本広克行×平田オリザ 男子校版 女子校版『転校生』オーディションレポート

2019.05.17

“若手俳優発掘プロジェクト”と称して全キャストをオーディションで選び、平田オリザの戯曲『転校生』を本広克行監督の演出で上演するというこの企画。
そもそもは1994年に初演されたこの平田戯曲を、2015年に本広演出で再演、この時は1474名の応募者の中から21名が選ばれ、その中に伊藤沙莉や清水葉月ら若手注目株がいて既に輝きを放っていたことなども、伝説の作品と語られる所以だ。

あれから4年が経過し、再びこのプロジェクトが始動!
今回はなんと本邦初の“男子校版”も同時上演されることになった。
このたび、その最終オーディションが都内某所にて決行されるというので、一部を見学させてもらった。その模様をレポートする。

今回の応募総数は男女合わせて2128名。
“18歳~25歳で、これから俳優として経験を積んでいきたいと思っている方。プロを目指している方”という募集要項を見て、応募してきた面々だ。
そこから一次審査で男性73名、女性128名を選出。
このメンバーを7組にチーム分けし、2日間に分けてオーディションが行われた。

この日、見学したのは女性の“D組”と男性の“G組”。
まず“D組”はNo.34~No.68のゼッケンを胸につけた35名。審査席に着席した本広と演出助手、プロデューサーの3名を前にズラリと横に並ぶと、いかにも緊張している様子がこちらにも伝わってくる。
その空気を少しでも和らげようとプロデューサーが「近くにいる人、なるべく大勢と1対1で自己紹介してみてください」と提案。
一斉に口々に挨拶を始める35名の女子たち。徐々に笑顔が増えてきたところで、演出助手が「では、2人組になってください!」と声をかけ、今度は手と手を合わせて押したり引いたり、上げたり下げたりしながらフロアを移動するよう、指示。
ダンスのように手を広げて軽やかに動くペアがいれば、タイミングが合わなくて笑い転げているペア、スピーディーに動いたせいで結構な運動量になって息が上がってしまっているペアもいる。
こうして身体を動かしたことで、さらにリラックスモードに。

続いて「この中から自分にとっての“爆弾”と“シールド(盾)”をそれぞれ決めて、爆発する瞬間に爆弾と自分の間にシールドが入るようにうまく移動して。爆発まで、あと30秒!」というミッションに挑戦。
どうしても見た目で目立つ人物に照準を合わせる人が多く、だんだんいくつかの団子状態で移動するようになってきたところで、「5、4、3、2、1、バーン!」とタイムアップ。
結局、生き残れたのは6名だったので、意外にこれが難しいゲームだったということがわかる。

次は、7~8名の4組に分かれて、チームごとに『危機一髪』というお題で“フリーズフレーム(静止画)”を作る、という課題。
制限時間は5分間だ。立ったまま話し合うチーム、座り込んでじっくりアイデアを練るチーム、どの組も初めて会った同士のはずだが、楽しそうに盛り上がっている。
積極的に案を出す者、それを膨らませる者、集団からあえて少し離れて全体のバランスをチェックする者、“危機”の絵づくりに必要だと思ったのか自ら進んで人の下になろうとしたり、倒れた人の役を引き受けようとする者もいる。
観察しているとこんな短時間でも思いのほか、特徴や得意な立ち位置みたいなものが見えてくる。
「ストップ!」とプロデューサーの声で、4組は順に“静止画”を発表。
『黒ひげ危機一髪』を表現するチームから、『トイレ待ち』で女子トイレの列を描くチームまであり、そのコミカルな状況に大きな笑い声が会場に響く。

再び今度は背の順で一列に並んだあと、年齢順の生年月日で並び直すと、そこからはひとりずつ前に出ての自己アピールと審査員からの質疑応答タイムになった。
各自、演技経験や特技、今回のオーディションに応募した理由などを順に披露していく。
聞いていると、なかなか面白いキャリアの持ち主が多かった印象だ。

次いで行われた“G組”の審査にはNo.69~N0.95のゼッケンをつけた男性27名が参加。
「緊張している人!」、そして「役者で食っていこうと思っている人!」とのプロデューサーからの質問には全員が「ハーイ!」と挙手。
声の大きさに、意気込みが滲む。
女性の審査と同様に1対1の自己紹介を終え、「フロアをしばらく自由に歩いてみて」と言われると、なぜか不思議な動きをする者が……。
どうやら、ただ真面目なだけでなくクセモノも数人混在している様子だ。
“爆弾”と“シールド”のゲームでは、やはり男子も髪の色や服の色が他と違って目立つ人が目標にされている模様。
早くも、その明るさ、リアクションの良さで全体からイジられる者も現れ始めた。

そしてこちらの組の“静止画”のテーマは『悪い知らせ』。
9人ずつ3組に分かれた参加者たち、こちらも案の定、積極的にアイデアを出す者や、実際にポーズをとってみせて話をまとめようとする者など、各自のキャラクターが少しずつ見えてくる。
制限時間の5分が経過すると各チームの“静止画”を発表。今回は3組ともがストーリー仕立てになっていて、一見してすぐ何を表現しているのかがわかりにくい結果に。
それぞれ『入試の合格発表のワンシーン』、『社長のせいで会社が倒産した瞬間』、『バスケ部のエースが遊びでケガをし、試合に出られなくなった時』という場面を作り出したが「わかった?」「全然わかんないよ!」など、笑いながら感想を叫ぶ面々。 

また今度は背の順で横一列になり、さらに北から出身地ごとに並び直したりしてから、次はいよいよ“自己アピール”タイム。
本広が「今回は“タイトロープ”でやろうか」と提案すると、床に一本のラインが示され、テープで印がつけられた場所まで“綱渡り”のテイで絶対に落ちないように真剣に歩きながら、自分の名前と応募理由などを語っていくことになった。
「やりたい人?」と聞くと数人が手を挙げ、順にこれまでのキャリアを話しながら「未知だけど舞台の世界に挑戦してみたい」「自分にはまだ何か足りないと思っている」「これを機に成長したい」などなど、自らのアツい想いを予想以上にうまく構成しながら、ある意味ちょっとひとり芝居風にプレゼンしていた。

どちらのチームも、見学しながら自分だったら誰をどの役に推したいか、勝手にシチュエーションを想像して考えてみるのも面白かった。ここから選ばれるのは男女それぞれ、21名。
果たして誰の夢が叶うのか、そしてどんな2019年の新版『転校生』が誕生するのか。
幕が上がるのが、今から楽しみでならない。

 

取材・文/田中里津子