「タンゴ・冬の終わりに」三上博史 インタビュー

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行定 勲演出でよみがえる傑作で
新たな難役に挑む

 

  繊細で、しかもクセのあるキャラクターを演じさせたら天下一品、それがどれほどエキセントリックな難役だとしてもその圧倒的な存在感と説得力とで見事に演じ切ってきた三上博史。映像作品だけでなく、「青ひげ公の城(2003年)」の“第二の妻”や「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ(2004年、2005年)」の“ヘドウィグ”、「あわれ彼女は娼婦(2006年)」の“ジョヴァンニ”、「三文オペラ(2009年)」の“メッキー”など、これまで数々の舞台作品でも印象深い主役を担ってきた彼が、今年も舞台で新たな難役に挑む。日本を代表する劇作家のひとりである清水邦夫の名作「タンゴ・冬の終わりに」を映画監督の行定 勲が演出するこの舞台で、三上が扮するのは“元俳優”の主人公、清村 盛(きよむら せい)だ。

三上「盛は元俳優ではあっても、骨の髄まで役者だと思うんです。一度引退していても、その血は染みついていて変えられない。染みついているというか、それとともに細胞分裂してきたようなところがあるからね。でもなんだかこの盛って男、僕には他人とは思えないんですよ」

 

 そう語る三上は、常に役を演じるときには自分自身をいったんすべて捨て、からっぽになった身体に役を入れているのだとか。

三上「いつもは自分自身と役とはある程度の距離があるものなんだけど、盛の場合はどんなにぬぐっても隠しても、きっと自分が出てきちゃいそうな気がする。だから肉体的というよりも精神的にキツいことになるかもしれない、と今から覚悟しています。しかもちょっと嫌な自分が出てきそうな感じもあるんですよね。それくらい、盛はヤバい役かも(笑)。見ているお客さんには、そこが楽しいんだろうとは思いますけど」

 

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 物語の舞台は日本海に面した町にある、すっかりさびれた映画館。有名な舞台俳優だった盛は引退宣言後、妻のぎんと共に彼の実家でもあるこの映画館で暮らしている。そこに、過去に盛と関係があった女優の名和水尾(なわ みずお)とその夫、連(れん)が訪ねてくることで、もともと危うかった盛の精神状態は徐々に壊れていく。

三上「ラストシーンで、客席と舞台の上をつなぐ空気感みたいなものがしっかりでき上がっていたら幸せですね。やっぱり、お客さんにはみんな『ああ、いいお話を観たな』と思ってもらいたいですし。だけどよく考えるとこの話、登場人物に一般的な人が誰もいないんですよね。盛も、その弟も特殊といえば特殊だから、そういう意味では感情移入はしにくいかもしれません。でも、それこそ以前に僕が演じたヘドウィグだって、特殊で感情移入ができる設定ではなかったはずなのに、あれにはなんだかみんな感情を乗っけられたじゃないですか。だから今回も、ああいうふうにするしかないんですけどね。ともかくこれは本当によく構成された話だし、清水作品のなかでは比較的わかりやすい話でもあるから、そんなにチンプンカンプンにはならないと思います」

 

 確かに、盛とぎん、そこに水尾と連が絡むことを考えると、ある意味ドロドロした四角関係の話のようにも思えてくる。

三上「ぎんさんはどんと構えてる古女房にも思えるし、そこに『え? それって愛なんですか?』とか言っちゃう水尾がいて。そう思うと奥様方にも独身OLたちにも感情移入してもらえる話になるような気もしてきますね(笑)」

 

 そう笑いつつも、三上のこの作品への深い思い入れは話を聞けば聞くほど伝わってくる。どうやら今回もまた、演劇史に残る名作が生まれそうだ。

 

インタビュー・文/田中里津子
Photo/秋倉康介
構成/月刊ローソンチケット編集部

ヘアメイク/勇見 勝彦(THYMON Inc.)
スタイリスト/Yasuhiro Takehisa (MILD)
衣裳協力/ニット、シャツ、パンツ:N.HOOLYWOOD
ネックレス/三上さん私物

 

【プロフィール】
三上博史
■ミカミ ヒロシ 寺山修司監督・脚本の映画「草迷宮」で主演デビュー。’12年「平清盛」、’14年「明日、ママがいない」など多くのドラマでも印象に残る演技を披露している。

 

【公演情報】
タンゴ・冬の終わりに
日程・会場:
9/5[土]~27[日] 東京・PARCO劇場
10/16[金]~7[土] 愛知・東海市芸術劇場 大ホール
10/25[日] 富山・富山県民会館
10/31[土] 宮城・えずこホール(仙南芸術文化センター)大ホール

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