『BACKBEAT』加藤和樹・上口耕平 インタビュー

世界を席巻した伝説のロックバンド、ビートルズの創成期を描いた映画「BACKBEAT」を監督のイアン・ソフトリー自身が舞台化。21歳でこの世を去ったスチュアート・サトクリフにスポットを当て、ブレイク前の彼らの過ごした時間を繊細に描き出していく。日本初演となる本作でジョン・レノン役を務める加藤和樹と、ピート・ベスト役を務める上口耕平に舞台に臨む心境を聞いた。

 

――プライベートでも仲良しというお二人ですが、出演が決まった時はお互いに連絡されました?

加藤「“最高だな!”って話しましたね(笑)」

上口「そう、“最高だな!”って返しました(笑)。役者としての加藤和樹だけじゃなくて、アーティストとしての加藤和樹も体感できそうで、すごく贅沢な時間になるんじゃないかと」

加藤「耕平はダンスがすごいのに、その耕平がドラムという動かないポジションにいるというのが面白いよね(笑)」

上口「この間、2人で食事した時に、まだまだ先の舞台のことを『俺はこういう順序で、これだけのことをやろうと思う』と熱く語っていて、その心意気がスゴイな、と。男気というか。ひとつひとつの作品に真正面からぶつかっていくところに心打たれるし、見習いたいですね。僕もそうあるべきだと、この間強く感じました」

加藤「ちょっとそれ言われると恥ずかしい、恥ずかしいから(笑)。でも、なんだかんだ言ってもこの人もすごく努力家ですからね? 今まで舞台で一緒にやってきた中でも、自分に足りないものを凄くわかっていて、そこをちゃんと伸ばそうとする。そこは見習うべきだな、と思っていますね」

上口「いや、これ恥ずかしいね(笑)」

加藤「30超えた2人がお互いに褒めあうっていうね(笑)。でも本当に、僕にとっては信頼できる役者で、どこかで心の支えにもなってくれる人なので」

上口「心も支えながら、今回は音でも支えないとね(笑)」

 

――ほかのキャストの方の印象はいかがですか?

上口「僕はこの間、ポール・マッカートニー役のJUONさんと、ジョージ・ハリスン役の辰巳雄大くんと初めてセッションをしたんですけど、本当にものすごくハッピーな空気で。正直、初めてバンドで音を合わせるのが不安で不安でたまらなかったんです。まして、JUONさんはプロのアーティストですし、僕はドラムを触り始めたばかりくらいだし、ドキドキしていて。でも、入ってきた瞬間に『音楽、楽しもうぜ!』っていう感じで、それに本当に救われたんです。まだ全員集まっていないんですが、すごくいい空気で、より一層燃えました」

加藤「僕は、スチュアート・サトクリフ役の戸塚祥太くんのキービジュアル撮影の時におじゃましてご挨拶したんですが、開口一番に『ジョンに会えた』と言ってくれて。戸塚くん自身、ビートルズがすごく好きで、そういう彼とお芝居だけじゃなくて、バンドとして一緒にやっていけるのはすごく楽しみだし、バンドで奏でる音色もこのメンバーだからこそできるものを目指したいですね」

 

――上口さんはドラマーの役ですが、ドラムのご経験はあるんですか?

上口「もともとダンスをやっている中で、ドラムにはずっと興味があったんです。ある映像で、サミー・デイヴィスJr.っていう往年のエンターテイナーが、めちゃくちゃカッコよくダンスした後に、バックバンドのドラムを退けて座った途端バーッ!とめちゃめちゃカッコよく叩いているのを観て、衝撃を受けたんですよ。あと、テーマパークのキャラクターがダンスをするショーでも、メインキャラクターがドラムを演奏する場面があって。“ドラムってこんなにカッコいいんだ!”という気持ちはずっとありました。それで、あるミュージカルに出演していた時のドラマーの方に『ドラムを教えてください』って言って、個人的にドラムを始めていたところだったんです。昨年2月くらいからかな。だから、このお話があって本当にびっくりしました」

 

――加藤さんはジョン・レノン役ということで、歌も重要になってきますね。

加藤「やっぱりキレイに歌うのではなくて、ジョンのギリギリ感だったり、わざと気だるくだったり…あと、演出の(石丸)さち子さんともお話していたんですが、ジョンはずっと怒りを抱えている。それが歌声にも出ているんですね。だからすごく難しいんですが、わざと外して歌うようなことをしなければならない。キーとしては自分としては全然出せるキーなんですよ。でも、そこにギリギリ届くか届かないか、というジョンのシャウト気味な感じを出すために、楽に歌っているように聞こえちゃダメなんですよ。普段歌っているポイントとは違うので、そこに慣れていかないと。違うところの声帯を鍛えていかなければならないので、そこが難しいですね。自分自身、自分の歌声に“えっ?”ってなってます(笑)」

 

――実在の人物を演じるという部分ではいかがですか?

