『家族モドキ』山口祐一郎+浦井健治インタビュー

山口祐一郎、浦井健治、大塚千弘、保坂知寿という顔合わせで“新しい家族の形”を描く四人芝居『家族モドキ』。2020年に上演された『オトコ・フタリ』に続き、脚本・田渕久美子、演出・山田和也がタッグを組み、山口と大塚が父娘、浦井と保坂が夫婦の設定で少々複雑な“家族関係”が展開していく。特にミュージカル作品で数多く共演を果たしてきたこの四人が、この少人数のストレートプレイでどんなヒューマンドラマを表現するか、期待は高まるばかり。山口と浦井に、それぞれの役柄についてなど、作品への想いを語ってもらった。

――お二人が演じられる高梨次郎と木下渉という役柄について、それぞれどのようなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

山口 コロナ禍に入ってから3年が経ち、昔とまったく同じではないにしてもようやく以前のような生活が戻って来たかもしれないと思えるようになってきました。そんなタイミングで、大事なファミリーというか仲間というか、お父さんというかお母さんというか、兄弟というか友達というか、同級生というか恋人というか、そういう大切な人たちともう一度巡り会える。それがこの『家族モドキ』という作品だと思います。今回僕が演じる高梨次郎は、21世紀に入って世の中はどんどん変わり、多様性を重視するようになり、みんなそれぞれ違うからこそ互いに助け合って生きていきましょうという時代になってきたというのに「家族とはこういうもので、父親とはこういうものだ!」と頑固に言い張っている。と言いつつも、実は心の中では温かい本来の親子の思いやりも持っているはずなんですけどね。そんなことをこのドラマの中で笑いながら共感しつつ、その行動をも楽しめるような。そういうキャラクターのお父さんになると思います。

浦井 僕が演じる木下渉は、大塚千弘さん扮する民子と山口さん演じる父の間に入っていく人物です。民子の大学の先輩ですが、留年したり二浪したりしているので、年上の友人みたいな感じです。とあるきっかけで高梨家に関わっていくことになるのですが、そこで「じゃあ、家族って何なんだろう?」ということを改めてお客様と一緒に考えていけるような役割になりそうだと思っています。それでいて、渉自身の環境も本当は大変なことになっていたりもするんですけどね。

――保坂知寿さん演じる木下園江さんが、浦井さん演じる渉にとっては奥様になるんですよね?

浦井 そうなんです。最初、保坂さんと夫婦役だと聞いた時は「えっ?浦井でいいんですか?」、と思いました。もちろん、光栄だと思っております!でもそこには、人生において誰しもが通る部分が描かれているというか。そんなことも、この夫婦に課せられている役回りのように感じています。

――山口さんは、娘役の大塚さんとの共演に関してはどう思われていますか?

山口 大塚さんとは、彼女が高校生の時に初めてお会いしているんです。あれから20何年になるのかな。その後もさまざまな舞台でご一緒させていただきました。そして実は保坂さんも同様に、彼女が劇団の研究生の時からご一緒しています。今回は『家族モドキ』ですが、これはいわゆる“がんもどき”の由来と一緒で、つまり“家族のような”ということですよね。そういう意味では僕らって、単にこのお仕事のために集まりました、そして仕事を終えればさようなら、という関係性ではなくて。いろいろなことを離れた場所で互いに経験し、体験して、そして改めてまた集まった時にお互いを刺激し合う。そんな僕らが、今回はこの作品でご一緒するわけです。

――ちなみに、浦井健治さんとの共演に関しては?

山口 初めてお会いしたのは浦井さんが20代前半だったのかな、当時からとても魅力的でしたよ。しかも、なおかつそんな人が一生懸命頑張って歌舞音曲を極め、舞台上で生きるということを懸命にやってくれるんですから、その姿を観られるお客様は幸運だと思います。芸をやるのなら、しかもそれを生活の糧にするのなら、ちゃんと汗をかき、努力して形にしなければならない。そういう風に考えると彼は変わらずにチャーミングなのに、その上でしっかりと努力もしている。もう、この先たとえ20年ミュージカルをやり続けたとしても、その魅力は変わらず増す一方だろうなと思います。そうやってデビュー当時からご一緒させていただき、これまでもさまざまな作品で共演してきた浦井さんともまたここで共演できるんですからね。この『家族モドキ』……、楽しみです(笑)!!

浦井 ありがとうございます!

――浦井さんは前作が『キングアーサー』、山口さんは『キングダム』と、壮大な物語の作品を演じ切って来られたばかりですが

浦井 “キング”繋がりですね(笑)。

――そのあとで今回は現代劇、家族をモチーフにした会話劇に取り組まれるわけで。作品の違い、みたいなものはやはり感じられるものですか?

浦井 ミュージカル界のキングである山口祐一郎さんが、こうやって知寿さんや大塚さんも含め、フレンドリーに見守ってくださりつつ第一線を走って引っ張ってくださっている。僕にとっては、ご一緒させていただけるだけでも、非常に幸せなことであり、今回の『家族モドキ』の中でもまた学ばせていただきながら、さらに次にも繋がっていけるようにやっていけたらなと思っています。でも『キングアーサー』と『キングダム』、ということで言うなら……ここの共通部分は“キング”しかないですけどね(笑)。

山口 突然、芝居の中にそういうタッチの演技を入れてくるかもしれないよね。

浦井 いきなり刀を振り回したりして? それはやめてください(笑)。

山口 いやいや、何やったっていいじゃない(笑)。でも『キングダム』をやっていると、舞台袖ではみんな限界ギリギリでがんばっていたんです。まあ、殺陣といえば浦井さんに敵う人はいないでしょうけども。

浦井 いやいやいや、そんなことはないです!

