舞台『ハムレット』 加藤和樹 インタビュー

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世界を股にかける名演出家が手掛ける
シェイクスピア劇の最高峰に挑む!

「レ・ミゼラブル」オリジナル版の演出など世界で活躍する演出家ジョン・ケアードが、東京芸術劇場で初めて演出を手掛けることになった。その演目は、自身の代表作の一つともいえる「ハムレット」。通常ならば演者が30人ほどにもなる大規模な作品だが、ケアードは今回、役者ほとんどが複数の役を演じることで、たった14人で上演するという。そんな挑戦的な作品に出演することになった加藤和樹。2016年は「1789~バスティーユの恋人たち~」で舞台主演を果たすなど、舞台人として大きな活躍を見せる彼は、どのように本作に臨むのだろうか。

 

――今回の「ハムレット」出演にあたって、今のお気持ちはいかがですか?
加藤 出演にあたりオーディションがあったんですが、その時に直接、演出のジョン・ケアードさんがいらっしゃって、いろいろお話をさせていただきました。好きなシェイクスピアのセリフを言ってみてくれないかと言われ、以前、出演させていただいた白井晃さん演出の「オセロ」のセリフをちょっとだけやりました。あと、体が動くのか、ということでアクションもちょっとやって。そのオーディションで決めていただいたので、自分としては「よし!」という気持ちだったんですが、この錚々たるメンツを見たときにどうしよう…って(笑)。

 

――主演の内野聖陽さんをはじめ、村井國夫さん、浅野ゆう子さん、國村隼さんなど豪華な面々がそろっていますよね。
加藤 内野さんとはまだお会いしていないんですが、お話を聞く限りではすごく真面目で、お酒も好きで、芝居について熱い人と伺っているので、とことんついていきたいと思います。浅野ゆう子さんや山口馬木也さんとは、この間まで一緒に「真田十勇士」をやっていましたが、そのほかの方々は初めましてですから、迷惑をかけないように頑張りたいですね。

 

――演出のジョン・ケアード氏にどんな印象を持たれましたか?
加藤 直接お会いした印象としては、アグレッシブでパワフルな人でした。目をすごくちゃんと見据えてくれるんですね。気さくですし、仲良くなれそうな気がしています。実は「ハムレット」って舞台作品も映像も観たことがないんですよ。本当に文字でしか読んだことがないので。だからこそ余計な知識を入れないで、まっさらな状態でジョンが作るものに没頭できると思っています。

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――今回の作品は、キャストのほとんどが複数の役をこなすことになります。加藤さんもレアティーズ役のほかにも演じることになると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
加藤 本当に、まだどうなるかわかんないです。以前、海外の演出の方では「タイタニック」というトム・サザーランド演出の作品に出演したんですが、その時も少人数で何人もの役をみんな演じたんですね。本当にバタバタだったし、早替えもいっぱいあって。今回、自分は何役を任されるのかわかりませんが、けっこう楽しみにしています。

 

――ひとつの役をやるだけでも気持ちを作ったりするのは大変な気がしますが、何かコツのようなものはあったりしますか?
加藤 ないですね。このセリフの時に自分がどういう気持ちになるのか、どういうことを考えているのか、ひとつひとつしっかり捉えて作りこんでいけば、自然とその役の気持ちにはなれるんです。今回の舞台みたいに、ひとつの舞台で複数の役をやる経験は多くないんですが、袖にはけて衣装を着替えたら、自然と気持ちは切り替わると思います。今日も、この衣装を着たら何かスイッチ入っちゃって(笑)。こういう動きになるかな、なんて動いてみたりしたんですが、イメージしていた動きと全然違いましたね。ちょっと和服っぽいので、ちょっと腰を落としたくなるし、少しガニマタになる。もちろん、本番ではまた変わるかもしれないですが、衣装の力って本当にすごいなと。

 