加藤「有名になった彼らのことは皆さんよくご存じだと思うんですが、今回は彼らがビートルズとしてデビューして有名になる前、まだ10代の話なんです。その頃の彼らの振る舞い方という部分では、難しさも感じます。映画の『BACKBEAT』を観て、こんな苦労だったりいざこざだったりを乗り越えて、スタートがあったんだというのはとても感じたところだったので」

上口「やはり過去の資料を拝見していると、ジョン・レノンがミスター・ビートルズというか。とても頭が切れる人なんだと改めて知りました。すごくロックンロール。でも意外とそういう部分って知られていなかったりもするから、和くんがジョン・レノンをやることでそういう部分を伝えていけるというのは、僕らも楽しみです。

加藤「とはいえ、僕らが参考にできるのは“出来上がったビートルズ”。だから、変な話いかようにも、やりようがある。ハンブルグ時代の最初のライブは誰も聞いていないし、そこからだんだん火がついていくような流れは、僕らの舞台をお客さんが、どんなもんじゃ?と観に来て、終幕の時にはワーッと盛り上がるっていう流れと似ていますよね。そういう過程を一緒に作っていければ、それが正解なんじゃないかな」

上口「当時の資料としては、音源は少しあるんですが、映像は残っていなくて、ほぼ無いと言っていい状態。なので、単に当時の彼らを再現するということではなくて、当時のちょっと荒っぽくて尖がったビートルズに熱狂したお客さんの感覚を、今の僕らが見に来てくれたお客さんに与えることができたら、それはそれで成立するんじゃないかと。音楽的に忠実に再現していく部分はもちろんあるんですが、僕たちのバンドの“基”を探していきましょう、ということがとても興味深い。その切り口にすごくワクワクしますね」

 

――今回の舞台でスポットの当たっているスチュアート・サトクリフもそうですが、上口さんが演じるピート・ベストも“5人目のビートルズ”として知られざる人物ですね。

上口「ピートの人物像やなぜビートルズから抜けることになったのか、いろいろと調べているところです。彼の脱退に一番、後悔しているんじゃないかと感じたのはジョージ・ハリスンで、よく言われている説ではピートの脱退を言い出したのがジョージだったとか。元はハンブルグでのツアーのために急遽加入したドラマーだったんですよね。そして、ピートだけトレードマークとなったマッシュルームヘアにしなかったり、ポリシーが強いのか何なのか…。演出のさち子さんが言うには、ピートは基本的に自分から発信しない、動かない。不動の男なんです。そこを今回の作品の中でどう表現していけるのか、周囲との関係性を彼がどう築き上げていたのかを大切にしたいです」

加藤「本当にしゃべらないもんね(笑)。映画の中では『ドラムが喋ることじゃない』みたいなセリフもあったよね。でも、ひと言に重みがある。その一言が大きな意味を持つし、発言力のあるポジションだと思うんですね、ドラマーって。僕もいろいろなドラマーと一緒にプレイしてきましたが、多くを語らないんです。音で語る。そのどっしり構えたところは、今回のビートルズにもあると思うので、そこを耕平がどういうふうにするのか楽しみ」

上口「ピートはちょっと尖ったイメージもあるんですが、すごくクレバーで温厚だったらしいんです。話の中心となるスチュアートはとても顔立ちが美しくて人気のあるメンバーで、マスコットのような感じだったみたいなんですが、スチュが去った後、ピートもすごく人気があったそうなんです。何か人を魅了するもの、カッコよさがお客さんにも伝わっていたんだと思うので、そこも研究したいですね。セリフも少ないので、そこはドラムの音にかかってくるのかも」

 

――劇中では、実際に楽曲を演奏をされるんですか?

加藤「まだ相談の部分もあるんですが、できる限りはやっていきたいと考えています」

上口「少なくとも、演奏をするシーンはありますし、役者自身が本当に演奏して、生の音でやることはひとつの大きな試みだと思っています」

加藤「個々でやれることは、それぞれに合間を縫ってやっているところですが、やっぱりグルーヴっていうのは実際に合わせてみないとわからない。その“バンド感”は、せーの、で音を出したときにわかるもので、バンド自体が創り出す空間っていうものをすごく楽しみにしています。それは自然と、音づくりの中や芝居の過程の中で出来上がってくるでしょうし、さち子さんが導いてくれるはず」

 

――お2人はビートルズについてどのようなイメージをお持ちでしたか?

