金管楽器、打楽器、ヴィジュアル・アンサンブル(ダンサー&カラーガード)の3パートから構成される圧巻のパフォーマンスショー「ブラスト!」。オリジナルバージョンでの全国ツアーが10年ぶりに開催されることになった。「ブラスト!」は1999年にロンドンで誕生し、2001年にはブロードウェイに進出。トニー賞とエミー賞の二冠を達成した。全米ツアーも展開したのち、2003年に初来日。以降12回の来日公演を敢行し、130万人以上動員している。2000年に入団を果たし、来日公演をけん引してきたパーカッションの石川直に、公演への想いなど話を聞いた。
――オリジナルの「ブラスト!」としては10年ぶりの全国ツアーとなります。オリジナルを久しぶりに上演できることについてどのように感じていらっしゃいますか?
僕の入っているパーカッションセクションは、オリジナルのショーの中でかなりフューチャーされているので、奏者として非常に楽しみにしています。ドラムを使ってチャンバラをやるような、殺陣のようなシーンもあったり、マーチングのパーカッションのようなところもあったりするんですよ。それを10年ぶりにできるのが、今から楽しみです。
――改めて、「ブラスト!」というショーはどのようなものか教えてください
ひとことで言うと、音楽のサーカスですね。具体的に言うならば、吹奏楽やマーチングバンドを舞台上に持ってきて、エンターテインメント化したショーです。メンバーもアメリカなどで音楽を勉強していた人たちで、ドラム・コー・インターナショナルという、マーチングアクティビティの世界最高峰の大会に出場しているようなメンツもたくさん集まっているんですよ。そういったジャンルのエンターテインメントの頂点のひとつになるんじゃないかと思っています。
――一般的なマーチングや吹奏楽と一線を画しているところはどんなところでしょうか?
日本でも、マーチングバンドや吹奏楽をやっている若い人たち、大会に出ることを目的に練習している人たちはたくさんいらっしゃると思います。特にマーチングになると統一美として、どれだけ揃っているのかということで点数がつくというような世界なので、ある意味では自分を抑えて周りと合わせるというようなことが求められます。「ブラスト!」でも、もちろん統一美はお見せするんですが、個性というものをどれだけ出せるかも同じくらい重要なんです。同じトランペットでも、同じスネアドラムを叩いていたとしても、それぞれがそれぞれの個性を100パーセント以上出すことを求められる場。統一したものすごいエネルギーが生み出されている中でも、1人1人が自分らしくあっていいということに気付かされるような表現になっていると思っています。決まったコンディションの中で頑張っている人たちにも、「ブラスト!」の解放されたような感覚を体感していただきたいですね。
――揃えることと、個性を出すことが両立できるということを体現したようなショーなんですね。石川さんは2000年から「ブラスト!」に携わられていますが、長年見てきた中で変化したことはどのようなことでしょうか?
細かいところでは本当にたくさん変わっていっているんですけども、まずはメンバーですね。時代が進むにつれて、入ってくるメンバーたちも、経験値や知識、学習能力の高い子たちがどんどん入ってくるんです。より才能ある若者が集まる場になったと思います。アメリカを経験していれば誰でも入れるようなものではありませんから、オーディションを重ねて選ばれた人が揃っています。昔のメンバーでも超人みたいな人はたくさんいましたけど、平均値が高くなっている感覚はありますね。
――石川さんの担当するパーカッションのパフォーマンスでは、どのようなところが大変ですか?
パフォーマンスについては、本番のツアーに入ってしまうと、もう自動的にそのように体が動くようになるんです。だから、本番では演奏やパフォーマンスが大変っていう気持ちにはならないんです。ツアーが始まれば、お客さんとの交流もあって、毎日のショーが喜びと楽しみにあふれています。どちらかというと、体のコンディションや調整のほうが大変ですね。肉体的にはタフな部分があるので、楽ではないです。
――ツアーを駆け抜けるためのコンディション調整や、本番までに作りあげる時間の方が大変、という感じでしょうか?
リハーサル期間は毎日、長時間練習しています。それが2ヶ月近く続くので体力が回復しないまま、また朝がくる。1日10時間以上、教えたり、学んだり、作ったりとかしていくんですけど、僕の場合は10キロぐらいのドラムを身に着けて、走ったり飛んだりします。そこはシンプルに、体に負担ですね。僕自身としては、まだ自覚はないんですが、やはり20代30代の時と比べるとスタミナが落ちてくるかもしれないと思いながら、意識してコンディションは整えるようにしています。パフォーマーとしてだけではなく、教える立場でもあるので、自分がダメだと示しがつかないですから。年齢に比例して、自分自身に求めるパフォーマンスのクオリティも上がっていて、それを実現するためには十分な準備が必要なんです。
――自分の担当パート以外で、メンバーながらスゴイな、と感じたところは?
