段取り稽古がやっと一巡してこれからがぶっ壊し!?
業界に轟く“白井演出の神髄”を身をもって体験中の4人が語り尽くす
「白井さんに反対されてもコメディ寄りにします」(!?)
現在配布中の『オーランドー』のフライヤーはトランプのクイーンやキング、はたまたジョーカー?を用いたカラフルでキュートなデザイン。主役オーランドー役の多部未華子が鼻ひげだったり、小日向文世が女王だったり、楽しすぎてにやけてしまうし、小芝風花、戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹の、性別をまたいだ男女変貌のコスプレ姿もおもしろい。本番を見る前からワクワクしてしまうが、稽古真っただ中の小芝、戸次、池田、野間口は“ストレス状態”にあるという……! 果たして原因は演劇界のみならず映像業界にも噂が轟く白井晃の独特演出。なにが一体そこまでどうなのか? 稽古終わりの4人に包み隠さないところを聞き出した。
8月1日に始まった稽古は途中夏季休暇を挟みつつも計2週間以上をカウントした時点。座談会を開いたその日に、全編の段取り立ち稽古がようやく一巡して終わったところだという。
――ということは、物語の大枠がつかめた段階ですね。一巡を終えての感触とは?
池田「ホッとしました。今日の一巡目を作るまで結構ストレスが溜まって、稽古場に立っているのもシンドクて。明日からようやく楽しめるのかな……って、そんな予感はないですけど(苦笑)。でも、一幕二幕を通した辺りで、これっておもしろいなあと演じながら思ったんですよ。なにがおもしろいのかはまだわからないけど。こういう役はやったことがないんです。いつもみたいなぶわっと感情を出す役じゃない。そこに新鮮味を感じています」
野間口「うーん、なんというか……、僕は白井さん慣れしすぎてしいて(4 four(12)/テンペスト(13))、今回で3回目ですけど、いつもより進みが早いなと。みんなが悩む感じ、ストレスな感じってものすごくわかるんです。あー、はいはい、それね、通ってきたよーって(笑)。真のストレスはこれからだよってのも言いたくて」
戸次「え、そうなの? ……怖いなあ。どうして今回は早いんですか?
野間口「僕が、早くしてくださいと白井さんに要望したから。みんながストレスを感じているのがわかるから、いつもの感じじゃマズいっすと。白井さん慣れしている僕くらいしか言えないかと思って」
池田「白井さんの稽古の大変さはテレビ業界でも知れ渡っていますから」
――稽古時間が長いとはご自分でもインタビューでおっしゃいましたが、そんなに?
野間口「こちらが要求しない限り休憩なし」
池田「野間口くんも僕も出た『4 four』の時は、田山涼成さんから名言が出たよね。頼むからタバコを吸わせてくれって半ば土下座の懇願。ぶっ通しで3時間くらい稽古してたから(苦笑)」
野間口「あれ、そう、じゃあ10分休憩ね……、って、10分かい!と(笑)」
――ストレスの具体的な中身とは?
野間口「白井さんの中では進んでるんでしょうけど、僕ら役者は進んでいる手ごたえが得にくいんです。なぜかというと、白井さんの中で十中八九ないだろう演出も、とりあえず一度やってみてって、一度見てみたいからって。ダメかどうかを一度やって確かめたいんですね。そういうことが多々あるので、初めての人は戸惑うと思う。僕は3回目ですから、はいはい、これね、ないってバージョンね、やりますよー、と。6割ないな、これは4割ない、あれ、これはアリかもしれないやつだと、こっちも探り探りやるんです」
戸次「今のを聞いてストーン!と腑に落ちましたよ。あれですね、ドレス選びをする花嫁。これにするって自分の中で決まっているだろうに2着目3着目も着ないと気が済まない」
池田「すると、僕ら役者は新郎側でいいのかな?」
野間口「というか、白井さんの中では一つも捨てたくないんだよね。結果捨てるものでも、一度ちゃんと拾ってから、捨てたい」
池田「なんか、わかってきた」
――小芝さんは、ここまでの感触、どうですか?
