ミュージカル『タイタニック』加藤和樹&渡辺大輔 インタビュー

沈没した豪華客船タイタニック号に乗り込んだ人々のさまざまなドラマを描いたミュージカル『タイタニック』が10月に上演される。同作は1997年にブロードウェイで初演され、2013年には新演出版がロンドンでも幕を開けた。若い男女の恋愛にフォーカスされた誰もが知る同名映画とは違い、舞台版では史実に基づいて物語やキャラクターが作られ、ブロードウェイの有名作曲家モーリー・イェストンの流麗な楽曲に乗せた群像劇として楽しめる。ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』で、フランスに革命を起こす同志として息もピッタリな演技を見せ、『タイタニック』で、再び共演を果たす加藤和樹と渡辺大輔に話を聞いた。

 

――『タイタニック』の再演が決定しました。加藤さんは2015年の日本初演にも出演されています。

加藤「初演と違ったプレッシャーを感じていますが、やはりうれしいです。『1789 -バスティーユの恋人たち-』(以下『1789』)でも同じですが、初演と同じものを見せるわけにはいかないので、自分自身の課題や、前回できなかったことをよりブラッシュアップしたいですね。前回見逃したお客さまにも、ぜひ、見ていただきたいです」

 

――渡辺さんは出演が決まった時、いかがでしたか。

渡辺「「あ、和樹とずっと一緒だ」と思いました(笑)。『1789』の稽古から考えると、今年は半年以上一緒に過ごすんだなと」

 

――お二人は仲が良いのですね。プライベートでもご一緒されることはありますか。

渡辺「よくご飯に行ったりしています。昔から知っているので、食の好みとかも含めて気が合うんです」

加藤「お互い安心感があるよね」

渡辺「『テニスの王子様』で初めて共演して以来、もう10年以上の仲ですね。海外公演があったので、台湾や韓国にも一緒に行きました。『1789』の初演が、舞台という形では久々の再会でしたが、和樹は和樹。昔のまま変わりがなくて。皆が慕っている。優しいんですよ、とても。和樹が怒ったところは今まで見たことがないですからね。僕たちは、のほほんタイプっていうか…(笑)」

加藤「そうだよね。落ち着いている。大ちゃんは、『テニスの王子様』のころからそうですが、すごく安心感があって身を任せられるんです。何をしても受け止めてくれて、懐が深いんですよ。それこそ、大ちゃんが怒っているところを僕も見たことがないんです」

渡辺「出会ったころが20代の半ばで、ほかの下の世代の子たちはもっとワイワイしていたけど、僕らは落ち着いていたよね」

加藤「お互い役柄は部長だったしね(笑)」

 

――二人で一緒に成長してきたという感覚でしょうか。

渡辺「一緒にというよりは、各々が各々のステージで折れずに一生懸命やってきて、ここで再会したという感じです。『タイタニック』以降も、役者を続けている限りまたすぐに会うんじゃないかと思います。結局、役者はその繰り返しじゃないかと」

加藤「そうだね」

――『1789』で久々に再会して、何かお互い変わったなと思うところはありますか。

加藤「『テニスの王子様』のころから、大ちゃんは歌声が安定している。大ちゃんの声がすごい好きなんですよ。大ちゃんが言った通り、それぞれのフィールドで活動してきて、大きな作品で一緒になるというのがすごくうれしくて。今回の『1789』には『テニスの王子様』で一緒だった広瀬友祐もいましたし、初演のときは古川雄大がいました。『テニスの王子様』のメンバーがこうやって巡り合えることが、すごく誇らしかったです」

渡辺「初演の、和樹を真ん中に、雄大と僕で肩を組んで3人が希望に向かって歌うシーンは、『テニスの王子様』ファンの方にとっては感慨深い光景だったようですね」

 

――そして、今回は『タイタニック』です。この作品ではキャストの大半が、一等客から三等客まで早替えをしながら演じ分けていくのが特徴でもあります。

加藤「僕は設計士のアンドリュースを演じますが、一役なんです。僕と船長と、船のオーナーのイスメイは一役です。ほかのキャストは一人で何役も演じます。オープニングから入れ代わり立ち代わりで一人7役を演じる方もいるんです。それを大変そうだなと横から眺めています(笑)」

