どうぞ料理してください!という気持ちです
斬新かつ個性的な振付で数々の話題作を世に送り出してきた演出家・謝珠栄が手掛けるオリジナルショー『Pukul(プクル)-時を刻む鼓動-』。アジアの神秘性を表現したACT1、西洋の魂に触れるACT2の2部構成で、生命と音楽の息吹が感じられるような独自の世界観を幻想的に展開していく。この謝ワールドを体現するキャストとして出演することになった湖月わたるに、その意気込みを聞いた。
――今回は、構成から振付、演出に至るまで謝珠栄さんが手掛けられます。謝さんとはもう長いお付き合いになりますよね。
湖月「謝先生とは、宝塚歌劇に在団しているころからいろいろとお世話になっていますし、退団してからも『Diana』という作品でご一緒させていただきました。あとは、宝塚OG公演の稽古にいらしてくださったり、私と水夏希さんが出演のダンスショーを観に来てくださったりもしていて。その際に、いつか今作のようなショーをやってみたいというお話を伺っていたので、オファーをいただいたときには“来たー!”って思いましたね。もう、待ちに待った作品です」
――いろいろお会いする機会はありつつも、謝先生の演出で今回のようにステージに立つのは7年ぶりになるそうですね。
湖月「前回ご一緒した『Diana』から7年、とても貴重でいろいろな経験をさせていただきました。ダンスシリーズでは、ヒップホップから始まり、ジャズダンス、タンゴ、フラメンコとたくさんのジャンルを踊りました。また、ミュージカル『CHICAGO』ではフォッシー・スタイルを深く勉強させていただくことができましたし、一方で宝塚歌劇100周年の際には、再び男役としてのダンスも踊ることができました。本当にこの7年で濃い時間を過ごすことができたと思っています。ですから今、出せるものを存分に出していきたいですし、先生にいろいろとプレゼンしたいような気持ちです。どうぞ料理してください!って」
――湖月さんから見て、謝さんの演出にはどのような印象をお持ちですか?
湖月「もう本当に…全身全霊というか。宝塚での謝先生の代表的なものは『シトラスの風』の『明日へのエナジー』というゴスペルのシーンなんですけれど、もう床に滑り込んだり、ジャンプしたりと空間の全部を使って表現するんですよ。最後にみんな一緒になって、ダンサーは息が上がっていても歌いきる、シンガーも歌いながら踊る! 宙組はいろいろな組から集まってできた組でしたが、あの曲でグッとひとつにまとまったように思います。だから今回もそうやって垣根を超えて創っていくんじゃないかな。やれる、って思わせてくれるんですよ」
――どんどん引き上げてくれるような方なんですね。
湖月「すごくアイデアマンで、常に何か新しいことをできないかと考えていらっしゃる方。私は1時間前くらいから稽古場に入って練習したりしているんですけど、謝先生もいらしていて、小道具なんかを触ったりしながらアイデアを探しているんです。私がストレッチをしていると、先生が“わたる、これできるかな?”ってお声をかけてくださるので、“そうですね、やってみましょう!”なんて言いながらいろいろ試してみたり。それが“うん、できそうだな”って採用されたりするんですよ。そうして、どんどんアイデアを持ち寄って形にしてくださるんです。あとは、もっと上がる、もっといける、もっと、もっと、もっと!の精神ですね。たった1小節でも、隙間ができたならばアクセルターンして床に滑り込む!みたいなこともありました。与えられた時間の中で、もっと表現できるはずだ、と常に模索されている先生だと思います」
――今回のショーは「Cosmos Symphony」とタイトルにもあるようにとても幻想的なステージになりそうですね。
湖月「謝先生ならではの世界感で、すごく壮大なものになるんじゃないかと思っています。映像でしか観たことはないですけど、宇宙から見た地球ってとても美しいじゃないですか。みなさんが宇宙から地球を眺めて、その地球が鼓動しているような…、生命の誕生のような…。“Pukul”には時や鼓動という意味があるので、そういう神秘的なところを感じ取っていただきたいですね。1部は謝先生の振付なので、生命の誕生に至るまでの苦難やドラマティックな部分も含めて、謝先生ならではのワールドを魅せてくれると思います。衣装もとっても素敵なんですよ! ちょっとセクシーで。でも、今だからこそ着ることができる衣装だと思います。私はアディティアという太陽の存在として登場するんですけど、地球にとってなくてはならないものですから、作品の中でもそういう存在になれるようにしたいですね」
――太陽は、数多くある星の中でも自ら輝く存在ですね。今は役にどんなイメージを膨らませていらっしゃいますか?