小芝「台本が本当に難しくて、セリフも言いたいことが遠回しの表現で、これって見ている人がわかるのかな?と最初は思いました。でも、ここまで稽古をして動きがついて、コーラス(戸次、池田、野間口)がワタワタしているのを見ると楽しそう!と思うようになりました。出演者が6人しかいないのにいろんな役があり、舞台装置も自分たちで動かして、見ていてすごく楽しい、あっという間だったね!といわれる作品になればいいなと思うんです」
池田「見る人にわかるかな?と思った風花ちゃんの感覚、すごく大事だと思うよ。お客さん目線を忘れちゃいけないんだよね」
小芝「はい。ただ、自分の役はぜんぜんまだわからない。動きや場面転換は一巡したけど、役について演技の話し合いはまだなんです。だからこそ、小日向さんはどんどんアイデアを出していると思うんですが、わたしにはどんどん出せる能力がないから、サーシャをどう演じたらいいか、どうやってオーランドーを誘惑したらいいか……、いつになったら感情面がわかるのか、不安がいっぱいで。気持ちがつかめないのがとにかく怖い。いつもは、感情を先に整理して動きがついていくけど、今回はまったく逆のやり方。動いてはいるけど、ずっとふわふわしているんです。しかも、大ベテランの皆さんに囲まれて……」
野間口「大ベテランはこひさん(小日向)だけだからね」
小芝「だって、皆さん、テレビや映画、舞台などですごいなって見てた方ばかりですよ。そんな中でわたし、小芝はやっぱり若いなって思われたくない。ちゃんと6人で作っているんだって言えるところまで早く行きたいんです」
――今日で流れが一巡し、明日から役の中身の答え合わせが始まる感じですか。
野間口「むしろ、ここからがぶっ壊す作業ではないかと(経験者は語る)。白井さんは、それが好きなんです。大枠はとりあえず決めました、はい、どうはみ出ますか?って」
戸次「はみ出ていいのかしら?」
野間口「いいの、いいの。ルールにのっとる必要はぜんぜんなし。あなたがそうはみ出たんならこう変えようか、と、白井さんは柔軟性ある方だから。さあ、いまからはみ出る作業です!」
小芝「こわいー!!」
野間口「怖くないない。だって、好きにやればいいんだから。白井さんはこういうけど、わたしはこっちに動きたいからって動いてみればいいの。それだけよ」
池田「風花ちゃん、今日の稽古終わりに楽しいって言ったじゃん。あの感じよ、楽しんでないとダメだから。作品も役も難しいし、わからない。それなら、作品も役も把握できないって諦めちゃえば楽しめるんじゃない?」
野間口「そこのところは今度中華屋で聞くわ(笑)」
池田「僕、まさにここ(KAAT)でこひさんに、雑誌の連載のインタビューをしたことがあるんです。『国民の映画』という作品でこひさんはすごくひどい男の役だった。それでも、役を愛さなきゃいけないから愛しました、と言ってた。こひさんは、楽しもうよりもっと積極的な、楽しまなきゃいけないって姿勢で臨む人だから、こひさんを見ていたら正解がわかると思うのよ。我々もこひさんを見てる」
――戸次さんはどうですか?
戸次「僕はどこかドライにやっているんですよ、役者の仕事を。舞台では演出家さんの、映像でも監督さんの言うことを、仮に間違っていると思っても、まず、やる。自分の意見はやったうえで言うものだと思っているんです。でも、白井さんの演出は、こうしてくれという指示が明確じゃない時もある。たとえば今日も、そこの動きはお任せするのでやってみてくださいという指示があったんです。そういうのに僕はストレスを感じるのかもしれない。どうなるかわからないけどやってみてくださいって、わからないことをやるのか!と。僕は忠実な兵隊なので、上官の明確な指示がほしいんです!攻めるのか、防ぐのか、命令してくれ、と。それで今日、やっと、明確かどうかはさておき最後まで一巡したから、ホッとはしています。二巡目で命令通りに動き、三巡目でおこがましくもアイデアを出していければと思っています。それが、野間口さんの言う“ぶっ壊す作業”になるのかな。怖くてしょうがないけど(笑)」
――戸次さんは役者としての白井さんとは共演経験ありで、演出は初めてなんですね。
戸次「そうですね。いや、ここまでヤヌスの鏡みたいな二面性があるとは想像していなかったので、軽くショックを受けています。ぜんぜん違いますよ。今回の演出を受けて思うのは、本当に芸術家。いわゆる職業演出家じゃない、芸術家気質で舞台をとらえ、稽古場にもおられるんです。だからこそ評価を受けていらっしゃるんですよね」
――「6人で20以上を演じる」程度しか一般には情報がないのですが、何役もやって、コーラスでもある、というのは、いままでにない役作りになりますか?
野間口「僕と戸次さん、池田さんの3人は、役としては5、6つずつくらい。コーラスもグレーゾーンで、半分役に入ったままだったり、完全にコーラスだったりだから、役を意識しての作り方じゃないですね。バキッ!と変わる瞬間も、ズル~と変わるのもあって、そこはこれからの作業だと思います」
池田「僕も野間口さんもコントをやっているから、瞬間で役が変わることには慣れてるけど、今回のはそれともちょっと違うんだよね。あと、単純に、衣装に助けてもらえない。着替える時間がなさそうだから、帽子をかぶるだけとか、下手したらかぶったまま違う役になるとか」
野間口「男女も、記号としての男性・女性でしかないんじゃないかな。フライヤーまでは作りこめないと……」
池田「前だけの衣装をぶら下げて背中は丸見え、おっさんのまま(笑)。それで気持ちは女性を作ってとハードルは高い(笑)」
――バラバラな個性をお持ちのお三方がコーラスとは贅沢ですよね。スタッフさん並みにバタバタ動くし。
戸次「黒子を着ていないだけでね(笑)。でも、僕らがコーラスである、何役もやる。それが、この作品の見どころの一つだと思っているんです。1本1本噛み締めて旗(舞台装置の一つ)を立てたいと思います」
池田「僕らが呼ばれて座組が決まった時、だから白井さんはおもしろがるんだろうなと思いました。バラバラだけど、チラチラお互いを見ながらやっているのが僕は楽しいですね」
野間口「うん、うん」
――野間口さんと池田さんは白井演出経験者。大変と言いながらまた出たいと思う理由とは?
