ミュージカル『怪人と探偵』大原櫻子 インタビュー

2018年は新感線☆RS『メタルマクベス』disc2のマクベス夫人役を熱演し新境地を開拓、その圧倒的な存在感で舞台女優としても強烈な印象を残した大原櫻子。2019年も快進撃を続ける彼女が、この秋に挑戦するのが新作ミュージカル『怪人と探偵』だ。江戸川乱歩の小説を原案にし、日本を代表する作詞家の森雪之丞が作、作詞、楽曲プロデュースを手掛け、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督としても幅広いジャンルに関わる白井晃が演出を担当するこの舞台。大原は、怪人二十面相と名探偵・明智小五郎が“世界で一番綺麗な宝石”を巡って対決する事件の、重要な鍵を握る子爵令嬢・北小路リリカを演じる。ビジュアル撮影の当日に、大原にこの作品への想いや意気込みのほどを語ってもらった。

「探偵モノと言えば江戸川乱歩」というイメージを抱いていたという大原。今回の企画、そして出演のオファーを受けた時には、やはりまず「怪人二十面相か!と思いました」と笑う。
「怪人二十面相って盗賊ではあるんですけど、なぜかカッコよくて女性が心を奪われてしまうような存在なので、そのヒロインを演じることができるなんてとてもワクワクしました。今回の物語としても、どこかちょっとエロティックなところがあるんですよ。怪人は、まるでマジックのように宝石を盗んでいくんですが、人は絶対に傷つけない。その手口の謎を解いていく明智さんとのやりとりもハラハラしますけど、男と女の関係という意味でもハラハラするような展開になりそうです」

自身が演じるリリカ役に関しては、
「すごく品があるように見えるんですが、でも実は生い立ちが暗く、闇も持っていて。だけどごく普通の女性らしさもあるんです。とても清純で品のある女性なんだけれど、泥沼の世界も知っているという、その両面を表現できたらいいなと思っています。彼女の場合、人を愛する、人に愛されるということがつかめない女性だというような気もするので、その点はちょっと可哀想だなと思いつつ、そこには私自身も共有できる感情があるようにも思いました。愛って信頼だと思うんです。だから家族以外には本当の愛ってなかなか見せられないものだと思うのに、その家族に対しても信頼を100%寄せられないとなると。そう思うと、リリカはとても悲しい人だなと思いましたね」と、分析。

そして怪人二十面相と明智小五郎を演じる中川晃教と加藤和樹の印象を聞くと、
「私、小学生くらいの頃にテレビで中川さんが歌われている姿を見てからいつか一緒に歌いたいとずっと憧れていたので、今回共演できるのが夢のようで。本当に素敵な歌声なんですよね、色っぽさ、真っ直ぐさ、いろいろな要素が中川さんの声にはあるんです。怪人って、単なる色男とか、人を騙そうとしているというわけではなく、とても優しい面もあるし、盗みはするけどジェントルマン、紳士というところがまた魅力的で。それに女性を酔わせるような歌声だなとも思っていたので、まさに中川さんが怪人役というのはピッタリですよね! そして加藤さんは、もちろん何度かお芝居を観に行かせていただいていますし、先日はイベントでもご一緒させていただいたばかりなんですが、ステージに立っている姿とふだんのフランクな姿とがすごいギャップで(笑)。でも先ほど、ビジュアル撮影の写真を拝見したらものすごくピシッとされてカッコよくって「あれ、ちょっと待って、ホントに素敵!」って思いました」と語り、今回の初共演を心から楽しみにしている様子だ。

さらに演出を担当する白井とは、ミュージカル『わたしは真悟』(2016年)以来の顔合わせとなる。早くも全幅の信頼を置いているようで、
「初めて演出していただいてから、まあ、大好きになりまして。本音をぶつけられるし、心を委ねられる、お父さんみたいな存在です(笑)。白井さんの演出された舞台もよく観に行きますし、大好き過ぎて、たまたま観劇とかでバッタリお会いした時にも「あっ、白井さーん!」って友達みたいな感じで懐かせていただいています。演出が白井さんだと聞いた瞬間に、もう「絶対いい作品になるな」と思いましたね」と断言。リリカ役に関して白井からはまだ具体的な注文こそ出ていないものの、
「ただ、ビジュアル撮影をしている時に「表情に切なさが欲しい」と言われたんです。「愛ってなんだろう」と常に模索しているリリカの悲しさが、その切なさにも通じるかもしれないですね。この切なさというのは、今回の舞台のひとつのキーワードなのかなとも思いました」と話す。

また、森雪之丞による脚本や歌詞については、
「うまく一言では言い表せないことを、ひとつひとつのセリフや歌で、絡まっていた感情を優しくほどいてくれるような。そんな素敵な言葉が詰まっているように思います。“愛は盗めない”とか“愛を壊さないとつかめない”とか。でも壊してしまったらそれは愛でなくなりそうだし、そういう矛盾する言葉もあったりするんですけど、そこにこそ共感できて、すごくわかる!という気持ちになるんです」と語り、今作を日本のオリジナルミュージカルの歴史のスタートにしたいという森の言葉を受けて、
「日本の翻訳ミュージカルの場合、特に歌詞が日本語になるとどうしても英語の持つ意味合いをすべて伝えることが難しくなるじゃないですか。言葉遣いもあまり現代風でなかったりしますし。それが今回はオリジナルミュージカルとして作詞をしてくださっているから、使われる言葉が詩的で本当に綺麗なんです。私自身もまさに、ミュージカルをやるのならぜひこういう言葉で歌を届けたいと思っていて。雪之丞さんがおっしゃる通り、日本のミュージカルの歴史がここから始まるんだなという気持ちが私にもありますので、その責任も感じながら挑みたいと思っています」と、意気込みを語った。

大原が歌う楽曲はソロが3曲ほど、複数で歌うものも3曲ほどの予定ということだが、
「出来上がった曲を少しだけ聴かせていただいたんですが、聴いているだけでハラハラドキドキできて、きたきたきたきた!って感じの曲でした。東京スカパラダイスオーケストラさんの曲は楽器も多いですし、なんだか遊ばれている感覚にもなれる、心くすぐられるような楽曲でしたね。去年やらせていただいた『メタルマクベス』disc2という作品で、私自身は壁をひとつ乗り越えられたように思っていまして。その舞台を雪之丞さんが観に来てくださった時に「櫻子ちゃんゴメン、俺、もう一度歌詞を書き直すよ」って言ってくださったんです。確かに、リリカの醸し出す小悪魔っぽさや影の部分は、マクベス夫人を演じたことで得られたものを使えそうな気もしますしね。だからこそ、どんな楽曲になるかは私も楽しみでしたし、その分、脚本をいただいた時にはものすごく面白かったし、同時にとても嬉しかったです」

ロマンとスリルに溢れた、日本発の極上エンターテインメント作品がここに誕生する予感大。さらに大きくステップアップした大原の歌声にも期待は高まるばかり、ぜひとも劇場へ!

 

取材・文/田中里津子