湖月「今回、アディティアという太陽の役をいただいたときに、フォッシー・スタイルのことを考えたんです。フォッシー・スタイルは、とてもミニマムで余計なことをしないスタイルなんですね。私たちは大きな舞台に立つうえで、より大きく見せるということを意識してきましたから、シンプルなことをする勇気というものをフォッシー・スタイルから学んだんです。今回の役を考えたときに、ちょっとした動きでお客様を惹きつける技術が必要と思いましたので、フォッシー・スタイルで学んだことが活かされるんじゃないかなと思っています」
――2部の振付は、KAORIaliveさんが担当されますね。
湖月「今、宝塚歌劇でもとても人気の方で、スピーディでエネルギッシュな中にも妖艶さがある振付をなさるんですよね。あと、フォーメーションや群舞でとっても素敵に魅せることができる振付を考えてくださる印象があるので、今回、どんな振付をつけてくださるのか本当に楽しみにしています。全体の統括は謝先生が取ってくださるんですが、きっと1部と2部でガラッと変わってくるんじゃないでしょうか。1部は宇宙から見た地球の鼓動でしたが、2部は地球から生まれてきた人々の鼓動を感じていただけるんじゃないかと思います。2部は楽曲もナット・キング・コールやスティービー・ワンダーなど、聴いたことがある!というような懐かしい楽曲がたくさん出てきます。1部でお客様みなさんを誘って、2部は一緒になって楽しむ。そんなステージになるんじゃないでしょうか」
――今回はキャストも宝塚OGに加え、実力派の男性ダンサーも揃いますから、とても迫力あるステージになりそうですね。
湖月「そうなんです。女性はすべて宝塚歌劇出身ですが、退団後はそれぞれの道で活躍されているので、経験してきたものを持ち寄って。男性陣はもう、ダンスと歌のスペシャリストの方々ばかりなので、そこに、姿月あさとさん、春野寿美礼さん、彩吹真央さんと素晴らしいゲストの方々が日替わりで出演します。それだけでも、毎日観たい!と思っていただけるようなものになると思いますので期待していただきたいですね」
――「元イケメンとイケメントーク」など気になる企画もありますし、いろいろと見どころが満載ですね。宝塚OG×男性ダンサーというのも、新しいものが観られそうな気がします。
湖月「元イケメンって、私や水(夏希)ちゃんのことかな(笑)。宝塚OGだからこそ表現できる美しさや神秘性、ダイナミックさに男性の力が入ることで、もっと可能性が広がるんですよ。踊りの内容やリフトひとつとっても、できることが違いますから。宝塚OGの中に入ると私はマニッシュ担当になりますけど、男性を相手にすると女性としての部分も出していけますし、とても頼もしい方々とご一緒できるんだなと嬉しく思っています。現役時代に一緒だった時期があるわけではないですが、どうしても蘭乃はなさんや舞羽美海さんを前にすると男役スイッチが入ってしまうので(笑)」
――男役スイッチなるものが、湖月さんの中にあるんですね!
湖月「あると思います。娘役さんがいると、スイッチが勝手に入るんですよ。それって一人では出せるものじゃなくて、入れようと思って入れられるものでもない。そこが演劇や舞台の面白さですよね。娘役さんって、男役にはない華やかさがあるんです。現役時代とは違うカップリングになりますけど、どんなふうに自分にスイッチが入っていくのか…。一緒のものを見せていくこともあるでしょうし、もしかしたら愛おしい存在になるかもしれないし。人と人が出会うことで醸し出すものの集合体が『Pukul』になっていくのだと思います。私も男性を前にしたら、また男役とは違うスイッチが入るでしょうし、どうなるのか楽しみですね」
――やはり培ってきたものが湖月さんの中に息づいているんですね。湖月さんにとって、宝塚はどんな存在ですか。
湖月「やはり、私の原点です。宝塚があるから今があると、どんなときでも感じています。宝塚にいたころを思い出して、あれができたんだから、今のこれもできるはず、と思うこともあります。宝塚歌劇は本当に幸せな場所で、世界で活躍されている素晴らしい振付家の方や演出家の方など、さまざまな凄い方たちと、10代後半から20代の一番吸収する時期に学ばせてもらえる場所だったんです。どうしたら男役になれるのか、自分ではないものになろうとするときに何が必要なのか。様式美のようなところを含めて、たくさんのことを宝塚で学んできたと思っています。すべての経験が今に活きている。私は宝塚時代と封印して全く違うことをしようとは思っていなくて、作り上げたものをいかに捏ねあげていくか。壊していかなければいけないものも、現場ではたくさんあるんですけど、粘土のようにいろいろな形になれるようにいたいと思いますね。その粘土の土台が宝塚なんです」
――最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
湖月「とても幻想的でエネルギッシュで、生きているということを感じてもらえる素敵なショーになると思います。劇場でしか体感できないことがたくさんあると思いますので、『Pukul』の世界を体験しに…一緒に、その世界に迷い込んでいただけたら。きっと、こういうのを観てみたかった、こんなのは初めて観た、と思ってもらえると思います。明日からまた頑張ろう!と感じていただけるものになるはずです」
インタビュー・文/宮崎新之
【プロフィール】
湖月わたる
■コヅキワタル 1989年に宝塚歌劇団に入団し、2003年に星組トップスターに。文化庁芸術祭優秀賞の受賞や同劇団初となる韓国公演を成功させるなど数々の活躍を経て、2006年に退団。以降、ブロードウェイミュージカル「DAMN・YANKEES ~くたばれ!ヤンキース」、「絹の靴下」「CHICAGO」など、舞台を中心に広く活動を続けている。本作への出演後は、博多座「舞妓はレディ」(2018年3月)が控えている。
【公演情報】
『Cosmos Symphony Pukul(プクル)-時を刻む鼓動-』
構成:演出:謝 珠栄
音楽:玉麻尚一・長谷川雅大
振付:謝 珠栄・KAORIalive
★Regular Cast
湖月わたる 水 夏希 蘭乃はな 舞羽美海
坂元健児 大貫勇輔 島地保武/岡幸二郎
千田真司 神谷直樹 田極翼 舞城のどか 鶴美舞夕
★Special Cast
姿月あさと 春野寿美礼 彩吹真央
日程・会場:
12/9(土)〜16(土) 日本青年館ホール(東京都)
12/21(木)〜25(月) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪府)