加藤「音楽をやっている身ではありますが、10代の時はバンド経験がないので“ビートルズをやってみよう”っていう経験もなかったんです。なので、ちゃんとビートルズに触れる機会としては、とても素晴らしい機会をいただきました。フラットな目線で彼らを感じることができれば新たな発見があるんじゃないかと思っています。」

上口「僕は両親がビートルズを好きで。世代もドンピシャなので、家にはビートルズのCDがあって、母親がそれをかけながら掃除とかしていたんです。だから楽曲に対する親しみはありました。彼らのマッシュルームカットのファッションも割と好きで、細身のミリタリージャケットやプチパンタロンを買ってみたり(笑)。うっすらとした憧れはありました。でも、どうやって彼らが成功していったかまでは知らなかったので、今回いろいろと新しく知ることがあると思います」

加藤「友達を誘ってバンドやろうか?みたいなきっかけってみんな同じなんだな、と。少年たちが実力試しでハンブルグに行って…って、本当にやっていることはそこいらのバンド少年と同じなんです。そう考えると、すごく身近な感じがして。そういう意味では、僕らもバンドを組んでこれから練習して合わせて…っていう近いスタート地点にいるんですよね」

上口「そういう『おっ、いいね~上手いね、やろうぜ』みたいな、若者のノリから始まっていることはすごく面白い。僕が知っているビートルズはすでに完成されていて、世界中が知っていて、神々しいもの。でも彼らのことを紐解いていくと、ものすごくやんちゃだったり…」

上口「そういうロックの汚れたような部分ってビートルズにはあまり感じたことがなかったんですよ。でも、原点はそこだった、というのは今回改めて知りましたね」

 

――ビートルズの楽曲についてはいかがですか?

上口「当時の彼らの音楽を追う中で、彼らが聴いていたものとか真似していたものを探っていくと、やっぱり似ているんです。じゃあ、彼らは何がそれと違ったのか。なぜ彼らが爆発的に売れたのか。演奏もそんなに超絶技巧みたいなものではなかったし…」

加藤「割と、誰もがマネできるようなフレーズやリピートも多いからね」

上口「若者を掻き立てたハートとか、そういうものがいっぱい詰まっているバンドなんだと思うので、そこも研究したいですね」

 

――演出を務める石丸さち子さんは、この公演に寄せて「青春の孤独」という言葉を使っていました。この孤独という言葉は、作品において重要なキーワードになるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

加藤「ジョンに関して言うと、バンドをやっている中でも、どこかしら怒りを感じている。それは時代なのか、大人や周囲に対しての怒りなのか…常に満たされることが無いんです。そこには、母親に育てられていないという生い立ちの部分もかかわってくると思います。だからこそ、音楽で自己表現していくしかない。信頼できる仲間もいるんだけど、単純に仲のいいバンドの話じゃなくて、スチュが絵の才能を開花せてそちらに行ってしまうことへの嫉妬もある。男の友情のような部分やスチュへの愛情もある。映画の中では否定していましたが、友情を超えた情が、同類だと思っていた人が離れて行ってしまう寂しさや孤独。それはあったんじゃないかと思うんですよね」

上口「それが10代の頃というのが、すごく大きなポイントだと僕は思うんです。10代だからこそ、ずっと迷っているし、ずっと満たされない。僕はミュージシャンのスター性のひとつに孤独があると思うんですよね。どこか、物足りなくて、足掻いていて、孤独に見える。でも、演奏の瞬間だけは全力でぶちまけている。そのキラキラが、10代ならではのビートルズの輝きなのかな、と。なので、それぞれのキャラクターに孤独というキーワードはあると思いますね。ピートも最終的には取り残されるわけで、大きな孤独を感じることになりますが、それぞれに違った孤独がある。ちょっと痛みがあるけれど、なんかキラキラする瞬間を表現できたらと思います」

 

――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

上口「ストレートプレイというくくりですが、かつて見たことの無いようなスタイルのものになるんじゃないかと予感しています。当時のビートルズが尖った心で先へ先へと進もうとした話ですが、実際、僕たちもこの作品をやるという気持ちの上では同じ。そのエネルギーを届けられたら、きっと届くと信じていますので、楽しみにしていただきたいです」

加藤「僕自身も勉強中なところがありますが、皆さんの知らないビートルズ、はじまりの物語がここにあります。葛藤や怒りなんかは今の時代にも通ずるものがあるんじゃないかと思いますし、言いたいことも言えない世の中なんとやら、という時代ですからね。こんな時代だからこそ届けられるメッセージを感じて頂けたらと思います」

 

インタビュー・文/宮崎新之