面目な作品から変なコメディーもありまして。

山口 いや、変なじゃなくて、とても愉快で楽しいコメディーでしたよ。

平野 そうです、本当に愉快なコメディーでした(笑)。つまり、あらゆるジャンルの作品をやらせていただいてからの夫婦役だったわけです。でも特に覚えていることというと『レベッカ』のカーテンコールで「では、宇宙人からどうぞ」って言われたことで。いろいろな作品でご一緒するなかで、とうとう宇宙人って呼ばれるまでになっちゃったということがすごく印象的だったんです(笑)。

山口 いやいや、今はこうやって普通にお話しするけれど、平野さんはお会いするたびに、その瞬間、瞬間で違うキャラクターの声で話すんですよ。「声優というのはそういうもので、いつでもリクエストされたキャラクターに合わせて自分の持っている中で一番いいものをパッと表現できるようにトレーニングしているんです」と、おっしゃってはいたのですけれども。初めてお会いしたのは、どの作品でしたっけ。

平野 『レディ・ベス』です。確かにあとで製作発表の記者会見の映像を見たら、私がしゃべっているのを二度見されてて(笑)。よっぽどヘンな声に聞こえたんだろうなあって思っていました。

山口 いやー、本当にね、僕もまだまだです、勉強します(笑)。

平野 私も、まだまだがんばります(笑)。

――そして平方さんは、2012年の『エリザベート』でトート閣下とルドルフとして共演されています。その当時は、平方さんにとって山口さんはどんな存在でしたか。

平方 最初にお会いした時は「山口祐一郎さんって、本当にいらっしゃるんだ!」と思いました(笑)。もちろん存じていましたけれど、実際にお会いしたことはそれまでなかったので。まさに製作発表の時に、ルドルフはあの時3人いたんですけど、みんなそういう記者会見の場に出るのが初めてだったので怖いわけですよ。そうしたら祐さんが「ちょっと一人、熊川哲也さんに似てるヒトがいるよ」みたいなことを言って、僕をいじってくれたんです。

平野 へえ、そうだったんですか(笑)。

平方 そうそう、そこでやっと普通に話しかけても大丈夫なんだみたいに思えるようになって。そして稽古が始まると、祐さんは何年も演じてきた作品だったから、すぐには参加されないのかもと勝手に思っていたらまったくそんなことはなくて。他の人が稽古されている間も、柱の向こう側で黙々とご自分の稽古をされていたんです。当たり前といえば当たり前かもしれないですけれど、先輩のそういう姿を目撃した当時の僕としては、こういう芸事にずっと携わるということは、そして稽古をするということは、こういう気持ちや姿勢でいないといけないんだと気づけたというか。今も、どこの稽古場に行ってもやっぱりあの時の祐さんの姿を思い出します。

山口 どうもありがとうございます。本当に、いい息子だなあ。こうやってみなさんの前で素敵なコメントをしてくれるなんて、優しくて思いやりがあって。ホントにありがとうございます。これからもいろいろ大変でしょうけど、がんばって活躍してくださいね。

平方 (笑)。それからは舞台袖でも気軽にお話しさせていただけるようになって「どうやって緊張を解いているんですか?」とか、「どういう気分でやればいいか分からない時があるんですが、どうしたらいいですかね」とか、自分が思っていることを素直に聞いてもらったりもして。舞台袖でカーテンコールに出る前って、他には誰も見ていない秘密の時間なんですよね。

山口 そうやって舞台袖でボソッボソッと話すのも、なんだか親戚みたいだというかね。お互いに九州出身だからか、同じような経験を何世代にも渡って積んできているはずで、遺伝子に組み込まれているのかもしれなくて。何とも言えないふわっとした優しい、おっとりしているようなところとかは、本人の意思とも別に遺伝子にある部分を再確認できるような気がするんですよ。そういえば、ちょうど自分も30年前に先輩と同じようなことを話していたなと思い出したりもしながらね。

――そしてこのお三方が顔を揃えていた公演もあり、それが『レディ・ベス』(2014、2017年)だったのですが。振り返ると、どんな思い出がありますか?