戸次・小芝「聞きたい!」
野間口「いや、千秋楽でも正解が見つからず終わることもあったので。今回も、ううーん、で終わると思いつつ」
池田「そうね、答えが見つからなかったんですよ。『4 four』は特に変わった戯曲のせいかもしれないけど、今回はしっかり戯曲もあるし、この座組だから、答えがもらえるかしら?と来ました。でも、白井さんはたぶん正解を求めていないよね。常に探すおもしろさで、本番中もダメ出しがあるし」
――見終わって観客の心に残る感じが、白井さんの特徴のようにも感じます。
野間口「白井さん演出が好きな方はそう言うんですよ。白井さんも言ってたな、見終わって、あれはなんだったんだと議論してほしいと」
池田「観客に残すことも大事。僕なんか、劇場を出て帰り道には忘れちゃうのがいいと思うんだけど(笑)」
――観客を巻き込む感じ、フライヤーでは「めくるめく冒険に出かけよう」と誘ってますよ。
全員「(フライヤーを手元に引き寄せて)ほんとだ、書いてある!」
池田「そうなればいいですよね。世紀をぶっ飛ばす芝居だから観客を置いて行っちゃう可能性もあるんですよ。しっかり巻き込んでいかないと」
――でも、稽古を見ていて純粋におもしろいと思いました。うまくのっかれば娯楽としての楽しみもありそうで。
戸次「劇場で待ってるぜ!……と、ヒーローショーのノリで(笑)」
小芝「わたしは女性に見てほしいなと思います。昔は男尊女卑というか、女性が働くのは難しかっただろうけど、この作品でオーランドーは、性を跳び越えてでもやりたいことをやる、追い求めるのが素敵だと思ったんです。女性に共感してもらえたら」
池田「多部ちゃんと風花ちゃんの、可愛くてセクシーなシーンもありますよ~。とってもきれいなラブシーンだから、お二人のファンには見せ場」
小芝「が、がんばりますっ」
野間口「おもしろくしますのでぜひ見に来てください(笑)」
池田「野間口さんはコントをやって来ている人だから、笑いに関しては厳しいの(笑)。遊び心を入れようと思っていますよ、白井さんに反対されても」
野間口「ほんと、最初に本を読んだ時、これはおもしろいコメディになると思ったんですけど、白井さんはそうでもなくて、コメディ寄りにしてくれない」
池田「われわれが抵抗します」
野間口「二巡目でぶっ壊す、とはそういう意味で。絶対にコメディ寄りにしてみせますよ」
戸次「コント畑の彼らと、芸術家・白井晃の戦いやいかに?答えはぜひ劇場で!もうですね、働かざるもの食うべからずの感覚です。誰一人、楽をしていませんから。労働の対価に糧があるというのが良くわかる舞台です(笑)」
池田「あと、全員が男にも女にもなります」
小芝「わたしも? 王様は、ウム、の一言なんですけど……」
野間口「それもカウントしておこう!ウムでも男役をやるんだから(笑)」
インタビュー・文:丸古玲子
撮影:岡千里
【プロフィール】
小芝風花
■コシバ フウカ ‘97年、大阪府出身、女優。’11年ガールズオーディション2011グランプリ受賞してデビュー。映画『魔女の宅急便』で初主演し多数受賞。朝ドラ『あさが来た』や初主演ドラマ『ふたりのキャンバス』などに出演。
戸次重幸
■トツギ シゲユキ ‘73年、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー、俳優。外部公演舞台、映画、ドラマの活躍の場も広く、ドラマ『嫌われる勇気』など有名作に出演多数。イケメンから嫌みな役まで任される範囲が広い。
池田鉄洋
■イケダ テツヒロ ‘70年、東京都出身、俳優、演出家、脚本家。コントユニット「表現・さわやか」主宰。舞台・映画・テレビの出演で独特な存在感を出すほか、演出・脚本では『ドン・ドラキュラ』『パタリロ!2』などで実力を発揮。
野間口徹
■ノマグチ トオル ‘73年、福岡県出身、俳優。コントユニット「親族代表」結成。朝ドラ『とと姉ちゃん』から『スニッファー嗅覚捜査官』『CRISIS公安機動捜査隊特班』、映画『シン・ゴジラ』『海賊と呼ばれた男』まで出演作の域は広い。
【公演情報】
KAAT×PARCOプロデュース『オーランドー』
日程・会場:
2017/9/23(土)~10/9日(月・祝) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>(神奈川)
2017/10/18(水) まつもと市民芸術館(長野)
2017/10/21(土)~22(日) 兵庫県立芸術文化センター(兵庫)
2017/10/26(木)~29(日) 新国立劇場 中劇場(東京)
原作:ヴァージニア・ウルフ
翻案・脚本:サラ・ルール
演出:白井晃
翻訳:小田島恒志 小田島則子
出演:多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世