『転校生』本広克行 インタビュー

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原石が磨かれ、今だけのきらめきを放つ瞬間を見てみたい。

 

ももいろクローバーZ主演の映画&舞台「幕が上がる」でタッグを組んだ、平田オリザ(青年団主宰)×本広克行(『踊る大捜査線』シリーズ監督)による若手女優発掘プロジェクトが始動。8月22日よりZeppブルーシアター六本木で上演される舞台「転校生」には、オーディションで総勢1474人の中から選ばれた21名の若き女優たちが登場する。

 

とある女子高を舞台にしたこの作品の稽古場にお邪魔した。稽古場の中央には教室風に机が配置され、その周囲には廊下を模した通路、そして奥に楽屋スペースがあるのだが、この部分も客席から見えるようになっているユニークな作りだ。ある日、いつものように他愛もない会話が繰り広げられる教室に、「朝起きたらこの学校の生徒になっていた」と言う転校生がやってくる。やや不条理なこの展開を受け止め、転校生を迎え入れる生徒たち。教室では複数のグループが会話しつつ盛り上がったり、眉をひそめたり。“女子高あるある”的な、くすっと笑えるシーンもたっぷりだ。しかしとあるシーンでは、教室の中で涙ながらに演じている生徒につられて、楽屋にいる生徒たちまで本来の演出にはない涙を流していたりした。そこに漂う空気は自然で、なんとも生々しい。

 

「転校生」は1994年に上演され、高校演劇のバイブルと呼ばれるようになった伝説的な作品。平田オリザ作品ならではの、複数の登場人物のセリフが同時に進行する「同時多発」会話が繰り広げられるのが特徴だ。なぜこのたび、この作品を蘇らせることになったのだろうか。演出の本広克行に聞いた。

 

本広「オリザさんの戯曲をちゃんと演出してみたいな、とはずっと思っていました。当初から演劇業界ではかなり評判になっていたこの作品に、あるときじっくり目を通す機会があって。ビックリしたのが、1つの舞台上で複数の芝居が多重で進行するということでした。ストーリーが、全然読めないんですよね。わからないから、逆にどんどんこれをやってみたくなって。そこで直接オリザさんにお会いして『やらせてください』ってお願いしたんですよ。オリザさんは快諾してくれたんですが、彼が当時『幕が上がる』の小説も書いていらしたんです。当初はアイドルグループを主役に『転校生』を上演するという案もあったんですが、たまたま『幕が上がる』の作品主旨に“ももクロ”さんが賛同してくれて。ですから『幕が上がる』の一連のプロジェクトは、この作品がきっかけだったんですよ」

 

このたび上演されるヴァージョンは21年前の戯曲を今の時代に即した形に書き直したものだが、「幕が上がる」と同じ県立富士ケ丘高校が舞台という設定になっている。生徒たちの制服が“ももクロ”メンバーとおそろいだったり、ストーリー中に「幕が上がる」の登場人物の名前が織り込まれているのも見どころの一つだ。

 

そして物語の主役となる21人の女優たちはというと、ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」の春野サクラ役で人気を博した伊藤優衣や、「幕が上がる」でも抜群の演技力を発揮した伊藤沙莉、ドラマ「なぞの転校生」(テレビ東京)主演で注目された桜井美南などのほか、小劇場界で活躍する若手女優や地方の大学で演劇を専攻する学生など、キャリアも実にさまざま。

 

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本広「70倍の倍率を勝ち抜いた“選ばれし子たち”ですから、稽古でもこちらの意図を瞬時に理解するんですよ。やっぱりこの中で何人かは、いずれ世に出てくるでしょうね。“いいものを作ろう”ってみんなが前を向いている感じがあるし、演出していてもやりがいがありますね。これが男だと、こうはならないんじゃないかと(笑)」

 

舞台となる教室の中ではなにげない会話が繰り広げられているが、そこに垣間見えるのは、未熟な世代ならではの好奇心や大人への不信感、そして将来に対する漠然とした不安。「転校生」はこれまでにさまざまな形で上演されてきたが、今回は映像と演劇の2ジャンルをまたにかけて活躍する本広ならではの演出で、この戯曲に漂う空気感をさらに鮮明に切り取っていく。

 

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本広「客席のど真ん中に舞台を作って、周囲の通路は花道のようにしようと。舞台上には2つスクリーンがあるんですが、映像班が教室の両側から撮影してるんですね。客席に背中を向けたような演技もあるので、その表情もすべてカメラで映してしまおうと。そして演者的にはプレッシャーだと思うんですが、奥にも長いスクリーンがあってそこに該当シーンの台本をずっと映していきます。複数の登場人物の台詞が重なるシーンが多いので、3列(3グループ)の台本を同時に映すんですよ。オリザさんの作品はいろんな人が再演してますし、僕に何ができるかを考えて、今持っている演出技術を全て投入したという感じです」

 

21年前に書かれた戯曲と斬新な技法をも取り入れた舞台演出、そして荒削りな中にもピュアな輝きを見せる21人の女優たちがタッグを組んだ「転校生」。エッジの効いた内容を想像させるが、見せ方としては“わかりやすさ”を重視しているのだそう。

 

本広「例えば照明が変わったらストーリーの時間軸が変わるだとか、そういったことも演劇を初めて観る人はわからなかったりするじゃないですか。その“どう見ていいのかわからない”という部分をわかりやすく、お客さんの頭の中で変換してもらえるように作ろうとは考えています。『幕が上がる』で演劇にはまったというモノノフ(ももクロファン)さんたちの声もあったので、普段演劇を観ていない人にも、この『転校生』をきっかけに他の演劇を観てもらえるようになるといいなと。もちろん、演劇を観慣れている人たちにはこの21人の色を楽しんでもらいたいですし、関係者には“これから伸びるこの子たちをぜひキャスティングしてください”と言いたい(笑)。個人的には10年周期くらいでこういう作品との出会いがあって、『サマータイムマシン・ブルース』(2005年公開。瑛太、上野樹里、ムロツヨシ、真木よう子らが出演)に出てもらったメンバーは、今みんな売れっ子なんですよ。この子たちもきっとこの作品から羽ばたいていくのであろうと思うので、その始まりをぜひ目撃していただきたいですね」

 

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稽古で1人1人に丁寧に教えるように演出をつけていた姿がまるで担任の先生のようだった本広。最後にボソリと、こんなことも話していた。

本広「大きな災害や事件なんかがあると、フィクションが一体世の中の何の役に立つんだろう?っていつも考えるんですよ。ただ、ここで見せるこの子たちの生き方はフィクションではなく、リアルなので。そこは大事に見せていきたいですね」

 

インタビュー・文/古知屋ジュン

 

【プロフィール】

本広克行

■モトヒロ カツユキ ドラマ「踊る大捜査線」のチーフ演出、同作品映画版の監督を務め、第22回および第27回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。ドラマや映画の他、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」(フジテレビ)の総監督なども務め話題に。舞台作品では「転校生」の他、「みつあみの神様」(10/24[土]・25[日] よみうりホール)の上演も控えている。