“開かれたマツオ”もいいけど“狭いマツオ”は深いですよ
2002年に“日本総合悲劇協会(ニッソーヒ)”第3弾として上演された、松尾スズキ脚本・演出の『業音』。初演時は主演が荻野目慶子であること、ほとんどの登場人物が自らの名をそのまま役名にし、物語も現実の出来事を連想させる内容だったこともあって、大きな話題となった伝説的な作品だ。15年ぶりに封印を解く形にはなるが、松尾自身は5年ほど前から再演を目論んでいたという。
松尾「初演で荻野目さんがやっていた役だからと恐れをなす人もいるし、露出もあるしで、主演女優を誰にお願いするか喧々諤々していて。そのうちに平岩(紙)が初演時の荻野目さんの年齢を追い抜いたので『じゃ、平岩、やってみるか』と。16年前、平岩が大人計画に入った時は無垢な女という雰囲気だったけど、あれからいろいろな舞台に出て経験を積んだはず。ぜひここで、平岩なりの集大成を見せてほしいですね」
振り返ると『業音』は、現実とのリンクの仕方や、ダンスを取り入れた実験的な表現方法など、他の松尾作品のどれとも似ていない気がする。
松尾「ちょうど自分が『キレイ』という大劇場に打って出る芝居を手がけた直後で、次はマスに向かって開くものではなく自分の濃縮した世界観を出したいという欲求が強くあったんだとは思いますが……。でも確かにそうですね、これ以降は僕がここまで出演することはなくなったので、それで作品の質が他と違うものになったのかも。より、自分の本質的なものが顕著に出た作品だとは思います」
松尾はこの再演版でも同じ役で出演する。ということは、役者・松尾がここまで堪能できるのは貴重な機会となりそうだ。さらに今回は役名の固有名詞をはずし、普遍的な作品になるように改訂した、新たな『業音』としての上演になるとも。
松尾「初演は東京公演だけでしたが今回は全国5カ所で上演する上に、パリ公演もある。各地のお客さんがどんな反応になるか、怖いと同時に楽しみでもあります。最近はまた大劇場での芝居が続いていて、そういう“開かれたマツオ”もいいけど“狭いマツオ”もいますよ、しかも“狭いマツオ”は深いですよ……ということも、ぜひ味わっていただきたいですね」
インタビュー・文/田中里津子
Photo /保高幸子
※構成/月刊ローチケHMV編集部 5月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります
掲載誌面:月刊ローチケHMVは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
松尾スズキ
■マツオ スズキ ’62年、福岡県出身。1988年に「大人計画」を旗揚げ。作家、演出家、俳優、映画監督、脚本家。
日本総合悲劇協会Vol.6『業音』
日程・会場:
8/10(木)~9/3(日) 東京・東京芸術劇場 シアターイースト
9/13(水)・14(木) 愛知・名古屋市青少年文化センター アートピアホール
9/16(土)~18(月・祝) 福岡・西鉄ホール
9/21(木)~24(日) 大阪・松下IMPホール
作・演出:松尾スズキ
出演:
松尾スズキ、平岩紙、池津祥子、
伊勢志摩、宍戸美和公、宮崎吐夢、皆川猿時、村杉蝉之介、
康本雅子+エリザベス・マリー(ダブルキャスト)
受付期間:5/9(火)12:00~21(日)23:59