『STAGE CREATOR’s FILE』vol.4|舞台監督 山本圭太インタビュー

一つの舞台が完成するまでには、様々なセクションの“プロ”が携わっている。この連載企画では、舞台を裏側から支え、第一線で活躍しているクリエイターにロングインタビューを敢行。遍歴や創作のエピソード、仕事観などを聞き、作り手側の素顔に迫る。

第4回目となる今回話を聞いたのは、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』『SPY×FAMILY』や『VOICARION』シリーズ、舞台『ゲゲゲの鬼太郎』など、幅広い作品で舞台監督を務める山本圭太。舞台監督の仕事内容や制作現場でのエピソード、これからの展望について語ってもらった。

守備範囲が広い?狭い? 舞台監督という仕事

――山本さんの舞台との出会いについて教えてください。

高校生の文化祭で演劇の制作に携わったのが原体験です。そのときに面白さを感じて、高校卒業後、演劇に関わる仕事に就きたいという思いから地元の大阪で劇団の手伝いをするようになりました。そこで出会った劇団の先輩に「いいバイトがあるぞ」と紹介してもらった大道具の会社にアルバイトで入り、そのままその会社に就職し、独立するまでの28年間お世話になりました。

――そもそも、「舞台監督」のお仕事とはどんなことをされるのでしょうか。

実はこれ、いろんな人によく聞かれる質問なんです(笑)。舞台の演出をすると捉えている人もいて。僕としては、舞台監督は“クリエイター”ではないと思っているんですね。物事をゼロからつくっていくわけではないので、この連載に登場されている方々とはまたちょっと立場が違うのかなと思っています。

舞台監督は、一般的には「舞台の責任者」と言われています。舞台が円滑に進むためのポジションで、「演出家のやりたいことを具現化していく役割」とも言われたりしますが、明確に「これです」とは言えない部分もあり、聞かれると困ってしまうところがあるんです。劇場に入ってから仕込みの期間は、建設の現場監督のような役割とも言えますし…。ある意味で守備範囲は広いですが、逆に狭いとも言える。かといって舞台監督がいなければ幕を開けることができないのも事実ですし。会社にいるとき、稽古場にいるとき、劇場入りしてから初日まで、幕が開けてから、とまったくやることが違うので、「こうです」と説明するのが難しい職業だと思います。

――では、そこをぜひ深掘りさせてください(笑)。例えば一つの作品を手掛けるにあたって、どのようなスケジュールで動いていかれるのでしょうか。

まず上演の数年前に依頼がかかり、稽古開始の数か月前から具体的な作品の打ち合わせが始まります。最初に決めていくのが美術なのですが、演出家と舞台美術のプランナーそれぞれの構想を聞きつつ、稽古場で使用するセットの制作について予算を考慮しながら検討していきます。稽古場に入ってからは、稽古用のセットを組んで、稽古の進行に合わせてセットチェンジをしていきます。

――稽古期間中も舞台監督は常に稽古場に在中しているのでしょうか。

基本的にはそうですね。稽古が始まってから約1ヵ月、開幕して東京と地方公演合わせて3ヵ月、というサイクルで帯同することが多いです。

稽古場での稽古が終わり舞台稽古に入ると、今度は演出家や演出助手、照明や音響など各セクションのスタッフやキャストとの間に入り調整していく役回りとして進行していきます。

――「調整」の具体的な内容とは?

動線を踏まえた機材の配置場所の検討であったり、音出しや照明を射すタイミングなどを舞台の進行スケジュールに合わせて決めていきます。欧米の制作スケジュールに比べて、日本の場合は劇場入りから初日までの日程がタイトなので、その期間内で納めるためには打ち合わせ通りに進めていくことがとても重要になってきます。

初めて任されたダンス公演と、未経験で挑んだミュージカルの現場

――初めて舞台監督のお仕事をされたときのエピソードを教えてください。

初めて舞監を務めたのは、大阪のダンススクールの公演でした。当時、アクターズスクール(90年代のミュージックシーンを席巻したダンススクール)が流行っていて、ダンス公演が盛んな時代だったんですね。その公演の開演前にスクールの方から「スタッフ全員に」とご祝儀を頂いたのですが、初めて自分が担当するステージで、不安の中バッタバタの状態でやっていたので、「もし上手くいかなかったら、このご祝儀は返さないといけない」と思って、貰ったことは誰にも言わずにいたんです。

