2016年12月8日(木)から日生劇場でド派手に開幕!
マドンナやドナ・サマーなどの名曲を満載した、激しくて豪華で煌びやかなミュージカル『プリシラ』。近年ドラマなど映像でもメキメキと頭角を現してきたミュージカル界のプリンスこと山崎育三郎、ユナク(超新星)、古屋敬多(Lead)、そして陣内孝則が、奇抜でチャーミングなドラァグクイーンを演じる注目の作品だ。
原作は、3人のドラァグクイーンが乗り込むバス『プリシラ号』でのドタバタ珍道中を描いた1994年のオーストラリア映画。2006年には待望のミュージカル版がオーストラリアにて誕生し、ロンドンのウエストエンド、NYのブロードウェイなど15ヵ国以上で上演。豪華絢爛な衣裳で歌って踊るエンターテイメントの熱は日本にも飛び火し、一大ブームになるほどで、今回の日本初上陸は満を持してのものだ。
開幕まで1ヵ月を切った稽古場に潜入した。演出は、日本が世界に誇る宮本亜門。用意された演出家席に大人しく座っていないのが宮本。何度も何度も書き直したのであろう、ふにゃふにゃの台本を片手に、動き回る10数人の役者に混ざって一人一人に心情と動きを与えていく。
稽古場の片隅にはグランドピアノ。ここから演奏が聴こえる。いくつか動きを加えるとすぐ「いまのところもう一回ください!」と宮本はピアニストに合図。どうやらドナ・サマーの『ホット・スタッフ』のようだ。「ワン、ツー、スリー、フォー、はい、ドン、スリー、フォー!」。芝居であって、これはダンス。皆、芝居しながらカウントに合わせて動き回るのだが、殴り合いあり、追いかけっこあり、キメポーズありの激しさ。その場で覚え、即刻やって見せる役者たちの集中力にはド胆を抜かれる。
実は、稽古場取材の直前、主演の山崎育三郎にインタビューしたのだが(インタビュー記事は近日公開)、「普通、ミュージカルの振付師は一人なのですが、この作品には5人いますから!リズムに細かく振りをつける方、大きく動く方と、もうそれぞれが個性的」と言っていた。場面は騒然、曲もダンサブル、だから、このシーンの振り付けは実に細かく組み立てられていくのか…!見ているこちらもアドレナリンが出る。この場面の中心人物は、ユナクと古屋がWキャストで挑むアダムだ。『プリシラ号』で途中立ち寄った酒場で、男たちにからかわれるシーン。2人は交互にその場に立つ。ユナクが振付師から細かく指導を受ける間、稽古場奥のほうでは古屋が同じように動いているのが見えた。振りは一つだし、アダムという役も変わらないが、ユナクと古屋ではまったく人物が違って見える。これがWキャストマジックか!? どちらの完成形も見なければ、という衝動が湧く。
「すみません、昨日の芝居部分から流れでやってもいいですか?」と宮本が突然言い出した。待機中の山崎と陣内は、「あ、いいですよ、もちろん!」とバタバタ前に進み出る。「ありがとうございます!ええと、歌も前の曲の最後からください!」と宮本が言うと、ピアニストとDIVA(歌姫)たち(ジェニファー、エリアンナ、ダンドイ舞莉花)が瞬時に反応し、直前の曲、シンディ・ローパー『Girls Just Want to Have Fun』のサビを歌った。なんと臨機応変な!戸惑う暇もなく流れるように芝居が始まる。昨日の今日で体に馴染み切っていないセリフも立ち位置も、何度も動く反復稽古で次第に固まっていく。女性に豹変した陣内の芝居に思わず吹き出す宮本は、われわれ取材陣にも笑顔を向けてにっこり。まったく壁がない。キャストもスタッフも取材陣もここにいる全員が『プリシラ号』に乗っているのだ、それはもう完全に!
そして、中にひときわ穏やかな存在が、ティックを演じる山崎。「とにかく優しくて繊細な“男の子”なんです」とインタビューでも話していたが、山崎の醸し出す空気感は人をホッとさせる魔法に満ちている。
途中挟む5分休憩中も稽古場の雰囲気は『プリシラ』一色。談笑していても、それは芝居のシーン作りに終始しているよう。片時もじっとしていない宮本は次々に浮かぶ考えを役者に伝え、ピアニストとDIVAたちに伝え、大道具スタッフに伝え、山崎や陣内に新しい台本としてセリフを打ち直したプリントを渡していた。この作品は“生き物”だ。その成長と変化は瞬時も止まらない!
巨大な花の髪飾りにカラフルな衣裳のフライヤー(メインビジュアル)も衝撃的だが、稽古場の緻密さとエネルギーはもっともっと濃厚!今年締めくくりの12月開幕が待ちきれない。
取材・文/丸古玲子