いっぱいありますよ!でも、今パッと思い浮かんだのを1つだけご紹介するなら、1幕の最後の曲で、薄暗い中から管楽器奏者が後ろから出てきて、スパン!と止まったあとにみんなでバーンと音を出す場面があるんです。そこはもう、管楽器の音の壁が体にぶつかってくるような感覚というか…音は見えませんが、物理的な波長が振動となって体にぶつかるのがわかるんです。その上に、照明とかのテクニカルスタッフの演出などが加わって、一緒になって生み出す瞬間は、本当にゾクッと来ます。
――まさに劇場でしか体感できない”圧”ですね。観客としては、みなさんとのコミュニケーションも楽しみなところのひとつです
ロビーに出てパフォーマンスすることも「ブラスト!」の代名詞。舞台の空間だと、演者とお客さんの間に見えない境界線がどうしても生まれてしまうものというか、それが当たり前だと思うんです。「ブラスト!」では、僕らがロビーに出てお見送りとかもして、人間の1対1の距離感で接することができるんです。さっきまで舞台で演奏していたあの人たちと、交流ができることも、魅力のひとつだと思います。スーパースターが舞台上で演技をしているというような一般的な舞台作品とは違って、等身大の同じ人間たちが超絶技巧などの様々なパフォーマンスをやってくれる。なんかホームパーティーのような感覚がいいところじゃないかな。
――メンバーの多くは海外キャストですが、メンバー同士のコミュニケーションで大事にしていることは?
まずは問題点を発見したらストレートに言うことです。言いたいことを言って本気で話し合ったからこそ、それぞれの立場のこともわかるというか。コミックとかで、めちゃくちゃ強い敵だった人が、より強大な敵の登場で、背中を預けて戦えるような存在になる展開とかあるじゃないですか。それですごい力を発揮する。本気でぶつかり合って、意見を出し切っているからこそ、信頼してより大きなものに向かっていけるような感じは、むしろ関係性が作りやすいような気もしますね。お互いにリスペクトがあるからこそ、それができると思います。
――日本のオーディエンスの印象っていかがですか?
すごく「ブラスト!」を好きでいてくださっていると感じます。これだけ日本で続けてこられたのは、日本のお客さんと僕らの相性が良かったんだな、と。先ほどお話したインターミッションとかロビーのパフォーマンスは、アメリカよりも日本の方が盛り上がるんです。アメリカだと、インターミッションや休憩中は、ちょっとバーカウンターとかでお酒を飲みながら、遠目で僕らがやっているパフォーマンスを見るような感じなんですね。近くに来る人たちも数十人はいますけど、日本だと、数百人とか1000人を超えるくらい集まったこともありました。ちゃんと整列して座ってくださって、その辺は日本人の素晴らしさ。そこまでロビーパフォーマンスを期待してくださっていると、我々もやりがいを感じますね。そこが日本のスペシャル感を感じる部分です。
――海外での公演よりも日本の方が盛り上がっているというのは意外ですね。
「ブラスト!」を初めて日本で公演することになったとき、マネージャーが初日を前にして「日本のオーディエンスは控えめだから、リアクションが非常に小さかったり、もしかしたらノーリアクションだったりするかもしれない。でも、それは面白くないわけじゃない。日本人はそういう性質で、ちゃんと楽しんでくれているから」とメンバーに伝えていたんです。それでメンバーも、そういうつもりで初日を迎えたんですけど、蓋を開けてみたら、上演前に照明がスーッと落ちただけでもう大歓声が起こって…想定とは真逆のリアクションを貰えました。本当にビックリしましたね。それほど待ち望んでくれていたということも光栄でしたし、それからずっと、日本のオーディエンスは熱狂的に楽しんでくれていると思います。
――今回の全国ツアーを楽しみにしているファンに、メッセージをお願いします!
今迷っている人、ぜひ来てください!音楽の予備知識はまったく必要ありません!アメリカでは親子三代、おじいちゃんおばあちゃん、お父さんお母さん、子どものファミリーで来て楽しめるショーと言われています。もちろん、音楽や表現をやっている若い人たち、学生さんにもぜひ観ていただきたいです。きっと、こんなに自由に表現していいんだ、と気付きを得られる場になるかもしれません。とはいえ、とにかくホームパーティーのようなショーなので、気軽に手ぶらで遊びに来ていただければと思います!
インタビュー・文/宮崎新之
写真/ローチケ演劇部