――責任感ゆえに。

リハーサルでは、振り落とし(幕を瞬時に落とし、その背後にある装置や景色を見せる演出技法)が一度も上手くいかなくて、「これが成功しなかったら返さなきゃ」とドキドキしながら本番を迎えたのですが、なんとこれが無事に成功しまして、最後は皆にお祝儀を配ることもできてホッとしたのを覚えています(笑)。

――皆さんに行き渡ってよかったです(笑)。他にも、駆け出し時代に印象に残っているエピソードはありますか?

27歳のときに、子供たちが主役の有名な大型ミュージカルの仕事の依頼が会社に舞い込み、当時の社長から「若いヤツがいるんで行かせます」と指名されて、まだミュージカルの右も左もわからない状態で派遣されたんです。若すぎて先方が不安になるのではと心配になり、その現場では年齢をちょっと上にサバを読んだのを覚えています(笑)。

――上の方に(笑)。

大型ミュージカルを担当するのは初めてでしたし、今だったら当時の自分に「経験もないのに、そんな危険なことはやめておきなさい!」って言いますが(笑)、当時は若さゆえの怖いもの知らずなところがあったので引き受けまして。結果は案の定、上手くいかなくて悔しい思いを沢山しました。

――どんなご苦労がありましたか?

自分の力量不足で舞台稽古が上手く回せず、だんだん現場の皆がピリピリしてくるのが目に見えてわかっていって、それが一番辛かったですね。ただ、仕事としては大きなチャンスを頂いた機会でもあったので、一つのターニングポイントになる出来事ではあったと思います。

――そこから徐々にミュージカル作品に携わられていったのでしょうか?

ちょうどその頃に会社が東京に事務所を開所することになり、東京での仕事が増えてきていたのもあって、大阪から東京に異動になったんです。異動後はまだイベントやコンサート、式典などの仕事が多かったのですが、東宝さんのお仕事をさせていただくようになってから、舞台の仕事が中心になっていきました。舞台公演は受注時期が早く長期に携わるので、必然的にイベントなどの単発のお仕事は受けられなくなって。僕自身も舞台の仕事の方に関心が高まっていたので、そこが仕事のジャンルが大きく変わっていく転機になりました。

思い出深い作品のエピソード

――これまでの舞台監督人生の中で、思い出深い作品があれば教えてください。

それぞれの作品に思い入れはありますが、とくに挙げるとするならば、ミュージカル『SPY×FAMILY』(2023年初演、2025年9月に再演)でしょうか。自分のいたらなさで上手く回らず、舞台稽古も当初より時間がかかってしまって。自分自身に、多くの課題や気付きを貰った作品でした。

――大人気コミック・アニメの初演ということもあり、裏側では沢山のご苦労があったのですね。『SPY×FAMILY』は今年、2年半ぶりに再演されます。山本さんから見た本作の魅力とは?

まずはやっぱり、G2さんの演出ですね。とくに前半部分では目まぐるしくセットチェンジがあり、そこは見どころの一つだと思います。舞台監督は舞台袖で仕事をすることが多いのですが、この作品は客席で見ながらという形式だったのもあり、「G2さんがやりたかったことって、こういうことなんだな」と感じながら務めていました。(原作が)アニメならではの展開のスピード感は見ものですね。台本も2行で次のシーンになっていたりしますから(笑)。

――今度の再演も楽しみです。そして、現在は2016年の初演から携われているミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(以下JB)がシアタークリエにて上演中です。初演時、どんな手応えがありましたか?

