レキシサウンドで舞い踊れ!前代未聞の注目の舞台・愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』稽古場レポート

2019年3月10日(日)から東京・TBS赤坂ACTシアターにて、3月30日(土)からは大阪・オリックス劇場にて愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』が上演される。本作は「きらきら武士」「狩りから稲作へ」など、ファンキーなサウンドに乗せて歌う日本史の歌詞と、ユーモアあふれるステージングで話題を呼ぶアーティスト・レキシの楽曲をもとに、「たいらのまさピコ」こと河原雅彦が原案・演出・上演台本を手掛けた異色の新作ミュージカル。山本耕史、松岡茉優、佐藤流司、高田聖子、井上小百合(乃木坂 46)、浦嶋りんこ、山本亨、そして藤井隆、八嶋智人といった、個性豊かな顔ぶれが集結するこの春注目の舞台だ。この稽古場の模様をお届けしよう。

 

稽古場は、舞台セットが複雑怪奇に準備されており、決して狭くはないはずの稽古場の壁一面にみっちりと積まれていた。それだけでは足りないのか、演出卓、出演者が座る長テーブルの頭上にも仮設バルコニーが作られ、そこにも大道具・小道具などが無数に置かれていた。

このような場所で連日行われている稽古の様子をほんの少しレポートしよう。なお、山本耕史演じる織田こきん役以外は役名を伏せ、キャスト名のみでお届けする。

 

引きこもり歴25年の男・織田こきんがひょんなことから珍奇な夢の国「レキシーランド」に迷い込む……という物語。ある女性を救い出したいが、自分に何が出来るんだと尻込みするこきんを高田聖子と藤井隆が励ますという場面。感情が高ぶりがピークを迎えた藤井がやおら歌い出し、いつしか高田、山本もともに情感込めて歌い上げる。

 

他人とコミュニケーションの取り方が分からないこきん役を何とも言えないリアリティで演じる山本、そして常に前掲姿勢な藤井と、両者とのバランスを取りつつ美味しいところをしっかり持っていく高田。芝居巧者の3人がさらに魅力的になるよう、演出の河原は動き出すタイミングなどを少しずつ調整していく。また山本たちも「ここはどう動く?」とお互いディスカッションをしながら芝居の濃度を上げていた。そんな3人の様子を他のキャストたちがストレッチなどをしながら見学しているが、まるで観客のように笑顔を浮かべて楽しんでいるのが印象的だった。

 

休憩の後、キャストほぼ全員での歌稽古が行われた。約20人が歌唱指導の原田千栄とアカペラ指導のKWANI(ダイナマイトしゃかりきサ~カス)を取り囲む。各自が自分のパートを練習してきた状態の合同練習に際し「いきなり全員で合わせるのはちょっと怖いので、まずは原曲を聴いてみましょう」と原曲を二度ほど流してから全員で最後まで歌ってみることに。そこから女性、男性、主旋律、コーラスとパート別に歌っては指示が入るが、「この部分は他のパートの人も一緒に歌って」と音量バランスを整えていく。「ここのフレーズは外国人が日本語を使っているようなクセをつけて歌ってみて」と指示が飛ぶと、流暢に日本語を操るカイル・カードが「ソンナシャベリカタ、シナイヨー」とわざと強めにクセを付けて突っ込み、皆が大笑いするひと幕も。

 

歌稽古後は再び立ち稽古が始まる。階段セットが登場し、てっぺんに佐藤流司が座り、こきんと語る場面が始まる。「佐藤くんにはとことんカッコいいパートを担ってもらいます」と事前に聞かされていたが、その言葉通りいちいちポージングからその場からの立ち去り方まで、こきんと対照的にカッコよくキメる佐藤。まさに今様・牛若丸と呼びたくなる軽い身のこなしだった。

 

