中谷「私は舞台に向いていないなと思いながら、ついイエスと言ってしまいました」
舞台『黒蜥蜴』の製作発表会見が新宿・東京モード学園コクーンホールにて行われ、主演の中谷美紀をはじめ、共演の井上芳雄、相楽樹、朝海ひかる、成河、演出を手掛けるデヴィッド・ルヴォーが登壇した。『黒蜥蜴』は江戸川乱歩の小説を三島由紀夫が戯曲化し、三島作品の中でも最高傑作のひとつに数えられている名作舞台。今回は、ブロードウェイなどで活躍する英国人演出家、デヴィッド・ルヴォーの手により、グロテスク・ビューティーなラブストーリーを紡ぎ出していく。
会見は、出演陣によるランウェイでのパフォーマンスからスタート。今回の『黒蜥蜴』をイメージしたオリジナル音楽と衣装をまとったキャストらが、耽美な世界観の一端を来場者に魅せつけた。主演の中谷美紀の衣装は総レザーで大きな帽子が印象的な出で立ち。編み上げの隙間から見える白い肌が艶めかしく、穏やかで鋭い微笑みをたっぷりと放ち女賊・黒蜥蜴の妖艶な色香を会場中に漂わせた。
記者会見での各人のコメントは下記の通り。
中谷美紀(緑川夫人/黒蜥蜴 役)
「素晴らしい作品に恵まれ、素晴らしい演出家、共演者の皆さまに恵まれて、豊かな時間を過ごさせていただいております。私は常々舞台に向いていないな、舞台に立つ人間ではないなとずっと思ってきたんですけど…。お話をいただいた折も、本当に嬉しい反面、どちらかというと恐れのほうが大きくて。ルヴォーさんとお仕事をしたい、『黒蜥蜴』という作品に出たいと思う一方で、尻込みしている自分がいました。しかし、実際にルヴォーさんにお会いしてみると、温かい眼差しで、私の自信のなさを懐深く受け入れてくださって、何か新しい旅にご一緒させていただけるような、そんな気がして。自分の能力も顧みず、ついイエスと言ってしまいました。本番が本当に苦手で、お稽古だけして本番は別の女優さんにやっていただきたいなと毎作品思うくらいなんですけども。先ほど、ルヴォーさんはそれでも良いと言ってくださったので(笑)、存分に楽しみたいと思います。黒蜥蜴も明智小五郎も、犯罪にとりつかれたふたり。陰と陽と言いますか、磁石のプラスとマイナスと言いますか、互いに惹かれあいながらも、どこか牽制しあい…。ワークショップでも、追っているのか追われているのかわからなくなる瞬間がありました。犯罪にとりつかれたふたりのロマンチックなラブストーリーと言いましょうか。美しく残酷な物語です。美に執着して手段を選ばないさまは、おぞましく感じる方もいるかもしれませんが、私は心地よかったです。私自身も美に執着することがありますから。若さを保ちたいとかではなく、朽ちていくものにも私自身は美を感じます。美しいものは大好きなので、黒蜥蜴に共感もしています」
井上芳雄(明智小五郎 役)
「この作品に携われることを本当にうれしく思いますし、昨日まで3日間のワークショップをやっていたんですが、どんどん期待が高まっている中での今日の日なので、とてもうれしいですね。僕は5年ほど前に『ルドルフ』というミュージカルで、ルヴォーさんとご一緒させていただいていて、その時の経験がものすごく鮮烈で忘れられなくて。本当に魔法にかけられたような期間だったんです。もう一度、魔法にかけられたいと思いながら5年間現実を見せつけられていたんですが(笑)、やっと魔法にかけてもらえる機会がやってきました。中谷さんが黒蜥蜴を演じるというのもぴったりだと思いましたし、そのほかのキャスト、スタッフの皆さんも素晴らしいので。ミュージカル界ではプリンスなんて言われていますが、もう38歳でプリンスじゃないだろうとルヴォーさんにも言われたので、ハードボイルドな明智小五郎を精一杯頑張りたいと思います」
相楽 樹(岩瀬早苗 役)