山口 みなさん本当に真面目に取り組まれているんですよ。2023年、この小さい島国で、毎年人口も減るばかりだというのに決して衰退するだけではなくて、ここで生きる一人一人が自分の仕事に矜持を持ち、真摯に向き合っている。そんな若者が今の日本にこんなに大勢いるんだということを改めて感じ入っておりました。そうやってみんなが一生懸命やっているのを眺めながら……僕は楽屋でお茶を飲んでいましたけれども。

浦井 いやいやいや、そんなことはないはずです!

山口 ハハハ。そうやってみなさんからいただいてきたエネルギーを、今度はこの『家族モドキ』で存分に活かしたいと思っているわけです。特に古典だとか現代劇だとか、映像だとか舞台だとか、そういったものに拘束されることなく、より楽しめてより魅力的なものにしたいですね。

――お二人にとっての『家族』とは、また『家族モドキ』という言葉から連想するものとは?

浦井「ミュージカル界が自分にとっては『家族』なのかなと感じています。みんなお互いを意識し合っていますし、諸先輩たちが我々の世代や、さらにその下の世代たちのことをしっかりと見守ってくださっていることをとても実感しています。プロデューサーやスタッフさんたちも含め、みんなでこれからどうしていくかを真剣に考えている世界ですから、まさに、ミュージカルに関わる人たち全員が『家族モドキ』みたいだなと思います。

山口 確かにそうかもしれませんね。それにしても、作家さんって予言能力があるんじゃないかと思いますよ。この『家族モドキ』、2023年のこの時期、このタイミングで上演するのにピッタリの内容になっていましたから。今、書いているのならわかりますけど、多様性であるとか不確実性みたいなことが社会としてここまで当たり前の状況になったのは、ここ数年のことじゃないですか。だけど脚本の田渕久美子さんにとっては、もう何年も前からこの状況が頭にあったということになるんですから。家族というものも、たとえば戦前だったら女性は家庭に入ったら外で働くこともなかなかできなかった。それが70年ほど経って、一気に変わってきた。さらにそれまでの理想の家族像よりもリアルなものを受け入れていきましょう、型にはめるのではなく今あるものを認めていくように方向転換していきましょう、という時代になってきた。タイトルに“モドキ”と付いているのも、そういうことに繋がると思うんです。

――2020年に同じメンバーで上演された前作『オトコ、フタリ』に続き、脚本の田渕久美子さんがあて書きでそれぞれのキャラクターを書かれているとのことですが。役に、ご自分に似ている部分を感じることもありますか?

浦井 現場などで僕らを観察した中で膨らませてくださっているという感触はあります。だから、こういう風に田渕さんには見えたんだなとは思いますが、たぶん僕のマネージャーや応援してくださっているファンの方からすると「いやいや、本当の浦井はそこまで綺麗な感じではないでしょ?」みたいに思われるかもしれません(笑)。今回の『家族モドキ』はいろいろな問題に対する比喩も含めて、お客様もさまざまな問題を考えるきっかけになるような構成になっていると思います。それぞれの役に対して、そういったセクションが設けられているような感触があるので。

――それぞれのキャラクターが、お客さまにも共感しやすいキャラクターになっている

浦井 そうですね。現実の中で起こりうることに、いろいろなフィルターをプラスしている感じがあるんです。そういう意味では、みなさんも想像をしやすいのではないかなと思っています。

山口 あて書きに関しては、田渕さんがあて書きというコンセプトで楽しく書いてくださったということですね。ですから、僕としてはどうあて書かれようと「なんでも大丈夫ですよ! どうぞどうぞ!」という気持ちです。とにかくそれぞれのキャラクターが魅力的に描かれ、ストーリーを面白くでき、劇場に来られたみなさまも楽しんでいただけるためにはどういう人物ならいいだろう、最も面白くなるパターンになるにはどういう存在がいいだろう、ってことです。ですから、どこが似ていて、ここは似ていないということでもなく、お客さまに全部あて書きだと思ってくださる方がいてもいいですし、確かにそういう見方もあるねという程度で楽しんでいただいても構いませんし。とにかくみなさんが一番楽しめるように、それを考えて書かれていることを理解していただければと思います。そして、その姿を劇場でご覧になることで「元気になった!」と思っていただけるものになれば、それが一番です。

――そういう意味ではコメディとして、笑えるような場面も多いのでしょうか?

山口 もう、それはてんこ盛りだと思いますよ。

浦井 もちろん面白いところも多いですが、題材的に考えるとなかなか大変なことになっているとも言えるんですけどね(笑)。

 

 

――とはいえ、お客様は気持ちよく劇場を後にできるような内容になっている、と

山口 はい。いろいろな考えの方がいらっしゃるとは思いますけれども。みなさまに心から楽しんでいただけると信じて、温かい想いを抱いてお帰りいただけるよう、みんなで創り上げて参ります!!

 

インタビュー・文/田中里津子
撮影/篠塚ようこ