豪華な新キャストを迎えて
名作ミュージカルが新たな歴史を刻む
19世紀末、ハプスブルク帝国最後の皇后エリザベートと、黄泉の帝王トートとの愛を描いた「エリザベート」。「この作品を観てミュージカルにハマった」というファンも多いメガヒット作が、東宝版初演15周年を迎える今年、装いも新たに上演される。注目は一新されたキャスト。若手実力派が顔を揃えるなか、2010年に皇太子ルドルフを演じた田代万里生が、今回はその父、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ役に挑む。
田代「実は以前、演出の小池修一郎先生に『いつか万里生のフランツが観たい』と言われていたんです。でも、当時の僕はまだ20代。演じたい気持ちはあっても、もっと先だと思っていました。正直、31歳でやれることになって驚いていますが、今の自分がいちばん想像のつかない役だからこそ、すごく面白そうだなと感じています。声の音域も、これまで演じてきた方はバリトン系で僕はテノール。自分のようなタイプがやっていない役でもある。同世代が多いカンパニーのなかで、たくさん刺激を受けながら、新たなフランツを生み出せたらと思っています」
ルドルフを演じた4年前の公演を振り返り、「無我夢中で周りが見えていなかった(苦笑)」とも。
田代「ミュージカルに出るのが4作目で、ダンスをやったことがないのに、帝劇の真ん中でトートダンサーズを従えて踊るという……それは地獄でした(苦笑)。トリプルキャストの浦井健治さん、伊礼彼方さんは続投組というなかで、自分の個性も出さないといけなくて。でもいま振り返ってみると、そうやっていろいろなものに追われて葛藤する自分の状況が、そのまま役に重なっていった気がします」
ルドルフを通して「この父子は敵対するけれど、凛とした強さ、人としての匂いや色合いには通じるものを感じた」という。
田代「フランツを演じられていた石川 禅さんが“この二人は親子なのだ”と繰り返しおっしゃって。二人の関係性の見せ方をはじめ、禅さんにたくさんアドバイスをいただきました。そこで学んだこと、感じたことを生かしていきたいですね。『エリザベート』の魅力は中毒性のある音楽と、悲劇的な物語だと思います。オペラでも悲劇にヒット作が多いのは、観る方がより共感できるからなのでしょうね。フランツとルドルフの親子の確執も、舞台が王室なだけで、形を変えてどの家庭にもある気がするんですよ。今回、ひとつの役の20代から晩年までを演じることも僕にとっては未知の世界です。でも、このカンパニーには“新たなエリザベートの歴史を作る”という小池先生の思いが込められているはず。その伝説の始まりをぜひ目撃していただきたいですね」
インタビュー・文/宇田夏苗
Photo/谷本結利
構成/月刊ローソンチケット編集部
【プロフィール】
■田代万里生(タシロ マリオ)
’84年、埼玉県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。’09年「マルグリット」でミュージカルデビュー。最近の出演作に「エニシング・ゴーズ」「ラブ・ネバー・ダイ」「スリル・ミー」など。