渡辺「僕は主には三等客のジムですが、ほかにも色々演じるようなので楽しみです。ただ群像劇なので、誰がメインというのはないとも聞いています」

加藤「そう、本当にないんです」

渡辺「初演の台本を読ませていただいた限りだと、ジムはとても真面目な青年だなという印象です。この作品は、一人ひとりが抱えている夢や希望が際立つように作られている。僕は『タイタニック』の演出を手掛けるトム・サザーランドさんとお会いする機会をいただいたのですが、そのときに、「たぶん、君たちが知っている『タイタニック』は、映画だよね。でもあの映画をミュージカル化した作品ではないよ。僕たちは人と人とのつながりを大切に描いている。一人何役もやるのは、着ているものが違うだけで、中身は皆、同じ人間だというメッセージを込めているんだ」とおっしゃっていて。その言葉がとても響いたんです。色々な人間ドラマがあるということを伝えたい。一人の人間の物語だけでは終わらせたくないですね」

――アンドリュースは実在人物で、ヒーロー視されている部分もあり、記念碑や彼の名を冠した学校まであるそうです。演じるにあたって、どう捉えられたのですか。

加藤「トムとよく話し合いましたね。トムはものすごいタイタニックマニアなんですよ(一同笑)。タイタニックのことは知り尽くしていて、何を聞いても答えが返ってくるんです。アンドリュースは、自分が設計したものに対して不備がないかと、出港してからも、寝る間を惜しんでメモを取っている。彼の必須アイテムはメモで、初演のときは、僕もずっとメモを取っていました。それが彼の几帳面さでもあり、「設計士として航海が無事に終わるまでは成功ではない」というポリシーなんです。処女航海を終えて、初めてタイタニックを作った偉大さが認められるわけで、そういう意味では、彼も志半ばで命を落とした人。トムには、「彼の無念さはもちろんだけれど、自分の子どもであるタイタニックの処女航海を楽しみにしていた人なので、夢と希望を伝えることも大切にしてほしい」と言われました」

 

――初演では、船が沈没していく中で、アンドリュースがメモを地面にそっと置くシーンが印象的でした。

加藤「「メモはアンドリュースの生きた証しでもあるし、メモを残すことによって残された人に何か伝わるものがある」というトムの演出なんです。アンドリュースが書いたメモがタイタニックで起こったことのすべてだと思うんです。アンドリュースは、船の不備も含めて、人々がどういう状況であるかを観察して、色んな人に話を聞いていました。映画でも彼の最後の姿が描かれていて諸説ありますが、一番有力な説は、食堂の時計を眺めながら穏やかに過ごしていたと。彼は、タイタニックが氷山にぶつかって、絶対に助からない、船は直らないと誰よりも一番よく分かっていた。その瞬間にアンドリュースは覚悟を決めたと思います。ほかの近くの船に助けてもらえるのではないかという情報を得たときも、船を直すよりは、救助を待って、いかに多くの人の命を救えるかと考えたと思うんです。自分の命は二の次で、「何がいけなかったんだろう」と。「もっと壁を高くしていれば、氷山にぶつかっても、水が入ってこなかったはずだ」と最後に歌う「アンドリュース・ヴィジョン」という曲があるんですが、あれを歌うときは、やるせないし、苦しいです。ほかの人たちは逃げまどって階級差の意識もなくなる。歌詞にも「獣みたい。それが人間の姿」とあるんです。でも、人間にはそうじゃない部分もあるということをアンドリュースは知っている。とても無念だったと思います」

 

――もし、アンドリュースが生き残ったとしても、残りの人生はつらかったでしょうね。

加藤「つらすぎますよね。責任感が強い人ですし、一生背負っていかなければならない」

渡辺「その人生は過酷だね」

加藤「アンドリュースと船長の3人で大の大人が責任を押し付け合うシーンがあるんです。船のオーナーのイスメイは、船の名声を上げるためにスピードを上げろと指示したにもかかわらず、「俺の責任ではない」といって、そうなる状況も分かりますね。でも、責任をはっきりさせたところで、状況が変わるわけではないんですよね。アンドリュースはどこか冷静。一方イスメイは、自分が生き残った場合に責められないようにすることを考えている」