――加藤さんはこれまで、たくさんの舞台をご経験されてきました。2016年は帝国劇場で上演された「1789~バスティーユの恋人たち~」で主演も果たし、大きなターニングポイントを迎えた年だったように思います。
加藤 そうですね。やはり帝国劇場ですので、ダブルキャストとはいえ自分なんかが主演なんてと思いましたし、プレッシャーもありました。でも、演出の小池修一郎先生に「自信をもってやれ」と言われたので、自信を持って演じるように努めました。ただ、主演といってもキャストの中の一人にすぎない。自分じゃ何もできないんです。主演っていうのはもちろんあるけれど、キャストの一員、ねじの一個。そういうイメージで臨みましたね。同じ舞台に立つ一員だからこそ共感できるものってあるじゃないですか。どんな人たちともお芝居の話をいっぱいして、自分の役を演じきりたいと、ずっと思いながらやっていました。

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――帝国劇場での主演を経て、挑戦的な演目である「ハムレット」への今回の出演は、何か舞台人としての強い意志のようなものを感じました。
加藤 今回に限らず、舞台は大きい小さいに関係なく、作品が良ければ絶対的にやる価値はあると思っています。最近では2.5次元の舞台が多くあって、自分もそこから出てきている人間ですしそれが悪いとは言いません。じゃあ、舞台として何を残していけるのかというと、シェイクスピア作品などは、昔からいろんな方たちがいろんな国で演じてこられているわけだから、これだけ残っているわけじゃないですか。そういうものを、これからも残していかなければと思っているので、今回のような作品もやるし、新しいものにもどんどん挑戦していきたい。ミュージカルや新しいことをどんどんやって、そこから後世につながる作品が生まれたらいいな、と。そうすることが自分の使命だと思っているし、そしてお客さんにもいろんな世界を知ってもらいたいですね。

 

――舞台という文化を、次の世代に繋げていきたいと。
加藤 それは一人ではできないし、これまでは先輩たちがそうしてきた。これは、白井晃さんに言われたんですけど「2000年代に入ってから、ある意味、演劇というものがお前らの世代によってぶち壊されているんだから、お前らの世代で直せ」って。最初にそれを言われたときに「いや、知らないよ」って思ったんですけど(笑)、でも白井さんを含め先輩たちとお芝居を作ることによって、「じゃあ演劇って何なんだろう?」とか考え始めたんです。昔から受け継がれてきたものを、自分たちが今度下の世代に教えていかなきゃいけない。難しいことではあるけど、今回の作品のように先輩方に飛び込んでいかないと、永遠にそれはわからないままだから。本当に、自分としては“挑戦”なんです。今は、若い世代だけで固まってしまうことが多いので、先輩たちにどんどん飛び込んでいきたい。いろんな作品のスタイルがあるから一概には言えないですけど、自分にとってはこうすることが、舞台への恩返しになるんじゃないかと。挑戦しなかったら、何にも残らないですから。

 

――稽古もまだこれからだとは思いますが、「ハムレット」も大きな挑戦の舞台になりそうですね。
加藤 おそらく、まだ誰も見たことのない「ハムレット」ができるんじゃないかと思っています。これだけの素晴らしい先輩方、キャストの中でお芝居できることに喜びを感じながら、お客さんにも、本当に面白かった、また観たい、と思ってもらえるようなものにしたいですね。ジョン・ケアードが演出する「ハムレット」を、ぜひ観に来てください。

 

インタビュー・文/宮崎新之

【プロフィール】
加藤和樹
カトウ カズキ 1984年10月7日生まれ、愛知県出身。俳優・声優として活躍する一方で、アーティストとしても活動。最近の主な舞台としては、2013年に「ロミオ&ジュリエット」、2014年に全世界初演ミュージカル「レディ・ベス」やウエストエンド版ミュージカル「タイタニック」に出演。2016年には東宝ミュージカル「1789~バスティーユの恋人たち」で初の帝国劇場主演を務める。

 

【公演情報】

ハムレット

日程・会場:
2017/4/9(日)~28(金) 
東京芸術劇場 プレイハウス(東京)
2017/5/3(水) ~7(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫)