ミュージカル『キューティ・ブロンド』 神田沙也加 インタビュー

神田沙也加が金髪でピンクのファッションに身を包んだ女子大生に扮し、ハイテンションな歌と踊りと演技で舞台を疾走するミュージカル『キューティ・ブロンド』が帰ってくる。同作は2001年に公開され世界中で大ヒットした映画『Legally Blonde』(邦題:キューティ・ブロンド)を原作に、ブロードウェイで2007年にミュージカル化。ロンドンのウエストエンドをはじめ、オーストラリアや韓国でも上演された。神田を主演に迎えた2017年の日本初演では、東京全公演が完売するほどの人気ぶりだった。神田演じる、オシャレのことしか頭にない能天気なエルは、婚約間近だった彼氏に「上院議員を目指す自分の妻にふさわしくない」との理由で振られてしまう。しかし、それにもめげず、一念発起して猛勉強し、ハーバード大学のロースクールに合格。一人前の弁護士になるために、困難にぶつかりながらも人生を突き進んでいくという物語だ。神田が来阪し、作品や今作で受賞した菊田一夫演劇賞などについて話した。

 

――2017年の大阪公演の大千秋楽で、早くも再演が発表された人気作品です。

神田「再演まであと2年あると思っていたら、あっという間にその時が来ました。その間の2年間もほかの色々な舞台に出演させていただいて、充実した日々でした。『キューティ・ブロンド』では、エル・ウッズというバイタリティあふれる女性を演じるので、再演に向けて、とても喜びを感じています」


――初演を拝見して、まさに、エルは神田さんにピッタリのはまり役だと思いました。お客さんの反応はどう感じられましたか?

神田「はまり役といっていただけることが多かったのですが、私自身がエルと似ているかと言われると、全然そんな風には思わなくて(笑)。でも、役者にとってピッタリと言われるのはほめ言葉なので、うれしかったです。忘れられないのは、一幕の終わりに『So Much Better』という曲を拳を振り上げて歌い切って終わるシーンがあるんです。東京公演初日で、この曲の後に、私がブロードウェイで『キューティ・ブロンド』を見たときに耳にした、あまり日本では起こらない特別な喝采を聞いたので、本当にうれしくてびっくりしました。どう受け入れられるのかが分からないまま、稽古で紡いできた作品が、皆さんに受け入れられた気がして、本当に感動的な瞬間でした」


――ブロードウェイで見たのはいつ頃ですか。

神田「私が21歳ぐらいの時ですので11年前ですね。そのときは、一度、芸能活動をお休みし、『紫式部ものがたり』で舞台に復帰させていただいた後でした。17歳で初舞台を踏んだのがミュージカルで、その経験が自分にとってとても幸せなもので、勉強のために、ブロードウェイとウエストエンドに行ったんです。ブロードウェイで見たエルはすごいパワフルで、明るくて、またずっと舞台に出ずっぱりなんです。その時はただお客さんとして楽しんで観ていて、私がエルをやるとは思いもよりませんでした。そして日本で上演、私がエル役を演じさせて頂くことが決まり、それまで自分に当てはめては考えていなかったので、どの辺が神田沙也加がエルだと思って選んでいただいたのか興味が湧きました(笑)」


――エルはすごく明るくてバイタリティにあふれた女性でその辺りが神田さんと似ていると感じたのですが。

神田「本当ですか?そんなイメージなのはうれしいですよね(笑)。私はエルみたいに、切り替えが早くないんです。一度考えると、そこに留まってしまう。エルは彼女みたいになれたらいいのになという存在ですね」


――何故エルに選ばれたのか、演出家とお話はされたのですか。

神田「演出家の上田一豪さんに『私がエルで大丈夫でしょうか』とうかがったら、『何で出来ないと思うんですか?』と聞かれて。『僕はこの作品を神田沙也加の当たり役にして、キャリアの中での代表作にしようと思っている』と仰っていただいたんです。演出家がそう明言してくださることにひどく感動しました。一豪さんを信じて演出を受けようという気持ちにもなりました。でも、私は考え込むタイプで、それで完全に自信を得たわけではなかったのですが(笑)、顔合わせや、色んな場でもずっと一豪さんが同じことを言い続けてくださったおかげですごく力になりました。この役で菊田一夫賞を受賞したときも、一豪さんの言葉が『有言実行』出来たことが一番うれしかったです」


――その、菊田一夫演劇賞ですが、受賞されてどんな心境でしたか。

神田「今まで同年代の役者さんが受賞されたのを『おめでとう!』といっている立場でした。そう言いながらも、いつか私も取りたいなという思いが沸々とあって。というのも、誰の指示でもなく、自分の感性で『この世界はすごい』と選んで入ったのが演劇だったんです。そこで10年以上、舞台に立たせていただいています。『良くできました』という判子のようなものや、この世界を選んで間違いではなかったと思えるものが欲しかった。受賞の知らせをもらったときは、『やっと』という感じで、色んな涙があふれてきました」


――受賞後、キャリアの中で何か変化はありましたか。

神田「私はすごく考え込むタイプだと先ほど言いましたが、私を見て下さいというタイプでもないんです。主演のオファーをいただいても、私にちゃんと務まるかということを考えていました。人前に立つ上で『この賞をもらったんだから、怖いといってはダメなんじゃないか』と自分に言い聞かせるようになったり、新しいエンジンを搭載した気分になりましたね。大きな力がついてくれているという気持ちでもあります」
――初演で苦労された点はありましたか。