お茶屋の場面では。お茶やだんごを食べに旅人が集うその中に松岡茉優の姿もあった。サラ・マクドナルドに「ご注文は」と近寄られ、女性に免疫がないため激しい拒否反応を示すこきんとのやり取りをもっと面白くしようと河原から細かく指示が飛ぶ。指示が入るたびにさらに面白くなりサラもノリノリで動きだすので、ステージにいるキャストたちからも笑い声が何度も起きていた。この後、こきんは松岡と会うのだが……ここからは是非劇場でご確認を。
本作品では約20曲ものレキシ楽曲を扱うが、それらの振付を一手に引き受けたのは、ダンス×演劇×J-POP をミックスさせるパフォーマンス集団「梅棒」の梅澤裕介、遠山晶司、楢木和也、野田裕貴だ。「振付」という立場から見た本作の見どころを4人に聞いてみた。


――本作の振付の仕事が来た時の心境は?

梅澤:もう「来た来たー!」って感じでしたね。

遠山:僕らも以前レキシさんの曲だけで公演をやってみようか、という構想があったんです。その時は実現できなかったので、今回「全曲レキシさんの曲で」と言われた時は「やってやるぞ!」という気持ちでした。皆、レキシさんの曲が好きだったからね。

楢木:僕らも、台本を作るところから参加させていただきました。


――河原さんとはどんな打ち合わせをされてきたんですか? 印象に残るリクエストは?

楢木:河原さんの発想が本当に面白くて素晴らしいなと思っていて。なんでそんなシチュエーションが出てくるのか?と何度も驚きました。歌詞の中に「イマジン」という言葉が出てくる場所があったのですが、「じゃあジョン・レノンを出すでしょう」とぽんと口にしたりね。

野田:それはどうかなあ……と思っていました(笑)。

梅澤:俺はもっとはっきり「いや、それは伝わらないかもしれないですよ!」と言ったのですが、「いや、絶対ありでしょう」と河原さんも譲らなくて(笑)。

楢木:梅さん(梅澤)は結構爆発的な発想をすることがあって、「何言ってるの、この人?」と思う事もありますが、めっちゃ面白いんです。今回その逆パターンで、河原さんが爆発的な発想をして梅さんが「それはやめたほうがいい」と止めているという(笑)。


――それから振付を作る作業に進む訳ですが、どのように作っていかれたんですか?

楢木:今回20数曲ほどあるので、梅棒メンバー4人で分担しています。この曲は彼が得意そうだからメインで任せよう、という風にやっています。ちょっとぶっとんだ振付が必要な曲は梅さんに、難しい曲とバカバカしい曲はとしょ(遠山)さんに、女の子っぽい振りが必要なものはすいーつ(野田)に、って。

梅澤:女子系は、大体すいーつですね。としょさんは、無駄にドラマチックなやつとかが上手いから。


――レキシさんの楽曲の場合、既存のMVやライブパフォーマンスなどに釣られてしまう事もあるのでは?

楢木:むしろレキシさんのライブを意識して作っています。レキシさんがお客様と一緒に楽しんでいる感じや、お客様を毎回どうやって楽しませようとしているかを参考にし「ライブでお約束になっているアレをこの舞台でも使ってみようか」「ライブでやっているあの振りを取り入れようか」と考えていますね。レキシ好きな人も喜んでくれるような舞台にしたいんです。


――昨年末から今年の頭にかけて上演していた梅棒 『超ピカイチ!』は、出演される方々がいずれもダンスが得意な方ばかりでしたが、本作の出演者は踊る機会がなかった方もいらっしゃいます。その点はいかがですか?

野田:松岡茉優ちゃんは女性アイドルが大好きなので、その辺のニュアンスをすぐ汲み取ってくださり、凄く上手です。事前にそのことを知っていたので、テンションを上げて振付させていただきました。

遠山:茉優ちゃんは元モーニング娘。の鞘師里保ちゃんが好きなんですよね。すいーつも、モー娘。が好きなんだよね!