渡辺「普通は、自分の命を守ろうとするわけだけど」

加藤「イスメイはただ、自分の立場を守ろうとしていたんだよね」

――作詞・作曲はブロードウェイで名高いモーリー・イェストンさんが手掛けています。とても美しくて流麗で、水の音が聞こえてくるような楽曲もあり、「アンドリュース・ヴィジョン」などの重いシーンであっても、その流麗さは発揮されています。

渡辺「重いシーンでもあえて重苦しくされていないのは、それだけに流されないようにしている部分もあるのではないでしょうか。『タイタニック』と聞くと、どうしても悲劇と思ってしまう側面があるじゃないですか。悲しさの一辺倒にはしたくなかったのではないかな」

加藤「全体的に通して言えるのは、とても感情が乗りやすい旋律だということですね。僕が歌う曲はとにかく感情でいかないと、ただ歌うだけではダメなんです。感情が伴わないと表現できない。ただ、楽曲が素晴らしいのは間違いないですね。全員で歌うときのハーモニーの素晴らしさ、ダイナミックさ。歌っているこっちが感動するぐらいです」

渡辺「僕は初めて歌うので、今から楽しみですね」

 

――『1789』の楽曲の良さとは違いますか。

渡辺「そうですね。フレンチロックとは全然違う」

加藤「違いますね」

 

――フレンチロックはいかがですか。

渡辺「かっこいいですよね。歌っていて気持ちいいです。『タイタニック』でもキャストの皆さんと楽しんでセッションしたいです」

加藤「楽しいよ」

渡辺「和樹がずっとそう言うんですよ(笑)」

加藤「中でもトムが一番楽しそうです(笑)」

渡辺「そういえば、海外の演出家の方って時間ピッタリに稽古が終わるよね。決められた時間で仕事をする。これは海外では当たり前らしいんですが」

加藤「どんなに稽古の途中でも終わるんですよ。必ずご飯の時間も取りますね。最初は戸惑うんだよね。でも、トムが「人間の集中力はそんなに続かないものだ」と言うんです。やるときはやって、さっさと帰ったほうがいいと。そして、また、朝から始める」

渡辺「オンとオフが明確です」

――再演で、トムさんの演出がどう変わっていくのかも期待したいです。

渡辺「トムさんにお会いしたときに、「タイタニックの遺族の方はどう考えているんですか」と伺ったら、「いまだに引きずっている」とおっしゃっていました。ご遺族はいまだにつらい思いを抱えているということを忘れてはいけないなと感じましたし、この惨劇に遭った人や、その遺族にも寄り添いたいと思いました。日本のお客さまにも命の尊さや、色々なことを感じてほしいです。懸命に生きて、夢に向かってアメリカに行こうとしていた人々がいたということを知ってもらえれば、何かで悩んでいる方の後押しにもなるかもしれないと思っています。すべてを悲劇に結び付けたくない。そういう気持ちで舞台に立ちたいですね。色んな役をやりつつ、ジムとしてどう生きるかは今から本当に楽しみです」

加藤「大ちゃんが言った通り、僕も悲劇の中に、希望や夢があることを伝えたいですね。「何で自分だけが死ななければいけないんだ」と言って死んでいった人たちだけがいたわけではない。自分の命に代えて救命ボートに恋人や家族を乗せた人は、何を託していったのか。彼らの無念をただの無念で終わらせないためには、未来につながる希望が大切なんです。その希望を感じてもらいたいです」

 

渡辺大輔衣裳
ジャケット The Chino Revived  (ザ・チノ リヴァイブド)
問い合わせ先:プリマクレール・アタッシュプレス (03-3770-1733)
その他、スタイリスト私物

 

取材・文・写真/米満ゆうこ