神田「実は役作りに関しては全くなくて。それだけタイプが違うんです。エルは絶対的なアイコンで、求心力がすごくて、演じていると大きなエネルギーの渦にのまれたように役に入り込んでいったので、役作りではほとんど悩みませんでした。一番苦労したのは、地毛をブロンドに染めたので、髪の傷みがすごかったことです(笑)。千秋楽の後は、一度、髪をショートに切ったぐらいでした。あまりにも髪が傷んだので、今回は、鬘でいかせていただきます(笑)」


――大千秋楽を迎えた後は、どういう心境でしたか。

神田「私は10年舞台に立たせて頂いていますが、その中でも珍しいほど、このカンパニーは仲がいいんです。毎晩、毎晩、皆で一緒にご飯を食べに行っていたくらいです。学校のように和気あいあいとした雰囲気があったので、明日からもう会えないという寂しさが大きかったですね。また、当時結婚したばっかりだったので「結婚おめでとう!」と皆から祝福のメッセージやプレゼントをいただいたのがうれしくて、印象に残っています」


――舞台の上からお客さんの顔は見えていましたか。

神田「お客さまの顔は見えるのですが、人に見られていると思うと、すごく緊張するので、あえて見ないんです(笑)。人前に立つのが得意ではない、人前に立つ人間なんです(笑)。本作はコメディ要素の強い作品ですので、逐一反応を確かめていたら、こっちからの一方的なプレゼンテーションになるような気がして、見ないようにしていました。しかしそう心掛けていてもお客さまの熱気は感じるんです。暗転になってもそれが続いていましたね。あんなにお客さまの反応を熱く感じた作品は今までなかった気がします。最後にカーテンコールで、まんべんなくお客さまの顔を見渡して、お礼を言って帰るのが私の中のルールです」


――再演に向けて、どういう思いがありますか。

神田「アンサンブルの方が半分変わり、エルの相手役のエメットが平方元基さんになります。元基がどう出てくるのかすごく楽しみです。彼とは『マイ・フェア・レディ』で共演したばかりなんです。元基はカンパニーが仲がいいというのを聞いて、『自分が後から入っていくのはどうなんだろう』と不安がっていたのですが、『大丈夫だから安心して』と繰り返し言いました(笑)」


――上田一豪さんはどんな演出をされる方ですか。ブロードウェイ版と同じようなパワーが、日本版でもみなぎっていましたね。

神田「すごくやさしい方です。キャストが真剣になればなるほど、張り詰めた空気になりがちなんですが、そういう雰囲気はあまりいいと思っていらっしゃらない方です。皆が平等に発言できて、誰も委縮することのないスペースを作ることを目指していらっしゃいます。『僕の現場で楽しくないことはないです』とおっしゃっていました。この作品をはじめ、色んな作品を演出されていますし、一豪さん演出でほかの役者が出演するという話を聞くと、うらやましいなと思いますね」


――ブロードウェイ版と遜色ないパワーが出たのは何故でしょう。

神田「やはり、一豪さんご自身のエネルギッシュさと新しいことも取り入れる柔軟さでしょうか。私もブロードウェイで見て、作品のテンションの高さとガールズ・トークのエネルギーは、日本ではどういう風に受け止めてもらえるのだろうと懸念していたんですが、エネルギッシュで個性あふれるアンサンブルの方々が集まっているので、その力も大きかったと思います。彼女たちは、皆、臆せずエネルギーを爆発させていく。それが、全員の士気を高めたんだと思います」


――改めて、この作品で魅力を感じるところは?

神田「ファッショナブルであることがすごく魅力だと思います。このポスターやチラシも、手前味噌かも知れませんが(笑)、すごく目を引くんですよ。このピンクの色合いや、これだけかわいい色しかないポスターも珍しいですよね。衣装やヒールの高さ1㎝にもこだわっています。ファッションが大好きな女性には絶対に喜んでもらえると思っていましたね。それと同時に、男性の反応も気になって聞いたら、『コメディとして面白い』と言ってもらえて。上質なコメディとしての物語の骨組みはしっかりしているので、男女問わず、刺さるところは、刺さる。入り口が広い作品ですよね」


――激しいダンスは大変そうですね。

神田「振付の先生は、場面を華やかにしましょうという考え方ではなく、エルが何を望んでいるかということを大切にされる。そこに向けて、立体的に物語を描いてくださるんです。
激しいダンスでも、踊っているときに『いきなりダンスだわ』という感じではなく、お芝居の勢いのままで行くんです。実際に息があがるんですが、それでも楽しいですね。大変さは全く感じませんでした」


――再演ではどういうエルを見せたいですか。

神田「エルは賞の助けもありましたが、私のファンや、見てくださった方から、再演を望む多くの声を聞いたんです。だから『お待たせしました!』という気持ちで再演に臨めるのがうれしいですね。皆さんの中でも期待感が増幅していっていると思うので、前のエネルギーのままでいくと、『あれっ!?こんな風だったかな』と思われるかもしれない。でも、そこはあんまり心配していなくって。何故ならエルでいることがすごく楽しいんです。今回、新しい仲間と色んな提案をして、笑い転げているうちに、きっと前作以上のエネルギーと結束力が生まれてくるのではないかと思います。だから、やっぱり『お待たせしました!』と胸を張って演じたいです。演者と観客の『もう一度』という気持ちが両想いになって再演が可能になった、とても幸せな作品ですね」


――エル役をずっと続けたいですか。

神田「エルをやっていると、あんまり不安がないんですよ。そういう精神状態でいられることは珍しいので、エルは私にとってすごい存在なんです。だから、望んでもらえる限り、ピンクが似合う限り(笑)、エルを演じられたらいいですね」取材・文 米満ゆうこ