楢木:高田聖子さんは劇団☆新感線で踊っているので心配は無い……というかそれ以上にとってもパワフルで。浦嶋りんこさんは、誰よりも一生懸命練習されていて、とても真面目な方。隙あらば誰かをつかまえて「ここはどうやって踊るの?」「振りを動画で撮らせて!」とかね。いつも一生懸命練習している姿を見ています。山本耕史さんもすごいよね!

梅澤:山本さんにはもっと踊っていただいてもいいんじゃないかと思うこともありますが、ただ役柄が引きこもりなのでガンガン踊るには無理が(笑)。

野田:八嶋さんはパワフルすぎて驚きますよ。一人で空間を埋めている感があります。

梅澤:一人の俳優さんの力で劇場を埋め尽くすという事ができるんだなと実感しました。

楢木:佐藤流司くんも素敵に踊ってくれています。

遠山:佐藤君に関しては殺陣も見どころですよ。

全員:かっこいいよねー!

楢木:今回は戦国時代もありますので殺陣を見せるシーンもたくさんあります。剣舞的なダンスに関しては僕らが振付したところもあります。

野田:舞台セットも凄いことになっています。ところで、TBS赤坂ACTシアターってあんなにいっぱいセットが入るんでしょうか?

梅澤:全部、劇場に収まるのかなぁ。

遠山:今の稽古場でも「このシーンやります」となると、テトリスみたいにセットが組み合わさって、その空いたスペースに違うセットを納めて……っていう。ものすごいスタッフワークに感動しています。

楢木:セットチェンジはみんな総動員なんです。演者も転換をやりながら着替えて踊って、多分過去にないくらい舞台上にいる気がします、誰もが。


――そういう段取りも覚えないとならないので大変ですね! ダンスの振りは皆さん入っているでしょうからそっちは安心ですが。あれ?皆さん何故目をそらしてるんですか?

楢木:実は自分で作った振りほどよく忘れるものなんです。「一曲できた! はい次の曲!」を繰り返し、そして自分のより他のメンバーが作った振りの方をより練習するから。

野田:自分の曲の方が整理できていないんです(笑)。

楢木:いつかは自分もそこに入って踊らなきゃならないんですが、周りがまず固まってくるまでは監督していないとならないので。いざ、自分がそこに入ると「あれ?景色がちがう」ってことになるんです(笑)。でも楽しくやっています。レキシさんの曲をやっていて楽しくないわけがない!


――自分としてはここに注目してほしい、と思う場面をアピールしてください。

遠山:僕は一曲目。飛ばしてますし、無駄なことをいっぱいしているし詰め込むだけ詰め込んでいるので楽しみにしてください。

梅澤:次はどうなる? と予想しながら観ていくとより楽しいかも。こんな事が起きるのか! え、そっちに行っちゃう?という事もあります。観る側と演(や)る側との戦いみたいな舞台ですよ!

楢木:一幕最後に歌う歌があって。山本耕史さんと松岡茉優ちゃんの距離が……っていう場面なんですが。みんなで賑やかでハッピーな気持ちになれると思います。個人的にはアンサンブル4人、僕以外の梅棒3人と五十嵐結也でものすごく頑張る曲があります。どこまでカッコ良く見せられるか、そしてどこまで滑稽に見せられるか、結構なエッセンスシーンです!

野田 :僕と茉優ちゃんのモー娘。ソウルを感じていただきたいです(笑)。全体的にいろいろなところが本当に凄いことになっています。この曲はぶっ飛んでる、この曲はソウルフルに歌い上げる、そんなのが絶え間なく続くので純粋に楽しんでいただければ。

梅澤:楽しすぎて疲れるんじゃないかとまで思う(笑)

楢木:お腹いっぱいでね(笑)まだやるの?って。

梅澤:皆さん、体調整えて劇場にいらしてください!

楢木:レキシファンに限らずミュージカルファン、出演者のファンの方などにも楽しんでいただけるものになっていますから!

 

取材・文・撮影=こむらさき