「ここ数日間ワークショップをやっていて、ルヴォーさんや皆さんと一緒に『黒蜥蜴』の世界観を共有できて、本番がより一層楽しみになっています。私は、たまたま美輪明宏さんの『黒蜥蜴』を観に行っていて、そのあとルヴォーさんとお会いする機会があって、とてもご縁がある作品だなと感じていたんです。その時は、ビートルズの話とか、本当に世間話をしていただけで、本当に出演できるかどうかわからなかったので、ずっとドキドキしていました。私が知っている『黒蜥蜴』とまた違うものを観せてくれるんじゃないかと期待していたので、自分が出演することが決まった時は本当に嬉しかったです。素敵なキャストの皆さんとご一緒して、たくさん刺激を受けて、たくさんへこたれて、立ち上がって、それを繰り返して本番まで精度を高めていけたら。私にとってすごく挑戦なので、観に来ていただけたら嬉しいです」
朝海ひかる(家政婦ひな 役)
「私は『黒蜥蜴』という作品に出演できるということが何よりも心躍りまして、その上、演出がデヴィッド・ルヴォーさんということで…。今まで観ていた『黒蜥蜴』の印象をルヴォーさんのマジックで、今までにないものが出来上がるような、そんなワクワクを感じました。私は家政婦ひなという役で、今までに演じたことのないような役です。そちらも自分がどうなってしまうのか。女優人生の中でこの役をいただけたことを、とてもうれしく思っております。皆さんと楽しい舞台にしていきたいと思いますので、ぜひ観にいらしてください」
成河(雨宮潤一 役)
「正直に申し上げて、最初にお話をいただいたときはお断りしたんです。雨宮は年齢が若くて、フレッシュな役でしたので。こう見えて36歳なので…。とても純粋で、美青年ということで、なけなしの美と純粋さを出して(笑)、やっていこうと思っています。出演について悩んでいた時に、ルヴォーさんがお会いしてお話ししてくださる機会を作ってくださって。この作品にかける意気込みを丁寧に教えてくださいました。その言葉に僕は胸を打たれて、日本でまだ誰も観たことがない『黒蜥蜴』、三島由紀夫の世界を作れるんじゃないか。その助けになりたいと引き受けさせていただきました。皆さんぜひ、足を運んでいただきたいと思います」
デヴィッド・ルヴォー
「もう20年以上前になりますが、初めて日本に来た際に、三島由紀夫の世界にとても魅力を感じました。当時の私にとって日本は謎めいていましたが、三島由紀夫の作品が日本を知るきっかけをつくってくれたんです。今まで出会った作家の中で、三島由紀夫のように夢を見るような作風を持った人物はいませんでした。それは劇作家でも、小説家でも。今回の『黒蜥蜴』は三島由紀夫のとても有名な作品です。美という概念と人の不完全さ、その相反するふたつ、そしてエロティシズムと死が描かれています。これらのテーマは演劇で表現するべき永遠のテーマだと今も思っています。今の私たちにわかりやすいように、それらを表現することが重要で、なおかつ三島由紀夫が興味をもっていたことを皆さんに提示したい。生演奏のバンドも使いますし、まるで1本の映画のように、エンターテインメントとして、今回の作品を楽しんでいただけるはずです。偉大な劇作家の作品に日本で携われることを、心から嬉しく思います」
演出家デヴィッド・ルヴォーの導きのもと、それぞれの熱い思いを胸に大作に挑む出演者たち。開幕は2018年1月9日、東京・日生劇場にて。また新たに生み出される『黒蜥蜴』の耽美な世界に酔いしれよう。
【公演情報】
『黒蜥蜴』
原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィッド・ルヴォー
出演:
中谷美紀
井上芳雄
相楽 樹
朝海ひかる
たかお鷹
成河
一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、ケイン鈴木
鈴木陽丈、滝沢花野、長尾哲平、萩原 悠
松澤 匠、真瀬はるか、三永武明、宮 菜穂子
村井成仁、安福 毅、山田由梨、吉田悟郎
<ダンサー>小松詩乃、松尾 望 (50音順)
日程・会場:
2018/1/9(火)〜28(日) 日生劇場(東京都)
2018/2/1(木)〜5(月) 梅田芸術劇場メインホール(大阪府)