『ベルサイユのばら 45 〜45年の軌跡、そして未来へ〜』湖月わたる インタビュー

宝塚歌劇団の代表作の一つ、『ベルサイユのばら』。池田理代子の大ヒット漫画を原作に、1974年の初演以来、人々の心を掴んできた名作の45周年記念スペシャルイベントが開幕する!
愛と革命のドラマを彩ってきたレジェンドキャストたちによる歌やトーク、名場面やフィナーレナンバーが再現される貴重なステージ。豪華な顔ぶれが揃う中、湖月わたるに思い出話から今公演への意気込みまでを聞いた。

 

――湖月さんにとって『ベルサイユのばら』は縁の深い作品ですね。
湖月「私は初舞台の年に街を逃げ回る市民を、専科の時に稔幸さんのオスカル編にアンドレ役のトリプルキャストの一人として、星組トップ時代にはフェルゼンを演じさせていただきました。その時は全国ツアーと韓国公演があったので、在団中に一番多く演じた役がフェルゼンなんです」

 
――そもそもご自身と原作との関わりは?
湖月「池田先生の漫画はもちろん読んでいたのですが、宝塚に入ってからアンドレ役に憧れるようになって。というのも市民役で出させていただいた公演中、バスティーユのシーンでアンドレが「オスカル!」と叫んで出て行く橋のシーンでセリが動かないアクシデントがあったんです。どうするんだろうとドキドキしていたら、アンドレ役の麻路さきさんがそのまま飛び出し、オスカル役の紫苑ゆうさんも熱演されて、その姿に感動して興奮して。以来、いつかアンドレを演じられる男役になりたいと思うようになりました。その役をできることになった時は本当に嬉しくて、できるかぎり歴代の先輩方の資料を入手し研究しつつ、自分のアンドレを追求していた記憶があります」

 
――具体的にはどんなアプローチをしたのですか?
湖月「まずオスカルを演じられる稔幸さんが上級生の方だったので、アンドレとしての包容力が出せるか、そのためにどうすればいいかと考えました。
アンドレを演じる上で大切にしたのは、やはり”愛すること”ですね。控えて話を聞くシーンが多い役なので、その間にもどれだけオスカルを思っているかを出せたらと思っていました」

 
――一方のフェルゼン役にはどんな思い出が?
湖月「私がやると決まった時、歌劇団の先生方から『わたるが貴公子!』とご心配いただいたんですけれど(笑)。演じるにあたっては、実在の人物である、ということに重みを感じました。肖像画では穏やかな印象のフェルゼンですが、資料などを紐解くと非常に情熱的で、周囲にどんなに反対されてもマリーアントワネットへの愛を貫いた。そこにぶれない強さを感じますし、最期は王族暗殺の濡れ衣を着せられて、祖国スウェーデンの群衆に惨殺されてしまうんです。
私はフェルゼンとアントワネットは天に召されたのちも会えていないような気がして。宝塚退団後、『ベルサイユのばら』関連の展覧会を見ながらふっとそう思ったんです。舞台では宝塚らしく、愛と夢の世界を表現していますが、人間的にすごく魅力的だなと感じますし、フェルゼンがアントワネットに語る『例え背徳の罪で地獄に落ちようとも…』というセリフは特に好きです。

 
――2005年の日韓国交正常化40周年記念『ベルサイユのばら』韓国公演を成功に導いたお一人でもある湖月さん。韓国での反応はいかがでしたか。
湖月「池田先生の漫画は韓国でも大人気のようで、コスプレ姿で客席にいらしている方もいました。王妃様を助けに行くシーンでフェルゼンはマントを翻して客席を走るのですが、その時の歓声がとにかくすごかったですね。大きな劇場で走る距離が長くて、ここで躓いたらとんでもないことのなると(笑)!と慎重に走っていたのを覚えています」

 
――初演からのキャストの方達も出演する今公演。ご自身が楽しみにしていることは何でしょう。
湖月「以前にも初演のお話を先輩方から伺ったことはあるのですが、そのご苦労たるや今の私たちには想像がつかないものだったんだろうなと。宝塚ならではの様式美が作り出されたのも『ベルサイユのばら』だったと思います。なので、お稽古場でまた先輩方のお話を伺えることが楽しみですし、一緒に演じた仲間たちに再会できることも嬉しいですね。さらに扮装して舞台に立てることもありがたいです。コンサートなどで主題歌を歌わせていただく機会は多いですが、衣裳を身につける機会はないので今から興奮しています!

 
――『ベルばら』は音楽もまた素晴らしいですよね。
湖月「前奏を聴いただけでベルサイユのばらの世界にぐっと引き込まれますし、あの曲が流れた時のお客様の集中度が違います。今回は名場面の再現もあり、女優になって12年の今だからこそ出せるアンドレ像、フェルゼン像があるかなって。退団してから、革命だったり命がけで何かしたりする役を演じる機会があまりないので、あのフランス革命の時代をもう一度生きられるのが楽しみです。ダンス好きの私としてはフィナーレナンバーにも気合を入れて参ります。何といっても“愛”がテーマの作品。今の私にしかできない演技、歌、ダンスでより深い愛の世界をお届けしたいです。

 

【プロフィール】
コヅキ・ワタル
1989年、宝塚歌劇団入団。2003年星組男役トップに就任。06年に退団後は女優として舞台を中心に活躍。2015年『CHICAGO』アメリカ・カンパニー来日公演にヴェルマ役で特別出演を果たした。

 

インタビュー・文/宇田夏苗