若手俳優が挑む古典落語
ルールのなさが魅力的な異色の舞台
若手の実力派俳優×古典落語=「ハンサム落語」。若手俳優たちが2人1組となり、古典落語の傑作の数々を、演目を替え、相方を代えながら見せていく、クラシカルななかにも新しさが光るエンタテインメントだ。
このたび行われるその第五幕の出演者の中から、「テニスの王子様・ミュージカル」など共演の機会が多く、勝手知ったる仲でもある寿里&林 明寛コンビに話を聞いた。「ふたりだけでがっつり絡むのは今回が初めて。楽しみです」(寿里)と語るふたりの様子はなんだか兄弟のようで、トークもなかなかにぎやかだ。
落語の演目を分かりやすくアレンジした「ハンサム落語」。掛け合いの合間に時代背景や用語の解説を挟むなど、落語初心者に親切な工夫もなされており、いい意味でのハードルの低さが魅力的だ。また、台本ともアドリブともとれる、役者同士のやり取りも見どころのひとつ。
寿里「落語に入る前の“枕”と呼ばれる部分にはある程度決まった流れがあるんですけど、そこで役者ごとのカラーが出せるようになっていて。僕は第一幕に出てるんですけど、(磯貝)龍虎なんかは初日から果敢に攻めてましたね」
林「実はアドリブじゃない部分を、どこまでアドリブであるように見せるかっていうのも人それぞれで。そこも役者同士の戦いなのかな。役者によっては、お客さんがハラハラしちゃうくらい実話っぽくネタを織り交ぜてくる人もいたりしてね(笑)」
寿里「この“枕”については、あえて打ち合わせをしっかりしないで、相方の自然なリアクションを楽しむ役者のほうが多いんですよね。僕らも板の上で素で笑ったり、ツッコんじゃうときもあります」
同じ演目でも落語家によって表現のスタイルは千差万別。限りなく自由であるがゆえ、演技力や笑いと真剣さのバランス配分など、役者に求められる部分も大きいという。
寿里「イベントみたいな感覚もあるし、でも噺(はなし)の筋はきっちり伝えないといけないし、アドリブ的な部分もある。その“決まりきってなさ”が僕らの勝負どころで、薄氷の上に成り立っているような感覚もあります。本来の噺から逸脱しすぎることも、お客さんにとっては面白いところなんでしょうけど、僕らが本当に見せたいのはそのギリギリのライン」
林「2人で掛け合うから、同じ演目でも役者の組み合わせによって全然違ったものになってくる。本来の落語の楽しさや奥深さはもちろん残しながら、そのふたりにしかできない、掛け合いならではの面白さを見せたいですね」
ふたりのほかにも、実力派の役者たちがしのぎを削るこの公演。彼らの個性をうまく生かしながらサポートする演出家の、なるせゆうせいのほか、稽古で実際の落語家による指導が入ることもあるのだそう。
林「『座布団に片方の足だけついてればなんでもアリだよ』って教えてもらって、目からウロコでしたね。こういった作法も師匠によって違うらしくて、座布団から両足が離れてもOKだったり、逆に邪道だという方もいて」
寿里「でも、この『ハンサム落語』自体が邪道といえば邪道ですもんね?」
林「じゃあ僕、今回は客席に下りまくります(笑)」
寿里「という冗談はおいといて、なるせさんに土台を作っていただいたら、そこからはある意味、役者全員がプロデューサーみたいな舞台ですから」
今回の第五幕は全国4カ所で開催される初の巡業公演。「“枕”の部分に各地方ならではのネタが入ったり、その地方の出身者なら方言が飛び出しちゃったりするかも?」(寿里)と、公演ごとのお楽しみもありそうだ。寿里は第一幕、林は第三幕以来の出演でやや久しぶりの参加となるため、それぞれに意気込みや展望を聞いてみた。
林「僕は前回は初出演でテンパりすぎまして(笑)、今回は個人的にはリベンジマッチだと思っていて。感動的だったりしんみりさせる噺なら、アドリブっぽい笑えるところといかに空気を切り替えられるかが課題だったりします。お客さんにただ楽しかった、と思わせるだけじゃなく、いつのまにか噺に引き込まれたり、感情を揺さぶられるようなものにできたら」
寿里「連日役者の組み合わせが替わるので、毎回違うものを吸収して、それをまた違う人と掛け合って…という、“化学反応”の早さも魅力じゃないかな。だからできれば複数回通って見比べていただけると、より楽しめるんじゃないかと思います」
見慣れたストレートプレイとも、純粋な朗読劇ともまた違った、若手俳優たちのチャレンジの場ともいえる「ハンサム落語」。もちろん日本が世界に誇るカルチャーである落語の魅力も含め、この機会にぜひ体感してみてほしい。
インタビュー・文/松田純子
Photo/山本倫子
【プロフィール】
寿里
■ジュリ ’81年生まれ。モデルとして活躍するかたわら「ミュージカル・テニスの王子様」(‘05年~)をはじめとした舞台や「戦国鍋TV」(TVK他)などのテレビ番組にも出演。
林 明寛
■ハヤシ アキヒロ ’87年生まれ。「ミュージカル・テニスの王子様」(’08年~)で本格的に俳優デビュー。アクロバットや殺陣などの特技を生かしながら、舞台を中心に活躍中。