平方 僕は、祐さん演じるアスカム先生とは絡みがなかったんですよ。なので、ただただお稽古場で楽しくお話をしていました(笑)。だけど安心感が全然違うんですよね、祐さんが稽古場にいらっしゃると。もちろん舞台上の祐さんも好きなんですけど、舞台袖でお話する時の優しさとかチャーミングさが大好きなんです。そんな風に自分は全然なれないですけど、いつかなりたいと思いますね。

――憧れの存在、なんですか。

平方 憧れるというか、絶対に僕にはなれないとは思うんですけど。みんなに面白いことを言えて、あと、ただいてくれるだけで大丈夫だと思える、あの安心感はどうすれば培うことができるんですかね。

山口 今日、持って帰ってもらえるお土産か何か、あったかなあ(笑)。

平野 私は『レディ・ベス』が帝劇初主演だったので、常にいっぱいいっぱいで初演の時も再演の時もずっと緊張しっぱなしだったんですけど。舞台に出る前、アスカム先生が最初に出られるので舞台袖で祐一郎さんの背中を見て「よし!」って思ってから自分も出て行くというのを習慣にしていたんです。祐一郎さんは舞台のほうを向いて立っていらっしゃるから、絶対に気づいていなかったと思いますけど。背後から「よし!」って気合を入れると、もう安心感が全然違うんですよね。

山口 こうやって優しくて思いやりのある“娘”と“息子”に囲まれて、お父さん本当に幸せです。もう、思い残すことはありませんよ(笑)。

――そして山口さんはもちろん歌声も素敵なのですが、やはりMCもものすごく楽しくて。今回はどんなことを話されるのかとか、トークコーナーはどうやってネタを揃えたり準備をされているのかということも、とても気になります。

山口 準備としてはいろいろなことをします、まさにどういうタイミングでどんな話をするかとか、どうプランニングしているか、それってお芝居に関しても一緒で。そういうことって、たぶん若い時に教育されたものがインプットされているのだと思うんですけどね。一応、お芝居ではセリフも歌も決まっていて、それを表現するための準備としてはあらゆることをするけれども、本番で歌う瞬間、セリフを発する瞬間、舞台に立つ瞬間は、それまでの準備を全部忘れてからひゅうっと出てきて、その後で何が起こるかは自分に任せろという感覚なんですね。そういう意味では、さまざまなメソッドとかもありますけれども、その中でも一番長く続いているのがその感覚だし、多くの人もそれが一番よろしいんじゃないですかと納得しているものであって。それはどのタイミングでどの話をするのかということに関しても同じ。始まる前までに自分でいろいろと準備はするんだけれども、本番が始まったらあとはその瞬間瞬間を平方さんや平野さんたちゲストの方々と一緒に楽しむだけなんです。それに自分自身が楽しむことが相手に楽しんでいただけることにもなりますし、その同じ空間にいるみなさんにも楽しんでいただける結果になるので。これは僕が思っているだけではなくて、実際そうなるというデータも上がっていることなんですよ。ですから、とにかく無理せず、何も考えず。ただ、始まる前には充分な準備はしますけどね。

――いろいろ用意はしているんだけれども、本番の瞬間は瞬発力で全てに対応されているんですね。

山口 前回というか、同じく山田さんが構成してくださった『My Story,My Song~and YOU~』(2022年)の時には各トークコーナー終了時間の1分前にイエローライトが点灯し、30秒前になったらそのライトが点滅して、そしてオンタイムになったら赤い回転灯が点灯して舞台の“盆”が回るというのが合図みたいになっていたのですが、今回はバンドがいるのでステージを回すわけにはいかないんですよ。だから今回はあの時とは違って、ずっと話していられそうだと思っています(笑)。でも今日は取材で平方さんと平野さんと順番に聞かれているからこうして話していますが、本番では「どうですか?」ってお二人にマイクを渡したら、その後は僕ずっと黙っているようにしますから。

平野 ええ~、そうなんですか?(笑)

平方 本当に!?(笑)

山口 時々はツッコみますよ(笑)。やっぱり平方さんにしても平野さんにしても、一番チャーミングなのは舞台本番中ですからね。戦場というか、つまり同じ舞台上に出て行った時にとても頼りになる相棒であり、共にひとつひとつの作品を戦い抜いてきた仲間であるという意味です。その頼もしい仲間だからこそ、いざとなったら「どこまで話すんだ!」と、話し続けている誰かを止めることもできるわけで。

――それすらもできる間柄になっている、と(笑)。

山口 そうです、「そこまでは言わなくてもいい!」みたいなね(笑)。もう何が起こるかわからないのがこのステージですから、とにかく僕自身も初日が来るのがとても楽しみですよ!

 

(取材・文 田中里津子)