口コミの評判でどんどんチケットが売れて、満席になっていったのがうれしかったのを覚えています。また、ミュージカルは女性の観客が多いですが、初演では年配の男性客も多く見かけて、The Four Seasonsや彼らが活躍した時代の音楽が好きな方々が観に来てくれているんだな、というのも感じられて、それもうれしい出来事でしたね。あと、JBは作品のファンの方が多いという印象があります。

――大人が観ても満足感が高く、人気のある作品ですよね。

そうですね、自分が担当してきた作品の中でも、1、2位を争うくらい、僕自身も大好きな作品です。演出の藤田(俊太郎)さんは、「再演でも、同じものをなぞらないように」と毎回リニューアルを重ねていますので、カンパニー一同、新たな気持ちで取り組んでいます。今回は新チームも増えましたし、新しいJBをお届けできているのではないかと思います。

――JBは2020年に帝国劇場での上演が予定されていましたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響で中止を余儀なくされ、コンサート形式で形を変えての上演になった経緯もありますよね。

JBコンサート版の上演が、僕自身の仕事の再開にあたる公演でもありました。当時は最前列の席を潰して、客席は一席空けで、という状況でしたね。ステージではバンドの周りをアクリルボードで囲み、さまざまな対策を取っての上演となりました。この公演で再びお客さまからの拍手を聞けたことも、忘れられない出来事でした。

コロナ禍で気付かされた、“拍手”の偉大さ

――舞台監督の仕事の面白さややりがいはどんなところに感じられていますか?

「この現場にいてくれて助かったよ」と言われることが一つのモチベーションになっているところがありますね。それはどのセクションの方もそうだと思いますが、自分の仕事で誰かが何かを感じてくれたらいいな、と。でも、何が一番かと考えたときに、最後に辿り着いたのはやはり“お客さまの拍手”でした。それは先ほどもお話したとおり、コロナ禍でしみじみと実感しましたね。コロナ禍前は、拍手を頂くことはどこか当たり前だと思っていたところがあったんですね。仕事を始めた当初はそれがモチベーションになっていたはずなのに。

――コロナ禍の影響は、エンターテインメント業界を直撃しましたよね。劇場封鎖にも見舞われ、辛い時期が続きました。

無観客上演で収録だけのときは、「終了です」とマイクでひと言だけ言って終わるのですが、それがすごく後味が悪くて。拍手を頂けないことって、こんなに自分の心持ちにも影響があるのかと知り、改めてやる気の源泉になっていたことに気付かされました。お客さまが入って公演が再開したときは、「やっぱりこの仕事をやっていてよかったな」と実感しましたね。

――コロナ禍で失ったものも沢山ありましたが、観る側としても気付かされたことが多くありました。それでは最後に、今後の展望についてお聞かせください。

ありがたいことに、これまで魅力的な作品に携われてきているので、僕自身の舞台監督としての欲は、実はそんなにないんです。今は「若手の人財を育てていきたい」という思いが一番にあるので、弊社のスタッフがいろんな現場で舞台監督として活躍してくれることを夢みています。若手が育ってくると、自分自身もできることの幅が広がっていくと思いますので。弊社では従業員も募集していますし、今後は若手の育成にも尽力できたらと思っています。

――貴重なお話をありがとうございました。山本さんご自身のご活躍と共に、これからの時代を担う若い世代の方々の活躍にも期待していきたいと思います!

インタビュー・文/古内かほ

【PROFILE】
山本圭太(ヤマモト ケイタ) 

舞台監督として演劇、ミュージカル、コンサートなどの公演に長年携わる。近年の主な参
加作品に、『SPY×FAMILY』(G2演出)、『JERSEY BOYS』(藤田俊太郎演出)、『Waitress』(ダイアン・パウルスBWオリジナル演出)、『VOICARION』シリーズ(藤沢文翁演出)、『ジャングル大帝』(ウォーリー木下演出)、『愛の不時着』(日本側舞台監督として)、『OZ』(パク・ジヘ演出)、YUKO ASANO 50th ANNIVERSARY SHOW『KANSYA』など。
2022年3月 株式会社 Al Di Là (アル・ディ・ラ)を設立。

【お仕事情報】
ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』
2025年8月8月10日(日)~9月30日(木) シアタークリエ(東京)
ミュージカル『SPY×FAMILY』
2025年9月20日(土)~28日(日)〈プレビュー公演〉ウェスタ川越 大ホール(埼玉)
2025年10月7日(火)~28日(火) 日生劇場(東京)
2025年11月5日(水)~10日(月) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
2025年11月17日(月)~30日(日) 博多座(福岡)
2025年12月12日(金)~14日(日) やまぎん県民ホール(山形)
2025年12月20日(土)~21日(日) 静岡市清水文化会館マリナート(静岡)
2025年12月26日(金)~30日(火) 御園座(愛知)